34. 信賞必罰
■ 3.34.1
達也は、武藤と田中であろうと思われる二機に話しかけようとして、通信をOFFにしていた事に気付いた。
ラジオONにするとまたあの小うるさい管制官の声が飛び込んでくる事を想像して思わずうんざりしていると、ラジオのチャンネルセレクタボタンの脇に「SCN」と表示があるのが眼に入った。
もしかして、と思いそのボタンを押すと、利用可能チャンネルのスキャンが始まり、コンソール左側に利用可能チャンネルと使用中のラジオ局のリストが表示された。
なかなか有り難い機能だ、と思いつつ「TAKASHIMA A2T2-F7 03」と表示されたチャンネルをタッチして選択した上で、ラジオをONにした。
F16にこの機能が付いていれば、父親を失うことはなかったかも知れないな、と思いながら。
「こちら達也。武藤と田中か?」
ありとあらゆる規則を無視して強引なスクランブル発進をして来た達也には、当然コールサインの様なものは付与されていなかった。
かと言って、最後に与えられたコールサインである、ホームステッド基地に居た頃の「Grindle 15」を使うのもおかしな話だった。
「こちら凄風01、武藤だ。お前、ラジオくらい入れておけよ。何を話しかけてもダンマリじゃ、生きてるのか死んでるのかも分かりゃしねえ。」
「離陸の時に管制がうるさくてな。しかし良い腕だ。助かった。」
「管制が口出ししてくるって、お前何やったんだよ。助かったのはお互い様だ。そっちこそ良い腕だった。大下が執着するのも分かる。飛べるようになったんだな。良かったな。」
最近では普段、ファラゾアに通信を傍受されないよう通信管制が引かれているため、何か問題がない限りは管制塔が離陸中、或いは飛行中の機体に何か言ってくることは希だった。
武装巡廻偵察などでも、偵察中の機体の存在や位置を特定されない様に通信管制は徹底されている。
上空、或いは宇宙空間から観察していれば、大気圏内を飛行中の航空機の存在などすぐにバレてしまう事はよく分かっているのだが、電波を発してわざわざこちらから居場所を宣伝する必要は無いだろうと云う、ほんの僅かでも敵に発見されない可能性を上げる為の涙ぐましい努力であった。
ちなみにであるが、敵と接触して戦闘状態に入った後は、戦闘中の部隊については通信管制が解除される。接触することでこちらの存在は既に露呈しており、内容を傍受され解析される事を回避するよりも、戦闘中の各機の連携を取って僅かでも生存率を上げるための処置であった。
ノースアイランド基地の近くを飛び回って防空戦に勤めていたので、達也達三機はすぐに基地に到達する。
上空から基地を見て、滑走路が使えないことを思い出した。
武藤がその惨状を見て声を上げているのがレシーバ越しに聞こえる。
「武藤、済まないが、管制塔前エプロンに着陸すると管制に伝えてくれないか。」
「ああ、そりゃ構わないが。降りられるか? 最悪機体放棄を考えていたんだが。」
「降りられる。少なくとも離陸は出来た。下の連中にちょっとガラクタを片付けてもらおう。」
「離陸した? よくあのこうるさい管制が許したな。」
「許可など取ってない。そんなものを待っていたら何年かかるか分かったものじゃない。飛べもせず地上で撃破されるなんざ、御免被る。」
「成る程。それがラジオを切った理由か。
「NZY control, this is SEIFU 01. Emergency Landing request. Three fighters will be landing on apron, front of control tower. Kindly clean up junks to have 600 meters for us.」
(ノースアイランド管制、こちら凄風01。緊急着陸を行う。管制塔前のエプロンに三機着陸する。着陸距離600m確保のためガラクタを片付けてくれ)
「SEIFU01, apron is under cleaning up. It takes another 15 minutes and you are in cue. Damaged aircrafts will be landing prior. Hold altitude and turn around base until call.」
(凄風01、現在エプロンを片付けているが、あと15分程かかる。先に損傷した機を降ろす。指示あるまで高度を保ち旋回して待て。」
武藤の問いかけに対してノースアイランド管制が答えた。
どうやら既に管制塔前エプロンを滑走路として使えるように大掃除に入っているようだった。
15分以上待たされると聞いて、達也は途端に燃料が心配になってきた。
「SEIFU01, copy. Hold altitude and turn around base.」
(凄風01、諒解。高度を保ち旋回して待つ)
「拙いな。燃料が保たないかも知れない。」
管制塔と武藤の更新の後で達也は思わず呟いた。
燃料は既に残り10%を切っていた。
基地防衛でなければあり得ない異常事態だった。
「問題無い。スロットルを黄色いフュエルジェットを少し切る位のところまで戻せ。全部戻すなよ。黄色のすぐ手前までだ。モータージェットモードに切り替わって、ジェット燃料を使用しなくなる。重水はまだあるんだろう?」
「重水?」
「コンソール左下のリアクタ表示の下に『REACTOR FUEL』と表示されているだろう? その下に推定稼働時間も表示されている。幾つになってる?」
達也は武藤に指示された場所を見た。
離陸前に確認した「REACTOR」シンボルの下に「REACTOR FUEL」と、更にその下に「EST. RUNNING TIME」の表示があった。
それぞれ38、22.1と表示されていた。
「それは、あと38リットルの核融合反応燃料が残っていて、リアクタ出力100%であと22.1時間運転できる、という意味だ。」
これまでのテスト飛行の間に説明を受けていたのであろう武藤が達也に教えた。
スロットルをモータージェット駆動にまで戻してやれば、核融合リアクタの燃料が尽きるまで飛び続けることが出来ると武藤は言っているのだろうと達也は理解した。
「モータージェットで大丈夫なのか?」
「問題無い。急旋回や急上昇しなければ推力には全く問題無い。旅客機のつもりで飛べ。」
「旅客機を操縦したことは無いがな。」
そう言いながら達也はスロットルをゆっくりと戻した。
スロットル位置が黄色く着色されている部分を外れ、無着色の部分に入ったところで背中から聞こえていた爆音が消え、甲高い音だけになる。
ジェット燃料を燃やすことで得られていた大推力を失い、空気抵抗によって機体速度が一気に落ちて400km辺りで落ち着いた。
そのままサン・ディエゴ湾と太平洋の間をノースアイランド基地を左手に望みながら旋回待機に入った。
40分近く待たされてやっと着陸順が回ってきた。
ガラクタを片付けてやっと確保したエプロン上の緊急滑走路への着陸であるので、慎重に一機ずつアプローチする。
まずは武藤が降り、それから田中、達也と続いて着陸する。
誘導員の手信号に従って誘導路に入り、そのまま高島重工が借り上げている格納庫に向けて40km/hほどの速度でゆっくりと地上を移動する。
夜の闇の中、煌々と明かりの点いた高島重工の格納庫の中はまるで祭りのような騒ぎだった。
既に格納庫の中で機体から降りた武藤と田中の周りを多くの整備員達が、満面の笑みを浮かべ声を上げて囲んでいる。
達也の機体が戻ってきたことに気付いた整備員達が、格納庫の中からなだれ出てきて達也の機を囲み、まるでエスコートするように機体と一緒に格納庫の中に入っていく。
キャノピーを開けると、高い天井の格納庫の中に響く彼らの歓声と拍手がコクピットの中に飛び込んできた。
ラダーが掛けられ、離陸前にも世話になった整備員が顔を覗かせる。
「やったな! すげえよ、あんた。信じられねえ! 一体何機撃墜したんだ!」
達也が脱いだHMDヘルメットを受け取りながら、周りの大騒ぎに負けない大声でその整備員は言った。
「済まないな。新品を傷だらけにしちまった。」
そう言って達也はボロボロになった翼を見る。
「何言ってんだ。闘ってんだ、傷付くのは当たり前だろう。そんなの還って来さえすりゃ幾らでも直してやる。そんな事より、早く降りるぞ。みんな待ってる。」
達也がハーネスを外すのを笑いながら手伝った整備員が、達也の袖を引っ張る。
この時になって、達也は自分の機体の周りに幾重にも人の輪が出来て囲まれていることに気付いた。
希望を失い、絶望に覆い尽くされ、誰もが悲愴な面持ちで戦い続けるこの世界の中で、その人の輪だけは皆明るく嬉しげに笑顔を顔に浮かべて。
ラダーを伝い地上に降りた達也に皆が群がる。
喜びと賞賛と感謝の言葉を皆が大声で口にして、誰が何を言っているのかさえ区別付かないほどに沢山の言葉を達也に浴びせかけ、手荒に肩や背中を叩く。
任務を終えて帰投した後に、こんな歓迎を受けたことは無かった。
自分に向けて喜びと感謝の声を掛けて来る多くの人の中でもみくちゃにされて、達也はどうすれば良いか分からず立ちすくんでいた。
立ちすくんでいた達也を武藤と田中が捕獲し、次々に襲いかかる感謝と喜びの殴打攻撃の中を格納庫内の詰所に向けて進んだ。
詰所の中に入ったところでやっと一息つけた達也は、大きな溜息をついてエアコンの効いた詰所の椅子の上に身体を投げ出した。
エアコンで冷えた椅子の背もたれが、ひんやりと気持ちよかった。
「お疲れさん。」
声に眼を開けると、前に立った大下が冷えたビールの瓶を達也に向けて突き出していた。
達也は瓶を受け取ると、大きくあおり冷たいビールを一気に飲み干した。
ビールが好きという訳ではなかったが、今はとにかく冷たい飲み物が腹の中に染み渡っていくのが心地よかった。
「大言壮語したとおり、ちゃんと飛んで還ってきたな。礼を言わなきゃならん。この上ないほどにイカレた飛び方をしてくれたお陰で、良いデータが取れるだろう。飛行隊司令部から呼び出しがかかっているぞ。」
大下は、それらが全て関連した一連の出来事であるかのように要件を次々と口にした。
飛行隊司令部からの呼び出しは予想していたことだった。
あらゆる規則を無視して飛び上がったのだ。基地防衛に成功したからと言って、厳罰は免れないだろうと予想している。
それが分かっていても、ここが敵の手によって破壊されていくのを手を拱いて見ているだけという選択肢だけはあり得なかった。
「怒られるな。離陸許可も取らなかったんだろ?」
いつの間にか達也の後ろで同じ様に冷えたビールをあおっていた武藤がニヤニヤと笑いながら言った。
戦闘を終わった直後の高揚感からか、いつもコロナド・ビーチへ来ていた時の強面の仏頂面はどこかに行ってしまったようだった。
「資格を止められているのに、許可が出る訳がないだろう。時間も無かったしな。全無視で勝手に上がった。」
武藤がビールを片手に大笑いした。大下も、普段一言も喋らない田中までもが笑っている。
達也は空になった瓶を脇にあったテーブルに置き、立ち上がった。
「行ってくる。面倒は早めに済ましておいた方が楽だろう。」
詰所を出て行く達也の後ろを、三人の意地の悪い笑いが見送る。
■ 3.34.2
飛行隊司令部は、管制塔のある本部ビル内に存在した。
達也は、親切な誰かが格納庫の中に引き込んでおいてくれたパトリシアの自転車に乗って、エプロン脇に建つ本部ビルまでやってきていた。
今回この基地に来た時に一度、飛行隊司令部には出頭したことがあった。
その頃はまだ後方の物資集積所でしかない長閑な雰囲気を漂わせていた本部ビルであったが、今は大空襲の直後という事もあるのだろう、最前線の基地らしい張り詰めたような雰囲気の中、多くの将兵が廊下を慌ただしく行き来していた。
「飛行隊司令部(WING HEADQUATERS)」と書かれたドアを開けると、中は何人かの事務官がデスクに向かっている普通のオフィスと変わりがなかった。
「ミズサワ少尉だ。呼び出しにより出頭した。」
手近なデスクでモニタに向かっていた女性事務官に声を掛ける。
伍長の階級章をつけたその女は、モニタから視線を外すと何か疑うような視線を達也に向けた。
「ミズサワ少尉? 所属部隊をお願い致します。」
今達也が着ているフライトスーツには、階級や所属部隊を示すようなものが何も取り付けられていなかった。
その伍長の胡散臭いものを見るような眼も当然と言えた。
「所属部隊は、無いな。カフェテリア『コロナド・ビーチ』で働いている。」
「は? コロナド・・・あ。少々お待ちください、少尉殿。」
一瞬呆けたような表情になったその伍長は、途中で何かを思い出したらしい。
級に真剣な表情に変わると席を立ち、オフィスの奥へと走って行った。
「ミズサワ少尉? 飛行隊副司令官のバリー・チュオン中佐だ。こっちだ。」
チュオン中佐と名乗った男は、先ほどの伍長を従えたまま、達也が今入ってきたばかりのドアを開けて廊下に出た。
廊下に出たところで達也を待っていた伍長と中佐の間に挟まれて廊下を歩いて行くと、幾つめかの扉を開けて中佐が中に入っていった。
中は五~六人も入れば一杯になりそうな小ぶりの会議室だった。
奥の椅子を引いて中佐が座った。そのすぐ後ろに伍長が立つ。
座れと言われなかったので、会議用テーブルを挟んで中佐の向かい側に達也は立っていた。
「これでも忙しい身でな。用件だけ手短に済ませる。ジーン、その紙をくれ。そっちじゃない、そう、それだ。」
中佐はジーンと呼んだ伍長から一枚の紙を受け取り視線を落とした。
「タツヤ・ミズサワ少尉。基地設備管理規定、滑走路管理規定、離着陸管理規定、他七つの規定に対する重大な違反にて准尉(Chief Master Sergeant)に降格とする。」
中佐は達也の反応を見るかのように、一瞬視線を達也に向け、再び紙の上に落とした。
「次。タツヤ・ミズサワ准尉、管制官指示違反、滑走路区域内での重大危険行為、資格停止中にも関わらず無断で航空機を操縦したことなど、複数の指示命令違反により、兵曹長(Senior Master Sergeant)に降格とする。
「以上の降格により、タツヤ・ミズサワ兵曹長は尉官(Lieutenant)を外れたため、操縦士資格を失った。パイロット徽章(WING BADGE)を返納せよ。ああ、今持っていないなら、後でも良い。」
中佐は読み上げていた紙をテーブルの上に置き、視線を上げて達也を見た。
「何か質問は?」
「ありません。」
中佐は僅かに眉を上げて、そのまま達也の顔を見続けた。
「ふむ。もう少し面白い反応が見られると思ったのだがな。まあいい。続きだ。ジーン、もう一枚の方を。」
伍長は何も言葉を発することなく中佐に紙をもう一枚渡した。
チュオン中佐がそれを読み上げる。
「ミズサワ兵曹長。貴官はこの度の敵の大空襲において、敵を恐れることなく良く奮闘し、数多くの敵機を撃墜した。貴官の働きが敵勢力を撤退させる大きな要因のひとつとなったことは明白である。公式発表はまだだが、敵機八百四十二機が来襲し、ミズサワ兵曹長機はそのうちの約百八十機を撃墜した。またこの撃墜数は、短くはあるが人類対ファラゾア戦の歴史の中でも、特に群を抜いたものである。ノースアイランド基地およびサン・ディエゴ・シティの防衛戦におけるその功績を認め、ミズサワ兵曹長を准尉へと昇格する。」
中佐が紙から視線を上げて達也の顔をちらりと見た。
何か言わなければならないのだろうか、と思った。
「光栄であります。」
とりあえず中佐の遙か上の空間に視線を投げて勢いよく敬礼しておく。
眼の端で捉えた少佐の表情は、少し満足げにもう一度手元の紙に視線を落とした。
「ミズサワ准尉。貴官はタカシマ重工業製の新鋭機テストにおいて、実際の戦闘における極限データの収集に多大な貢献を果たした。タカシマ重工業航空機事業部から感謝状が贈られている。曰く『貴官の働きによって、核融合動力炉を導入した最新鋭機A2T2-F7セイフウでの極限データ取得は大きく前進した。これは今後の戦闘機開発において極めて重要な情報であり、対ファラゾア戦闘機の開発に多大なる貢献をした貴官に特に感謝するものである。』
「新型機の極限性能を示し、今後の戦闘機開発の礎となる多大なる貢献を認め、国連軍北米大陸参謀本部はミズサワ准尉を昇格し少尉とすることでこの報償とする。
「なお、ミズサワ少尉のパイロット資格は本昇格をもって旧来同等にて認めるものとする。また技能不適格として停止されていたパイロット資格は、今回の件をもって技能を有することが確認された為、停止を解除する。よってパイロット徽章の返納は不要。以上だ。」
中佐が再び紙から視線を上げて達也の顔を見た。
「光栄であります。」
達也は中空を睨み敬礼した姿勢のまま再び中佐が期待しているであろう台詞を口にした。
「なにか質問があるか?」
「ノー、サー。」
成る程、格納庫を出る時に武藤や大下がニヤニヤと笑っていたのはこの事か、と達也は表情を変えることなく内心で苦笑いした。
色々無茶苦茶やった懲罰を、基地防衛の報償で帳消しにした訳だ。
チュオン中佐は達也の顔を見ながら一瞬思案顔になり、そして肩を竦めた。
「なんだ、ありきたりの反応でつまらんな。まあいい。実はここからが本題だ。ミズサワ少尉、とりあえずそこに座れよ。ジーン、席を外せ。」
伍長は中佐の後ろを離れ、横目で達也を見つつドアを開けて出て行った。
それを眼で追っていた中佐は、伍長がドアを閉めるのを見て、一拍置いてから再び口を開いた。
「少尉。君に転属命令が出ている。本日付、正確にはパイロット適性検査にパスした時点で、なのだが、第666戦闘航空団(666th TFW:Tactical Fighters Wing)に転属だ。」
聞いた事の無い部隊名だった。
部隊番号が三桁である事、部隊名が「航空団(TFW)」である事から、航空隊(TFS)ではなく、より大きな組織を指していることはなんとなく解った。
もっとも達也は生来人付き合いが良い方では無く、また色々なところに首を突っ込み情報を収集する様な性格でもないことから、ただ単に自分が知らないだけで実は誰もが知る様な有名な部隊であるのかも知れない、と思った。
「どこの部隊ですか、それは? 南米ですか?」
南米のリージョンコード(部隊名の千の桁)は6であるので、南米の部隊なのかと思った。
しかし、南米はとうの昔にファラゾアに占拠されており、戦闘を繰り広げている有効な部隊はおろか、全ての航空基地も放棄され機能していないと聞いていた。
「私も知らん。なにやら曰くありげな部隊名ではあるが。で、よく分からんが任務指示だけは来ている。別命あるまでタカシマ重工業の新型機テストチームに協力し、新型機のテストパイロットとして実戦でのデータ収集を命ずる。詳細な指示は新型機テストチーム主幹オオシタ技術大尉に従う、だ。」
それはつまり、このままここの基地に居て、先ほど乗り回したあの新型機に乗って武藤達と共に出撃を重ねろ、という事だろう。
パトリシアを置いてこの基地を離れる必要が無い事に達也は安堵した。
不可解な指示や、聞いた事の無い部隊名など今はどうでも良かった。
ただただ、未だ目を覚まさないパトリシアの側を離れたくなかった。
そんな達也を見て、テーブルの向こうに座るチュオン中佐は苦笑いとも微笑みとも付かない笑いを顔に浮かべていた。
それ以上の伝達事項はないとのことであったので、達也は辞去し、高島重工の格納庫に戻った。
A.D.2042年01月07日1028時、撃墜され意識不明で回収された後、十日間近く意識が戻らなかったパトリシア・レイ・メイヒューゼン少尉が収容先のノースアイランド赤十字病院で息を引き取ったのは、高島重工業の新型機のみで小隊を組み「ツイスター(Twister)」の部隊コードを与えられた水沢達也少尉達三機が、近接武装巡廻偵察(CRAR)任務において敵降下拠点ラパス北方280kmの地点でスクランブルに上がってきたファラゾア機推定約四百機と熾烈な格闘戦を行っている最中のことであった。
いつも拙作お読み戴きありがとうございます。
メインヒロインが死なないと誰が言った。(開き直り)
主人公は死にません。
・・・たぶん。