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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第三章 失うもの、還らぬもの
86/405

33. Battle of San Diego bay (サン・ディエゴ湾の戦い)

BGMそのままで。ATB / My Everything

というか、ここからが本番?



■ 3.33.1

 

 

 逃げ惑う人々が、思わず足を止めて空を見上げる。

 空は爆音に溢れ、地上では破壊された航空機や、流れ弾を受けた建造物が燻り続け煙を上げる中、我が身に迫る危険さえも忘れて誰もがそれを眼で追う。

 西の海の向こうに沈む陽光の残滓も徐々に薄れ、見上げる空が東から徐々に夜の帳に包まれていく昼と夜の狭間の空に、迫る闇の中西の空に僅かに残る夕陽を受け、瞬き始めた星々とは違った動きを見せる無数の銀の点。

 そしてその中を縫うように演舞を舞うように、青い炎を引いて軽やかに空を駆ける奇怪な形の黒い怪鳥。否、戦闘機。

 

 その黒く塗られた機体はともすると夜空に紛れて見失ってしまうが、断続的に吹き出す細く鋭い錐のような青い炎がその位置を再び教えてくれる。

 その夜空を舞う青い炎の行く先々に、また別の炎の赤い花が一瞬だけ次々と咲き乱れ、その花の様な炎が咲き散った分だけ銀色の敵機が夜空を追われて墜ちていく。

 

 皆が足を止め見上げる青い炎は夕闇の空に航空機とは思えない軌跡を描き、その勢いを止めようとする敵機が集まり纏わり付くのを次々に蹴散らし撃ち墜とし、まるでたった一機でこの基地を、或いはこの街を全て守らんとでもするかのように人々の上に広がる空一杯を縦横無尽に駆け回り、敵を見つけてはそこに飛び込み、敵が集まればそれを蹴散らし、撃破し、そしてまた次の獲物を見つけては喰らい付く。

 襲いかかる強大な敵に、戦う術も身を守る術も持たずただ地上を逃げ惑うことしか出来なかった人々が、逃げることを忘れて皆空を見上げていた。

 恐怖に怯え顔を歪めて空から目を背け脇を走り抜けようとする者に声を掛け、せめて僅かな遮蔽物となる建物の中に逃げ込んでいた者が場違いな歓声に気付いて固く閉ざした扉を開けて顔を覗け、脇に立つ名も知らぬ者の肩を笑顔で叩き合って声を上げ、肩を寄せ腕に縋り、或いは逃げ惑う力さえ失って座り込みながらも顔を空に向ける。

 

 それは夜の闇に塗りつぶされていく暗い空を駆ける希望の炎。

 あり得ない動きで、あり得ない数の敵を単騎で相手取り、そしてあり得ない速度で敵を次々と撃破していく。

 またひとつ赤い炎の花が夜空に咲き、それを見た人々が歓声を上げ、拳を空に向けて突き上げる。まるでその拳で敵を叩き落とそうとするかの如く。

 

 いつしか南の空からもう一つ青い炎が合流し、東の空からもまた別の一機が合流し、緩く編隊を組んだ三機が夕闇の空を舞う。

 時に密集し、鏃のような三角形を組んで敵の群れを追い散らし、時に別れてまるで群れからはぐれた獲物に喰らい付く肉食獣の様に、銀色に光る敵機に次々と喰らい付き、食い散らし、駆け抜けた後に赤い爆炎を残しながら。

 

 撃破敵機数では大作戦には及ばず、逆に味方機被撃破数はまるで大失敗した大作戦並みで、その名が囁かれる度に軍の上層部は渋い顔で顔を顰めるが、それでも何万という地上の人々が見上げる夜空で行われた圧倒的な迎撃戦は、それを見た者に希望を与え、話を聞いた者に勇気を与え、そして非公式ながらも人々の間で名を付けられた。

 「Battle of San Diego bay(サンディエゴ湾の戦い)」と。

 

 カリフォルニア半島ラパスに敵降下地点があり、最前線であるこのノースアイランド基地付近ではこの後何度も大規模な航空戦が繰り返されることとなるが、この夜の戦いは特別なものとして、人々の笑顔と希望と共に後々まで語り継がれた。

 

 

■ 3.33.2

 

 

 速度が乗った機体を急上昇させる。

 前進翼の効果か、重いと言っていた割には機体の応答が早く、動きも鋭い。

 その分身体にかかるGも大きなものとなるが、それは急激な機動の証明でもあり、いまは半ば心地よいものと達也には感じられる。。

 上昇する機体は地球の引力に負けること無くさらに増速する。

 これまで感じたことの無いような、地球の引力を振り切る感覚。

 

 この機体(こいつ)ならいける。

 達也は直感的に新しい機体に無条件の信頼を覚え、そして操縦桿を握る手に力を込めた。

 ロールした機体は、達也の指示に即座に反応して旋回し始めた。

 旋回しながら機首を振り、旋回途中で射線に入ってくる敵機に次々と照準を合わせてトリガーを引く。

 光の速度で敵に到達するレーザーは、未来位置を予測する必要が無い。

 即ち、旋回途中でも機首を振りつつ敵に照準を合わせるという作業が従来に較べて断然楽になり、そして上下左右に2度砲身が動くレーザー砲の追尾機能がそれを助ける。

 僅か十秒に満たない90度旋回の間、六機もの敵を屠った達也は次の獲物を見つけ、スロットルを開け突進する。

 

 その先には十二機のクイッカーが集団となり、達也の機体を包囲しようと動いていた。

 集団に急接近しながら、機首をずらし、左手に見える敵のマーカーにサイトを合わせてトリガーを引く。

 そのまま舐めるように機首をずらし、次々と敵を撃破する。

 前進翼の成せる技か、或いは根元から全体が動くラダーのお陰か、それとも高度な機体コントロールによるものか、進行方向を変えずに機首をずらす動きが、驚くほどスムースに行える。

 半数ほどを撃ち墜としたところで、残る敵は逃げ散っていった。

 

 HMDを装着した頭ごと周りを見回し、次の敵に当たりを付ける。

 HMDヘルメットの大きさが小さくなったことで、辺りを見回すのが楽になった上に、なによりGが掛かるときに首が楽になった。

 達也は操縦桿を引き、右上方の集団に機首を向けた。

 

 機動力もヴァイパーに比べて段違いに向上していた。

 前進翼、ラダー、高推力のエンジン、推力偏向パドル、そして機体制御の合わせ技なのだろうと思う。

 僅かな力に的確に応答する圧力感応式の操縦桿に力を込め、HMD正面中央に刻まれているガンサイトを次々にターゲットマーカに合わせ、トリガーを引く。

 ほんの一瞬のタイムラグで、ターゲットマーカ内の敵機が火を噴き、独楽のように回転しながら落下していく。

 

 視野右下にはレーザー砲の過熱状態を示す円が表示されている。

 トリガーを押した瞬間から、時計回りに円の帯が伸びていき、六時の位置を越えると全体が黄色に、九時の位置を越えると赤色に変わる。

 円が一周するところで二秒、オーバーヒートという事なのだろう。

 トリガーから指を離せば、円は速やかに反時計回りに縮まっていく。

 

 HMDのターゲットマーカの表示も工夫されていた。

 15km、即ち有効射程内の敵のマーカは従来と同じ大きさで表示され、15km以上30km未満の敵のマーカは一回り小振りに、30km以遠の敵は小さな四角で表示されるようになっている。

 HMDの視野には、大中小と3種類の大きさのターゲットマーカが無数に散っているが、射程内の敵を見分けるのにとてもやりやすくて助かる。

 

 まるで闘いの鬼神もかくやと云う勢いで、達也は次から次へと敵を撃墜していく。

 勿論達也の機体も敵の攻撃を受ける。

 ランダム機動を行っているとは言え、周囲を数十機、或いは数百機の敵に囲まれた中、単機で戦い続ければ例え偶然であっても被弾する。

 機体のあちこちに敵のレーザーがかすめた傷や破砕孔が開き、時間と共に増え続ける。

 当然達也もそれに気付いていたが、しかしこの場から逃げるという選択肢が達也の頭に浮かぶことはなかった。

 

 力の及ぶ限り、燃料がある限り、そして敵がいる限り、この場に留まりただの一機でも多くの敵を屠り続けることのみを考えていた。

 死への恐怖は、不思議と感じていなかった。

 力及ばず被弾し死ぬこととなろうとも、それは己の力が不足していたという事であり、それならば仕方が無いことと思った。

 それは生を諦めているのではなく、力の限り文字通り死に物狂いで闘って、それでも及ばないのであればその結果を受け入れるという一種の諦観であったかも知れない。

 

 ターゲットマーカにガンサイトを合わせトリガーを引く。

 小さな炎を噴いて敵機が弾け飛ぶ。

 敵は薄い煙を引きながら錐揉みで落下して行く。

 ターゲットマーカが消える。

 その時には次のターゲットを狙い始めている。

 機体を捻り、機首を上げ、ラダーを蹴ってテールスライドさせる。

 ターゲットマーカにサイトが合った瞬間トリガーを引く。

 また一機、火を噴いて敵が撃墜される。

 更に次。

 テールをそのままスライドさせて、すぐ脇に見える敵に照準を合わせる。

 再びトリガーを引く。

 機体の右舷底部に据え付けられている120mmレーザーから強烈な光が撃ち出される。

 レーザーは眼に見えない。

 しかし結果はすぐに現れる。

 ガンサイトの中で小さな炎を噴いた敵機は、小爆発を繰り返して外装や細かな部品を撒き散らしながら急速に落下して行く。

 次。

 ラダーを調整してテールスライドを戻しながらスロットルを一気に開ける。

 推力偏向パドルが閉じ、窄まった先端からリヒートの青い炎が噴き出す。

 操縦桿を引くと、内蔵も脊髄もねじ切られそうなGがガツンと掛かる。

 主翼をたわませ、軋みを上げながらも機体は一瞬で針路を変えて急上昇する。

 その上を一瞬ガンサイトが過っただけの敵マーカにトリガーを引く。

 サイトがマーカ位置に一致したのはほんの一瞬でしかなかったが、達也の機体から照射されたレーザー光が敵機にぶち当たる。

 僅か2度しかないが、可動範囲一杯を使ってレーザー砲身が敵を追尾し、ごく僅かでも照射時間を長くする。

 外装を融かされ吹き飛ばされた敵機の内部構造を更にレーザーが灼く。

 幾つもの重要部品を焼き切られ、そして敵機内部では核融合燃料の重水素が大気中の酸素と混じり合い化学的な爆発を起こした。

 更に内部構造を破壊された敵機は機能を停止し、薄煙を吹きながら太平洋に向けて落下して行った。

 達也の機体はそのまま針路を変え続け、目標としていた敵機の集団と対向する。

 ランダム機動ついでにバレルロールを行い、敵機に次々とレーザーガンサイトを合わせ、その一瞬毎にトリガーを引いて敵を射貫く。

 ほんの数秒のうちに五機を撃ち墜とされ、残る八機が達也とすれ違った。

 スロットルを絞り、ラダーを力強く蹴り飛ばす。

 達也のその動作の意図を理解した機体管制システムは、ラダーを動かすと同時に推力偏向パドルをラダーと同じ向きに動かした。

 機体はあっけなく空気の流れから外れ、機体重心を中心にして反時計回りに回転する。

 再びラダーを蹴り飛ばし回転を止め、敵機のマーカに次々とサイトを合わせてトリガーを引いた。

 達也が操縦桿を下げる力を加えた事に呼応して、機体管制システムはエレベータとエルロンを逆向きに動かした。

 一気に最大に叩き込まれたスロットルの指示により、大量のジェット燃料が燃焼室に送り込まれ、機体はリヒートの青い炎を引きながらパワーダイブを始めた。

 垂直降下のパワーダイブで速度を乗せながら次の獲物を探す。

 

 敵を追い、喰らい付き、撃破する。

 それ以外何も考えていなかった。

 妙に冷たく冴えた頭で、次の敵を見つけ、そこにどうやって到達するかを考え、敵の攻撃を避けながらどうやって敵に(レーザー)を叩き込むか、だけを考え続けていた。

 一体何機の敵を墜としたかも忘れ、時間の感覚も失い、半ば本能とも言える衝動にのみ従って達也はトリガーを引き続けた。

 

 いつの間にか自分の後ろに二機、同じ機体が追従していることに達也は気付いた。

 先に上がっていた武藤と田中だろう。

 編隊を組んで小隊単位での戦闘を指示されている訳では無い。

 付いて来たければ、勝手に付いて来れば良い。

 後ろの二機に配慮した動きをするつもりは無かった。

 

 達也は再びリヒートを最大にして、星の瞬く夜空に向けて駆け上がる。

 HMDを通した達也の視界には、満天の星に重なって敵のマーカが前面に広がる。

 その敵を、片っ端から次から次に叩き落とす作業にまた戻る。

 

 後ろの二機は、時に達也と共に敵の集団に突っ込み、時に散開して三機で敵を包囲殲滅するようにも動く。

 確かに良い腕だった。

 二機が後ろに付いてから、自分の負担が大きく減っていることを達也は実感する。

 

 後ろに全く配慮していない動きながら、二機はまるで達也が次に何をするか分かっているかのように動く。

 自分と同じ様に、常に360度を警戒し把握して敵の動きを予測し、次に獲物とするにはどの敵が最も有利かを常に考え続け、その敵への最適な接近ルートと攻撃方法を瞬時に決定する。

 それら全てに、何の相談も連携も無く、自分と同じ答えを出し続けているのだろうと驚き感心する。

 

 三機で密集して、まるで弩弓から撃ち出された矢のように数十機の敵集団のど真ん中に向けて突っ込んで行く。

 何の相談もしないまま、達也が正面、後ろ二機がそれぞれ左右前方の敵を分担して次々と撃破していく。

 敵の集団を突破し、達也が急上昇した。

 まるで曲技団の演目のように、ほぼ同時に二機も左右に急旋回した。

 半ば失速しつつ、エンジンパワーと偏向パドルの力だけで強引な小半径旋回を行い、突き抜けたばかりの集団に再突入する。

 二機も達也とほぼ同じ動きをし、同時に三機で包囲突撃する形になった。

 再び敵の集団の中を突き抜ける。

 一瞬の間を置いて、二機も同じ様に別方向から突き抜ける。

 当初四十機近く居た筈の敵機の集団は、三機による二回の突撃で残り十機以下にまで減らされていた。

 三機による一瞬の殲滅攻撃によって、まるで呆然と佇んでいたようにも見えたファラゾア機残り八機は、敵わないとみて慌てて逃げ出すかのように、同時に別々の方向に向けて高加速で散っていった。

 

 自分と同レベルの二機とデルタ編隊を組み、撃破効率をさらに上げた達也はさらに過激な機動を繰り返し、三機でなければ対応出来ないような戦闘を繰り返す。

 しかしその激しい機動による疲労は達也の身体に蓄積していき、徐々に身体の動きがぎこちなくなっていることを感じ始めていた。

 気付けばHMD表示の下部に「LOW JET FUEL」のサインが表示されており、実際航空燃料が残り1/4を切っていることを確認した。

 

 まだ戦い続けられる。

 しかしこのまま戦い続ければ、あと十五分もしない内に燃料切れを起こして撃墜されるか、或いは動きが鈍くなって敵に喰い付かれるか、その何れかの運命がまっているだろう事が想像できた。

 怒りにまかせて空に上がった後、初めて達也は敵を追い続けるのを止めた。

 眼下に、新しい発電所からの電力供給が行われ始め、以前よりも都市らしい夜景を浮かび上がらせるサン・ディエゴ市街地が見える。

 ノースアイランド基地はそのすぐ脇だ。

 例え燃料がなくなろうとも、僅かでも残っていれば帰投に問題は無い。

 

 残り十分ほど、やれるだけのことをやって燃料切れになったら最悪脱出(ベイルアウト)すれば良いか、と見切りを付けて再び敵に襲いかかる。

 その敵が、視野から消えた。

 高加速で離脱したことは理解出来る。

 なぜ戦いもせずそんな事をしたのか。

 次の獲物を探す。

 しかし達也の装着したHMDは、敵のマーカーを一切表示していなかった。

 動作不良か?

 慌てて辺りを見回す達也の視界に、遥か南方に既に個体判別出来なくなった重力推進反応の塊が映った。

 

 ・・・どうやら奴等は撤退したらしい。

 

 無意識に息を詰めていた事に気付き、盛大に息を吐いた。

 生き残った。

 相当な数の敵を墜としただろう。

 見れば、機体には無惨なほどに敵の攻撃の爪痕が残されていた。

 表面のあちこちが融け、所々外装がささくれ立ったように浮き上がっている翼。

 振り返れば、胴体にも同じ様な破損が無数に見えた。

 自分のやらかした事ながら、この状態でよく飛んでいたな、と今更ながらに達也は思った。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 達也:覚醒編 です。


 覚醒した達也は全ステータスが大幅に向上し、全てのスキルと魔法を使用可能になります。

 メカと融合してハイブリッドウォリアーとなって、次々に敵の能力を吸収し、ファラゾアと戦います。

 ファラゾア戦艦を融合した後は、超光速ジャンプも可能となり、守護神パトリシアと共にファラゾア本星に攻め入って、ファラゾアキングを斃し、さらにこの世の理を操っていた神にも挑戦し、討ち果たします。

 と言うのは全部嘘です。


 ・・・でも、そういうのも面白い・・・かも?

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― 新着の感想 ―
エースコンバットのSPミッションか何かです?
[一言] いやぁ 指定BGM聞きながら読むの最高だった
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