7. 突撃開始
■ 13.7.1
「ファラゾア艦隊距離88M、針路SSC(Sol Standard Cordinate;太陽系標準座標系)008, -003, 59K、変わらず。第二機動艦隊接触まで25分。9284TFS、9285TFSは艦隊前方35万kmまで前進せよ。9301TFS、9310TFS、シーケンスパターンBにてミサイル放出開始。
「西北西方向より第624独立迎撃駆逐戦隊、相対速度15Kにて接近中。624IESは17分後に敵艦隊に接触予定。」
SPACSオペレータが読み上げた戦術概況が音声通信で次々と入って来る。
同じ情報はHMDに戦術マップ、或いは航路マップを投映すれば、より詳細な情報とともに確認することが出来る。
それでも軍は、SPACSやピケット艦による戦況読み上げの伝統を廃止しなかった。
気が焦り慌ただしい戦場では、戦術マップの確認がつい疎かになってしまったり、重大な情報の見落としが発生しがちであるからだった。
「9265TFS、9272TFS、第二機動艦隊左舷に待機せよ。9284、9285の次に突撃だ。」
「9265TFS01、コピー。」
戦術マップ上のアニメーションでは、まずナーシャの艦隊624IESが先陣を切って突入した後、護衛艦隊最前部に布陣している9301TFSと9310TFSが突入し、それに続いて9284、9285の二部隊が突撃、その次が達也達9265TFSの番になるようだった。
624IESが約17分後、その1分後に9301と9310、少し間を置いて3分後に9284、9285、そしてさらに1分後に達也達9265と9272TFSが敵艦隊に向かって突撃する予定だった。
最初の第一撃で最大のミサイル保有数を持つ824IESが突入して敵に大打撃を与えた直後に、戦闘機隊二部隊が持てるミサイルの半数二百発を放出しながら突入して追い打ちを掛ける。
その間、敵艦隊はミサイル回避行動を取って大きく移動する可能性があり、その移動を見極めてからさらに六つの戦闘機部隊を投入し、もう一度敵艦隊の動きを見極めた後に真打ちの第二機動艦隊が突入する、という順番となっている。
レーザー砲の弾速である光速よりもさらに遅い速度で飛ぶ戦闘機隊や艦隊による突入を行い、同時に効率よく敵艦にミサイルを叩き込もうとする場合、一度に全戦力を叩き付けるよりも、僅かなタイムラグを持たせて敵艦隊の動きを読みながら適切な場所に適切な量の戦力を投入する方が効率良く敵艦にミサイルを送り込むことが出来ることが多い。
このやり方には確かに戦力の逐次投入という不利な一面はあるのだが、相対速度0.4光速にもなるすれ違いでの反航戦では相対速度が敵情報をもたらす光や重力波の速度にかなり近付いてしまうために敵未来位置の予測が難しくなることや、敵未来位置を特定できたとしても遙か彼方に遠ざかってしまっていて、一瞬でしかない交戦時間ではミサイルが敵艦まで到達できない事態が発生すること、敵艦隊と一度すれ違ってしまえばいかに最大加速度で敵艦隊を追撃しようとも、次に攻撃位置に付けるのは数十時間後、或いは0.2光速で突き進む敵艦隊には二度と追いつけない、などという非効率的な事態が発生し易いために取られるようになった戦法である。
戦力の逐次投入による味方側の大損害を発生する危険性もあるが、僅か一瞬で敵とすれ違う反航戦であるので、巨大な艦体と分厚い装甲に大量の火器を備えた戦艦が絶対的に優位な長時間の殴り合いが発生する同航戦とは異なり、一撃必殺のミサイルを大量に搭載したコルベット艦を中心とした少ない戦力でも効率的に敵戦力を減らすことが可能という、ハイリスクハイリターンな戦術であった。
「コピアナリーダより各機。聞いての通りだ。第二機動艦隊の進行方向左舷にまで前進する。各自今の内に武装チェック。
「シヴァンシカ、ミサイルの動作チェックを頼む。戦闘に突入すれば、SPACSから送られてきたデータをロードしてすぐに放出することになる。」
部下達に兵装のチェックを命じると同時に、達也はシヴァンシカに自機のミサイルのチェックを指示した。
「終わってるわ。三十六発全弾動作良好。シーケンスメモリクリア。推進器異常なし。いつでもOK。」
どうやら達也の指示を待たずして、すでにチェックは終わっているようだった。
過去の戦闘経験を参照して、指示を先読みして様々な処理を行うというのも、ファラゾアのハッキングなどによるAIの暴走を防止するためもともと搭載されていない機能であった。
達也の僚機が搭載している、達也のものよりも新型のAIにてもその機能は搭載されていない。
「上出来だ。SPACS指示を待つ。」
「こちらカローン01。9301TFS、9310TFS、指示航路に従い加速開始せよ。624IES突入の1分後にタイミングを合わせて、敵艦隊西方を通過。ミサイルの再放出はこちらから指示する。」
まるで達也の言葉を待っていたかのようなタイミングで、第二機動艦隊のSPACSから戦闘機隊の最前衛二部隊に突撃の指示が下った。
達也が見上げるように首を動かすと、HMD表示として自機の針路右上方にナーシャの624IESが見え、前方にマーカで表示されている敵艦隊に向かってゆっくりと接近していくのがわかる。
624IESはすでに大量のミサイルを放出しており、数百ものミサイルはまるで敵艦隊を逃がすまいとするかのように大きく広がって、敵艦隊を包み込むように全速で加速している。
そのミサイル群の後方を624IESが追従しているのは、勿論第一波のミサイル攻撃を受けて生き残った敵艦に追い打ちを掛けるためであるが、敵艦隊により接近することで敵艦の位置をより正確に把握して、第二射のミサイル攻撃の命中精度を向上させるためである。
遠方で放出したミサイル群は、移動している間に大きく広がりつつ速度を乗せることが出来るため、一発で致命的な破壊力を持つ速度のミサイルによる敵艦隊全体を対象とした攻撃になるが、その分着弾までの間に迎撃されやすく、また着弾直前の敵の回避行動によって命中率が大きく低下する。
逆に近距離から放出されたミサイルは、速度を乗せる時間が取れないために一発の破壊力という点で劣るものの、敵艦の位置を正確に掴んだ上で放出され、相対速度が低いために追尾性も高くなり、さらには迎撃される時間も短いため、命中率が向上する。
この時代の宇宙空間での戦闘では、搭載するミサイルの半数を遠距離から発射し、ミサイル母機或いは母艦が敵艦隊に肉薄する距離で残る半数のミサイルを放出するという二段構えの攻撃が一般的であった。
ナーシャの艦体624IESの突撃は、正にそのお手本のような攻撃であった。
「カローン01、こちら9265TFS、コピアナ。所定の位置に到着した。指示を待つ。」
「コピアナ、こちらカローン01、諒解。指示あるまで待機せよ。」
「コピアナ、諒解。」
HMD上に表示される戦況を追っている間に、達也達9265TFSはSPACSから指示された第二機動艦隊左舷の位置に自動操縦で到達した。
すでに突撃を開始し、敵艦隊に刻々と接近する624IESと四つの戦闘機部隊、それらの部隊から波状攻撃人あるように調整され放出された五つのミサイル群が前方のHMD画像に表示されている。
右に視線を移せば、互いの感覚を1000km程度にまで詰めた密集隊形の第二機動艦隊に所属する二十四隻の艦のマーカが併走しているのが見える。
最も強力な火力を持つ彼等の出番は一番最後、駆逐戦隊と戦闘機隊による突撃で敵の数がある程度減った後、最大の戦力を叩き付けて一気に勝負を決める為にある。
「9284TFS、9285TFS、ミサイル発射。同時に突撃開始。第二波ミサイルの放出はこちらから指示する。」
SPACS指示により、30万kmほど前方で待機していた二つの戦闘機隊が四百発近いミサイルを放出し、そのミサイルを追いかけるように猛然と加速を開始して突撃に入る。
「シヴァンシカ、今回のファラゾア艦隊はどこまで入り込むと予想している?」
5000m級の戦艦をも含む六百隻を越える敵艦隊であるが、打ち寄せる波のように何度にも分かれて叩き付けられる数千発のミサイルによる攻撃を受けて、いかなファラゾア艦隊であっても無事で済む訳は無い。
とは言え、数千万km彼方から発射されたミサイルは、目標のファラゾア艦隊に到達するまでの間に全て敵に探知されており、約200万km弱の有効射程内に入ると同時に激しい迎撃砲火に曝される。
敵艦との艦砲射撃での殴り合いを行うことも視野に入れ、艦体の大きさそのものによる耐久力に加えて多少なりとも砲撃の着弾に耐えられる外殻を持つ艦艇とは異なり、小さな筐体に装甲など持たないミサイルは、敵艦のレーザー砲撃に軽くひと撫でされるだけで破壊され機能を失う。
接近してくるミサイルを迎撃するファラゾア艦も、まるで針山のように全身に無数に装備した、リアクタが動いている限り弾切れなど発生しないレーザー砲を一切の遠慮無しに撃ち続けて高密度の弾幕を張り、そしてその弾幕密度は敵艦本体に近付くにつれてさらに急激に密度を増して、突破する隙間など無い様に見える光の壁としてミサイルの前に立ちはだかる。
数千発という冗談のような数量のミサイルを発射しながらも、実際に敵艦の近くに到達できる数は1/10にも満たないなどという悪夢のような事態が発生することも希では無い。
ファラゾアが地球人類に劣っているのは突発的な事態に対応する反応速度のみであり、遙か彼方から探知され数百秒も掛けてのんびりと接近してくるミサイルを効率よく迎撃し破壊するような作業は、艦艇に搭載されている圧倒的な砲塔の数の弾幕密度と、接近する大量のミサイルの動きを全て同時に把握し、その軌道を全て個別に予測して迎撃する事が出来るファラゾア艦の処理能力を合わせて、いまだ地球人類の遙か及ばざる高いレベルにある。
それに対抗するため、ミサイルの速度を限界まで上げて目標への到達時間、特に目標とするファラゾア艦が発する迎撃の艦砲射撃が破壊力を持って有効に到達する約200万kmの空間をできるだけ短い時間で駆け抜け、ハリネズミのようなファラゾア艦の迎撃砲火でさえ対応しきれない飽和攻撃の状態を作り出すのが、遠距離から放出するミサイルの運用戦術である。
それに対して、正にファラゾア艦の弱点である反応速度の遅さを突いて撃破しようとするのが、敵艦隊に突撃してからミサイルを発射する戦法である。
地球大気圏上層部に停泊した敵艦を当時の桜花ミサイルが良く撃沈したように、発射から着弾まで数秒という距離で放たれたミサイルをファラゾア艦は上手く捌くことが出来ない。
僅か数秒の加速ではミサイルは速度を上げて運動エネルギーを稼ぐことが出来ないが、そもそも敵艦隊とほぼ対向するミサイル母機との相対速度は0.4光速にも達しているため問題無い。
非常に効果的な対ファラゾア艦隊迎撃法であるのだが、最大の問題はミサイル母機がファラゾア艦隊に肉薄するため、跳ね上がってしまう母機の損害である。
加えて昨今の、味方に損害が発生することを酷く嫌う地球連邦政府の方針が問題であった。
結果的に、突撃戦は対ファラゾア艦隊迎撃法として相当に有用な戦法である筈が、政府から損害を低く抑えることを厳しく命じられた軍がミサイル母機を敵艦隊に肉薄するまで接近させない為、ミサイルは速度が乗らないまま敵艦隊の迎撃砲火の中に突入することとなってしまい、思うような戦果を挙げられないという中途半端な運用となっているのが実態である。
遠距離から発射されるミサイルは迎撃されて敵艦隊に届かず、戦闘機隊の突撃により中途半端な距離で発射されるミサイルはその有効性を十分に発揮できず、結果的に来襲したファラゾア艦隊に対して短時間のうちに有効な打撃を与える事が出来ないため、ファラゾア艦隊はそれなりの数を残したまま太陽系奥深くにまで入り込む。
「連邦軍は現在、迎撃戦闘機隊二十二部隊からなる第二防衛ラインを土星軌道の外側に形成中。第一機動艦隊と第三機動艦隊、迎撃戦闘機隊三十二部隊からなる第三防衛ラインを火星軌道の外側に形成中。最終防衛ラインは地球宙域で、現在編成中。
「撃端数期待値は、我々ジャンプシップ護衛部隊が五十七隻。第二防衛ラインで八十四、第三防衛ラインで百十九。敵艦隊はここで開戦戦力の2/3以上を失い撤退。実際の会敵はそれぞれの防衛ラインを多少持ち上げたところで発生するとして、小惑星帯あたりかしらね。地球側の損害は第二機動艦隊半壊、第一機動艦隊損害軽微、第三機動艦隊損害軽微、迎撃コルベット五百四十三隻損耗。立て直しに半年はかかるわね。」
当然のことではあるが、大きな損害を淡々と読み上げるシヴァンシカの声に達也は僅かながらも戦慄を覚える。
普段彼女のことをまるで人間であるかのように会話しているが、こんな時に実は彼女はAIであるということを思い出さされる。
彼女が冷たく読み上げた予想結果は、太陽系外縁艦隊によって行われたシミュレーションだろう。
シヴァンシカは細かなところを全て省略したが、多分どの部隊がどれだけ損耗するかも推測されているのだろう。
これだけ緻密なシミュレーションと戦果予想が出来ているならば、太陽系外縁艦隊が地球連邦軍が打ち倒せるギリギリの数の敵を「撃ち漏らして」いるのも頷ける話だった。
「ジャンプシップは?」
「無理でしょ。まともな脅威回避シーケンスも組み込まれていないのに。接触後一瞬で蒸発して終わりよ。」
今回の本来の任務はジャンプ試験船のエスコートだった。
ファラゾア艦隊が小惑星帯にまで入り込むというのであれば、シヴァンシカの言うとおり無事であるとは思えなかった。
任務失敗となるが、達也としてはそんな事はどうでも良かった。
任務失敗の責任は上の方の誰かが取るのだろう。
それで終わりだ。
自分には関係の無い話だと思った。
達也の興味の中心はとっくに、性懲りも無く太陽系に攻め込んできたファラゾア艦隊を叩き潰す方に移っていた。
気になったジャンプシップの航路を確認した後、自分達9265TFSと、同時に突撃開始する予定の9272TFSが敵艦隊に対して突撃する航路と、それに対する予想敵艦隊航路をHMDに表示して経時アニメーションで動かしている戦術マップを達也は眺めていた。
SPACSからの指示では、達也達三十隻の単座コルベットによる突撃戦闘機部隊は、敵艦隊北方を最近接距離約250万kmで交差するように突撃する事となっていた。
遠い。
こんな腰の引けた「突撃」では、ロクな戦果は挙げられないだろう。
「シヴァンシカ?」
戦場が宇宙になった後、ファラゾア来襲後初期に液体化石燃料を燃やして20mm機関砲で戦っていた時代にまるで逆戻りしたかのような酷い損耗率をどうにか改善するために、できるだけ味方の損耗を抑えることの出来る策を宇宙軍は採るようになった。
しかしこの航路は余りに「ヌルイ」突撃だと、左目でそのアニメーションを追いながら達也は思った。
「何?」
「指示された航路だと敵艦隊との最近接距離が250万kmもある。ウチの隊が敵艦隊のど真ん中に突っ込んだら、撃破数はどれくらい変わる?」
9265TFSは十五機全機がMONECのジャターユで構成されている。
一機当たり三十六発のデスサイズミサイルを搭載しており、十五機分全てを合わせると五百四十発にもなる。
迎撃戦闘機隊一部隊の戦果と馬鹿には出来ない。
五百四十発の内半数を突撃後の発射に充てるとしても、命中率が僅かに変わるだけで撃破数が十隻程度変わってもおかしくはなかった。
「本気で言ってる? 666th TFWじゃないのよ。損害機数が跳ね上がるわ。」
シヴァンシカが信じられないと云った口調で反応する。
本来の彼女の機能では有り得ないその反応に、達也は思わず笑みが漏れる。
本来ならば、AIがパイロットに反論するなどあり得ない。
AIが驚きの感情を滲ませた口調で喋るなどあり得ない。
人間くさいシヴァンシカの反応は、会話していて飽きることが無い、などと突撃待機の現状にそぐわない事を考えて、思わず笑ってしまったのだった。
「そんな事は分かってる。戦争をしているんだ。味方に損害の出ない戦いなど無い。安全なところからAIの指示に従ってミサイルを撃つだけじゃ、いつまで経ってもパイロットの技量は上がらない。酷い話だが、戦いの中で未熟者が振り落とされて、質の良いパイロットだけが生き残っていくというのも事実だ。」
目を剥くような酷い損耗率の最前線に、まるで消耗部品を補充するかのようにパイロットを次から次へと送り込み、運と腕の両方が良くなければ生き残れなかったあの時代、その過酷な戦場を幾つもくぐり抜け生き残った者達は、総じて蒼穹の騎士とも形容できるような腕の良いパイロットへと変貌していた。
過酷且つ過激な考えではあったが、確かに事実だった。
まさにその様な戦いの中で腕を磨き、生き残る術を身に着けてトップエースに上り詰めたのが達也という実例だった。
ファラゾア来襲前、二十一世紀初頭には戦場で兵士が死ぬとトップニュースとして報道されていた意味不明な時代が存在したが、ファラゾアとの泥沼のような戦いが終わり、仇敵を太陽系から叩き出すことに成功した今、戦場で兵士が命を落とすことを軍隊と国家が異様に怖がるその頃の風潮が再び戻ってくる兆候を見せていた。
宇宙空間での戦いの殆どをAIに任せてしまい、安全な位置から足の長いミサイルを放り出した母機は、敵との直接的な殴り合いによる損傷を忌避してさっさと離脱するという、戦いなのか遊びなのか区別の付かない生ぬるい戦法が主流となりつつあった。
太陽系外縁艦隊が良い塩梅に数を減らしてくれたファラゾア艦隊を、縦深陣である太陽系中心部への侵入航路の中で斬減しながら最終的に地球到達前までに削りきる、という消極的にさえ思える迎撃を地球連邦軍は毎度繰り返していた。
SPACSからの指示をそのままなぞり、機載AIのアドバイスに許可を出すだけで、敵の弾の飛んでこない、何も自分では考える必要の無い戦い方で、パイロットが戦いの経験を積めることなどある筈が無かった。
宇宙空間での戦いでは、地球大気圏内での戦いに較べて勝敗を決定する要素としてパイロットの技量が占める比重が大きく低下したのは事実だった。
しかし、ミサイルを放出する僅かなタイミング差や、敵艦隊に突入する航路の判断、敵艦の動きを先読みしてどの敵を標的とすべきかの選択など、経験を多く積んだ熟練のパイロットが下すリアルタイムの判断によるAIへの的確な指示が状況を優位に変えて、勝敗を大きく左右する重要な要素の一つとして無視できないものである事もまた否定できない事実であった。
「ジャンプシップ護衛部隊撃破数期待値は六十八に向上するわ。9265TFS損害予想は五機。」
「9265TFSと9272TFS、航路パターンDにて搭載する半数のミサイルを放出開始せよ。30秒後に予定の航路で突撃を開始する。」
達也とシヴァンシカとの会話を遮り、SPACSからの指示が飛び込んできた。
「コピアナリーダより各機。ミサイル放出、半数。航路パターンD。」
達也の機体から白く塗られたデスサイズミサイルがふわりと離れ、ある程度の距離を取ると重力推進を全開にして加速開始し、まるでかき消すように周囲の空間から姿を消す。
その速さは勿論肉眼で追うことなど到底出来ないが、HMD上には自機の撃ったミサイルが加速してぐんぐん遠ざかっていく様子がマーカで示される。
そして自機のミサイルの周囲には、他の十四機の僚機が放ったミサイルが敵艦隊に向かって巨大な群れを成して加速していく姿もまたマーカで表示されている。
「やらかしてくれたわ。」
突然脈絡も無くシヴァンシカが呟く。
「どうした。」
「624IESが敵艦隊に突撃し接触。624IESは敵艦隊の北方を通過する予定に反して、ど真ん中を突っ切ったわ。ミサイル半数放出で敵艦轟沈四十八。こちらは駆逐艦小破二。信じられない凄い戦果ね。624IESは敵艦隊の向こうに抜けて、太陽系外方向へ旋回しながら減速中。まだミサイルの半数を抱えたままよ。何かやる気ね。」
シヴァンシカの報告を聞き、戦術マップをズームアウトすると、ナーシャ率いる艦隊が敵艦隊の向こう側で大きく弧を描く航路を取りながら旋回減速中であることを示す青色のラインが表示される。
流石の戦果というべきであり、そして一度の突撃の後すぐに次の攻撃を考えて行動しているところもさすがナーシャらしい、と言うべきか。
「9265TFS、9272TFS、突撃開始。敵艦隊からのミサイル多数接近中。方位35, 01、距離3.8M、針路16, 19、相対速度84k。接触まで45秒。注意せよ。」
「コピアナリーダより各機。突撃開始する。続け。敵ミサイルに当たる様なヤツは見捨てるぞ。」
達也は何も指示していないが、突撃の宣言と同時にシヴァンシカがリアクタと推進器の出力を上げて、達也の機体は敵艦隊に向かって猛然と加速を開始した。
自動操縦で追従モードになっているであろう9265TFSの十四機がそれに続き、すぐさま加速を開始した。
「先に良いとこ取られてしまったな。こっちもやるぞ。」
「はいはい。アンタ達ってほんとに似たもの同士ね。」
AIとは思えない台詞をまるで人間のような口調で呆れたようにシヴァンシカが言うのを聞き、HMDバイザーの下で達也は思わず笑みを浮かべる。
いつも拙作お読み戴きありがとうございます。
夕方には投稿しようと思っていたのに・・・
20240521: 撃破数がインフレし過ぎて、まるで某国民的RPGのボス戦前みたいなことになっていたので、全面改定。あのままじゃ、300年で地球人が銀河系を平定できちゃう。(笑)