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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十三章 ジャンプシップ(Jump Ship)
395/405

5. 第624独立迎撃駆逐戦隊


 

 

■ 13.5.1

 

 

「それは『友達』からの情報か?」

 

 達也は単刀直入に訊いた。

 例えシヴァンシカからはぐらかされようと、正解は分かっている。

 まだここに到達していない重力波を検知して、光速で伝播する重力波よりも早く情報を伝達できる存在。

 

 太陽系内のファラゾアはほぼ完全に駆逐されており、ラフィーダは宣言通りあれ以来太陽系を訪れていない。

 超光速通信技術を持っている存在は、あとひとつしかない。

 太陽系外縁艦隊。

 正体不明の異星種族。

 

 自分が搭乗しているこのコルベット艦に搭載されている機載AIを自我を持つ程までに改造し、シヴァンシカ言うところの「お話し」をすることで急速に学習させ、さらにはそれが可能である様にいつの間にか超光速通信機を取り付けている。

 何よりも、それだけの大改造を施されつつも、このコルベット艦はフルオーバーホールを行ってさえ本来の設計と異なる部分を見つけることが出来ないという事実。

 自分にとって都合が良いので黙認しているが、不気味な話であることには間違いが無かった。

 

 いくら彼女が話をはぐらかそうとも、そんな相手がシヴァンシカの話し相手であることは薄々気付いていた。

 今回も、先ほどの問いに対して彼女は事実を隠すかもしれない。

 それでも構わなかった。

 達也にとって重要なことは、飛び抜けて高性能の機体が手元にあること、そして仇敵たるファラゾアの動きを彼等が知らせてくれること。

 

「・・・そうよ。」

 

 予想に反してシヴァンシカは達也の問いに肯定の答えを返した。

 これはもう、「お友達」が太陽系外縁艦隊であると言っているようなものだったが、下手に追求して態度を硬化させ、得られる情報が得られなくなることを憂慮して、その点はこれ以上突かないことに決める。

 

「『お友達』に礼を言っておいてくれ。奴等の情報を回してくれるのはとても助かる、と。」

 

 そもそも彼等は何を思ってこのような知らせを送ってきたのか。

 突然宗旨替えをしてとうとう地球人とコンタクトを取る気になったのか、或いはやはり直接のコンタクトを取りたくはないので、だからシヴァンシカという存在を育てたのか。

 それにしても、なぜ今かという疑問は残る。

 

 どうでも良かった。

 そんな事は自分にとって関係の無いことだと思った。

 しかし、と冷静に考える。

 

「だがなあ。教わったところで、俺に第二機動艦隊を動かす権限は無い。せいぜいが命令無視をしてウチの隊を引き連れて突っ込んでいくぐらいしか出来ないが、たった十五機で戦艦込みで千二百隻もの艦隊を相手にするのは流石に無理だ。そもそも弾が足りん。さてどうするかな。」

 

 勿論、自分一人で飛び出してどうにかなる相手ではない。

 そもそもそんな事をすれば袋叩きにされて確実に死ぬだけだろう。

 ファラゾアと戦い、奴等を叩き落とすために命の危険を冒すことは仕方が無いと割り切れるが、無謀な戦いをふっかけて無意味に死ぬのは御免被る話だった。

 

「そうよね。やり方を変えるように言ってみるわ。」

 

 シヴァンシカがまるで独り言を呟くようにレシーバの中で囁いた。

 それほどに気軽にコンタクトを取れる相手であるということと、シヴァンシカからの提案を聞き入れてもらえるほどに親密であるという事の両方共に少々驚かされた。

 やり方を変えるといっても、どうするつもりなのか。

 まさか、第二機動艦隊旗艦のAIも実はシヴァンシカ同様に太陽系外縁艦隊の技術がとうに入っており、同様に自我を持つ存在となっているというのだろうか。

 

 シヴァンシカの独り言からさほど間を置かず、SPACSから通信が入った。

 

「ジャンプ試験船エスコート任務に就く全機。指示に変更があった。ジャンプ試験船エスコートの第二機動艦隊及び全戦闘機隊は、これより2000Gの加速で0.2光速まで増速してジャンプ試験船『トゥルパル』に追い付き、太陽からの距離10Bまで進出する。本通信後カウント10で第二機動艦隊は加速を開始する。全戦闘機隊は現位置にて第二機動艦隊に追従せよ。繰り返す。指示に変更あり。ジャンプ船エスコートの・・・」

 

 その内容を聞いて思わず呆れてしまった。

 確かに地球からの指示であれば、第二機動艦隊も含めて全ての艦船が動くだろう。

 この機体に施された改造の技術レベルから考えて、そういう内容の偽通信が地球から放たれたように見せかけるのも、シヴァンシカの友人達にとっては朝飯前だろう。

 それよりも、彼等が即座にその様に対応出来る事に達也は呆れかえった。

 つまり彼等は、即座に対応出来るだけの様々なバックグラウンドをこの太陽系に持っているという事だ。

 

 当然のことか、と達也はHMDシールドの下で皮肉に唇を歪める。

 これだけの科学技術を持った数千隻、或いは数万隻という艦隊が、いつから太陽系外縁に身を隠していたのか分かっていないのだ。

 多分彼等は、太陽系内であれば任意の場所任意の時刻に任意の行動をとれるだけのバックボーンを既に構築しているのだろう。

 ある意味、ファラゾアよりも遙かに完璧に太陽系を侵略しきっているじゃないか、と再び嗤う。

 地球人にそれを気付かせず、希に気付かれたときは大概地球人に味方をするような行動であるだけに余程タチが悪い。

 

 それでも。

 彼等が味方として行動しており、ファラゾアを殲滅する手助けをしてくれるならば、達也個人としては特に文句はなかった。

 

「こちらSPACSカローン01。第二機動艦隊随伴の全戦闘機隊、航法データを送った。航法をダウンロードされたデータに切り替えて、そのままオートパイロットで追従せよ。艦隊は2000Gにて既に加速開始した。慌てる必要は無い。必ずオートパイロットで追従する事。以上。」

 

 SPACSがオートパイロットの使用を念押しする。

 オートパイロットであれば、ただ単に第二機動艦隊に追従し、所定のポジションをキープしようとするだけでなく、そこに至るまでの加速中に他の戦闘機隊、他の戦闘機とコミュニケーションして、互いに安全な距離を保てるタイミングと航路を瞬時に割り出して実行する事が出来る。

 焦るばかりに操作をとちり、他の機体に接近しすぎて警報を鳴らし、戦闘機隊全体を混乱に陥れるというような、人間の様な間抜けな失敗をAIはしない。

 

 ファラゾアがまだ太陽系に居座り、毎日を血みどろの戦闘に明け暮れていた頃は、ファラゾアの繰り出す電子戦機からハッキングされ暴走させられることを恐れて、AIが操る無人機を導入する事など考えられなかった。

 ファラゾアの脅威が去りつつある今、少なくとも奴等の脅威度が以前に比べてかなり下がった今なら、メンタル、肉体共にストレスに弱い脆弱な人間のパイロットなど廃して、我慢強く完璧な仕事をやってのけるAIに全て置き換えてしまうと云う選択肢も有りなのだろうと、新しい航路データに切り替わり、自動的に先行する第二機動艦隊を追い始めた自機の航路データを眺めながら達也は思った。

 

 それを受け入れるのは自分の生き方を否定するのと同義だったが、自分がどう抗おうとその流れは変えられないだろうと思った。

 実際に、人間のパイロットがする仕事はこれほどまでに減っているのだ。

 AIの実装により延命された自分のパイロットとしての生命が、AIの更なる進化で今度こそ終止符を打たれる。

 既に終わりかけていたパイロット人生だった。

 ファラゾアとの戦いと同じだった。

 力の限りにどれ程抗おうと戦おうと、力及ばず死んでしまうものは諦めもつく。

 

「シヴァンシカ、状況は?」

 

 何も知らず試験船を追いかけるエスコート部隊の中で自分だけが真実を知っている。

 その事実に思わず笑いが漏れる。

 

「ファラゾア艦隊、ジャンプアウト数千二百六十二隻。太陽系外縁艦隊は四千七百九十八隻でこれに対応。現在四百三十二隻を撃破。中破三百二十三、離脱百七十五。中破を含む残六百五隻が太陽系内部に向けて侵攻中。内5000m級戦艦八隻、3000m級戦艦二十九隻。太陽系外縁艦隊は追撃を終了しているので、敵艦数がこれ以上大きく減ることは無いわ。」

 

「六百隻? 随分多く残したな。撃ち漏らしたか?」

 

 連邦軍が公式に発表したわけではないのだが、これまでその全ての戦いに参加していた経験から、太陽系外縁艦隊が故意としか思えないほどに、地球人の戦力で対応出来るギリギリの数を撃ち漏らすことを感覚的に達也は知っていた。

 「故意としか思えない」ではなく、明らかに故意だと思っていた。

 それにしても今回の六百隻は多過ぎた。

 

 第二機動艦隊が1000m級巡洋艦五隻と駆逐艦十五隻、戦闘機隊が百四十八機。

 確かに搭載しているミサイルの数で言えば、侵入中のファラゾア艦隊の何倍もの数を装備しているが、戦いはミサイルの弾数だけで決まるものではない。

 

「イカレた性能のヤバい名前の新型のミサイルがあるでしょ。この機体にも積んであるけど。」

 

 シヴァンシカが少しぶっきらぼうに感じる口調で言った。

 

 「デスサイズ」という恐ろ(特殊な病を)しげな(発症していそうな)名を付けられたそのミサイルは、これまで用いられてきた対艦ミサイル「バイデント」の発展型のミサイルだった。

 搭載する六基のAGGが一瞬で崩壊するほどのオーバードライヴで小型のブラックホールをごく短時間生成し、事象の地平線の空間的不連続性で空間断層シールドに穴を開けて強引に突破し、崩壊しつつも光速の数十%という超高速で敵艦に叩き付けられる小型ブラックホールの潮汐力で敵艦の艦体構造の崩壊を狙ったバイデントミサイルに対して、デスサイズミサイルは以前グングニルミサイルにて採用されたSDC(Space-Time Distortion Canceller:時空間歪み正常化機構)を更に強化し、強化されたZero-Space(Absolute Zero Space-time:絶対均一時空間)で空間断層に穴を開けてこじ開け、空間断層シールドを突破したミサイル弾体の運動エネルギーで敵艦を破壊する攻撃方法を採用している。

 

 要するに、空間断層という通常では越えることの出来ない絶対的な壁に対して、ブラックホールという弾丸を撃ち込んで強引に穴を開けて突破するか、絶対均一空間というブルドーザーの様なものの力技で壁を倒して均一に整地して通り抜けるか、というシールド突破方式の違いである。

 人工ブラックホールという恐ろしげな名前のものではあっても、急速に崩壊しつつある非実体弾で敵艦を破壊するよりも、質量は小さいながらも数万km/sの速度で打ち込まれるミサイル弾体、即ち実体弾の方が目標の敵艦に与える破壊のエネルギーが遙かに大きいことは試験の結果からも明らかとなっている。

 現在、太陽系防衛を担う部隊の一部を対象にして換装が進められており、このまま行けば今回の交戦が初めての実用となる筈だった。

 そしてシヴァンシカが指摘したとおり、今達也が搭乗しているこのコルベット艦にも二十四発のデスサイズミサイルが搭載されており、9265TFS十五機全体では三百六十発ものデスサイズミサイルを携行していることになる。

 

「それと、そのヤバ(恥ずかし)い名前のミサイルを満載した624IES(624th Intercept Exterminate Squadron:第624独立迎撃駆逐戦隊)が全速でこっちに向かってるわ。ミサイル巡洋艦一隻と、ミサイル駆逐艦三隻。こっちがファラゾアと接触する頃にちょうど到着する見込よ。」

 

「624IES? ナーシャの戦隊か? 大丈夫なのか?」

 

「ん? なんなら彼女と話す? ちょっと待って。リリーと繋ぐから。」

 

 リリーとは、ナーシャと共に居るAIの名前だった。

 子供の頃に飼っていた猫の名前だと、昔聞いていた。

 確認したことは無かったのだが、シヴァンシカのこの反応から見て、彼女のAIもシヴァンシカと同じ様な状態であるのだろう。

 

 666th TFW戦闘機隊解散後、ナーシャはコルベット艦編隊長ではなく、駆逐艦の艦長になる道を選んだ。

 数度の戦いの後、巡洋艦の艦長となり、さらに駆逐戦隊の戦隊司令官となっていた。

 駆逐戦隊を率いて、通常時は太陽系内を哨戒して未だ完全に排除できていないファラゾア残党を狩り、ファラゾア艦隊が現れた場合にはその侵入を阻止するために駆け付けるという、搭乗している艦種は違えど達也と似たような任務に就いていた。

 

「いいのか? まあ、今更なんだが。」

 

「そうね。今更、よ。」

 

 624IESが今現在どの辺りに居るのかは知らないが、少なくとも10光分以内に居る事はないだろう。

 その624IESと通信を繋ぐという事はつまり、この機体に超光速通信を行う機能があり、そしてその信号を受け取る側の624IES旗艦である巡洋艦「シウォンザク」にもその機能があると半ば明言しているようなものだった。

 そして多分、巡洋艦「シウォンザク」もこの機体と同じで、オーバーホールしたところでそのような機能を付与した機構など、その痕跡すら見つかることは絶対に無いのだろう。

 

「ん。繋がったわ。」

 

 シヴァンシカの声と共に、ヘルメットを被り今ひとつ人相が判別しづらいが、大型艦艇の艦橋に据えられたと思しきシートに座るナーシャの映像がHMD上に投映された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 GW中は無理かと思いましたが、ボチボチ書き溜めて一話分になったので上げます。

 ナーシャは巡洋艦艦長兼駆逐戦隊司令官になってます。


 ・・・あの性格の奴に艦持たせるとか、危険行為としか思えないんだけど。w

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― 新着の感想 ―
[一言] 地球が本気の対抗手段を手にしたらしいから踏み込んだ接触に切り替えて来たのか?重力理論やらのリーク?とかは地球人の開発能力を試してたとか。
[良い点] そうか~。神が降臨した後だから、時空連続体に直接影響を与えられるミサイルが作れるようになったのか~。 [気になる点] って、このデスサイズ、、、この技術を銀河種族持って無いですよね。確か空…
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