1. 十年
■ 13.1.1
23 Jun 2064, Outside of Mars orbit, Deep space
A.D.2064年06月24日、深宇宙、火星軌道の外側
HMDを被ってパイロットシートに着いていると、ほぼ黒に近いダークグレイのコクピット内装色に外部カメラの宇宙空間映像が重なって投映され、どこを向いても宇宙空間に輝く星々の画像が見えることになる。
まるで自分が生身で宇宙空間に浮いているような錯覚に陥り、宇宙空間に飛び出した最初の頃は、果てしなく続く何も無い空間に放り出されたような気がして、随分不安な思いをしたものだったと、昔を思い出す。
技術は進歩し、当時は所詮外部光学センサの荒い画像でしか無かったHMD投映映像も、今では高い解像度を伴ったものとなっており、目をこらせば遠距離から火星の地表の峡谷や平原を見分けることさえ出来るようになった。
もっとも、火星の表面の詳細を見たいと思いながら目をこらせば、それを検知したHMDが火星のズーム画像を自動的に投映するので、実際のところそれほど苦労することも無く火星の地形を見分けることが出来るのだが。
火星には余り良い思い出が無い。
両親を殺し、恋人を殺し、部下や戦友達を殺した怨敵の本拠地がある星と、滑走路の端に立って夜空に輝く赤い星を見上げ睨み付けた対象。
二度も攻め込んで、一度は自分自身死にかける程にやられてしまい、もう一度は長く共に戦ってきた者達の殆どを失う事となった星。
あれからもう十年も経つが、余りに強烈な体験は今でも頻繁に夢に見るほどだ。
十年の間に色々なことがあった。
ファラゾアが太陽系から一掃されて、まるで示し合わせたかのように世界各地で発生した様々な理由の幾つもの紛争。
それはまるで、ファラゾアという外敵が居る間はそちらの対応に忙しいので一旦手を止めていた様々な争いを、邪魔者が去り手が空いたからと本来の仕事を再開したかのような地球人類内での戦い。
ここぞとばかりに地球連邦から独立を宣言する地域、他国の領土に攻め入る大国、もとは一つの国家だったはずの地域で勃発する民族紛争、千年もの昔から延々と続けられてきた伝統的な宗教戦争。
性懲りも無く元ソヴィエト連邦だった周辺国に攻め入ったロシアが、ファラゾアとの戦いの中で箍が外れたのか戦術核を使用し、元々は同じ国家であった極東シベリアを含む全ての周辺国家からそっぽを向かれた上に、地球連邦政府から強烈な制裁を受けて弱体化し、連邦軍に攻め込まれて国土面積を大きく減じたこと。
ここぞとばかりにまるで鬼の首を取ったが如くロシアの非道さを声高に叫び、周辺国を巻き込んで自国主導の連邦軍でロシアに攻め込み、連邦政府内での政治的な意味でも、実質的な国力でも大きく力を取り戻したアメリカ。
人類は天地開闢の六日目に創造されたのではなく、ファラゾアという創造主によって遺伝子調製され生み出された種族であることが明らかになった後も、自分達の信じるものとは別の宗教を信ずる者達を異教徒と呼び排斥し、しつこく宗教戦争を仕掛け合うユダヤ教信者と、その派生宗教である二大宗教の信者達。
人類を害そうとする異星種族と戦う最前線に長く身を置いてきた者からすると、それらの地球上の争いは余りに馬鹿馬鹿しく、それら紛争に熱中する者達の主張や叫び声は鼻白み呆れ果てそして虚し過ぎ、相手にする気にもなれないほどに見下げ果てたものでしかなかった。
異星種族からの侵略を経験したこの時代に、国家や民族や宗教などといったものに無意味にこだわり過ぎ、同じ種族である地球人同士で殺し合いを続ける事の何と馬鹿馬鹿しい事か。
地球上の様々な地域を転戦した経験から、それらの事柄が無意味であるとまでは思わないが、同じ種族の中で殺し合いをするほどにまで重要な事であるとはとても思えなかった。
そんな事よりももっと重要で、先に考えなければならない事があるだろう、と。
しかし連邦軍に属する軍人であったためにそれらの紛争の鎮圧に幾度となく駆り出され、同じ地球人類同士で殺し合いをする他無かったこの十年。
地上戦が行われている地域に宇宙空間からの降下を行い、ファラゾア艦と戦う事さえ出来る兵器を用いて地上部隊の掃討を行うなど、ただの虐殺でしかない。
地球人生体脳を持つ通称ダークレイスとさえ渡り合える自分とその乗機、その自分に鍛えられた戦闘機部隊を指揮して、数世代前の航空機戦力しか持たない紛争地域の空軍に対して1000kmも彼方の宇宙空間からアウトレンジでの遠距離狙撃を行い、大気圏内に降下しては圧倒的な性能差と力量差がある「敵」の戦闘機部隊を、まるで動く標的機であるかの如く叩き落とし殲滅する任務を命じられる。
その相手側は、ともすると未だ液体化石燃料のジェットエンジンによる空力飛行の機体か、良くて重力推進併用の大気圏内専用機を必死で操り、射程の短い20mm機関砲、出力の足りないレーザー、どれ程追尾性が高くとも苦もなく避けられるロケットモーター推進のミサイルを最大限に用いて必死で抵抗してくる。
そんな旧式の非力な機体を、或いは躱され続けながらも追い縋ってくるミサイルを、どころか20mm機関砲弾さえも、撃ち墜とすなど最新鋭の機体をもってすればまさに赤子の手を捻る様だった。
まるで自分がファラゾアになった様な気がした。
そして、ファラゾアの戦闘機械からの視点で見た自分達地球人は、こんなものだったのだろうか、と思った。
ファラゾアは未だ地球の再占領と地球人の従族化、生体脳の刈り取りを諦めたわけではなかった。
当初の予想よりもかなり小規模ではあったが、この十年間でも年に一度か二度、太陽系外縁に数百隻から二千隻規模の艦隊をジャンプアウトさせてきては、太陽系侵攻を企てていた。
規模の大きな艦隊がジャンプアウトした場合は、例の正体不明な太陽系外縁艦隊が反応し、その大半を撃沈した。
会戦戦力の2/3を失ったファラゾア艦隊は、すぐに脱兎の如く逃げ出し、ジャンプして宇宙の彼方へと逃げ帰っていった。
ファラゾアらしき大艦隊が太陽系外縁にジャンプアウトした探知報告を受けて慌てて飛び出していった連邦宇宙軍機動艦隊であったが、彼等が地球宙域を離れる頃には、リアルタイムではもう既に全て決着がついた後であった。
ファラゾア艦隊の規模が数百隻程度で比較的小さいときには太陽系外縁艦隊の反応は鈍く、かなりの割合のファラゾア艦を撃ち漏らし、ファラゾア艦隊の太陽系への侵入を許した。
地球を発進した迎撃艦隊がこれを迎え撃ち、数多くの新兵器を投入してなお相当な数の犠牲を出しながらもファラゾア艦隊を撃破し、追い返すことに成功した。
それはまるで、地球人類が対応可能であるファラゾア艦隊の数を見極め、どうにか対応出来る数のファラゾア艦船を太陽系の内側に故意に侵入させ地球人類に対応させることで、地球人類を鍛え上げているかのようにも見える行動であった。
実際彼等が太陽系内に侵入を許したファラゾア艦隊はいずれも地球人類によって迎撃され撃退されていた。
ただし、連邦政府と連邦軍上層部が頭を抱えることとなったのは、その様にして太陽系に侵入してきたファラゾア艦隊は、ここ数年で実戦投入された新鋭艦や大量配備された最新型の単座コルベット戦闘艇、交戦相手のファラゾアや、一度地球を訪れたことのあるラフィーダでさえ知るはずの無い最新式のバイデントミサイルをありったけ全力で投入してやっと辛勝を得る様な、絶妙な艦艇数に調整されていた事であった。
それが一度きりであるならば偶然で片付けられたのであろうが、太陽系に「撃ち漏らされた」ファラゾア艦隊が侵入する場合は毎度必ず、例え前回の戦いの後に単純に数の上での戦力の増強が行われ、さらには新兵器までもが実戦投入され、前回に較べて大幅な戦力増強が行われていたとしても、その時点での地球人類の全力に見合った艦艇数に絶妙に調整されたとしか見えない数の艦艇が太陽系内に侵入してくるのは、明らかに地球人類の戦力を冷静かつ客観的に正しく評価した上での故意としか思えなかった。
前回の戦いの後に配備し、まだ一度も戦闘に投入したことの無い兵器や装備の性能を彼等は一体どのようにして正しく評価しているのか。
日々変わり続ける、兵器性能 x 兵器数で求められる評価戦力を、一体どのようにして正確に算出しているのか。
ファラゾアにバイオチップを埋め込まれたチャーリーか、或いはラフィーダが地球へ送り込んできた生義体の様な存在を太陽系外縁艦隊も作り出しており、軍や政府高官の中に人知れずスパイとして紛れ込ませているとしか思えなかった。
現時点で明確に敵対している相手ではないとは言え、こちらからいくらコンタクトを取ろうとしても全く応答しない、何を考えているか分からない不気味な艦隊であることは間違いなく、軍情報部の中にこのスパイ問題を専門に対処するチームが立ち上げられただけでなく、連邦政府情報分析センター(UNT INTCen)の中にも、従来から存在したファラゾア情報局(倉庫)とは別に、地球人社会に紛れ込んだ異星種族のスパイ対策を専門に行う為の部署が設置され、それぞれ連携して活動を開始したが、今のところ目に見えた成果は上がっていなかった。
それとは別に、彼等とコンタクトを取ろうとする試みは続けられていた。
エッジワース・カイパーベルトまで駆逐戦隊を送り込み、コンタクトを取りたいという意思を明確にして、近くにいるはずの艦船に向けて信号を発信したりもした。
エッジワース・カイパーベルトを巡る、冥王星を含んだ幾つもの天体に探査基地を設置し、どうにかして彼等の姿を見極めようとする試みも行われた。
しかし、太陽系外縁百五十億km以遠に広がる空間は余りに広く、そしてそこに潜む彼等は身を隠すのが余りに巧みであった。
地球人類は未だに、太陽系外縁に潜む大艦隊の艦影を一つさえも掴むことが出来てはいなかった。
エッジワース・カイパーベルトまで宇宙軍の艦隊が進出したのはかなり冒険的な試みであったが、より地球に近い太陽系内部では、地球人類は着実に太陽系内の開発を進めていた。
いまだファラゾアの脅威が残る、彼等の兵器生産拠点であった火星や、燃料補給所であった木星は後回しにされていたが、地球に最も近い天体である月や、鉱物資源が手頃な大きさで漂っている小惑星帯は、宇宙へ乗り出したばかりの地球人類にとって手頃な開発対象であった。
地球周回軌道とともに月周回軌道には、大規模な恒久的宇宙ステーションの建設が計画されていた。
その資材は手近な月から入手するか、或いは前述の通り手頃な大きさの小惑星を地球宙域まで牽引する、或いは小惑星帯に止めたまま鉱山として開発し、精製された原料を地球宙域に送り込むことで調達されていた。
当然ながら政府主導で始まった太陽系開発であったが、小型で高出力の熱核融合炉や、当初から民生用に開発された安全な低温核融合炉はすでに民間に多く出回り、徐々に一般的な動力源として用いられるようになってきていた。
同時に重力推進器も、特に重量物の大量輸送にはうってつけの輸送方法として民間に急速に普及しつつあった。
その様な中で、民間の資源開発会社が重力推進器を備えた宇宙船を開発し、これまで政府に独占されていた無限の資源開発に参入しようとするのは、至極当たり前のことであった。
動力源と推進器の問題さえなんとかなれば、地球の地表を出発し、小惑星帯にまで到達して何往復も出来るような宇宙船を建造するのは、民間企業にとってもさほど難しいことでは無かった。
太陽系内からファラゾア艦隊を駆逐して十年、宇宙軍だけが全てを占領し戦場としていた宇宙空間は民間企業に対しても開かれたものとなり、軍人だけでなく多くの民間の技術者や労働者が宇宙へと進出し広がり続け、最近では地球へ戻ることなく長期間を宇宙で過ごすような、半ば宇宙を住処とする様な者さえ現れ始めたのだった。
しかしファラゾアとの戦いは終結していなかった。
毎年確実に一・二度はファラゾア艦隊が太陽系への侵入を試みる為に来襲している現状において、地球連邦政府はファラゾアとの戦いの終結を宣言してはいなかった。
元来のんびりとした敵のメンタリティにより、どことなく間延びした様な微妙に緊迫感に欠ける襲撃しか行われてはいないが、しかしそれでも仇敵であるファラゾアは太陽系占領をまだ諦めてはいない事が明らかだった。
このような状態で戦いの終結を宣言できるはずも無い。
ソル太陽系、或いはそこに住まう地球人は、しかし戦時下でありつつも太陽系内の開発を進め、ラフィーダから供与された遙かに先進的な技術を解析し身に付け、僅か五十年ほど前、この世紀が始まった頃には考えも付かなかったであろう程に急速に発展を遂げつつあるのだった。
「9265TFS、こちらセレス管制ステーション、ライトハウス。貴隊はアステロイド管制宙域に進入した。航路クリア。約45分後に民間輸送船『ロックリーパーⅣ』と最小2.9Mまで接近する。貴隊任務に変更なし。試験船『トゥルパル(Turpal)』は定刻にて航行中。貴隊の安全な航行を祈る。以上。」
操縦席に座り、ぼんやりと船外映像の星を眺めていた達也の意識を、数千万km彼方から呼びかける管制官の声が現実に引き戻した。
HMD視野の端に表示されている航路図のアイコンを注視すると、HMD視野左側に半透明な航路図のウィンドウが開いた。
明るい青色の三角形で示されている自分達9265TFSのマーカは、何の問題も無く黄色の細い線で示されている予定通りの航路を進んでおり、マーカの横には「ON TIME(定刻)」と緑色のキャプションが付いて航路の遅れが無い事を示している。
現在、自分を含めた戦闘機隊9265TFSは火星軌道を遙かに超え、いわゆる小惑星帯へと差し掛かろうとしていた。
資源開発のため必要に迫られ、宇宙進出の比較的初期段階で小惑星帯最大の天体であるセレスに設置された管制基地「ライトハウス」は、小惑星帯を含むセレス周囲一帯の船舶管制(Vessel Control)を担っているが、今小惑星セレスは自機から2600万kmの彼方にあった。
セレスからの管制連絡が定刻で届いたということは、こちらが問題無く航行するであることを見越して、気を利かせて約二分ほど前に通信を発していたことになる。
「ライトハウス、こちら9265TFS、コピアナリーダ。任務変更なし、トゥルパルは定刻航行、諒解。適切な管制感謝する。以上。」
小惑星帯とは、SF映画で出てくるような辺り一面岩だらけで操縦に難儀するような空間ではない。
岩塊と岩塊の間の距離は数千から数万km、それ以上も離れており、小惑星自体が所詮数十km程度の大きさでしかない。
余程ぼんやりとしていない限り、確率的にぶつかるなどということは有り得ない。
HMDの視野の中には、小惑星を示す黄色いマーカが幾つも表示されているが、衝突の危険があるわけでも無く、また万が一衝突コースに乗ってしまったとしても、それを察知した管制システムが自動で回避行動に入るので何の問題も無いのだ。
宇宙空間では、基本的に何もかも自動操縦に任せてしまうため、戦闘時以外はパイロットがすることなど殆ど何も無かった。
初めて宇宙空間での戦闘を経験した頃は、地球大気圏内での戦闘とは余りに異なる時間と距離のスケールに戸惑わされた。
距離は数十万、数百万kmという単位にまで大きく広がり、一方時間の方は数ミリ秒という単位にまで極端に短縮された。
数百万km先の目標に向かって手動操縦で飛ぶのは現実的では無かったし、数ミリ秒というごく短時間で次々と切り替わる状況に人間が手動で対応するのはもっと現実的ではなかった。
そんなことははっきり言って不可能だった。
パイロットが対応できないならば、それに対応できるものにやらせれば良い。
そういう考えのもと、宇宙空間で行動する多くの機体、艦艇には、人間が現実的に対応できない事柄を処理するためのAIが導入された。
戦場が宇宙空間に移った頃、自分の戦闘能力はほぼピークを迎え、あとは緩やかに低下していくのみであろう事は自覚していた。
どれほどファラゾアが憎く、どれほど自分の手で連中を叩き落としてやりたいと思いはしても、能力が低下して戦闘に耐えられなくなるのを誤魔化すわけにはいかなかった。
誤魔化して無理に出撃しても死ぬだけだ。
そろそろ本気で戦闘機を降りることを考えなければならないかと思い始めたところに、色々な意味で手に負えない宇宙空間での戦闘が主流となったのだった。
自分の能力がこの先低下していくことを意識し始めたところで、そもそも能力の低下以前に人間では対応できない場所へと戦場が移り、戦闘に対する直接的な行動についてはAIが対応することとなったために、パイロットに求められる能力は反射神経や瞬間的判断力では無く、戦いの流れを把握し先を読み、それをAIに指示する俯瞰的判断力となった。
つまり、多くの戦いを経験して戦場での経験を多く積み、知識をより多く蓄えた者、同様に相棒のパイロットと共により多くの時間を過ごして学習し経験を積んだAIが有利な戦場へと変わったのだ。
より極限的で苛烈な環境の戦場へと移ったことが、結果的に達也のパイロットとしての寿命を延ばした事は、皮肉と言うべきかあるいは幸運と言うべきか。
長い時間を戦場で生き延びたことで、達也の戦闘経験は他に並ぶ者が無いものとなっている。
AI導入初期からずっと行動を共にしてきたAIは、他のパイロット達のAIに較べて遙かに長い時間を達也と共に戦場で過ごしており、相棒と呼んで差し支えないほどに達也の戦い方や癖を学習している。
まさに宇宙空間の戦闘に求められる理想的なコンビと言えた。
お陰で達也は今なお最前線で戦うパイロットとして、こうして戦闘機隊を率いて広大な宇宙空間を駆けているのだった。
まだ子供と言って良い年齢の十六才で入隊して以来、三十年間パイロットとして最前線で戦ってきた。
それ以外の生き方を知らなかった。
どんな理由であれ、この生き方を続けられるならばそれで構わないと思っていた。
少なくとも戦闘機パイロットでいられる限りは、思い出したかのように時々太陽系に攻め込んでくるファラゾア艦隊と戦うことが出来る。
ファラゾアを一機、一隻でも多く沈めることが出来る。
地球人類にとっては、太陽系に攻め込んでくるファラゾア艦隊を撃破するのは、生き延びるための手段である。
しかし達也にとっては、ファラゾアを墜とすことが生きるための目的であるとさえ言って良かった。
手段と目的が入れ替わっていようが、そんな事はどうでも良かった。
頭の中の九割はファラゾアを殺すことで埋め尽くされている、或いはファラゾアを殺すこと以外考えられないそれに特化した機械だなどと、共に戦った仲間達から散々揶揄されたものだったが、その生き方を変える気は無かった。
それ以外の生き方を知らなかった。
多分、とっくの昔に壊れてしまった精神の安定をそれ以外の方法で得ることが出来ないほどに、どうしようもない程に自分は壊れてしまっているのだろうと思っている。
それならそれで構わなかった。
まだ経験の浅い戦い方を知らない若手パイロットを育てるにしても、或いは自分自身が直接戦場に出て戦うにしても、地球連邦軍にとってその様な自分の存在は都合が良く、そして都合良く戦場に送り出されることが自分にとって都合が良い。
互いに利害関係が上手く一致しているのだから、これ以上に都合の良いことはないだろうと思っていた。
それこそ手段と目的がひっくり返っていようが、自分が納得していればそれで充分だと思っていた。
いつも拙作お読み戴きありがとうございます。
新章です。
やっとちゃんとした、宇宙が舞台の話になりました。長かった。w
なんか会話の殆ど無い説明回になってしまいましたが、次話以降も説明多めになります。スマヌ。
十年の時の流れは大きいのです。