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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十二章 Scorpius Cor(蠍の心臓)
383/405

42. 地球は遙かに遠く


 

 

■ 12.42.1

 

 

「フェニックス全機、高度を500以下に下げる。スターバック、ブーマーは200以下だ。パーティハット直上の敵を徹底的に排除する。」

 

 しかしそれでも達也は、その場に留まり敵を徹底的に排除する指示を出す。

 分かっている。

 直接近接していないとは言え、全体で百万を超える敵機に囲まれて、敵機を排除するなど出来るはずがなかった。

 敵を墜とせば墜としただけ、その向こうから同数以上の敵機が補充される。

 だが、一瞬で良い。

 タイミングを合わせて二機の輸送機が飛び上がり、生き延びて敵機群を突破する為の僅か一瞬の隙で充分だ。

 

「ブーマー01、コピー。」

 

 9103TFS編隊長のテオフィルの声が達也の指示に応える。

 だが、9102TFSからの応答が無かった。

 

「スターバック、どうした? ヨル?」

 

 達也はジョランダの名前を呼び、コンソールに表示された通信(コム)ウィンドウに目をやった。

 

91(ナインティワン)02(オートゥー)は全滅した。」

(9102 all destroyed)

 

 激しい戦いの中、何かを言う余裕さえ無いのだろう。

 ごく短い言葉で、テオフィルが告げた。

 その知らせに達也は僅かに唇を引き結び、眼を細めた。

 一瞬、ジョランダの面影が視野を掠めた様な気がした。

 そして、味方機が少なくなることで加速度的に増加するであろう残存機の損害を思い、口元を歪める。

 

「こっちもだめだ。俺とあと二人だ。生きt・・・」

 

 テオフィルの通信が不自然に途中で途切れた。

 一瞬だけ眼をやった通信ウィンドウに9102TFSの部隊番号はすでに表示されて居らず、そして9103TFS01、即ちテオフィルの駆る9103TFSのリーダ機の表示がグレイに変わっていた。

 

「フェニックス全機、指示変更。高度200以下でパーティハットの上空を掃除する。ブーマーの生き残りも合流しろ。」

 

「ブーマー08、コピー。」

 

 出した指示の返答も待たず、達也は機体を反転させ急降下した。

 視野の中でHMDに表示されている緑色のピッチラダーがぐるりと回り、高度計が目にも止まらない早さで減っていく。

 対火星地表高度100kmを切ったところで、宇宙空間では表示されないピッチラダーが表れて見慣れた表示に変わっていた。

 

「パーティハット、まだか。もう保たん。」

 

 真っ暗闇の地面に向かって、高度計のみを頼りに垂直降下しつつ、収容作業中の輸送機を急かす。

 視野の中で、まるで花火が咲くように幾つもの火花と爆発炎が散る。

 自機の攻撃だけでは無い、同時に降下し始めた666th TFWの他の機体が周囲の敵を次々に墜としている。

 高度が下がると地表から舞い上がる砂塵の密度も高くなるのだろう。

 大気圏上層部で見るよりも遙かに明るいレーザーの白い光条が視野の中で無数に交錯し動き回る。

 

「フェニックス01、もう少しだ。あと七人。」

 

「分かった。とにかく急げ。」

 

 高度3000mで急停止し、一瞬の停止の後方位09に機首を向けて水平飛行に移る。

 頭上を見上げると、まだ幾つかの青色の味方機のマーカが後を追ってきているのが見えた。

 そのまま複雑な機動を行いながら、残り少ない蘭花をさらに二発、パーティハットが着陸している地点とは逆方向に向けて放つ。

 これで蘭花は残り二発。それと二発のグングニル。

 

 再びちらりと通信ウィンドウを確認する。

 666th TFWで白く表示されているのは、03、05、06、07、09の五機のみ。

 着弾の衝撃で右に叩き付けられるように身体が揺さぶられ、ベルトが肩に食い込む。

 昔のように大きく重いHMDヘルメットだったら、意識を持って行かれていたかも知れなかった。

 

「沙美はどうした?」

 

 被弾の衝撃を堪えて左に機体を横滑りさせながら、達也が訊いた。

 

「さっき、やられて地面に突っ込んだわ。」

 

 感情のこもっていない平滑な声でジェインから返答があった。

 

「タツヤ、9102TFS、9103TFS、ともに全滅しました。味方戦闘機隊666th TFWのみ、残機六。」

 

 さらに感情のこもらない冷たい声で、機体AIが他の部隊の全滅を告げた。

 最後まで残っていた、9103TFSの二機も墜とされた。

 網の目のように飛び交うレーザーを避け、地表との距離を測りながら絶えず激しく方向転換する機動を続けながら迷う。

 いかな666th TFWとは言えども、皆すでに相当傷付いた機体がたった六機で、あと十分は保たない。

 

「ナーシャ、L小隊に追従せよ。ジェインはB小隊。」

 

「コピー。」

 

 想定外に、ファラゾアの艦隊がこちらに近付いていた。

 地球側の第一機動艦隊は、突撃救難隊から敵の目を逸らすためにファラゾア艦隊から30万km程度の距離を取りつつ、敵艦隊に砲撃を加えながら火星の脇を通過する予定だった。

 前回の戦いでは艦隊の位置を動かさなかったファラゾア艦隊が、従来通り今回も同じ行動を取る可能性が高いと地球連邦軍参謀本部は見込んだが、それは見事に裏切られた。

 

 ファラゾア艦隊は、地球艦隊の通過に応じて艦隊の位置を変えて火星を回り込み、結果的に火星周回軌道上をこちらに近付いてきた。

 地球艦隊だけで無く、火星表面で戦い続けている突撃救難隊にも注意を向けているのかも知れなかった。

 

 ファラゾア艦隊を示す紫色のマーカは、すでに地平線の遙か上にまで移動しており、脱出時の大きな障害になることは明らかだった。

 それどころか、小型戦闘機械を味方とも思っていない行動を取るファラゾア艦隊から、ファラゾア戦闘機をも巻き込んだ、遠慮の無い無差別な艦砲射撃さえ受けるかも知れなかった。

 そうなれば、生存の可能性はさらに絶望的に低くなる。

 

 見捨てて離脱するか。

 達也は迷っている、と言うよりももう半ばそのつもりだった。

 達也にとってみれば、顔も知らぬ二十二名の兵士を救出する政治ショーなど失敗しようがどうなろうが、どうでも良かった。

 それよりも、今は自分の部下となっている、長く共に戦ってきた僚機を生かす方が遙かに重要だった。

 例え命令違反と言われ懲罰を食らおうとも、臆病者と後ろ指を指されようとも。

 生き延びること以上に重要なものは存在しない。

 生き延びてこそ、再び戦える。

 三分は保つだろう。

 それ以上は無理だ。

 

「パーティハット、もう無理だ。あと・・・」

 

「フェニックス01、待たせた。済まん。収容完了した。行けるぞ。」

 

 達也がその決断を口にしようとしたその瞬間、地上に降りた輸送機から待望の通信が飛び込んできた。

 

 地上では、半年もの間水と食料に困窮し、物資を温存するため殆ど身体を動かさず狭い洞窟にじっと身を寄せ合っていたため、体力が落ち、衰弱も激しい兵士達に肩を貸した陸軍の兵士達が、今やっと最後の数人を連れて輸送機の開いたハッチのスロープに取り付いたところだった。

 先に輸送機に戻っていた兵士達が手を貸して、長い苦難を経験した者達を機内に引きずり込むようにして収容する。

 彼等が斜路を登り切らないうちに、輸送機の後部ハッチが閉じ始めた。

 ハッチが閉じきらないうちに機体は浮上し、着陸脚を畳み込み始めた。

 

「パーティハット、カウント5で垂直に全力加速。フェニックス、同調しろ。カウント・・・」

 

「パーティハット01、コピー。」

 

「02。」

 

 達也の指示に、輸送機のパイロット達の返答が被る。

 

「・・・5、4、3、2、1、GO!」

 

 カウントダウンの間、機内キャビンスペースでは収容者をシートベルトで固定する、或いは担架ごと床に固定する作業が行われているが、もちろん5秒で終わる訳がない。

 しかし重力推進は基本的に機内に加速によるGがかかる訳ではないので、作業を継続することは出来る。

  そしてカウントゼロと共に全長80mの輸送機が、暗い異星の星空に向かって急上昇する。

 

「フェニックス全機、上昇。蘭花残弾全弾発射。」

 

 輸送機を護るため高度を1万m程度にまで落としていた六機の紫焔もまた垂直に加速する。

 

 空に向かって加速する二機の輸送機の前を、二つのデルタ編隊を組み闇に溶ける暗灰色の戦闘機がその尖った機首を空に突き立てんと加速する。

 十四本の白いミサイルがその機体を離れ、高度100kmまでを埋め尽くす敵に向かって加速する。

 

 加速中、達也の機体は再び殴られたように横に吹き飛ばされる。

 ヘルメットをキャノピに打ち付けられ、一瞬意識が飛びかけた回る世界の中で達也は眼を眇めて前方を睨み付ける。

 今の衝撃はでかかった。

 何処かが決定的に破壊されたに違いない。

 

「シヴァンシカ?」

 

「D砲大破、使用不能。R1燃料タンク破損。燃料漏洩中。燃料移送機構カット。航法演算システム損傷。一部サブシステムに切り替えます。リアクタ、ジェネレータ共に損傷無し。航行に問題なし。」

 

 まだ飛べる。

 しかし右舷の攻撃能力を失った。

 思わず右を見て損害を確認しようとした視野の端で、白く強く何かが光った。

 そのまま視線を後ろに向ける。

 デルタ編隊を組み、そこに居るはずのマリニー機の姿が無かった。

 

「ナーシャ、無事か?」

(Nasia, alright?)

 

「当然。」

(Sure.)

 

 先ほどL小隊に加えたばかりのもう一人の無事を確認する。

 対するナーシャは、激しい戦闘機動にもかかわらずいつも通りの落ち着いた声でごく短く答えた。

 

 視線を前方に戻すと、機首を垂直に上に向け、宇宙空間目指して加速する自機の進む先に、大量の敵機が集まってきているのが見える。

 そしてさらにその先に、ファラゾア艦隊を示す絶望的な紫色のマーカが表示されている。

 第一機動艦隊が交戦しつつも徐々に火星から遠ざかる軌道を取っている今、ファラゾア艦隊の注意は、幾千幾万の戦闘機を撃破し火星から飛び上がってくる、近場で非常に目立つこちらに向いてしまうだろう。

 

「シヴァンシカ、グングニル二発。発射五秒後に激発をセット。目標、前方に集結中の敵機群。」

 

 グングニルは、母機に物理的に接続されている間のみ、シーケンスの変更編集を受け付ける。

 対艦ミサイルではあっても、爆発シーケンスを組み込めば、的に当たらずとも敵機群のど真ん中で爆発させることは出来る。

 問題は、宇宙空間での反応弾の爆発は、その強烈な爆発衝撃波を伝える大気という媒体が無い分、大気圏内のそれに較べて周囲への影響が少ないこと。

 反応弾は他に大量の熱線と電磁波をまき散らしはするが、恒星が発する強烈な電磁波や熱で過酷な環境になり得る宇宙空間を航行する為に造られたファラゾアの戦闘機械には、限定的な影響しか与えることは出来ない。

 だがそれでも虚仮威し程度にはなる。

 

「グングニル、セット完了。」

 

「01、FOX1、FOX1。」

 

 AIの言葉が終わる前に、達也はトリガーを引いていた。

 二発の大型ミサイルが機体を離れ、大加速して一瞬で姿を消した。

 これで全てのミサイルは撃ち尽くした。

 

 グングニル二発はぴったり五秒後に爆発し、火星の大気圏上層部に、敵機群に向かって数百km/sの相対速度で突っ込んでいく巨大な核融合の火球を産み出した。

 流石にその火球の針路からは、飛び退くように敵の戦闘機が退避する。

 加速する機体は、推進力を持たない火球にすぐに追い付く。

 敵が退けた空間と、火球が撒き散らす熱線との、その隙間を狙って機体を滑り込ませる。

 

 しかしそうやって命を削るようにしながら切り開いていく航路の先には、敵艦隊が存在する。

 やっと終わりが見えて来た、火星表面から飛び立った敵の迎撃機の雲の向こうに、直径2万kmもの円筒状に布陣したもう一つの敵戦闘機の群れと、その中心に居て強烈な存在感を放っている敵艦隊。

 さらにその中心に球状陣を組んだ戦艦群と、球状陣の中心で絶望的な強固さを誇る5000m級戦艦。

 

「パーティハット02、ダウン! クソ、艦砲射撃だ! 一撃だった!」

 

 輸送機のパイロットが引きつったような叫びを上げる。

 やはり敵艦隊は撃ってきた。

 いかな全長80mを越える大型機とは言えども、敵戦艦の口径2m近い巨大レーザー砲を直撃されれば一発で破壊される。

 

 護衛対象の輸送機が片方失われた。

 そこに乗っていたはずの、数十名の兵士達の命と共に。

 達也は、このままずっと戦闘機群の中を突っ切って逃げ続けるのは無理と感じた。

 ごく近距離から無数に打ち込まれる小型戦闘機械のレーザー砲と、味方ごと消滅させることを一切躊躇わない大口径艦砲射撃。

 

 ドーナツ状に布陣する敵小型戦闘機械は、戦艦が陣取る領域には進入しない様に見える。

 艦砲射撃は恐ろしいが、案外意表を突いて上手く切り抜けられるか。

 死中に活を見いだすとも言う。

 

「B小隊、横に並べ。輸送機を護る。フェニックス全機、カウント5でグングニル全弾発射。目標敵3000m級戦艦群。」

 

 腹を括った。

 ウォルターを小隊長とするB小隊のデルタ編隊が加速し、達也達の横に並ぶ。

 その後方に輸送機ヴィルゾーヴニル。

 

「5、4、3、2、1、FOX1、FOX1!」

 

 一昔前のロケットモータ式の大気圏内用ミサイルとは異なり、蘭花もグングニルも目立つ噴射煙を引くようなことは無い。

 しかし白い大型のミサイルが八発、母機を離れて敵艦隊に向かって加速する。

 

 もとより命中など期待していない。

 敵はミサイルの威力を嫌と言うほど良く知っているはずだ。

 ミサイルを迎撃しようとして何割かの砲撃をそちらに割くだろう。

 或いはミサイルが敵艦の行動を少しでも制限してくれれば良い。

 

救難(オール)隊全機(レスキュー)、加速2000G。敵艦隊の脇をすり抜ける。突っ込むぞ。」

 

 大気圏は抜けた。

 衝突の危険さえある濃密な敵機群も、あと少しで突破する。

 今だまとわりつくように存在する大量の敵機からの無数のレーザー砲が掠め、擦過傷のように機体にダメージを蓄積させる被弾の白い煌めきの中、達也はスロットルを大きく押し込む。

 紫焔とヴィルゾーヴニルの非常識な加速性能はこの時の為にある。

 僅か数十kmしか離れていない異常な密集隊形で攻撃を前方に集中しつつ、五機の戦闘機とそれを追うように飛ぶ輸送機がほぼ全力で加速する。

 

 視野の中で、真っ白い煌めきが青いマーカに重なるのが偶然見えた。

 前に出たB小隊、ファルナーズが墜ちた。

 強烈に眩い光は、艦砲射撃の直撃だろう。

 

 あと少しで敵戦闘機の雲を抜ける。

 だがその向こうには、さらに強大な敵艦隊とそれを包む数十万の戦闘機群。

 僅かに届かない、か。

 敵艦隊の脇を抜けきれず、全滅する未来が見えたような気がした。

 

 ふと嫌な予感がして左を見た。

 視線が向いた瞬間、僅か数十mの距離に砲口をこちらに向けたファイアラーが滑る様に出現した。

 マズい。

 思わず目を見開く。

 思考よりも身体が先に動いた。

 左に横滑りさせながら機体を横ロールさせる。

 一瞬で距離を縮めた達也機が敵機に衝突した。

 回転する機体で敵機をカチ上げる様に吹き飛ばす。

 嫌な衝撃と破壊音。

 敵のものと自分のものと、飛び散る破片。

 次の瞬間、眩い白い光と共に敵機は破壊され吹き飛ばされた。

 

「戦闘機で物理的に殴りつけるバカ、初めて見た。」

 

「うるせえ。」

 

 どうやらナーシャが撃墜したらしかった。

 

 視野が真っ白に染まり、殴られたような衝撃で意識が飛びかける。

 どこかに直撃を食らった。

 ずれた針路を元に戻し、機体を前に向ける。

 不意に妙な開放感を感じて視線を上げた。

 HMDに映るインジケータの向こう側、闇に光る無数の星が見えた。

 キャノピが吹き飛ばされた様だった。

 まだ生きているのは奇跡だと思った。

 それがどうした。

 奇跡の二つや三つ起こらなければ、あの艦隊の脇を飛び抜けるなど無理だ。

 

 しかしキャノピが無い状態で残りの戦闘機群を突破し、戦艦の脇をすり抜けねばならない。

 レーザーが僅かにかするだけで直接身体を灼かれ即死するだろう。

 無理だ、と思った。

 しかし、敵を突破する以外に帰る方法は無い。

 9億kmの彼方の地球が、本当に遠く感じた。

 どうせ死ぬのならば。

 やれるところまでやって、敵を墜とすだけ墜とす。

 達也は薄笑いさえ浮かべつつ、集まり来る大量の敵を睨めつける。

 再びどこか脇の方で白い閃光が光り、撃ち上げられるように機体を煽られる。

 

「C砲被弾。旋回機能喪失。レーザー自体は使用可能。左舷高精度光学センサ破損。」

 

 AIの声が耳元で冷たく報告する。

 あらぬ方向を向いて止まった左舷下部レーザー砲は、もう使い物にならない。

 レーザーは残り一門。

 左右の高精度光学センサを失い、射撃精度も大きく落ちる。

 

 まるで獣が身を捩り敵の牙を避け唸り声を上げて戦場を駆けるかのように、達也の機体は敵を避けロールし、旋回して加速する。

 目の前で白いストロボライトが眩く光り、視野を一瞬奪われる。

 敵機のレーザーが機首を掠めた。

 コクピットの縁が融けて削り取られた。

 前方に現れた三十機ほどの敵に敢えて突っ込む。

 砲門の数が足りず、敵を墜とせない。

 敵はこちらが避けると思っただろう。

 だが、避ければその先に別の集団が待ち伏せしているだろう。

 ダークレイスは、それほどに狡猾だ。

 僅か一門しかないレーザーは殆ど命中を出すことが出来ないまま、敵の集団に突っ込む。

 また視野の端に眩い白色光。

 目の前に滑り込んできた敵が火を噴いて吹っ飛ぶ。

 自機の射撃か、後ろにいるナーシャの攻撃か。

 さらに白色光が鋭く光る。

 あと少しで、戦闘機群を突破する。

 しかし戦闘機群を突破したとして、敵艦隊を突破するまで機体が保つのか。

 

 送り狼のようにまとわりつく敵機を振り切り、敵戦闘機群を抜けた。

 それでもまだ大量の敵機から追撃のレーザーが集中し、機体を掠め、ストロボライトのように断続的に光を発する。

 機体はズタズタに切り刻まれているが、まだ生きている。

 達也は一瞬だけ置き去りにしてきた信じられない数の敵戦闘機群に眼をやった後、前方を睨み付ける。

 他に道は無い。

 火星脱出のためのそのイカレた突撃に慄けば良い。

 

 すでに生きて地球に帰還することを半ば諦めつつも、それでも敵艦隊の脇をすり抜けるという敵の意表を突いたコースで突き進めるところまで進み、敵艦を撃破できず自分も生き延びることが出来ずとも、勝ち誇る敵を心胆寒からしめるならそれでいい。

 鈍間なお前達とは違う。

 地球人を舐めるな、と。

 

 やっと火星からの迎撃戦闘機群を抜け、今から突っ込んでいく敵艦隊の位置を確認するべく、進行方向を睨み付けるように眼を向けた達也の視線の先に、しかし敵艦隊は存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


20240310: 全面改訂。達也の根性を語り過ぎて、スポ根ものになりかけていたのを修正。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かなり詳細な描写 [気になる点] 現場の人間を削り尽くすマスゴミの人間(倉庫に人生観を変えて貰えば良いのに)
[良い点] もう前作の艦艇名で登場したキャラも何が残っているのやら いつもながらここからの反撃の目が見えない
[一言] 激アツか 勝ったつもりでいたのに島津に出くわした家康はこんな心境だろうな
感想一覧
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