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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十一章 PARADISE LOST (失楽園)
337/405

47. 対策会議


 

■ 11.47.1

 

 

 18 August 2052, UNTAF Moi Airbase, Mombasa, Mombasa Counties, Kenya

 A.D.2052年08月18日、ケニア、モンバサ・カウンティ、モンバサ、地球連邦空軍モイ航空基地

 

 

 暑く乾燥したアフリカの空気の中から、エアコンがかなり強めに効いた室内に入り思わず息をつく。

 多分長時間滞在すれば、今度は寒さを感じるであろうほどにまで冷却された室温は、ここがその様な冷房の使い方をする南国であることを思い出させ、そしてその様な電力の使い方が出来るようになった今の情勢に安堵と僅かな充足感を感じて、意識すること無く僅かに口角が上がる。

 かなり広い会議室の前方には、プロジェクタ映像を投映するためであろう真っ白いスクリーンが立てられており、乱雑に並べられた椅子にはすでに先客が何名か腰掛けて談笑していた。

 

 知り合いでも無い者から話しかけられて無意味に気を遣わさせられる面倒を嫌い、達也は談笑している集団から離れたところの席に座った。

 腕時計を見ると、会議が始まるまでまだ十分近い余裕があった。

 666th TFWの飛行隊長であるレイラは当然として、達也達同様にビラヴァハウス内に突入してメインシャフトで調査団の護衛を行っていたレイモンドもこの会議に呼ばれている。

 今のところ彼女達の姿は見えないが、そのうちにはやって来るだろうと思った。

 

「ハイ、タツヤ。随分世話になったわね。礼を言うわ。」

 

 わずか十分ほどの時間ではあったものの、暇を持て余していると、突然後ろから聞き慣れない声で声を掛けられた。

 自分に声を掛けてくる者がレイラ達以外にも居たことに半ば驚き、振り返ると黒髪の東洋系の女が椅子に座った自分を見下ろすように笑顔で立っているのが視野に入った。

 一瞬誰か分からず、記憶の中で知った顔と名前がヒットするのに少し時間がかかった。

 

「ジャッキー。元気そうで何よりだ。居たのか。」

 

「やっぱり。気付いてなかったのね。薄情な。シュウェッツ03のパイロットがあたし。あんだけ散々会話したら、普通気付くってモンじゃないの? 信じらんない。まあ、アンタそういう奴だったよね。」

 

 ジャッキーは呆れ果てたという表情で一気にまくし立てると、手近な椅子を引き寄せて達也のすぐ隣に座った。

 

「悪いな。ハミ基地放棄のゴタゴタ直前で墜とされて以来か? 無事だったんだな。良かった。」

 

「あの後色々あったのよ。ほんっと、色々とね。お陰で今じゃアタシも死神(Death )部隊(Dealer)の一人よ。アンタ達最前線のファイター(戦闘機部隊)と違って地味な、空挺団の(バンジーズ)運び屋(キャリア)だけどね。」

 

「それで今まで顔を合わせることも無かった訳か。」

 

 同じ666th TFWの中であっても、達也達戦闘部隊はプロジェクト「ボレロ」の計画に則ってファラゾアの降下点を次々に攻略してきた。

 空挺部隊は、降下点攻略後にある程度の安全が確保されてから学者達調査隊を伴って現地入りするのだが、当然その頃には戦闘部隊は次の降下点目指して移動した後である。

 実はそれなりに長い間同じ部隊に所属していた二人が、一度も顔を合わせることが無かったのはそうした理由による。

 さらに言うなら、花形戦闘部隊のさらに頂点である戦術戦闘機隊の話はどこに居ても勝手に聞こえてくるものだが、裏方や暗部に近い働きをする特殊部隊である陸戦隊、或いは空挺航空隊の隊員個人の噂が他に伝わる訳も無く、ジャッキーは達也の情報を知り得てもその逆はまず有り得ない。

 

 その後レイラとレイモンドがやって来て達也のすぐ脇に陣取り、陸戦隊や調査団のリーダー達も加わったところで会議が始まる。

 ジャッキーと言葉を交わしつつ、ジャッキーの向こう側に座った兵士達は多分空挺隊だろう。

 その中に何人か体格の良い、迷彩服を着ている者が混ざっているが、彼らは多分陸戦隊の隊長達だろう。

 どうやら最初に会場にやって来た達也を中心にして、周りに666th TFWの人間がまとまって座っているようだった。

 

 会議はモンバサのモイ空港とストラスブールの連邦軍参謀本部を繋いで行われた。

 ファラゾア来襲以前にはこの距離を繋いで会議を行うことは珍しくも無い日常的な風景であったが、ファラゾアによって通信網をズタズタにされ、常にゴーストやヒドラと言った電子戦機からのクラッキングに怯えねばならない今の時代、遠距離を通信で繋いでいること自体が珍しく、また敵降下点の全てを殲滅し終わって地球を取り戻せたのだという事実を実感させるものだった。

 

「CAH(参謀本部)側は、デルヴァンクール参謀総長、ムーアヘッド参謀本部長、クルピチュカ参謀本部作戦部長、デーゼナー情報部長、ケッセルリング連邦情報センターファラゾア情報局長、コルテスマキ技術顧問がご臨席です。本会議の趣旨は、キヴ降下点に存在する超大型敵地上施設、通称『ビラヴァハウス』内部状況の確認と、敵地上兵器への対策を立てると共に今後の対応を検討することにあります。連邦軍高官の方々ご臨席ではありますが、我が第666戦術戦闘航空団(666th TFW)にとってCAHは直接の上部組織であり、本会議は言わば身内での確認会となります。双方のご臨席各位におかれましてはご遠慮なく忌憚の無いご意見交換戴きたく、お願いいたします。」

 

 遠くストラスブールからの声が聞こえる。映像は無く、音声だけでの参加であるようだった。

 声と喋り方から、司会を行っているのはフィラレンシア大尉の様だった。

 という事は紹介に名前は出てこなかったものの、Mr.Aと呼ばれる666th TFWの団長も回線の向こう側に居るものと思われた。

 

 科学者達がビラヴァハウスの内部について、自分達が実際に眼にしたものとその考察を述べて会議は進んでいく。

 メインシャフトの大きさは、ファラゾア艦隊の空母の小型戦闘機械を格納しているコンテナを縦に二つ並べてまだ余裕のある大きさであることが判明し、ビラヴァハウスはやはり貨物の積み出し施設であると考えられること。

 メインシャフトから横方向に無数に伸びる横坑の壁面に、これも無数の六角形の「セル」と呼ばれる構造が確認されており、内部は未確認であるものの、大きさから推測して地球人の脳が格納されたCLPUを保管する為のものであろう事。

 横坑内部には固定された搬送機構が無い事から、調査隊を襲った四足四腕の陸戦機は、実は戦闘用兵器では無く搬送用ロボットの可能性が高いこと、などなど。

 あのろくに辺りを調査する暇さえ取れなかった僅かな時間の突入からほんの数日で、よくぞこれだけの情報をかき集めまとめ上げたものだと、素直に感動した。

 やはり餅は餅屋ということなのだな、と思った。

 

 技術的な専門用語と数字の羅列に固められた報告を聞いていても、達也はその内容を余り理解することが出来なかった。

 細かなことは学者や技術者たちに任せれば良いのであって、ビラヴァハウスに地球人CLPUが大量に保管されているらしい、ということさえ理解できていれば良いだろうと思った。

 

「次に、メインシャフトから伸びる『ピット』についてだが。これは実際そこに入った者に聞きたい。」

 

 学者達はピットには入っていない。ピットに入ったのはA1小隊とシュウェッツ03、04の計五機だけだった。

 どうやら、ストラスブールにおわすお偉いさんから直々のご指名を受けてしまったようだった。

 次々と発せられる質問に答える形で、達也はピットに入ってからのことを報告する。

 達也の他に、シュウェッツ03パイロットであったジャッキーと、シュウェッツ03から展開した陸戦隊C中隊長のジョナサンと名乗った英国人もそこに加わる。

 

「やはりピットはただの地下連絡通路ではなさそうだ。その隔壁の向こう、それほど遠くないところに重要施設があるのは間違いないね。自前のトンネルを掘りたくなければ、ピットはどうにかして突破しなければならない様だね。」

 

 ストラスブール側でお偉方の声が上がる。

 そんな事は解っている。あのピットに溢れる陸戦機をどうやって突破するかが問題なのだ、と達也は鼻白んだ。

 陸戦機自体は200MW級のレーザーがあれば破壊できる。

 しかし次から次へと溢れてくる上に、数十機に一機程度の割合で混ざり込む、アサルトライフルと思しき兵器を持った個体が特に問題だった。

 GDDによる重力波探知で特定できるとは言え、あの破壊力は純粋な脅威だった。

 

「映像を解析した結果、スパイダー・・・ああ、例の君達が陸戦機と呼んでいる四足四腕の歩行機械の名称だが。スパイダーが持っている長さ1.8m、幅30cmほどのあの白い箱はやはり一種の銃器だろうと結論出来る。白熱した弾丸は、約10km/sほどの速度で、重力レールガンの原理で撃ち出される直径15mmほどの物理弾体だ。現地、そちらでの分析の結果、弾丸の主成分はタングステンとクロムの合金(Cr-W)で、表面温度3000℃程度までは耐えられるようだ。白熱しているのは、空気の断熱圧縮による発熱・・・航空機と同じだな。ファラゾアの兵器で物理弾体を撃ち出すマスドライバはこれが初めてだ。何よりこれだけの加速力の重力レールガンをあの大きさにまとめているのが凄い。次回は出来れば実物のサンプルを確保してもらえるとありがたいんだが。済まんね、無茶を言っているのは分かっている。」

 

 次回は、と言ったか。

 当たり前の事だろうが、再びあの狭く混沌とした暗闇の戦場に突入することを考えるとうんざりとした。

 面倒なのでピットに反応弾を放り込んでビラヴァハウスごと吹き飛ばす、という結論になってくれれば楽だったのだがな、と我ながら無茶だと思える考えに思わず自分で苦笑いする。

 

「行くのは構わないが、陸戦機・・・スパイダーだったか? あいつ等をなんとかする方法が無ければ無理だろう。歩兵と一緒に戦闘機がどこまでも入り込める訳じゃ無い。」

 

「それは分かっている。流石に歩兵が携行する武器で、とは行かないが、戦闘機以外で奴等を破壊できる手段を検討中だ。」

 

「余談だがね。皆あれを『陸戦機』と呼んでいるが、そちらの調査隊が言う様にアレは兵器では無いよ。アレは生体脳ユニットを運ぶための搬送用ユニットであり、ビラヴァハウス用のメンテナンスユニットで間違いないよ。兵器にしては構造が脆弱すぎる。無駄が多すぎるよ。」

 

「兵器じゃ無い? 馬鹿な。20mm焼夷徹甲弾を傷も付かずに弾き返して、航空機の外装を力任せに捻じ切れるアレが?」

 

 ジョナサンと紹介された、陸戦隊C中隊長が思わずといった風に声を上げた。

 数百数千という数の敵陸戦機と直接対峙し、何名もの兵士を悲惨な死に方で失った陸戦隊の長としては、思わず声を荒げたくなる気持ちも分かる。

 

「建設現場のブルドーザーだって、原始人の戦士が投げ槍や弓を当てたくらいじゃろくに傷さえ付かないし、簡単に人を轢き殺せるさ。そういうことだよ。」

 

「馬鹿な。どれだけの被害が出たと思ってる。敵のあのライフルはマジでヤバい。それでも兵器じゃないだと?」

 

「無論、ライフル自体は兵器だよ。花屋の店員でも、ライフルの引き金を引けば人は殺せる。そういう意味では、スパイダーは汎用性の高い兵器なのかも知れないけれどね。兵器に腕だの指だの付けるのはナンセンスの極みだよ。その部分の強度が脆弱すぎる。関節が僅かでも歪めば動作不良だ。さらに整備性が最悪だ。腕一本の指先まで一体何カ所の関節があると思ってるんだね? ロボットの手に銃を持たせるなんて、非常に脆弱で動作不良を起こす可能性が極めて高い部分の先端にわざわざ重要な武装を取り付けているんだ。ナンセンス過ぎるよ。人型ロボット兵器が活躍出来るのは日本のアニメとハリウッドの映画の中だけだよ。現実には無理だね。」

 

 ジョナサンが俯き黙る。

 目の前で部下の上半身が一瞬でただの血飛沫と肉片に変わるという、悲惨な部下の失い方をした隊長としてはどうにも割り切れない思いがあるのだろうが、しかし回線の向こう側で誰かがシニカルな口調で述べているのは事実として納得できた。

 

「兵器かどうかなんてどうでも良い。要はアレを撃破できるか、馬鹿みたいな数出てくるのを掃除できるか、という点だ。今のままでは厳しすぎる。陸戦隊兵士大虐殺をしたいんじゃないなら、次回突入は対応策が出来てからにしてくれ。」

 

 お偉方がどうでもいい話を延々続けそうだったので、焦れてきた達也は話に分け入り話題を強制的に断ち切る事にした。

 達也にしてもジョナサンにしても、最前線で戦う彼らにとってスパイダーの分類など興味の無いどうでも良いことだった。

 倒せるかどうか。より効率的に、こちらの被害無く倒す方法があるのかどうか。

 彼らにとってそちらの方がはるかに重要な事だった。

 

「分かっている。だが、短期間で兵士の携行兵器をスパイダーが破壊できるまでに性能向上するのは無理だ。兵士と共に突入する新型の戦車の投入を考えている。それまでは突入は控える。」

 

「分かった。」

 

 確か、上の方は何らかの理由でビラヴァハウスへの突入を急いでいる様だと話に聞いた覚えがあった。

 流石に、兵士を大量に失いそうであれば思いとどまるだけの良識くらいは有るのだと、僅かながらも安心した達也は口を噤むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 なんと、ほぼ全ての主要登場人物が一堂に会しました。

 これ一回こっきりです。(多分)


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― 新着の感想 ―
[一言] 20mm砲弾がファラゾアのクイッカーに効いて、ただのピラヴァハウスのメンテナンスユニットに通用しないというのは、陸戦隊の中隊長にとってはかなり理不尽に感じただろうなと思う
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