44. 第666戦術戦闘航空団第一陸戦大隊
■ 11.44.1
「ベヌウ03、こちらシュウェッツ。シャフトの底に到達し、フェニックスA1と合流した。これより調査に入る。」
「シュウェッツ、こちらベヌウ03。調査開始、諒解。十分に気をつけてくれ。フェニックスB、ビラヴァハウス内部に入り、開口部周辺を確保。」
「フェニックスB、コピー。」
A2小隊の三機を伴って、八機のクエイル中型輸送機が投光器で辺りを照らしながら、深さ1500mある縦坑の底に降りてきた。
重力推進で機体を浮かし、四発あるモータージェットをスラスタのように使って、中型輸送機という大柄な機体の割には細かな移動が出来るクエイルは、こういう用途にうってつけの機体だった。
クエイル八機には、666th TFWの陸戦隊四個中隊と、技術者や科学者三十人からなる調査隊と彼等が持参した機材などが積まれており、ビラヴァハウス内部の調査が目的だと、今日の出撃前ミーティングで聞かされていた。
内部調査を行うならば、まずは大量の歩兵部隊を送り込んでビラヴァハウス内部に橋頭堡を確保し、ある程度の安全が確保されてから戦闘能力の無い技術者たちを送り込むべきではないのかと達也は思ったが、どうやら調査隊の方にも急がなければならない理由があるようだった。
陸軍の歩兵部隊でなく、ST部隊の陸戦隊を投入している事についても理由あっての事だと、レイラがほのめかすような口調で言っていたのを記憶している。
そもそもファラゾア戦闘機械が制御にCLPU(生体脳)を使用しているという事実や、また彼等が地球にやってきた目的が生きた地球人の脳を刈り取ってCLPUを製造する為であろうという推測など、集団恐慌状態の発生や士気の低下を恐れて、公式には一般に公開されていない情報も多い。
地球人生体脳の積み出し港である事が予想されていたビラヴァハウスには、当然大量の生体脳が保管されている事が予想されている。
地球上最大のファラゾア地上施設の内部を探索するのだ。他にも一般兵士には見せたくないものや知られたくないものが次々と出てくる事を予想しての措置なのだろうと、達也は納得した。
達也達666th TFWは、彼らの護衛だった。
調査中にもし敵の戦闘機械に襲われた場合、達也達戦闘機部隊は敵と交戦して調査隊が逃げる時間を稼ぐ役目だ。
真っ暗な中、辺りを照らす投光器の明かりを忙しなく動かしながら、縦坑の底に這いつくばるような低い高度で輸送機がゆっくりと動き回る様は、まるで捕食対象を探す昆虫が辺りを警戒しながらゆっくりと蠢く姿のようだと達也は思った。
「ベヌウ03、こちらシュウェッツ01。縦坑底部中央から西に500mくらいの所にでかいピット(縦坑)がある。赤外(IR)とソナーに映っているが、見えるか?」
「こちらベヌウ03。画像を確認した。ソナーは画像が酷いな。赤外の方が良く見える・・・ちょっと待て。本部から指示がある。」
互いに秘密にする必要も無いので護衛の戦闘機部隊と突入部隊の間で通信は全てオープンになっており、達也は自分が気付かなかったさらに深く潜る縦坑の存在をクエイルからの通信で知った。
「シュウェッツ、こちらベヌウ03。現在貴機の居る縦坑を『メインシャフト』、新たに発見された縦坑を『ピット』と呼称する。シュウェッツ01と02はメインシャフト底部にて陸戦隊を展開。調査開始に備えて安全を確保せよ。シュウェッツ03、04はピット脇で待機。
「フェニックスA1、聞いていたか? ピットは100m四方ほどの大きさがありそうだ。ピット内部を調査せよ。安全が確認されたら、そちらにも調査隊を差し向ける。」
「ベヌウ03、こちらフェニックス02。諒解した、と言いたいところだが、大丈夫か? 今こちらでも映像で確認しているが、いかにもヤバそうな穴だが。」
クエイルとAWACSの交信を聞いてピットの存在を知った達也は、すぐにピットの真上に移動して実物を確認していた。
暗闇の中で投光器の明かりに照らされたメインシャフト底部に、黒くぽっかりと四角い穴が開いている。
投光器の光を受けてなお底が見えないその暗い穴は、その先が一体どこに続いているのか想像も付かない。
敵の地上構造物の腹の中で、さらにその奥に続いていく暗がりに閉ざされた縦穴など、恐怖の対象でしかない。
「フェニックス02、敵地上構造物間を繋ぐ地下トンネル通路の報告もある。その手のトンネルならキッカミサイルの攻撃で多分途中で塞がっているはずだ。突き当たりが見えたら戻って来て良い。いずれにしても、確認する必要がある。」
ハミ降下点を脱出してきた兵士を救助したとき、彼等を青島まで移送する途中の会話の中でその様な連絡通路の話は聞いていた。
彼等の話では、高さ、幅ともに20m程度の通路だった様に達也は記憶しているが、地球上最大の地上構造物であるビラヴァハウスに繋がる連絡通路は、破格に大きなものであっても不思議は無かった。
「諒解。まさか戦闘機でダンジョンアタックする事になるとは思わなかった。おかしなモンスターが出てこない様、祈っていてくれ。
「マリニー、優香里。ピットの幅は広くない。機体を立てて、機首を下にして突入する。先行しろ。」
「うへ。諒解。」
気の抜ける様な返答を返した優香里が、黙って機首を下に向けたマリニー機と腹を向かい合わせる形でピットの中に侵入していく。
彼女達の機体のセンサー情報は全て中継され、AWACSを経由して最終的に参謀本部にまで届けられる。
連邦軍参謀本部直属の部隊である666th TFWの面々にしてみれば、一挙手一投足を上司に監視されながら作戦を実行している様なものだったが、事の重要性を考えるならば仕方の無いことと言えるだろう。
また、参謀本部にモニタされている事を知りつつも、態度を変える様な彼らでも無かった。
「案外深くないわね。底が見えてる。大体500mってトコかしらね・・・ちょっと待って。何てこと。底だと思ったら、直角に曲がって水平に進んでるわ。」
「詳細を伝えろ。」
「ピットは垂直に約500m進んだところで、西方向へ水平になる様に直角に曲がっている。その曲がっている部分までピットの幅に変化無し。他に水平坑無し。現在の所敵影無し。迎撃行動も無し。平和すぎて不気味ね。もうすぐピットのエルボ部分に到達する。」
「フェニックス10、11、こちらベヌウ03。エルボ部分で一旦立ち止まれ。水平坑の映像を送れ。」
「コピー。エルボに到達。機位を水平にする。水平坑はかなり先まで続いている様ね・・・あれは隔壁か何かかしらね。遠くて良く見えない。ズームする。金属質の扉か隔壁の様なものが、数千m先にある様に見える。」
優香里が外部光学センサ画像を拡大した先には、金属質の壁が立ちはだかりピットを塞いでいた。
ファラゾアが無意味に行き止まりの横穴を掘るとは思えない為、それは壁では無く、隔壁か扉の様なものであり、さらにその向こうにピットは続いているものと推察される。
「フェニックス10、11。水平坑を隔壁部分まで進み確認。シュウェッツ03、04。ピット上空で待機。フェニックス02も現位置を維持。」
AWACSからの指示が飛ぶと同時に、クエイル二機が達也の機体のすぐ脇にまで進んできた。
重力推進で機体を浮かせている輸送機二機は、風の無いこのメインシャフト内では僅かに動くことさえなく完全に静止しており、まるでAR画像か何かが底に浮かんでいるかのように非現実的な光景に見える。
「こちらフェニックス10。水平坑を半分まで進んだ。現在のところ障害無し。壁面も床も天井も、金属質な表面で継ぎ目のひとつも見当たらない。距離感覚がおかしくなりそう。逃げ場のない狭くて長い一本道というのは嫌ね。」
マリニーが僅かにうわずったような、緊張した声で報告する。
彼女が言ったとおり、ろくに身動きも取れないような狭く長い通路で、もし襲撃を受けたら、もし前方にある隔壁のような壁が自分の後ろで閉まって閉じ込められたら、などと考えてしまえば一瞬で恐慌に陥ってしまう様な状況に置かれている。
それを押さえつけてパニックにならずに進み続ける彼女達の精神力はたいしたものだと、達也は感心する。
やがて二機は行き止まりの壁から500mほどの距離にまで到達した。
この距離であれば、スタブ翼に取り付けられた投光器の明かりで、行き止まりの壁が肉眼でもはっきりと見える。
約100m四方の行き止まりの壁は、その壁自体にも、床や両脇の壁面との境目にも特に目立った構造物などが見当たらない、のっぺりとした一枚の金属板に見える。
「正面の壁も同じね。継ぎ目もなにも見えない。やる?」
「フェニックス10、11。レーザーの出力を絞って調査隊が通り抜けられる程度の穴を開けろ。」
「諒解。出力を絞って、レーザーで穴を開ける。」
フルパワーのレーザーを照射すれば、照射部分が一瞬で蒸散して爆発してしまう。
出力を絞ったレーザーで融かして切り取れ、とAWACSの指示だった。
二人はすぐさまその作業に取りかかる。
レーザーが当たった部分の壁が眩く光り、暗闇を明るく照らし出す。
一辺30mほどに四角く切り取った部分の中央に、一瞬だけフルパワーのレーザーを照射すれば、爆発の反動で切り取った部分が隔壁の向こう側に倒れて消えた。
その後には再び、投光器の明かりの中、真っ暗で向こう側が見えない開口部が残った。
「ダメね。向こう側が見えない。同じ様な床が続いているみたいだけど、それ以外は何も見えない。」
「フェニックス10、11、もう少し後退して距離を取れ。シュウェッツ03、04、ピットに侵入し、フェニックス二機の後ろまで前進。陸戦隊を展開。フェニックス02、シュウェッツの後ろを固めろ。」
「フェニックス10、コピー。」
「シュウェッツ03、コピー。」
達也の両脇に静止していたクエイルが降下し、達也の機体の投光器の明かりの中、黒い影を背景に一機ずつピットの中に侵入していく。
シュウェッツ03がエルボ部分に達し、水平飛行に切り替えて曲がり角の向こうに消えたところで、達也も機首を下に機体を垂直に立てたままピットの中に入り込んだ。
マリニーと優香里の機体は、穴を開けた隔壁から500mほどの位置に後退して、高度10mを維持して通路の両脇に寄って静止している。
機体に備え付けられたあらゆるセンサーを使い二機は開口部を監視しつつ、いつでも撃てるようにレーザーの狙いを開口部の暗闇にピタリと合わせている。
そのすぐ後ろに二機のクエイルが着陸し機体後部のハッチを開けると、中から黒い戦闘服に身を包み、アサルトライフルや赤外線スコープなどの装備を付けた陸戦隊の兵士達がバラバラと飛び出してきた。
「クリス01、通路中央を戦闘機の位置まで前進。02は左の壁、03は右の壁際で同じ位置まで進め。走れ、走れ、走れ、走れ! 周囲に注意しろ。何かあったら声を上げろ。」
「ディアナ01、クリス01の後ろに付け。ディアナ02は左の戦闘機のすぐ後ろ。ディアナ03は右だ。もたもたするな! 急げ、急げ、急げ! 遅れるな!」
シュウェッツ03から降りて来た陸戦隊C中隊、04から降りて来たD中隊ともにそれぞれ20人程度の三つの小隊に別れ、100m近く幅のある通路の中央と左右に分かれた。
「陸戦隊、前進。隔壁開口部から向こう側を確認せよ。フェニックス10、11は陸戦隊とともに前進。隔壁100m手前で停止。警戒を維持。」
最早空中警戒管制だけで無く、陸戦隊への作戦指揮も行い始めたベヌウ03からの指示が飛ぶ。
陸戦隊が前進するのに合わせて、同じ様な低速で前進していくマリニー機と優香里機の姿を眺めながら、戦闘機は戦車じゃ無いぞ、と達也は半ば呆れる。
しかし実際の所、陸戦隊兵士達が携行している口径10mm前後と思われるアサルトライフルに較べ、ファラゾア戦闘機を一撃で屠る事の出来る強力な200mmレーザーを備え、それ以外にもロケット砲や20mmガトリングガンまで搭載している現在の自分達の機体は、なるほど歩兵にしてみれば戦車と同じ様に頼りになる存在なのだろう、と理解する。
やがて陸戦隊は隔壁前に到達する。
ピット通路中央を進んでいた第1小隊が開口部の左右へ、通路の端を進んでいた第2、第3小隊がその後ろに控えて、隔壁に張り付いた。
マリニーと優香里の機体は、AWACSからの指示通り、隔壁の100mほど手前で左右に静止している。
「ん・・・? 何か動いている様に見える。ゴチャゴチャしていて、形が良く分からんな・・・」
開口部の左右に分かれた兵士が、赤外線スコープを掛けた頭を開口部に突き出して隔壁の向こうを覗き込む。
良く見えないらしく、数人が隔壁を離れ、銃を構え姿勢を低くして開口部に身をさらす様に数歩進み出た。
「何だろう。人の形? ロボット? いずれにしても、かなりの数い・・・」
開口部に身を曝していた兵士三人の上半身が突然消え失せ、赤色の飛沫となって辺り一面に飛び散った。
いつも拙作お読み戴きありがとうございます。
後書きでの予告通り、ダンジョンアタック開始です。
最深部には美少女形態の邪神が封印されており、封印を解除する事で邪神復活&地上に降臨です。
邪神が降臨した後は、邪神vs人類vsファラゾアの三つ巴でのギガントマキア(あるいはラグナロクかハルマゲドン?)です。
ファラゾアからの科学技術に邪神から奪った魔導技術を合わせて、地球人無双の始まりです。
宇宙空間でファイアーボールとか、ウィンドカッターとか科学完全無視上等問答無用天下御免の理不尽な攻撃です。
不壊属性付与の宇宙戦艦とか、物理無効の戦闘機とか、防御無視のレーザー砲とか。クリティカル率100%のレーザー砲なんかも良いかも知れません。
メテオストライクは中性子星で、マジックシールドは重積シールド、縮地スキルはホールジャンプです。
全部魔法使いが生身で行使します。凄いです。
地球人類最強伝説ここに始まる。
もちろん、全部嘘です。