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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十一章 PARADISE LOST (失楽園)
332/405

42. 制空権確保


 

 

■ 11.42.1

 

 

 遙か彼方、月軌道に陣取ったファラゾア戦艦からの艦砲射撃は、連邦宇宙軍の戦闘機部隊の攻撃によって戦艦が撃破されたことで収まった。

 地球近傍まで突入してきて、大量の戦闘機を放出しようとした空母二隻も撃破され、その護衛の駆逐艦隊も排除されたが、撃破される寸前に空母が放出した数千機の戦闘機を止めることは出来ず、そのままキヴ降下点に向けての降下を許してしまった。

 

 数千の敵戦闘機を取り逃がしてしまったことで、宇宙空間での敵艦隊迎撃作戦は完全に成功したとは言えない状態であったが、地球大気圏内で戦う連邦空軍の戦闘機パイロット達にしてみれば、アフリカ大陸に潜んでいた十万にも迫る敵戦闘機と戦い続けており、今更数千機増えようがほぼ誤差の範囲内、という意味において彼等は飛び込んで来たそのニュースに対して深刻になりすぎるようなことは無かった。

 勿論、僅かとは言え敵の数がさらに増加したのは悪い知らせでしかなく、その情報をもたらされたパイロット達はめいめいに大きく舌打ちしたり、厭みと皮肉が混合されたような文句をひとくされ言ったりもするのだが、やらなければならないことに変わりは無く、目の前を飛び回る万を超える敵機をコツコツと一機ずつ確実に叩き落としていく。

 

 十年かそこら前、一万機程度の数の敵戦闘機の軌道降下に怯え逃げ惑い基地を放棄するしかなかった頃に較べると、数万という敵機の群れに向かって正面から殴りかかり、あまつさえ戦線を押し返すことが可能となった現在の状況に、最前線に立つもの後方で支援する者皆が大きな変化を感じて感慨を深める。

 それは、戦闘機に搭載されるほど小型化された熱核融合炉であり、それによって使用可能となった高出力機載レーザー砲であり、重量推進でもあり、敵を墜とし解体して奪い取ったその様な全ての技術による、地球人類の駆る戦闘機の飛躍的な性能向上によるものであった。

 技術が進歩し以前よりも有利に戦うことが出来るようになれば、短時間で敵を多く墜とせるようになっただけで無く、最前線で戦うパイロット達の生存率もその分だけ改善される。

 文字通り百戦錬磨のヴェテランパイロットが多く生き残るようになり、一方では新兵が生き残りヴェテランへと成長する事が出来るようになった。

 

 十年前、或いは十五年前に較べて戦闘機の性能が劇的に向上し、同時にパイロットの全体的な質も向上し、数も増えた。

 敵に追い立てられ攻撃に怯え逃げ回りながら、残弾数と燃料の残量を常に神経質に気にして、僅か一瞬のチャンスを狙って運良く射線上射程内に入った敵をガン攻撃し、運が良ければ命中弾が出て、さらに運が良ければ撃墜することが出来るという、半ば運任せでろくに撃墜が上げられなかったあの頃に較べ、敵を確実に探知する眼と、敵に迫る機動力を手に入れ、半自動で照準を合わせる強力なレーザー砲は、適当に狙いを付けてトリガーを引きさえすればいくらでも撃墜数を稼ぐことが出来る。

 

 何もかもが隔世の感があった。

 そして地球人類はそれだけのものを手に入れて、今やこの地球上からファラゾアの地上施設を駆逐しようとしていた。

 裏を返せば、それだけのものが手に入らねば、今のこの積極的な攻勢と、地球人類側が有利となったキルレシオは手に入れることが出来なかったのだ。

 

 そして手に入れたその力を存分に生かし、アフリカ大陸北部からキヴ降下点を目指して進む地球人の戦闘機達は、数で遙かに勝るファラゾアの戦闘機を次々に血祭りに上げながら、僅かずつではあるが目的地に近づいていく。

 

 達也を中心としたST部隊、666th TFWが力業で強引に戦線を突破して多数の敵の群れのど真ん中に突っ込み、周囲を全て敵に囲まれながらもファラゾア機を墜としていく。

 少数で突出し暴れ回る彼らは非常に目立ち、大量のファラゾア機の群れの中に混ざり込んだ異物のような彼らを排除しようと、周辺から吸い寄せられるようにして多数のファラゾア機が集まってくる。

 それによって出来たファラゾア機密度の薄くなった領域を重点的に突いて、他の戦闘機隊が集中的に攻め立て、戦線を持ち上げる。

 或いは、ST部隊が好き放題に暴れ回ることで大量の敵を撃墜することで出来る、夥しい数の敵の群れの中に開いた僅かな亀裂のような、周囲に較べてファラゾア機密度が薄い空間に殺到しこじ開けるようにして前進する。

 

 ST部隊が50km突出して敵の前線集団に楔を打ち込み、他の戦闘機隊がその亀裂を押し広げるようにして局所的に戦線を50km押し上げる。

 敵の勢力圏の中に鋭く山形に突き出すように押し上げた戦線を、東西に向かって広げていく様に周囲の戦線を持ち上げる。

 周りの味方の戦闘機隊が追い付いてきたところで、再びST部隊が50km突出する。

 それによってかき乱された敵陣の隙を突くようにして多数の戦闘機が殺到し、再び僅かに戦線を持ち上げる。

 一歩ずつ前進するようにして戦線を持ち上げ、地球側の軍勢は少しずつ南に向かってファラゾアの支配地域を削り取るようにして南下していった。

 

 キヴ降下点から600km辺りで多数のファラゾア機の増援があり進行速度が鈍ったものの、最終的にはそれを突破して前進した。

 南下部隊の600kmライン突破と前後して、約1億kmと比較的近い距離に位置している火星から、戦艦二、駆逐艦十隻からなるファラゾア艦隊が地球に向かって移動を開始したことがGDDDSによって探知された。

 このファラゾア艦隊の地球到着は約80分後と予想された。

 

 500kmラインに差し掛かるあたりで、多数のダークレイスを含んだ部隊が戦線に雪崩れ込み、多くの損害を出してしまったものの、ST部隊が合流し少しずつではあっても戦線を前進させた結果、時間的な余裕が出来た後方で編成された増援がさらに地球人側陣営に投入され、勢力を盛り返して再び前進を続けた。

 さしものST部隊にも戦死者が発生し、B1小隊三番機であったディーガン・レイン少尉この戦いの最中に失われた。

 ファラゾア距離単位(PLU)である400kmラインを越える前後で、南方からやって来た大規模なファラゾア増援部隊との衝突が発生した。

 熾烈な戦いの末、地球人側は戦線を前進させることに成功したが、666th TFW C2小隊三番機ヴィレミナ・クエンビー少尉が四機のダークレイスに囲まれた激しい攻防の末、その命をアフリカの空に散らした。

 同時に一般の戦闘機隊にも多くの損害が発生したが、さらに時間が経ち後方から多くの戦闘機がエジプトを中心とした地域に集結している現在、その穴を埋める戦力を投入することが可能となっていた。

 

 また、南下部隊が400kmラインを突破してさらにキヴ降下点に接近する戦いを継続しているところに、火星を発してキヴ降下点攻防戦への増援として駆けつけたものと思われる、戦艦二、駆逐艦十隻からなるファラゾア艦隊が月軌道の外側に到達し、キヴ降下点に向かって進軍する地球側の戦闘機部隊に向けて艦砲射撃を開始した。

 しかしながらこのファラゾア艦隊の接近は、当該艦隊が火星を発した後の全行程を地球側のGDDDSによって探知され続けており、地球への接近経路もその大凡の時間も全て地球連邦軍によって把握されていた。

 

 十二隻の戦艦と駆逐艦は地球から約45万kmの宙域に展開して艦砲射撃を開始したが、このときちょうど火星と同方向に存在した月の周回軌道で待機していた連邦宇宙軍ヒッカム基地所属の9201TFS、9202TFS、9203TFSの計四五機のミョルニルと、月L3ポイントにて待機していた宇宙軍嘉手納基地所属9402TFS、9403TFSの三十機の、計七十五機の宇宙戦闘機による迎撃を受けた。

 先の戦艦と空母艦隊の襲撃時に、第一波攻撃で戦艦を撃ち漏らしてしまった経験から、この度の迎撃戦は戦闘機の航路を敵艦隊を全方位から包囲するようなものに調整し、さらにミョルニルが搭載する四発のグングニルMk-2ミサイルを惜しげもなく全弾放出することで飽和攻撃を行った。

 ミサイルリリース前に撃墜された八機を除いた六十七機のミョルニルから放出された、二百五十発を超えるグングニルMk-2ミサイルによる飽和攻撃によって戦艦二隻と駆逐艦六隻が撃破され、残る四隻の駆逐艦は砲撃を切り上げて火星方向に遁走した。

 

 大気圏内をキヴ降下点に向かって侵攻する、達也達ST部隊を含む南下部隊は、敵戦闘機の熾烈な迎撃を受けながらも所謂ファラゾア防衛圏である390kmラインを突破した。

 南下部隊が300kmラインに到達する頃には、さしもの降下点駐留戦闘機部隊も「タマ切れ」となったか、部隊前方に展開するファラゾア戦闘機の数と密度が明らかに低下した。

 南下部隊は勢いに乗って300kmライン、200kmラインを突破し、その勢いのままZone00(降下点中心から半径100km以内の領域)へと到達した。

 

 同時刻、アフリカ大陸東岸から侵攻していた潜水機動艦隊の艦載機部隊も、多くの敵戦闘機が快進撃を続ける南下部隊の迎撃に回ったことで、戦線を支える敵戦闘機数が大きく低下し、もとよりヴェテランパイロットで多く構成されている艦載戦闘機部隊は、薄くなった敵防衛戦力を撃破して、南下部隊に遅れること数分の差でZone00に雪崩れ込んだ。

 アフリカ大陸南岸、南アフリカ周辺の地上基地を起点として北上侵攻する予定であった北上部隊は、予想外の多さの敵の迎撃を受けて大きな損害を出し、ST部隊が南下部隊へと増援に回ったタイミングと前後して戦線を維持できなくなり、早い段階で潰走し撤退を余儀なくされていた。

 

 Zone00領域は、作戦開始とともに行われた菊花ミサイルによる対地攻撃で蹂躙されており、キヴ降下点に存在した数十ものファラゾア地上施設の殆どは機能を維持できないほどに破壊されていた。

 ただ、地球上最大のファラゾア地上施設である通称「ビラヴァハウス」は、そこから取り出すことの出来るであろう様々な情報を期待して、菊花による殲滅攻撃に対象から外されていた。

 その為、ビラヴァハウスは大きな損傷も無く未だキヴ湖畔に於いてその異様な存在感を示し続けており、周囲の幾つかの小型地上施設も同様に殲滅攻撃を受けることなくほぼ原形を止めていた。

 

 ここまで常に最前線の最先端で戦い続けてきたST部隊が、流石に疲労を口にしてビラヴァハウス周辺空域への突入一番乗りを他の部隊に譲り、一般兵のパイロット達が操縦する戦闘機が喜び勇んでZone00の中心部、即ちビラヴァハウス上空へと殺到した。

 これが最後の抵抗とばかりにビラヴァハウスと、その周辺施設から対空レーザー、対空ミサイルが射出されるが、流石に警戒しながら敵の本拠地に近付く彼等は、その様なものを易々と食らうほどにバカでは無い。

 

 レーザー砲により主翼を撃ち抜かれる、或いは尾翼を一枚落とされるなどある程度の被害を受けつつも、レーザー砲、ミサイル射出孔などの地上に設置された対空兵装は瞬時に特定され、今やビラヴァハウス上空で圧倒的な数によって制空圏を把握している地球側の戦闘機によって直ちに破壊された。

 

「オッキオ、こちらボーガンリーダ。ポイントゼロに到達した。周囲で戦闘は続行中だが、ポイントゼロの制空権を確保した。繰り返す、ポイントゼロの制空権を確保した。」

 

 ビラヴァハウス上空を旋回する、ギリシャ・カラマタ航空基地所属の1765TFSが、南下部隊のポイントゼロ到着と、周囲の制空圏を掌握したことを宣言する。

 次の瞬間、戦いに次ぐ戦いで疲れ果てているはずの兵士達が一斉に歓声を上げ、その声が全てのパイロットのレシーバに響く。

 それまでは戦闘中の交信ばかりが交わされていた通信であったが、雑談に近い喜びの声でにわかに騒がしくなる。

 

「ボーガン、こちらオッキオ01。上空のOSV情報を確認中・・・確認した。まだ南方に有力な敵戦闘機部隊の存在が認められるが、Zone00の制圧を確認した。やったな、お疲れさん。これよりポイント・キヴの占領シーケンスに入る。Zone00の空間管制をクラーケンに引き渡す。交代が行くまでもう少しそこで頑張っていてくれ。」

 

「ボーガン、諒解。早めに交代を寄越してくれ。疲れたよ。自分が生き残ったのがまだ実感できない。シャワーを浴びて、ビールも浴びるほど呑んで、さっさと眠りたい気分だ。」

 

「良い子だからもうちょっと待て。ビールの用意は基地に言っといてやる。帰ったら今日は宴会だな。まだ南に敵が残ってる。いつ来るか分からん。あんまり気を抜くなよ。」

 

 その後、Zone00を攻め落とした航空隊は、北方から続々と送り込まれてくる増援と交代して基地へと帰還していく。

 エクサンプロヴァンスを始め、周辺の宇宙軍基地から出撃した戦闘機隊を中心に、キヴ降下点上空の宇宙空間に防衛陣を組み、ファラゾア艦の襲撃に備えるも、恐れていた大規模な艦隊によるキヴ降下点奪還の動きは見られなかった。

 

 南方に残っていた敵機約三千機は、キヴ降下点攻略部隊と交代にやって来た戦闘機隊によりほぼ撃破され、アフリカ大陸の奪還が宣言された。

 

 同時に、現在知られている地球上の全ての降下点を殲滅したことで、プロジェクト「ボレロ」の終了が宣言された。

 ボレロ最終段階であったキヴ降下点攻略作戦「Tο τέλος του Ἠλύσιον (楽園の終焉)」はこれにて終了したが、作戦の第二目標であるビラヴァハウスの確保に成功したことで、次はビラヴァハウス内部の攻略が待っている。

 

 最終的に、作戦「楽園の終焉」に参加した航空戦力は、

 

 地中海方面軍(南下部隊): 作戦開始時八百二十九機、増援七百六十五機、計千五百九十四機 (内生存九百二十三機)

 南アフリカ方面軍(北上部隊): 作戦開始時六百七十二機 (内生存二百四十三機

 東海岸方面軍(潜水機動艦隊艦載機部隊): 作戦開始時六百二機 (内生存四百八十九機)

 

 総計二千八百六十八機が作戦に参加し、千六百五十五機が帰還した。

 生存率は57.7%であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 地球奪還作戦の最後の作戦なのに、なんかあっさり終わりましたね。

 (いや、一作戦で十五話もダラダラやってりゃ十分だろ)

 だって話はここからなんだもん。


 次回、ビラヴァハウスに格納されていたファラゾアの超巨大人型決戦兵器が目覚め、眼からビーム、ロケットパーンチ、メテオストライク(遊星爆弾?)で地球連邦軍を返り討ちにして一気に形勢逆転、地球人類は絶望のズンドコに叩き墜とされる!! (嘘


 ファラゾアがメテオストライクとか、フツーに出来てシャレになってない。w 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 地上航空戦から次のステージへ楽しみ。満腹。デザートまで食べたー
[良い点] 最後の降下点制圧。 [気になる点] 後書きに反応するのは良くないと思いつつ。 >  だって話はここからなんだもん。 なんと言う不穏な一言。 332話と言う、夜空を越える話数が序盤に過ぎ…
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