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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十一章 PARADISE LOST (失楽園)
330/405

40. Launch an all out attack (全軍突撃)

 

 

■ 11.40.1

 

 

 暗く青い高空にまるで星屑が散ったかの様に白銀の敵機が無数に浮かび、高空の強い陽光を反射して光る。

 対して、白い大気の霞を背景としたシルエットの様な黒灰色の味方機が、それら白銀の粒で出来た雲の様に夥しい数の敵機群に喰らい付かんと縦横に飛び交う。

 意図せずとも二色に色分けされた各陣営の戦闘機械は、時にまとまり、時に別れ、また時には二色が掻き混ぜられ混ざり合う様に動いたかと思えば、また分離してそれぞれの色ごとにまとまる様な動きを見せる。

 互いに撃ち交わされる砲弾は無色且つ不可視のレーザー光にて、地球大気圏という薄く狭い空間で行われているその戦闘は、まるで二色に色分けされた飛行機械によるマスゲームでも見ているかの様だが、その実それぞれの戦闘機械個体の生死のみならず、異なる星で生まれた二つの種族の覇権或いは生存を賭けた、一切の容赦も無く温情も無い熾烈なものである。

 

 ジェット排気の薄い煙を引き、鋭角的な形状の翼を翻して地球製戦闘機がひらりと舞う。

 物理法則を無視した様な動きで、白銀のファラゾア機が瞬時に方向転換する。

 肉眼で知覚できないレーザー光に撃ち抜かれた機体が、レーザー光照射による急激な温度上昇による煌めきを発し、爆発的に蒸発する金属蒸気の煙と、爆散する部品や構造材を撒き散らしながら吹き飛ばされる。

 

 黒灰色の機体が溶け出したかの様な黒い煙を引いて落下するのは、ジェット燃料という可燃物を多く搭載する地球の機体。

 僅かに色づくだけの薄煙を引いて放物線を描き落ちていくのは、機体内に殆ど可燃物を持たないファラゾア機。

 

 また一つ、濃紺の空を背景に白い煙の筋が流れる。

 一方では黒い煙を引いた機体が、錐揉み状態で白い低層雲の中へ墜ちていく。

 蒼穹に濃淡様々な煙が無数の弧を描き、白銀色と黒灰色が乱れ飛ぶ空間の中を、まるでガラスの表面を流れ落ちる雨滴の如く戦闘機械が煙を引きながら墜ちていく。

 

 その垂れ下がった煙を翼で断ち切る様にして、地球製の戦闘機が旋回する。

 多数の煙など全く気にしていないかの様に押し退けて、急加速したファラゾア機が掻き消す様に一瞬で移動する。

 もとより味方が撃破されることに反応の薄いファラゾア機だけでなく、互いに護り合いながら戦う地球側の戦闘機も、ここが正念場とばかりに味方の損耗に怯むこと無く敵に喰らい付く。

 

「こちらオッキオ03。ブロッケン、アベイユ、マントデア、前進せよ。ブロッケンとアベイユは07-01東側、マントデアは同中央にて戦線を維持せよ。アエトス、08-02まで後退。追ってクレイモアの七機が合流する。合流まで待機。」

 

「ウインドフォース、こちらオッキオ05。東に50kmほど移動せよ。ハニービー、Area01と02の境界線付近に移動。戦力をArea01、02境界線に集中する。」

 

「フェニックス、こちらオッキオ02。戦闘機部隊の再編完了した。ご苦労だったな。一端下がって休んでくれて良いぞ。」

 

 アフリカ大陸東部の戦線であるZone06-Area10からZone06までを同心円状に移動してきた達也達666th TFWは、増援要請のあった北部戦線であるZone06-Area01に到着した後、一旦Zone07-Area01に引いて、大きな損害を出していた南下部隊の再編成が行われる間北部戦線を支え続けた。

 666th TFWと共に戦線を支える役割を振られた部隊も何度か入れ替わり、彼らがArea01に到着して一時間と経たない内に南下部隊の再編成は完了し、南に向かって再侵攻する用意が整った。

 敵中突破の後、休むこと無く最前線で戦い続けた666th TFWに蓄積しているであろう疲労を慮り、北部戦線を管制しているオッキオから僅かな時間であろうとも一息つくことを提案されたのだった。

 

「オッキオ02、こちらフェニックス。ありがたい。流石に少し疲れた。一旦Zone08まで引く。」

 

 戦いに次ぐ戦いで数時間もの間休む暇もなく戦い続け、流石に声に疲労の色が滲み出ているレイラがAWACSからの申し出に息をつく。

 

「一休みか? こっちはまだ行けるが?」

 

「人間はね、時々休まないと働けないの。未来からやって来た戦闘サイボーグと一緒にしないで。アンタも部下を休ませなさい。」

 

レイラとAWACSとの交信を聞いていた達也がまだやれると言い、その台詞を聞いたレイラが呆れ声で答えた。

 

「ヤバイ。まだ大丈夫そう。あたしも人間やめてる?」

 

「伝染性戦闘依存症ってのよ。末期症状ね。近寄らないで。伝染(うつ)るから。」

 

「アンタもともとソッチ側でしょ。一緒にしないでよね。」

 

「嬉しそうに笑いながら格闘してるヤツに言われたくない。」

 

「気に入らなかったら味方でも撃つヤツに言われる筋合いは無いわよ。」

 

「うっさい、雀ども。アンタ達六人似たもの同士だ。タツヤ、さっさと転針する。Zone08。」

 

 すでに上昇を開始し、インメルマンで転針する途中のレイラが、達也とレイラの会話を聞いて楽しそうに騒ぎ始めたA中隊のメンバーを一喝する。

 転針を指示され達也もレイラの後を追って転針するが、こちらは機体特性から、上昇した後に針路を瞬間的に反転すると同時に機体の向きも反転するというアクロバティックな、というよりもむしろファラゾア機と同じ様な機動を行う。

 A中隊の六機がその後に続き、達也と全く同じ動きをして針路を反転した。

 

「こいつ等どんどん常識外れになっていきやがる。知らなきゃファラゾアと間違って撃ち落としちまいそうだぜ。」

 

 鋭角的な機動で向きを変えていくA中隊の六機を横目に、レイラ達L小隊の後を追ってインメルマンの為に上昇するレイモンドがぼやく。

 

「撃つんじゃねえぞ。最近じゃあいつ等『エリミネーターズ(Eliminators)』とか言われて、人類の希望の星だ。」

 

 そしていつも通り、ツッコミ役のウォルターがそれに応える。

 

「撃ってもあいつ等当たらねえよ。てか、エリミネータ(害虫駆除剤)? 希望の星って割にゃ、冴えねえ名前だな、おい。」

 

「反応弾抱えて、死神グリムリーパーとか言われてた頃に較べりゃ、かなりマシだろ。前向きになった。」

 

「害虫駆除剤って、前向きなのか。知らんかった。」

 

「豊穣なる地球を取り戻すのさ。前向きだろ? 実際、やってることは似たようなモンだしな。」

 

「つまり奴等は地球にたかるイナゴかイモムシか。フン、大量に湧いて手が付けられねえ、って意味じゃその通りかもな。」

 

「で、エリミネータ(害虫駆除剤)ってワケなんだろ。多分。」

 

 相当に失礼な内容を喋りながら、レイモンド達B中隊も次々にインメルマンターンで方向転換し、後方へと戻っていく。

 さらにその後を、C中隊の五機が続く。

 

「フェニックス、こちらオッキオ02。休むついでにリフュエリングするなら、Zone08-01外縁辺りにSu-171が三機出張っている。TPFR専用機だ。リアクタフュエルが必要なら、Zone09まで下がる必要がある。09-01にKT-867NFが二機待機している。」

 

 Su-171 ククーシュカ(кукушка:カッコウ)は、スホーイが開発したTPFR(ThermalPlastic Fuel Rod:熱可塑性ポリマー燃料棒)専用空中補給機である。

 666th TFWにおいても、A中隊が使用するスーパーサクリレジャーは重力推進のみを使用しており、ジェット燃料を必要としないが、B中隊のグウィバー、C中隊の斬光はモータージェットを搭載しており、フュエルモード或いはリヒートモードにてジェット燃料(TPFR)を消費する。

 

 KT-867NFは、ボーイング社が開発したTPFR専用空中補給機KT-867 ガドウィット(Godwit:オグロシギ)を改造し、リアクタ(熱核融合炉)用の反応燃料リアクタフュエルである軽純水(H2O)を補給する、リアクタフュエル専用空中補給機である。

 一般に熱核融合炉の燃料消費量は少なく、戦闘機の小さな機体であっても数十時間分の燃料タンクを搭載することが出来るため、通常であればリアクタフュエルを空中補給する事は無い。

 ただ、戦場では何が起こるか分からないので、不測の事態に備えて念のために、後方に二機派遣されている。

 

「フェニックス全機。Zone08まで移動した後にTPFRリフュエリングを行う。A中隊はその間周囲警戒。リアクタフュエルが70%を割っている機体はあるか?」

 

 レイラは左コンソールに表示されている自分の機体の残燃料表示を確認しながら、部下に尋ねた。

 彼女の機体のリアクタフュエル残量は、86%を示していた。

 残量の下に表示されている予想稼働可能時間は、26.7hrとなっている。充分だ。

 

「A中隊、問題無し。」

 

「B中隊、問題無し。」

 

「C中隊、問題無し。」

 

「08、89%。」

 

「09、85%。」

 

「オーケイ。リアクタフュエルは問題無し。B、C、Lの順にTPFRリフュエリングを行う。

「オッキオ02、タンカーの位置送れ。」

 

「フェニックス、タンカーの位置を送った。タンカーは、アルナクラ(النخلة:ナツメヤシ)01から03。一番近いのはアルナクラ03だ。方位01、150km、高度45。」

 

「サンクス、オッキオ。全フェニックス、針路01。目標アルナクラ03。」

 

 AWACSオッキオ02からタンカーに関する位置情報が送信され、HMDに表示された。

 青色のマーカで表示されたタンカーには、脇にAlnakhla03のキャプションが表示されている。

 

 666th TFW所属の十九機は程なくタンカーの位置に到達し、アルナクラ03の後方を囲むように広がって、レイラの指示通りB中隊から順番に空中補給に入る。

 

 TPFRの空中補給の要領は、ジェット燃料が液体であった頃のブーム式給油とほぼ同じである。

 補給を受ける戦闘機は、TPFR補給機の後方から接近し、機体上面にあるTPFR補給口を開放する。

 補給口を開放したまま戦闘機は補給機後方下に接近すると、補給機から伸びたフライングブームがオペレータ操作によって戦闘機のTPFR補給口に差し込まれる。

 ブーム内のコンベアと圧縮空気により、TPFRが補給機から戦闘機のTPFR格納スペースへと打ち込まれる。

 所定量のTPFRが補給されると、戦闘機は補給機から離れて別の機体に補給位置を譲り、補給機と同航しながら僚機の補給完了を待つのだ。

 

 本来休憩に予定されていた時間は十五分であったが、666th TFW全機がリフュエリングを完了するまでに一時間弱ほど必要だった。

 達也達A中隊はその間、周辺警戒という名目の休憩時間だった。

 達也はオートパイロットを起動し、タンカー右舷5000mを維持するよう簡単なコマンドを組んだ後、一眠りすることにした。

 達也の後方左右に少し離れて占位するマリニーと優香里も達也に倣って、リーダー機後方を保持するようにオートパイロットをセットして同様に仮眠を取ることにした。

 それを見ていた、タンカー左舷に配置されたA2小隊の沙美以下三名も同様だった。

 タンカーは前線に近づきすぎないように緩く旋回しながら半径100kmほどの巨大な円を描いて同じ場所を旋回しているが、オートパイロットのターゲットをタンカーに設定してあるので、部隊から離れていってしまう心配は無かった。

 

「コイツ等、どういう神経してんのかしらね。そもそも戦場でオートパイロットセットして寝るとか、色々規定違反なんだけど。」

 

 ラジオを切っているわけでも無く、しかし完全に沈黙したA中隊の六機を見ながら、レイラが呆れた声で呟く。

 

「寝て体力を回復させるのも兵士の仕事のうちだろ。」

 

 笑いながらレイモンドが言った。

 

「歩兵じゃ無いのよ。まあそれでも確かに、あれだけ神経使ってりゃ、寝る必要もあるか。」

 

 達也達A中隊は、常人では為し得ないほどの撃墜数と生存率を誇り、そして常に最前線で戦い続ける。

 そのような戦い方をすれば、当然それだけの疲労が蓄積しているのは当たり前のことだった。

 

「A中隊は、先頭切って過酷な突破任務を完了した後、疲労が蓄積してリフュエリング時にブラックアウト。アンタがそう報告すりゃ良いだけの話だ。ま、あいつ等が規定違反とか気にしてるとは思えねえけどな。」

 

「・・・それもそうね。」

 

 レイモンドが笑った後、しばらく経ってレイラが溜息と共に相槌を打った。

 

 そのうちには、666th TFW全機のリフュエリングが終わる。

 

「タツヤ、A中隊、起きろ。待たせたな。そろそろ行くぞ。

「オッキオ、こちらフェニックス。リフュエリング終了。どこへ行けば良い? 指示を請う。」

 

「フェニックス、こちらオッキオ04。いいぞ、最高のタイミングだ。今からありったけの戦力を叩き付けて、戦線を突破する。思い切り暴れ回れ。フェニックスはArea01と02の境界線上で頼む。Zone07からスタートだ。」

 

「Zone07-01と02の境界。フェニックス、コピー。

「全フェニックス、前進する。突っ込むぞ。遅れるな。話は聞いたな。好きに暴れろ。」

 

 余りと言えば余りに無茶苦茶なレイラの指示に、隊内から笑い声と歓声が上がる。

 しかし彼らにとっては、こういう指示の方が戦い易い。

 

「空域の全機、こちらは空間統合管制オッキオ01。ただいまよりキヴ降下点北部戦線に総攻撃を掛ける。グループB、グループCのバックアップ部隊も全機突入する。詳細なポジションは各エリア管制から通達する。

「全機、ここが踏ん張りどころだ。数と力で敵の壁を食い千切れ。目標はキヴ降下点。全機攻撃開始。(Launch an all out attack)」

 

 実際は無線に乗ってレシーバから聞こえてきたものの筈なのだが、しかし戦場に居た誰もが確かに、まるで中世の戦場で戦士達が敵陣に向け突撃を開始する時のような鬨の声と雄叫びがこの戦闘空域全体に響き渡るのを聞いた。

 そして黒灰色に塗られた無数の戦闘機が一斉に、銀色をした雲の壁のような敵の群れに向けて動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 投稿遅れました。申し訳ないです。


 もうしばらくすると仕事も落ち着いてくると思うのですが。

 時間を取られるイレギュラーな仕事ばかりで、どうにもままなりませんね。


 今回から戦闘回にするつもりだったのですが、なんかのんびり会話回になってしまいました。

 次話からは確実に。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりおかしいA中隊 [気になる点] 地球側戦力が撃墜された時に、パイロットは脱出できるのかどうか? [一言] 最後の降下点攻略ももう直ぐですねぇ。 最終的な太陽系開放まで後どのくらいか…
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