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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十一章 PARADISE LOST (失楽園)
321/405

31. 突撃(assault)


 

 

■ 11.31.1

 

 

「クラーケン01より、戦域の全機。敵艦隊が大気圏内に進入した。戦艦二、駆逐艦四。場所はキヴ降下点上空。現在高度550。駆逐艦二が高度42000kmにて待機中。Zone05以内に接近する場合には注意せよ。」

 

 Zone07-Area09で暴れ回っていたダークレイスを撃破し、同じく07-11で四機のダークレイスを撃墜してきたB中隊とZone07-Area10で合流した後、666th TFW全機で07-10に存在する敵機をやりたい放題に叩き落としていたところで、キヴ降下点を東側から攻める水中機動艦隊艦載機部隊を管制するクラーケンからの情報が入ってきた。

 

「おいおい。戦艦まで降りて来たのかよ。敵さんマジだな。戦艦が大気圏内に降下してきたのは初めてじゃねえか?」

 

 基本的に口数が余り多くない変人が多い666th TFWの中で、ただ一人何かと賑やかに反応することが多いレイモンドがAWACSからの情報に反応した。

 勿論部隊内の通信であるためAWACSオペレータの耳には届いていない。

 

「私の知る限り、初めてだな。高度550なら、もう艦砲射撃の心配はないだろう。こっちは狙われなかったようだが、北と南はかなり被害が出ているようだ。」

 

 と、レイラが固い口調で返す。

 レイラが言っている北と南というのは、彼等アフリカ大陸の東側、インド洋上の潜水機動艦隊を発してキヴ降下点へと侵攻する艦載機部隊と同時に、アフリカ大陸北方のアラビア半島あるいはエジプト周辺の地上基地からキヴ降下点に向けて南下している攻撃隊と、予め沿岸の空港を橋頭堡として奪還し、潜輸による物資輸送で最前線基地化した南アフリカ方面の地上基地から北上してキヴ降下点を目指している攻撃隊の事を示している。

 戦力的には、東海岸からの機動艦隊艦載機部隊は戦闘機ばかりで六百二機、北方からの攻撃隊は、戦闘機、攻撃機、管制機など総計八百二十九機、南方からの攻撃隊も同じく戦闘機や攻撃機の混成にて六百七十二機がこの作戦に参加している。

 

 地球上に存在する最大にして最後のファラゾア降下点であるので、攻撃する地球人類側も総力を挙げて、持てる戦力の全てを叩き付けるように攻め込む・・・事が出来なかったのだ。

 

 そもそも、アフリカ大陸の丁度中央部に存在するキヴ降下点は、同じアフリカ大陸の北端であるエジプトからでも、南端の南アフリカからでも約3500kmの距離にある。

 距離的に有利なアラビア半島の南端、イエメンからでも直線で2000kmも離れている。

 

 自動操縦があるとは言え、操縦を交代することも出来ずトイレに行く事も出来ない戦闘機パイロット達は、片道四~五時間も離れた場所から飛び立ち、戦場に到達するだけで疲れてしまった状態で戦闘に入り、そして運良く生き残ることが出来たなら、また同じだけの時間を掛けて疲労困憊した自分の身体と、戦闘でズタズタになった機体を引きずって基地に戻らなければならない。

 

 最新のP-Hybrid推進であればこれだけの距離を踏破して、十二時間も格闘を行ってさえ帰投に充分な燃料を維持して居るであろうが、現在地球人類側の戦闘機で主流の推進法式であるSG-Hybridでは、戦闘機動中に激しく消費する固体ジェット燃料(TPFR)が決定的に不足するため、TPFRの残りが少なくなったところで補給に戻らねばならないが、3500kmの彼方まで補給に戻る事は現実的にあり得ない。

 

 その為、TPFR用の空中給油機(タンカー)を戦場の近くに多数待機させておかねばならないが、制空圏の確保も不十分なアフリカ大陸中央部で、丸腰の空中給油機を多数遊弋させるのは、猛禽の眼の前に小鳥を放つようなものでしか無い。

 

 ならば、キヴ降下点により近い位置に前線基地を形成すれば良いかと言えば、ファラゾア来襲後二十年近くも放置されていた空港は、分厚い砂の層の下に埋もれる、或いはジャングルと見分けが付かないほどに濃密な緑の海の下に沈んでいるなどして滑走路は全く使い物にならず、地上施設や送電線、配管などのインフラも錆び落ちてしまい、修理整備するよりも更地にして新たに建造した方が早いという様な状態であった。

 

 最終的にキヴ降下点攻略は、既に殲滅されたアジュダービヤー降下点に対する最前線基地として機能していた、シナイ半島からアラビア半島にかけての航空基地を発する南進軍と、多数の潜輸を用いた強引な補給線を構築し、短期で無理矢理整備補修した南アフリカ沿岸の空港を発する北進軍、そしてインド洋アフリカ東岸に展開する虎の子の潜水機動艦隊を発する艦載機部隊の、三集団による同時侵攻作戦と決定された。

 

 構造上、戦闘機かそれよりも僅かに大きい程度の機体しか搭載できない潜水機動艦隊には、攻撃機などの大型機を運用する能力が無いため、敵艦隊が戦場に投入された場合の迎撃を行う攻撃機隊は、北進軍と南進軍に振り分けられた。

 

 AWACS母機や空中給油機に較べれば小ぶりながら、現在共に行動している戦闘機に較べれば一回り大きな機体形状をしている攻撃機を見分けたか、太陽L1ポイントを発してキヴ降下点に向かってきたファラゾア艦隊は、攻撃機を擁している北進軍と南進軍にのみ艦砲射撃を加えながら地球に接近してきた。

 艦砲射撃が行われたのは、ファラゾア艦隊が月軌道を越える前後から大気圏上層部に到達するまでの間の僅か数分間でしかなかったが、二隻の戦艦と六隻の駆逐艦から繰り返し撃ち出された大量のレーザー砲による被害は、地球側にとって看過できるものでは無く、本作戦の全体指揮を行っている参謀本部にとって、作戦の中止さえも視野に入れねばならないほどのものであった。

 

「フェニックス、こちらクラーケン01。フェニックス全機はZone08-10まで一旦離脱しろ。」

 

「クラーケン01、こちらフェニックス01。指示の意図が不明だ。抜ければ他の部隊の負担が増える。戦線が崩れる元だ。」

 

 出現したダークレイスを殲滅し、そのまま前線に留まって他の艦載機部隊と供にひたすら敵機を撃墜する作業を行っている666th TFWに、前線から抜けろと指示が飛んだ。

 本来戦闘機隊はその意味など問わず、AWACSからの指示に従って動きさえすれば良いものであるが、そこはこの規格外部隊の飛行隊長となって経験の長いレイラというべきか、指示の裏側に何事かあるのを嗅ぎ取ってAWACSオペレータに問いかけた。

 

「やんちゃ坊主共に、参謀本部から特別なプレゼントだ。フェニックスで敵戦艦を墜とす。一旦引いて態勢を整える。」

 

「なんだって? 耳をやられたか。敵戦艦がどうしたって?」

 

 AWACSオペレータからの指示に、聞き返すレイラの声が剣呑な色を帯びる。

 

「フェニックス、参謀本部から666th TFWに直接の指示だ。一旦戦線から引いて態勢を整えた後、敵戦艦を撃沈せよ。敵戦艦に至るまでの障害は実力で排除せよ。」

(Phoenix, direct operation order from General Headquaters to 666th Tactical Fighters Wing. That, destroy enemy battle ships, follow to once retreat from front line to right the formation. Any barriers down to target must be eliminated by force, by yourselves.)

 

「あぁ? 戦艦を墜とせ、だ? クラーケン、遙か彼方の安全な参謀本部に詰めてるクソ馬鹿どもに伝えろ。寝言は寝て言え。」

(Ah? Shoot down battle ships? Hey Kraken, let them know sleep talking only in dreaming, who is croaching down f**kin idiots in safety CAH far far away from the line.)

 

 連邦軍参謀本部から666th TFWに直接の指示が降りるのは、実は不思議でも何でも無い。

 彼らは現在、母艦のジョリー・ロジャーと共に、第七潜水機動艦隊所属の艦艇と艦載航空隊として今現在行動してはいるが、本来この潜水空母が所属する704潜水空母戦隊は随伴艦である二隻の潜水駆逐艦「雪風」「イッレクイェート」と共に、666th TFW(第666戦術戦闘航空団)所属の潜水機動戦隊(Submarine Task Force Squadron)として、連邦海軍所属の部隊では無く、連邦軍参謀本部直轄の部隊である。

 ちなみに、戦術戦闘航空団に潜水機動戦隊が所属するというのは些か奇妙な組織構成であるが、ファラゾアに対抗できるのは基本的に航空戦力のみ(或いは「航空宇宙戦力」)である事から、戦術戦闘航空団内部の補助部隊として、陸戦隊や潜水機動戦隊が構成されている。

 

 ということで、連邦軍参謀本部から直接の命令が下されること自体は何も問題は無いとしても、その内容が問題だった。

 余りに非常識な指示に、キレかけたレイラが参謀本部を馬鹿呼ばわりする。

 

「作戦が終わってまだ生きてたら考えておいてやるよ。いいから、四の五の言わずにZone08まで下がれ。一度態勢を整えた方が良い。」

 

「態勢を整えるも何も、二十機やそこらの戦闘機隊で戦艦が墜とせると本気で思ってるのか? 頭は大丈夫か? たった三隻の駆逐艦隊でさえ何も出来ずに追い払われたんだ。ましてや今回は3000m級戦艦が二隻だ。墜とすどころか、辿り着くのも難しい。出来るわけな・・・い・・・いや、ちょっと待て。」

 

 クラーケン01オペレータに向かって、あれだけ激しく喧嘩腰に怒鳴っていたレイラの声だったが、自信なさげに語尾が消えた。

 

「クラーケン01、現在の敵戦艦の高度は?」

 

 僅かな沈黙の時間の後、レイラがAWACSオペレータに訊いた。

 

「二隻ともビラヴァ上空12000mだ。ビラヴァハウスを守っている様だ。」

 

「敵艦からの地平線距離は?」

 

「地表で約380km。」

 

「敵艦から地表距離450kmでの地平線下高度は?」

 

「418mだ。」

 

「・・・出来る・・・かも知れん。」

 

「出来るんだよ。参謀本部がそう言っている。」

 

「かなり大量に幸運が必要になるが、不可能じゃない。CAH(Central general Administration Headquaters:参謀本部)の高笑いが聞こえる様で癪だが、な。」

 

「判ったらZone08まで下がれ。一度態勢を整えて・・・」

 

「不要だ。やるなら早い方が良い。C中隊、アスヤを基準に集合せよ。集合した後は針路28、高度50、速度M2.0にてキヴ降下点を目指せ。B中隊はC中隊を基準に集合。C中隊を守れ。A中隊、C中隊前方で露払いだ。L小隊はC中隊の後方を警戒する。」

 

 レイラとAWACSクラーケンとの間のやりとりは、当然666th TFW全員が聞いていた。

 事の成り行きを知っているため、レイラが集合の指示を出すと、最前線で敵機と入り乱れてドッグファイトを行っているとはとても思えない速さで、編隊の各機が集合し始める。

 

「ま、待て。まだデータも飛ばしていない。グングニルのシーケンスも送っていない。リリースタイミングも知らないだろう、お前達。」

 

「遅い。足を引っ張るな。そっちがやれと言ったんだろう。」

 

 つい先ほどまで参謀本部のクソ馬鹿などと言っていたのが、酷い言い草である。

 

「てめえ、後で覚えとけよ。フェニックス全機、作戦詳細を説明する。目標はビラヴァハウス上空12000mに停泊中のファラゾア戦艦二隻。666th TFWは降下点へ向け侵攻する。ミサイルリリースはZone04外縁。ミサイルの突入シーケンスはこちらで用意する。途中障害となるファラゾア小型戦闘機械は実力で排除せよ。」

 

 先ほどのレイラの指示によって、高度5000m近辺にC中隊が形成したC1小隊、C2小隊の二つのデルタ編隊の形がはっきりとする。

 それに纏わり付くように、どこからやってきたかA中隊のスーパーサクリレジャーが、編隊さえ組まず単機で現れまた離れて行く動きで纏わり付く。

 さらにB中隊のグウィバーによる二つのデルタ編隊が現れ、C中隊の左上方と右下方に付いた。

 

「フェニックス、コピー。A中隊、前進せよ。タツヤ、いつまで遊んでる? さっさとC中隊の前へ出ろ。」

 

 さらにレイラが指示すると、C中隊の周りに時々姿を現して飛び交っていたA中隊六機が、前方に向かって一斉に加速し、各々の進路を取って散っていった。

 彼等の機体が消えていった先々で、次から次へとファラゾア機を撃破する小さな煌めきが見えて、少し控えめな炎に続いて薄く煙を引きながら、空中を駒のように回転するファラゾア機が放物線を描いて幾つも地上へと落ちていく。

 それは一度だけのことでは無く、まるで空中をまばらに落ちていく雨粒のように、一つ、また一つと、次から次へと薄い煙を引き落ちていく白銀色のファラゾア機が、アフリカの大地に降り注ぐ陽光を反射してキラキラと光る。

 

「C中隊、前進開始。護衛が付くからって、お前等遊んでて良いわけじゃ無いぞ。自分の身は自分で守れ。B中隊、C中隊をカバーしろ。L小隊、続け。C中隊の後ろに付く。」

 

 C中隊の二つのデルタ編隊が、高度を保ったまま一気に加速する。

 B中隊の作る更に二つのデルタ編隊が、C1小隊のすぐ後ろにはB1小隊、C2の後ろにはB2と、C中隊の二編隊を守るように位置を取る。

 さらにその後ろには、指示を出したレイラ自身の率いるL小隊のデルタが続く。

 

 前方に数万もの敵機の存在が予想される戦闘空域で、普通なら死ねと命令されたような突撃の指示を受けた二十一機の戦闘機が、立ちはだかる敵機の群れを蹴散らしながら一斉に突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。

 

 ちょっと絵が入るかのテスト。

 

挿絵(By みてみん)

挿絵が上手く表示できるかのテスト。

Super Sacrileger です。

鉛筆描きの落書き程度の絵ですが、こんな感じの機体だというイメージだけでも。


 あと、感想の方で人名の誤りをご指摘戴いています。

 ありがとうございます。

 特に本作の始まりの辺り、調べたつもりではあってもロシア系の人名がかなり自信ないです。

 ロシア系の命名ルール、ややこしいですねえ・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] このジャイアントキリングがST舞台の伝説(やらかし)の始まりか〜(既に色々やらかしてる) [一言] こう言うワクワク感が醍醐味ですねぇ。
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