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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第十一章 PARADISE LOST (失楽園)
303/405

13. 地球連邦宇宙軍第一艦隊駆逐艦 DDSP-001「DRAGOON(ドラグーン)」


■ 11.13.1

 

 

 16 July 2052, Fairlie Shipyard, United Nations of TERRA Space Force (UNTSF) Camp Glasgow, near Glasgow, Scotland

 A.D.2052年07月16日、スコットランド、グラスゴー近郊、地球連邦宇宙軍グラスゴー駐屯地内フェアリー造船所

 

 

 スコットランド西部の都市、クライド川に面し、古くから造船で栄えた都市グラスゴーから直線で約40km。

 ハンターストンと呼ばれるその地域は、古くからスコットランド(スコティッシュ)氏族(クラン)の一つであるハンター氏族の居城、ハンターストン城の周囲に広がる彼等の所領であった。

 クライド湾に面したその地域には、今もなおクランリーダーが住む石造りの古城を中心として、その周りにはなだらかな丘陵と、一面の緑の海に点在する白い綿雲のような羊がのんびりと草を食む牧草地が広がり、楡の木に囲まれた小径に沿っていかにもスコットランドと云った牧歌的な風景が広がっている。

 

 ファラゾアとの戦いなどどこの世界の物語かとばかりに、遙か昔から変わらぬのどかな風景の中をゆったりと曲がる小径を通り林を抜け、柔らかな風がそよぐ丘を超えて海沿いに出ると風景が一変する。

 二十世紀に建造された近代的な建築物の集合体であるハンターストン原子力発電所は、300MWの発電量を誇った核分裂反応炉に厳重な封印を施され、今や新たにより小さな筐体で一基辺り500MWクラスの発電量を叩き出す核融合反応炉が、同じ敷地の中に隣り合わせたようにして所狭しと十基並べられている。

 コンパクトでありながらも巨大な発電量を誇るこの発電所からは、グラスゴーの街に向けた送電線が引かれ、また一方ではグラスゴーから伸びる鉄道線の駅がある隣町フェアリーとの間に最近になって建造された地球連邦宇宙軍基地にも、目立たぬように埋没された巨大な送電線が膨大な量のパワーを送り続けている。

 

 そこはほんの十年ほど前までは、海底から採取した鉱物資源の廃棄物、或いは近隣の港湾を浚渫した際に発生する土砂や泥濘の堆積場として、海沿いに広がる荒れ果て半ば放置された広大な土地であり、地元の住民を含め誰一人として注意を払い見向きする者もいない、どこにでもありそうな寂れて忘れ去られた海沿いの一区画でしか無かった。

 

 その様な場所に、ある日突然国連軍(当時)と英国陸軍のマークを付けた工事用車輌が大量に雪崩れ込み、地上にうち捨てられた泥と砂礫の山を綺麗に片付けて平坦に均し、さらには大量のコンクリートを流し込みながら巨大な穴を掘り、その周りに幾つもの建造物を建て並べていった。

 同時に、クライド川から流れ込む土砂が堆積した浅瀬でしか無かった周囲の海を浚渫してコンクリートで護岸し、巨大な港を作り上げたと思えば、どこからともなくこれもまた巨大な黒光りする潜水輸送艦が現れて、岸壁が空く暇もないほどに次から次へと接岸しては大量のコンテナを陸揚げしてはまた何処へかと去って行った。

 

 ファラゾアによって大型船舶による海上交通を封鎖され、今や息も絶え絶えとなっていたグラスゴー市内の多数の造船所で働いていた、その業界での就労経験者である老若男女がかき集められ、新たな軍用の巨大船舶を建造するためとその地へと送り込まれた。

 巨大な空母や、或いは最近世界中を駆け回っていると言われる大型の潜水艦を建造するとしても余りに異質な、異常に広く深く掘られたその乾ドックには屋根が付いており、例え荒天であっても作業者達が快適に作業できるように配慮されていた。

 或いは、そこで何が行われているのか、外から、特に上空から眺めただけでは一切何も分からないように覆い隠されていた、と表現する方が正確であろうか。

 

 グラスゴー市内中心部にも造船用のドックを持つ民間造船大手BAEシステムズによって管理されたその乾ドックには、その業界に長年携わってきた管理者による合理的なシステムが構築されており、そこで働く作業者達に快適且つ効率的に作業を進める事の出来る環境を提供していた。

 唯一、そのドックの入り口に慣れ親しんだ大手造船会社であるBAEシステムズの社名と並んで、国連軍の名と、MONECなどという聞いた事の無い民間企業の名前が名を連ねていることに、そこで働く事となったドックメン達は毎朝厳重な警備のゲートを通過しながら違和感のこもった不思議そうな視線を投げかけていた。

 

 彼等は当初、自分達が作っている船について全容を知らされていなかった。

 軍事的な機密の関係上、情報の漏れやすい作業員達には各作業班が担当する部分の情報しか与えられずに軍艦が建造されていくのはままあることであったので、それを気にする者は居なかった。

 大まかな枠組みが出来上がった船体形状と、当時の世界的な常識として、その船が海上船舶でないことは明らかであった。

 ドックの中で、ブロック工法により各部分に分けられて組み立てられていく巨大な船体を見上げて作業するドックメン達は、その船体の大きさから、当時最新鋭の技術で作られている潜水空母の新型を自分達が建造しているのだろうと、予想していた。

 

 船体が徐々にできあがり、バラバラに組み立てられていた各ブロックが徐々につなぎ合わされ、船体の全容が見えてきたところで誰もが気付く。

 この船は、潜水艦ではない、と。

 

 近代の潜水艦ではあり得ない、まるで丸さを帯びていない艦首。

 船体のあちこちから船殻外へと突き出した構造物。

 最新鋭の潜水艦であるならば、必ず存在しなければならないジェット噴射ノズルもなく、H-Jetエンジンを格納するらしきスペースも無い。

 潜水艦が必ず備えていなければならないバラストタンクもなく、深海の高圧に耐えるための強固な構造の内殻すら存在していない。

 何よりも、潜水艦ではあり得ない位置の船体あちこちに設けられたハッチが、水密構造とはまるで逆の形状をしており、さらに二重構造の気閘室が設けられていることを知った作業者達は気付く。

 

 この船は、外圧よりも内圧が高いことを想定して作られている、と。

 その様な環境の場所で、これだけの大きさの船が航行できるところなど、この地球上には存在しなかった。

 その様な場所など、彼等が知る限りひとつしかなかった。

 

 未だその船の名も、用途もなにも知らされていないドックメン達は、今彼等が構造材に腰掛け、外殻に手で触れている、未だ内部が剥き出しで完成までどれ程の年月が掛かるとも知れない船を撫で、そしてその船の未来と運命に感慨深く想いを馳せる。

 宇宙の彼方からやってきた、強大で不気味な正体不明の敵と、やっと同じ土俵に上がって戦えるだけの力を、地球人類は手に入れたのだ。

 

 願わくば、己の持てる技術の全てを注ぎ込み、そして古くから造船の街として栄えたこの街で働く多くのドックメン達が力を合わせて造り上げたこの船が、地球人類の反撃の狼煙を上げ、そして乗り込んでくる乗員達と共に輝かしく偉大な戦果を挙げんことを。

 願わくば、数多くの命を奪って行った敵を、この船が一機でも一隻でも多く屠り、そして強大な敵を押し返す大きな力とならん事を。

 そして勿論、いつまでも沈むことなく、地球人類の力となり続けんことを。

 未だ塗装も何もされていない金属の地肌を照明の光に輝かせる船体を見上げ、ドックで働く作業者達は誰もがそう祈った。

 

 そしてその船が、今日進水式を迎えた。

 

 長さ800m、幅150mの乾ドックの地表部分にあるシャッターは未だ閉じられているが、ドックから300mほど離れた地上には、人類史上に名を残す艦の進水式に合わせて特設会場が設けられていた。

 来賓席は既に一席も余すところ無く埋まり、周囲にドック関係者による大量の立ち見が発生している。

 夏の照りつける日差しの下ではあるが、進水する艦の姿を眺める都合上、日除けテントの様なものは張られておらず、来賓席に座るVIPも、ガヤガヤと立ち見を洒落込んでいるドック作業員も等しく夏の日差しに照りつけられ、額に汗を浮かべていた。

 

 やがて、この日のためにフランスから呼び寄せられた地球連邦軍軍楽隊によるエドワード・エルガー作曲「Land of Hope and Glory(希望と栄光の国/威風堂々)」が演奏され、進水式の始まりを告げた。

 ファラゾアとの熾烈な戦いを続けているさなかにいかにも悠長な儀式の実施であったが、一つにはこの日進水する艦が、人類史上初めての宇宙船(Space Ship(*1))と呼ぶ事の出来る艦であること、また一つには、この場所が長い伝統を持つ王立海軍(Royal Navy)を持つイギリスであり、またその中でも古くから造船で栄えてきたグラスゴーという土地であったことなどから、参列する多くの人間がこの厳めしいセレモニーの実施に納得していた。

 

 ファラゾアによる超遠距離光学探知対策として、未だシャッターが開けられない乾ドックに向かって並べられた来賓席の向かいに設えられた、一段高い演台に上ったBAEシステムズフェアリー造船所長の挨拶によって進水式が始まる。

 

 参列者の中には、当然の事ながら地球連邦宇宙軍最高司令官や、連邦軍参謀総長、連邦宇宙軍第一艦隊司令官などの姿があり、また英国国王、英国首相、グラスゴー市長、そして英国国防大臣などの姿も確認する事が出来る。

 地球連邦宇宙軍第一艦隊駆逐艦「ドラグーン」艦長ロドリグ・グーディメル中佐の姿も―――前列の端の方ではあるが―――そこにあった。

 

 地球連邦軍と英国のそれぞれのVIPによる長々とした挨拶が幾つも終了し、皆の前で艦名「ドラグーン」が宣言された後、いよいよ艦の登場を知らせるファンファーレを軍楽隊が演奏した。

 

 来賓席から濃いブルーのドレスを纏った女性が歩み出る。

 艦長のロドリグがそのすぐ後ろを歩く。

 女性がドックまでの中間辺りまで歩みを進めたところで歩みを止めると、再びファンファーレが鳴る。

 

 ドックの端に設えられたステージの上で、銀の斧を持った宇宙軍最高司令官によって支綱が切断されると、それに応じてドック上に展開されていたシャッターが前後に別れて格納されていき、巨大な溝の中に陽の光が差し込んだ。

 先ほどドックの中程まで歩いていた二人が再び歩み始め、ドックの端に到達する。

 先頭を歩いていた青いドレスの女がさらに歩を進め、帆船が描かれた黄色いラベルの貼られたスコッチウィスキーの緑のボトルを、ドックの中に向けて勢いよく投げつける。

 すぐに来賓席から見えなくなったボトルであったが、ドックの中、遙か下方からガラスの割れる音が僅かに聞こえてきた。

 

 その音を合図にして艦長のロドリグがドックの端に進み、作業用リフトのゲートを開けて乗り込んだ。

 彼を乗せたリフトはドックの中に向けて降下していき、程なく地上から100mほど下のボーディングブリッジに繋がるペデストリアンに到達した。

 リフトの柵を開け、ペデストリアンを歩き、ボーディングゲート上を歩いてロドリグは艦の右舷中央乗艦用ハッチに至る。

 ロドリグがボーディングゲートに足をかけると同時に号笛(ボースンコール)が響き渡り、艦長の乗艦を艦内に知らせた。

 

「首尾はどうだ?」

 

 ロドリグはエアロックで足を止め、艦内側扉の脇に直立し海軍式の敬礼で彼を出迎えた副長のアンネマリー・ファン・オッテルロー少佐に答礼しながら訊いた。

 

「リアクタ一番から四番まで起動完了。異常なし。パワーアイドル。ジェネレータ一番から八番まで起動完了。異常なし。ゼロパワー。システムチェック進行中。現在56.5%完了。致命的なエラー無し。センサー類同時にチェック中。79.0%完了。致命的エラー無し。気密試験開始。」

 

 アンネマリーは左腕に固定した個人端末の表示を確認しながらロドリグの質問に答えた。

 同時にエアロックの外側扉が、反対側で敬礼していた乗員によって閉じられた。

 

「よろしい。ブリッジに移動する。着替えを手伝ってくれ。」

 

 そう言ってエアロックから艦内に足を踏み入れ狭い通路を歩き始めたロドリグの後を、すでに全身黒色の艦内(ボーディング)(スーツ)姿のアンネマリーが歩く。

 彼らがエアロックから出た後ろで、二人の兵士がエアロックの内扉を閉じて安全確認を行った後、グレーチングが敷かれた通路を駆け足で散っていった。

 

 通常の状態では、エアロックは手動によって開閉が行われる。

 一つには、自動開閉機構という余計なものを取り付ける余裕が無かったという理由もあるが、デリケートな自動化機構が戦闘による損傷が原因で動作しなくなる事を懸念して、確実に動かすことが出来る人力での開閉機構が選択された、という背景がある。

 勿論、エアロックに収容された者が身体を動かせないほどに負傷している可能性を考えて、火薬ボルトを使用した緊急強制開閉機構も備えている。

 

 ロドリグはエアロックから艦首に向けて歩き、通路右側に金文字の「CAPTAIN」と表示されているドアを開けて艦長室に入る。

 2m四方程度しか無い狭い部屋で礼装を脱ぐと、アンネマリーに手伝ってもらいながら手早く艦内服に着替える。

 

 艦内服は、ヘルメットを着用する事で短時間であれば真空中でも生存可能なように気密が維持できる作りになっている。

 船外活動服のように温度調整機能や、長時間の呼吸用酸素タンクが備わっているわけでは無いが、ザラル繊維で作られた外層はスーツ内部の気圧により各部が膨れ上がることを防ぎ、また簡単には破れないだけの強度をもっている。

 スプレー缶程度の大きさである使い捨て型の簡易酸素ボンベをヘルメットに取り付ければ、真空下でも三十分程度生存が可能な設計となっていた。

 勿論それは非常時の緊急生存環境確保の為の機能であり、通常時の真空下での活動のためには、当然のことながら船外活動服の着用が義務づけられている。

 

 アンネマリーは先に部屋を出て艦橋(ブリッジ)に向かい、脱いだ礼装を畳んで片付けたロドリグがすぐにその後を追う。

 艦長室を出て艦首側に十歩も歩けば、右側に艦橋のドアがある。

 ドアを開けて薄暗い艦橋内にロドリグが入るが、艦橋の中の乗員達は発進準備に追われており、皆目の前におかれたモニタから視線を外すことも無く、作業を中断することも無い。

 

 クルーが着席するブースの間を縫うような狭い艦橋の通路を通り、室内で最も艦尾側に設置されている艦長席にロドリグが座った。

 通例的に艦橋という名前で呼ばれてはいるが、要するに艦内中央部に設けられた戦闘指揮所(CIC)であり、水上艦の様に艦外に突き出して外部が目視できる様な場所では無く、またこの場所の他に指揮所があるわけでは無かった。

 

 ロドリゴは艦長席のコンソールに埋め込まれている三枚のモニタにざっと目を通し、異常表示が無いことを確認すると満足げに軽く頷いた。

 進水式の式典が始まり、もうかなりの時間が経ってしまっているのだが、今頃地上ではBAEシステムズの社長と、連邦宙軍の高官による本艦の説明が行われて、参列者を飽きさせない様に時間を保たせているはずだった。

 

「状況。」

 

「リアクタ、アイドル。ジェネレータ、アイドル。システムチェック、グリーン。アーマメント、グリーン。コム、グリーン。気密チェック完了(グリーン)。発進準備完了です。」

 

 ロドリゴの問いに、アンネマリーが即答する。

 

「宜しい。

「諸君。艦長のグーディメル中佐だ。作業を続けながら聞いてくれ。」

 

 ロドリゴはアンネマリーの報告に満足そうに頷くと、コンソール上に表示されている艦内放送のスイッチを入れた。

 

「諸君も知っての通り、本艦は人類史上初めて建造された宙航艦だ。本日ドックから出て(アンドック)飛び立った後は、余程のことがない限り本艦が再び地上へと戻ってくることは無い。整備も乗員の交替も全て宇宙空間にて行われる。そういう意味で、人類は初めて本格的な宙航艦を手に入れたと言える。

「ファラゾアとの戦いについて、今更何かを言う必要は無いだろう。ただ今日この日から、本艦とそれに続き就航する宙航艦の存在をもって、人類とファラゾアとの戦いは新しいステージに入った。我々は、この太陽系から敵を蹴り出すための手段を手に入れたのだ。その栄えある第一号艦に乗務する諸君らの活躍を期待している。以上、艦長のグーディメル中佐だ。

「さて諸君、行こうか。」

 

 そう締めくくって、ロドリゴはマイクのスイッチを切った。

 そして、艦橋クルーに向かって再び指示を出す。

 

「クリアランス。」

 

「フェアリードックコントロール、クリアランスグリーン。」

 

「ドックアウトシーケンス開始。」

 

「ドックアウトシーケンス開始。ボーディングブリッジ、グリーン。ガントリーブリッジ、オールグリーン。オールコネクタ、オールグリーン。ドックアウト可能。」

 

 ロドリゴの指示に従いクルーが発進シーケンスを進め、進捗を声に出して報告する。

 勿論その情報はロドリゴの手元のモニタにもリアルタイムで表示されているが、各員が様々な作業を行っている艦橋全体に知らせる為には、担当者が声に出して読み上げるのが最も効率が良い。

 

「ドッキングチェアロック解除。」

 

「ドッキングチェアロック、オールグリーン。オール()レストレ(拘束)インオフ(解放)、サー。」

 

宜しい(オーケイ)。ドラグーン、離床(テイクオフ)。」

 

「イエス、サー。ドラグーン、テイクオフ、サー。」

 

 艦長からの指示に対する返答とともに、コクピット状の自席ブースの中でHMDを被った航海士が、左手のスロットルを徐々に押していく。

 重力推進(AGG)によって航空機並の機動性を持つこの艦を操縦するためには、従来の水上艦の様な操縦方式では余りに応答性が悪いため、潜水艦と航空機の操縦席の良いとこ取りをした様な方式が取り入られている。

 操舵手も廃止され、航海士(パイロット)副航海士(コパイロット)の二名で繰艦に当たる。

 

 航海士の操縦により、全長267m、排水量76000tの巨体がドック底部に設置された固定具を離れて浮き上がり、ドックの縦壁の間をゆっくりと上昇して行く。

 やがて艦はドックから出て、その姿を地上に現す。

 

 白く塗られた巨体が、まるで地の底から湧き上がったかの様にドックの巨大な溝の中から観客達の前に姿を現す。

 重力推進により、その巨体からは考えられないほど静粛に宙に浮く艦体は、ゆっくりとドックを出て宙に浮き上がり、その姿を全て観客達の前に現した。

 座っている者も立っている者も、年老いた者も若い者も、全ての観客達はその艦から目を離すことが出来ず、思わず感嘆の声を上げる。

 

 真っ白くスリムなその巨体は速度を緩めることなくしかしゆっくりと空に向かって昇っていき、高度1000mを越えた所で徐々に加速しながら、やがて蒼穹に浮かぶ小さな点となって宇宙空間へと消えていった。

 

 

 

 

 

 (*1) 英海軍、或いはそもそも英語ではBoatとShip(日本語ではいずれも「船」)に明確な区別がある。本作の宇宙船の場合、船体内で乗務員が業務・移動・居住出来る構造を持つものを「Ship」、居住空間があるだけのもの(OSV等従来の小型宇宙船)を「Boat」として区別している。但し、宇宙船に対してshipとboatの差の明確な定義があるわけでは無く、将来的にも前述の区分方法と、単純に船体の大きさによって区分する方法が混用される。本作では多くの場合shipを「艦」、boatを「船」と表記するが、限定するものでは無い。

 

 

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。

 済みません。また一回飛ばししました。申し訳ないです。


 とうとう地球製の宇宙船が進水しました。

 本作、タグに「スペースオペラ」を入れているのですが、これでやっとスペースオペラらしくなったというか。

 これまでは全然「スペース」じゃなかったですからね。


 ちなみにですが。

 水上船舶の場合は、進水式を行って、その後艤装を行いますが、宇宙船の場合は全ての艤装を終えてから進水式です。

 でないと、進水式すら出来ませんので。(笑)

 

 「進水式」にするべきか、或いは「進宙式」か、多少迷いましたが、艦名やその他の一般的事項と同様に、「さんずい」でいく事にしました。

 地球連邦軍公用語である英語ではどっちにしたってどうせ「Launching Ceremony」で同じ表記なんで。


 あ、あと、造船所の場所がフェアリーなのは偶然です。

 グラスゴー近郊の海沿いに良い土地ないかなー、とgoogleで探していて、捜し当てた場所が偶然フェアリーでした。

 某妖精な戦闘機との関係はありませんのであしからず。

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