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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第九章 TACTICAL PROJECT 'BOLERO' (ボレロ)
244/405

25. 中国東北部戦線


 

 

■ 9.25.1

 

 

 まるで高空から何かの欠片が落ちてくるかの様に、小隊毎にデルタ編隊を組んだ666th TFWの戦闘機が戦闘空域に舞い降りる。

 但しその落ち方は、自由落下を遙かに超えた数百Gによる加減速と、一瞬で音速を超え、逆に音速の数倍の速度から静止寸前にまで一瞬で減速する運動性と速度を伴っている。

 

「各機AAMレディ。A中隊とC1は戦線東方方位06、B中隊とC2は戦線西方方位29。L小隊はBに合流する。」

 

 元々防衛側、即ち地球人類側の戦力が薄かったところに、撃退されたファラゾア艦隊の空母四隻が短時間で放出し、軌道降下させた四千五百機の戦闘機殆どが追加でなだれ込んだことで、中国東北部から極東シベリア国境にかけての戦線はほぼ崩壊しており、ノーラ降下点から約600kmであるZone06内縁にまで後退していた。

 カリマンタン島のカピト降下点が殲滅されたことで、東南アジア方面で戦線を形成していた戦闘機群の内二百機弱が増援のため転戦してきており、彼等はハルビン(哈爾浜)或いはチョンチュン(長春)周辺の航空基地で一旦翼を休めた後、元々現地に駐留していた地球連邦空軍の戦闘機部隊と供に出撃してこの戦いに参加している。

 元々中国東北方面に駐留していた地球連邦空軍と、中華連邦が共産中国から受け継いだ遺産である中華連邦空軍も合わせて、約五百機ほどの戦闘機群が中国東北地域で戦線を形成していた。

 

 しかしながら長く独力で黒竜江省から内モンゴル自治区にかかる戦線を支え続けていた中国空軍の戦力は疲弊していた。

 公式発表では随分と勇ましい数字が並んでいた人民中国軍であったが、蓋を開けてみれば、その実態はボロボロの内容であったのだ。

 

 ファラゾアからもたらされたオーバーテクノロジーを世界各国共同で解析する事とその役割分担、得られた成果の共有を謳った、2036年に締結されたコペンハーゲン合意に関して、量子演算回路の解析を割り当てられた共産中国の対応はかなり不誠実なものであったため、逆に他国が解析した熱核融合炉や重力推進、新素材などといった技術的情報を最低限以上供与されないという状況に陥った。

 特に航空機技術に関しては、MONEC(Machinary Organization Network of Earthwide Connection)という官民学、さらには世界中の航空産業関連団体を取り纏め、且つ自身も新型機開発の牽引役となっている超巨大団体との連携を拒否した為、ファラゾアとの戦いに必須である戦闘機という兵器を開発する技術に於いて、他国に較べて大きく立ち後れていた。

 

 また旧共産党政府は、国連軍を含めた他国軍が自国内に展開する事を嫌い、それらが領土内に駐留する事を拒否していた。

 前述の悲惨な実態を他国に知られたくなかった事、また自国領の深部に他国の軍事力を置きたくなかったこと、自国領を他国の者が自由に行き来することを嫌ったものと思われた。

 その為旧共産中国は技術的な意味でも、軍事力的な意味でも、国連を含めた他国の支援を殆ど得られず、最先端技術を利用できない国内で開発・生産された旧世代の戦闘機をいつまでも使い続けてファラゾア戦にあたるしかなかった。

 

 それは即ち、ファラゾア来襲時2035年当時の装備そのままに対ファラゾア戦を戦い続ける事に他ならない。

 敵を探知する能力は極めて低く、機動力にも劣り、弾薬数にも大きな制限があり、また射程も短い。

 その様な劣勢をカバーするべく旧共産党政府が打ち出した戦略と戦術は、中国らしいと言えば中国らしい、しかし数十年を一気に先祖返りする様な物量作戦であった。

 

 国内にはハミ降下点一つを抱えるのみであった中国は、その工業生産力に大きなダメージを負っては居なかった。

 戦時緊急策として、航空機製造とそれに関わる産業に大号令をかけ、さらには徴集した人員を大量に投入し、兵器の大増産体制を整えた。

 若年層のみならず幅広い年齢層に対して徴兵を行い、次々と生み出される兵器を扱うための兵士を大量に養成した。

 そうやって生み出された戦闘機部隊が次から次へと戦線に送り出され、ファラゾアと戦って戦線を支えた。

 

 しかし技術力に大きく劣る戦闘機部隊は、思う様な戦果を出せず、そして徒らに損害だけを積み上げていく。

 共産党政府が崩壊し中華連邦が成立した2045年時点において、国連軍戦闘機部隊の前線における一年後新兵生存率は40%にまで向上し、一般兵士の一年間生存率は60%近い平均値を示す様になっていた。

 それに対して人民中国軍の数字は、新兵で20%、一般兵士でも35%という非常に低い値であった。

 

 改善されないままの兵器と兵士の損耗率は、社会や産業に深刻な影響を与え続ける。

 戦況が好転しないことに焦れた共産党政府は、損耗率が改善されないままにより多くの戦力を戦線に送り出し、さらに被害を広げる。

 古来中国の得意な人海戦術、或いは物量作戦であったが、それを遙かに凌駕する物量を誇るファラゾアに対して有効な手段では無かった。

 

 疲弊した社会や産業が生み出す兵士や兵器の質は徐々に低下していき、質が低下することで損害をさらに増加させ、疲弊がさらに深まるという最悪の循環にはまり込む。

 将来のことが全く見通せなくなった社会と、まるで消耗品の様に次々と戦地に送り出されては、還る事の無い兵士達。

 戦時体制の下、軍事一色に染まり閉塞し息苦しい生活、悪化し続ける経済活動、苦しく鳴り続ける生活、きつくなり続ける国からの締め付けは、人々の中に不満を急速に蓄積させ、やがてはそれが共産党政府打倒の流れへと変わっていくのだが、それはまた別の話である。

 

 共産党政府が斃れ、連邦中国政府がそれに取って代わり、国連軍が進駐してハミ降下点とノーラ降下点の前線防衛任務に就いた事で、兵力の垂れ流しの様であった中国軍の際限のない損耗には歯止めが掛かった。

 しかしながら、新たな技術の情報を導入できなかった事に依る技術的な遅れと、多数の兵士が戦場で命を落とした事、それらを戦時体制の強化という数の力技だけで解決しようとして、無理に無理を重ねた事に依る社会的な歪みはそのままに残った。

 それらは数年で簡単に解決するものでは無く、中華連邦成立後七年経過した2052年になってもまだ、中国の産業と軍事に大きな影を落としており、やっと他国並みに「正常化」出来る事に目処が立ったと云ったところだった。

 

 その様な状況の中にある中国である為、MONECから委託されてライセンス生産される戦闘機の質は余り良いものとは云えなかった。

 MONEC或いは近隣国日本の戦闘機製造会社である高島重工業から直接技術者が指導に入った航空機製造会社は比較的マシな方だった。

 何千何万という点数の部品を製造するそれぞれの部品製造会社が、核融合炉を持ち重力推進で飛び、レーザーを発射してその気になれば簡単に月まで往復できる、現代の戦闘機の技術に付いて行く事が出来ないのだった。

 

 結果、中国国内で製造された部品を使用する中国製の戦闘機と、同じ部品メーカーからの部品供給を受ける統一朝鮮にて製造される戦闘機はトラブルが多く、他国のものに比べて故障率が異常に高くなった。

 その技術的問題はまだ完全には解決されておらず、前回の降下点殲滅作戦である「Silk Road」を行った後、いまだ十分な数の稼働戦闘機がそろえられていないのが現状であった。

 

 その結果、とりあえず戦線を構築するだけの数の戦闘機を出撃させることはできたものの、長時間の戦闘で疲労困憊した部隊を交代させ、撃破された戦闘機を補充して、戦線を維持するための機体を十分にそろえることができなかった。

 戦闘が長時間になり、また機動降下した四千五百機が中国東北部に雪崩れ込んだことで、その問題が表面化した形となった。

 その結果、戦線が崩壊し、そしてその崩壊した戦線を立て直すために達也達666Th TFWが今、上空から突入しようとしている。

 

 つい先ほどまで頭上にあった黄色味がかった茶色の大地が今は正面にある。

 冬場の中国東北部の大地は、緑も少なく、所々が雪に覆われており、白い雪を被った農業地域と灰色の都市部がまるでまだら模様のように存在する。

 達也達666Th TFWの二十機は宇宙空間と同じ色をした暗い空を背景にして、まるで機動降下を行っているかのように高空から大地に向かってほぼ垂直に降下を行っていた。

 重力推進による約30000mの降下は僅か二十秒ほどでしかない。

 降下して高度が下がるにつれ濃密になる大気との間で発生する熱と、ほんの数秒引き起こしのタイミングを間違えるだけで、菊花ミサイルのように大地に叩き付けられることを警戒しながらの降下となるが、かといってのろのろとゆっくり降下していたのでは、前方にひしめき合う大量の敵から集中攻撃を受けて良い的になってしまう。

 

 まるで天蓋から金属でできた小片が剥がれ落ちるかのように、はらりはらりと各小隊ごとにデルタ編隊を組んで降下に移った彼らは、重力推進によるパワーダイブを用いて、頭のネジが何本もまとめて飛んだとしか思えないM6.0という高速で垂直降下を行った。

 

 目標の高度10000mに近づくにつれて急速に減速した二十機は、まるで曲技飛行団がデモンストレーションで下方開花を行っているかのように北東方向と西方に向けて二手に分かれて水平飛行に移った。

 

フェニ(オール)ックス隊全機(フェニックス)、FOX1、FOX1。」

 

 レイラの声がレシーバ越しに飛び、AAMにしては大柄な白いミサイルが翼下パイロンを離れて次々と落下していく。

 僅かな間、無推力でふらふらと落下していたミサイルは、炎も煙も噴かずに突然前方の敵に向けて突進し始める。

 そして母機から十分な距離を取ったところで再度加速し、瞬時にM5.0へと達した後にランダム機動を開始し敵機の存在する空間に向けて突っ込んでいく。

 一方、蘭花ミサイルを撃つ666th TFWの方はと言えば、レイラのかけ声で一斉にミサイルを撃つのではなく、小隊ごとに十秒程度の時間差を付けた上で、ミサイルが扇状に広がるようにアドリブを入れていた。

 一度に発射してはミサイルが互いに干渉し合い最適な航路がとれない可能性があること、敵機が戦線に沿って数十kmから百kmほどの幅で存在しているため、できるだけ多くの敵を巻き込んで最大の戦果を得ようとした結果だった。

 

 北東方向に向けて放たれた十八発と、西に向かった二十二発の蘭花は、戦線を構成する敵機群に向けて襲いかかった。

 高速で接近するミサイルに反応して、ファラゾア機はそれを回避しようと高機動を行うが、逃げた先に1000Gもの最大加速で別の蘭花が飛び込んでくる。

 蘭花の重力共鳴の範囲はAGG全開時で半径数kmにも及び、その範囲内に存在するファラゾア機は全て重力推進器に不調を来たし落下するか、あるいは機動力が極端に低下する。

 撃墜には至らずとも機動力を奪われたファラゾア機の傍を別の蘭花が通過し、止めとばかりに完全に推進力を奪い去る。

 推進力を奪われたファラゾア機は、当然落下する。

 

 後方を急襲され、戦線に沿って帯状に存在するファラゾア機の群れを、その分布に沿って端から喰らい尽くすように撃たれたミサイルが、敵の群れの中を喰い進み大きな穴を開ける。

 蘭花は一度だけでなく、二波三波と敵機の群れに襲いかかり、敵機を追い散らし、追い詰め、撃墜する。

 敵のレーザーに撃ち抜かれ、あるいは濃密な大気の中を高機動することで発生する熱により徐々に崩壊して、一機また一機と数を減じながらも、飛べる限りはとことん敵を追い詰め撃墜しようと、蘭花は執拗に敵を追い回す。

 戦線がほぼ崩壊していたチチハル北方の戦闘空域で、四十機のミサイルが戦闘空間を縦横無尽に駆け回り暴れ回って、千機以上の敵機を撃墜した。

 

「そろそろ我々の出番だ。奴等を殺し(KIll`em )尽くせ(all)。アタック。」

 

 蘭花に散々蹴散らされたファラゾア機群に、今度は二十機の銀雷が襲いかかる。

 

 A1小隊の達也達三機は、重力推進の高機動にものを言わせて一瞬でその場から消え去り、それぞれが敵機に食らいついて見る間に撃墜数を上げていく。

 まるで三機がまとまってひとつの生物であるかのように連動するA2小隊は、正面に集中した火力にものを言わせて、進路上に現れた敵を次々に殲滅し戦闘空間から消し去っていく。

 A2小隊に比べて僅かに拙い動きのC1小隊であるが、やはり三機ひと組のデルタ編隊を組んで敵の群れに突撃していき、とはいえ一般の兵士達が駆る戦闘機とは明らかに異なる機動と連携を見せながら、辺りの敵を片っ端から撃墜していく。

 

 状況的に見て最適な場所と方向で投入された蘭花ミサイル四十発と、それに続く666th TFWによる敵戦線後方の殲滅攻撃はごく短時間の内に合わせて四千機近い敵機を戦場から消し去った。

 機動降下して雪崩れ込んできたファラゾア戦闘機とほぼ同数が戦線から取り除かれ侵攻圧力を減じたことで、中国東北部の地球連邦空軍はどうにか勢いを取り戻し、崩壊する寸前であった防衛戦をどうにか再構築することに成功した。

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 3回目のコロナワクチン接種は結構酷い目に遭いますね。

 ちょうど運悪く数日前に腰を痛めていたもので、本気で酷い目に遭いました。

 

 GWですが、不規則になっている投稿がさらに不規則になってしまいます。申し訳ありません。


 GWさえ明けさえすれば、きっと。

 ・・・多分。

 ・・・改善すると、いいなあ・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] “ 核融合炉を持ち重力推進で飛び、レーザーを発射してその気になれば簡単に月まで往復できる、現代の戦闘機” 改めて聞くとマジで何言ってんのかワカンねぇな、これ。
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