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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第九章 TACTICAL PROJECT 'BOLERO' (ボレロ)
242/405

23. MA-1B 桜護改

 

 

■ 9.23.1

 

 

「こちら統合管制ソヴァ01。ヨザクラ、敵艦隊を迎撃せよ。戦艦二、空母四、護衛八。ノーラ降下点ポイントゼロ上空550kmに展開中。敵艦砲射撃に注意。空母から艦載機降下中。」

 

 極東方面全域を統合して管制しているAWACSからの指示で、アムール川東方空域で待機していた桜護部隊が進路を北東にして前進を開始する。

 

 「夜桜」という部隊名を付けられたこの部隊は、ハバロフスク航空基地から出撃した新型のMA-1B「桜護改」三機からなる攻撃機部隊である。

 旧モデルMA-1桜護は桜花ミサイルを翼下四発、胴体内八発の計十二発搭載していたのに対し、翼下四発、胴体内十六発の計二十発へと搭載量が増えたことがこのタイプ改の最大の特徴となっている。

 また旧モデルでは胴体内ローダに格納された桜花を機体下部のウェポンハッチから投下して発射していたのに対し、新モデルでは胴体内桜花ミサイルをイジェクタと呼ばれる強制排出装置内に格納しており、このイジェクタにより桜花はウェポンハッチを通して機械的に機外に強制排出される。

 これにより桜護改は、例え背面飛行をしている時であっても桜花を発射することができるようになった為、ミサイル発射時にGPUを停止して直線飛行する必要がなくなり、敵艦隊存在下でのミサイル発射行動時の生存率が格段に向上することが期待されている。

 十六発の胴体内桜花は、両舷に四発格納イジェクタをそれぞれ一基、イジェクタの機体後方側に四発を格納したローダをそれぞれ隣り合わせタンデムで設置することによって、桜花がイジェクタから排出されればすぐさまローダから桜花が補充される仕組みになっている。

 

「夜桜01、諒解。

「全機、高度25000まで上昇し桜花各十二発、統制リリースする。敵戦艦の艦砲射撃と、艦載機の迎撃に気をつけろ。」

 

 通信を終えると同時に高度3000mに保ち、雲の中でデルタ編隊を組んでいた三機の桜護改のうち、先頭の一機が機首を上げ急激に上昇を始めた。

 一瞬で雲海の上に飛び出し、垂直に近い急角度で空を駆け上がっていく。

 残る二機がすぐにそれを追い、まるで水面から飛び出すミサイルの様に、立て続けに真っ直ぐ上を向いて加速していく。

 真っ白な真綿の絨毯の様な雪雲は急速に後方へと遠ざかっていき、コクピットの窓越しに見える前方の空の色がセルリアンブルーからダークブルー、そして黒へと変わっていく。

 

「桜花設定、戦艦に各四発、空母に各二発、護衛艦に各二発。弾種は戦艦徹甲、空母三式、護衛徹甲。余った四発は徹甲に設定しとけ。」

 

「諒解。徹甲二十八、三式八。」

 

 現在戦場に投入されている桜花ミサイルは、桜花typeCと呼ばれる改良型である。

 桜花TypeAは実戦に投入された初期型の桜花で、主に戦艦などの戦闘艦を標的としている。ミサイルは敵艦に着弾する瞬間に爆発し、反応弾頭は爆発しながら数十km/sという相対速度で敵艦体の内部に潜り込み、内部からの爆発で敵艦に甚大な被害を与える事を想定している。

 

 ちなみにであるが、桜花の反応弾頭の撃発は機体管制システムによって制御されている。

 数十km/sという高速度で敵艦に着弾した場合、着弾の衝撃による撃発信号が反応弾頭を爆発させるよりも、高速での着弾により弾頭が崩壊する方が早いためだ。

 

 TypeBは反応弾頭の爆発タイミングを早めたもので、ファラゾアの空母を標的とする。

 ファラゾアの空母は戦艦や護衛艦などの戦闘艦と較べると、艦体外殻が薄く、また大量の戦闘機を格納する為に艦体内にも空隙が多く存在する。

 戦闘艦に用いると同じ撃発タイミングで桜花の反応弾頭が爆発すると、数十km/sという相対速度と内部がスカスカの艦体構造によって、爆発が艦体に有効なダメージを与えないまま反対側に突き抜けてしまう現象が見られた。

 この為、反応弾頭の撃発タイミングを僅かに早めに設定し、敵艦に着弾する寸前に爆発させる事で、高速で膨張する核融合プラズマを脆弱な敵艦体構造に叩き付けて被害の拡大を狙うのがTypeBである。

 

 TypeAとTypeBの差は、反応弾頭の撃発タイミングの差と、核融合爆発の超高熱により蒸発するまでのほんの僅かな一瞬の間、艦体外殻と艦体内部構造を食い破り突き進む様にTypeAに備えられた厚めの帽体の存在のみである。

 その為、TypeAに備えられた分厚い帽体を持ち、かつTypeBと同じ撃発タイミングに設定出来るシーケンサパターンをプリセットとして格納し、簡単に切り替えられる様にした両用タイプが開発され、これがTypeCと名付けられた。

 TypeCの登場により、桜花母機である桜護は二種のミサイルを混載する必要が無くなり、その運用性に柔軟性を増すこととなった。

 

 ちなみに余談であるが、桜花TypeB開発にあたり、その機能と用途から開発中の弾頭は「三式」の愛称を開発チームから与えられていた。

 これは旧日本帝国海軍の対空榴弾砲である三式通常弾の名称を拝借したものであるが、偶然にもそのTypeB開発モデルナンバーが「FHAAOM001-MX248c3」であり、末尾の数字が3であった事にも依る。

 開発チームはこの開発中のミサイルの呼称に好んで「三式」の名を使用したため、そのテストを行う桜護パイロットやオペレータ達の間にもその名称が浸透した。

 

 最終的には、英語での「三式(type 3)」と「TypeB」の名称が紛らわしいという事で、公式に全てTypeBという名称に統一されたのであるが、他の部隊よりも日本人比率の高い桜護部隊の中で結局、TypeA/TypeBと区別するよりも、徹甲/三式と日本語で区別した方が分かり易いという理由で、日本語の「三式サンシキ」という名称が慣例的隠語的に使われる様になった。

 一般的に隠語好きな兵士達の間で、TypeCが実戦投入された後もその名称だけが残り、対戦闘艦用設定を「徹甲」、対空母用設定を「三式」と呼称するのが今や桜護部隊の慣例となっていた。

 また英語に於いても同様の理由で、TypeAをAP(Armor Piercing)、TypeBをHE(High Explosive)と呼び、TypeCの対戦闘艦用設定を「AP mode」、空母用設定を「HE mode」と呼ぶのが慣例である。

 

「高度25000到達。全機、桜花射出開始。十二発。」

 

 三機の桜護改は、高度25000mに達した後26000m程度までオーバーシュートしながら機体姿勢を変えて水平飛行に移る。

 水平飛行で安定するのを待つのももどかしく、機体下部のウェポンハッチから次々と桜花が射出される。

 桜花の排出機構が地球引力頼みであったローダから、機械動作による強制射出であるイジェクタに変わったことで、桜花の片舷排出速度もローダの4秒/発から2秒/発へと倍増しており、機体姿勢が傾いている今のような状態でも安定して排出できるようになっている。

 

 突然、編隊二番機の桜護改が火を噴き、速度を失い分解しながら落下する。

 

「02ダウン!」

 

「艦砲射撃か?! 避けようとして避けられるもんじゃねえ! 射出続行! ランダム機動維持! 02は何発撃った?」

 

「八発です! 徹甲四発不足!」

 

「オーケイ、01、03ともに徹甲二発追加だ。」

 

 これまでのロストホライズン時や、その他でも敵艦隊が軌道上に現れたときには、毎度の様に桜花ミサイルを抱えた桜護がそれらを迎撃し、そしてそれなりの戦果を挙げてきた。

 ファラゾア艦側も最近では、桜花や桜護を見かけると集中的に迎撃する様になってきた。

 

 しかしながら、ファラゾア艦による桜花或いは桜護の迎撃が100%成功するわけではなく、今でも数百kmの低軌道に現れるファラゾア艦隊は桜花によって迎撃され、一定の成果を挙げている。

 蘭花の様に低コストの戦闘機を高コストのミサイルで多数撃ち落とす様な微妙なコストバランスの戦いではなく、間違いなく高コストであろう数千m級の戦艦や空母を桜花で撃ち墜とされるのは、どう考えてもファラゾア側に大損害を出しているはずなのであるが、それでもいまだに戦艦や空母を低軌道に侵入させてくるファラゾアの不可解な戦術に、連邦軍情報部や参謀本部は首を捻っていた。

 

 つまり、桜花や桜護の存在を確認した場合には、それらを集中的優先的に迎撃しようとする戦技(テクニクス)レベルでの対応を明確に行ってきているのに対して、そもそも艦隊を低軌道に侵入させなければ良いだけという戦術(タクティクス)レベルでの対応に進歩が全く見られていない訳だ。

 ファラゾア艦隊が取る余りにちぐはぐな対応は、地球連邦軍上層部の悩みの種であった。

 考えあぐねた結果、敵の行動が論理的であろうが無かろうが、とりあえず手の届くところにわざわざ姿を現してくれているのだから、叩けるものは叩いてしまえ、と云うのが地球連邦軍の暫定的結論である。

 

「桜花十四発、排出完了!」

 

「全機反転降下。とっととずらかるぞ。」

 

「03、諒解(ラジャー)。」

 

 それぞれ四秒ずつ追加の時間を使って、十四発ずつの桜花を輩出し終えた桜護改二機が、巨体に似合わない機動性を見せて背面に反転し、その後垂直急降下する。

 

 放出された桜花三十六発は、大気圏上層部の薄い空気を切り裂き、ランダム機動を行いながら、ファラゾア艦隊に急速に加速する。

 ファラゾア戦艦と護衛艦が大量の迎撃レーザー砲を撃つ。

 レーザーは地球大気を透過し、地表近くを漂う雪雲に当たって散乱し熱エネルギーを辺りにぶちまけた結果、雪雲は穴だらけになりあちこちで地表が露出する。

 雪雲が消えたスペースを通ってレーザーは地表にも降り注ぎ、揺らぐ大気でかなり威力を弱められたとは言え、地表を抉り燃え上がらせた。

 レーザーの着弾点は幸いにも、雪に覆われた広大な寒冷森林地帯の広がる地域であったため、自然破壊はともかくとして地球人類側に損害は発生していない。

 

 ロストホライズン或いはそれに類じた、低軌道に現れた敵艦隊が大気圏内での戦いに介入してくるという状況下での桜花による敵艦隊迎撃行動は、強力な火力を持つ敵艦隊の眼を桜花に釘付けにし、空中で敵戦闘機部隊と戦う地球側の戦闘機隊から敵の目を逸らせるという副次的効果もある為、敵が桜花迎撃を行う様になった後に積極的に採られる様になった地球連邦軍の戦術でもある。

 

 戦艦を含めた十隻もの敵艦隊の艦砲射撃によって集中的に迎撃され、その数を二十七に減じた桜花は、地球の大気を振りきり、宇宙空間に出て真っ直ぐに敵艦隊に向けて突進する。

 地球大気による抵抗と熱の影響を受けなくなった二十七発のミサイルは、その最大加速力1500Gで加速しながら、高度550kmの敵艦隊に肉薄した。

 

 戦艦二隻に対してそれぞれ三発ずつ向かった計六発の桜花の内、戦艦に着弾したものは三発であった。

 戦艦の内、一隻は二発の桜花徹甲の直撃を艦体中央部と中央部やや後よりの位置に受け、機能に甚大な被害を受けたため、撃沈は免れたもののほぼ航行不能となった。

 もう一隻は、艦体前部に桜花徹甲一発の直撃を受け、艦首から500m程度の部分に大穴を開けられつつも、艦そのものの機能を失いはしなかった。

 

 それぞれ二発ずつの桜花三式の攻撃を受けた空母四隻の内、二隻は桜花三式の反応弾頭による核融合プラズマの直撃を受けて艦体の一部を吹き飛ばされへし折れて、機能停止、撃沈の判定が成された。

 一隻は艦体中央部やや前寄りの位置に一発の直撃弾を受け、その部分から艦体が真っ二つに折れて艦体の前1/3を失い大破したものの、航行能力を失いはしなかった。

 空母もう一隻については桜花三式が一発のみ突入したが、その突入角度が浅く、空母が張る重力シールドによって桜花三式の軌道が大きく逸らされた。

 その結果、反応弾頭の爆発プラズマも大きく逸らされることとなり、空母の格納庫の一部を吹き飛ばして中破させたに留まった。

 

 艦体長500から800mの八隻の護衛艦については、内二隻が撃沈、一隻を大破、一隻を中破に追い込んだ。

 護衛艦四隻については、ミサイルを重力シールドで上手く逸らされてしまい、損害を与える事が出来なかった。

 戦艦、空母、護衛艦いずれも同程度の強度の重力シールドを張っているが、的の小さい護衛艦についてはミサイルを上手く逸らされてしまい、全く損害を与える事が出来ないという状況が頻繁に発生するのだった。

 

 対地攻撃ミサイル菊花による降下点の破壊から始まった、地球人類によるノーラ降下点攻略に介入してきたファラゾア艦隊であったが、素早く対応した地球連邦軍の迎撃により、艦砲射撃による地球連邦空軍機への攻撃をそれ以上継続する事は出来ず、空母から降下させた戦闘機約4500機を大気圏内に突入降下させるに留まった。

 結局ファラゾア艦隊は、地球連邦軍側の対艦ミサイル桜花を用いた迎撃によって艦隊に甚大な被害を受けた後すぐに、航行能力を残した戦艦一隻、空母二隻、護衛艦五隻が地球軌道上から飛び去り姿を消した。

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 ここのところ投稿が不定期になってしまっており、申し訳ありません。

 ・・・GW明けしばらくすると仕事も落ち着くはず・・・です。


 攻撃機「桜護」と桜花のセットも改造してみました。

 桜護シリーズはそれなりの数生産され、大規模な戦闘が起こったときは常に必ず後方に待機しており、敵艦隊の出現に備えています。

 MONEC、スホーイ、アントノフ、ボーイングなどの他の航空機メーカーは、同様の機体を開発していません。

 既に在り、ちゃんと使えている機体の対抗馬を設計することは、リソースの無駄遣いになる為です。

 この辺りは、戦闘機開発/生産者組合の一面も持つMONECと地球連邦軍が舵取りをしています。


 最後になりましたが、新たに本作へのレビューを頂きました。

 感激の余り小躍りしてしまうくらい嬉しいです。ありがとうございます。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 艦隊への戦果は戦艦1空母1で残りは逃げられたか。 ファラゾアは修理も機械でやるから復帰も早そう。何となく生物が居ないから気密性無視して一通り装甲されてれば良さそうな感じだし。 次は桜花を潜り…
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