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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第九章 TACTICAL PROJECT 'BOLERO' (ボレロ)
241/405

22. ノーラ降下点攻略開始


 

■ 9.22.1

 

 

「こちら極東方面統合管制ソヴァ01。極東方面の全機に告ぐ。キッカミサイルによる対地殲滅攻撃終了。全機前進開始。敵残存数一万五千。ミサイルの着弾衝撃波に注意せよ。」

 

 方面統合AWACSの指示により、アムール川上空に集結していた、ハバロフスク、コムソモリスク・ナ・アムーレなどの極東シベリア方面基地から出撃してきた約三百機と、日本海に展開した潜水機動艦隊から出撃してきた約四百機が、アムール川を越えて北西の方向に進軍を始めた。

 対するファラゾア側は、当初一万七千機かそれ以上の数が見込まれていたが、菊花の着弾による被害で数を減じており、地球人類側のAWACSは約一万五千機の残存を確認していた。

 

 人類側の戦力は、極東シベリア方面からは、地上基地から出撃した連邦軍、ロシア軍、日本軍の混成部隊311機と、日本海に展開した潜水機動艦隊から出撃した、達也達を含めた417機、中国モンゴル方面からは、東南アジア方面から転戦してきた172機を含めて連邦軍と中国軍を中心とした各国軍合わせて489機、中央アジア方面からは、ハミ降下点を殲滅したことでタクラマカン砂漠方面から転戦してきた132機を含めた246機がこの戦いに臨んでいる。

 一万五千機も撃ち漏らしてしまったファラゾア戦闘機の大部隊から多数が、万が一戦力の薄い中央アジア方面に侵攻すると地球人類側は相当に苦しい戦いを強いられることになるのだが、その点においては連邦軍参謀本部の読み通り、ファラゾア機はより人口密集地帯の多い中国・極東方面に向けて雪崩を打つ様に動き、極東シベリアから中国東北部にかけて展開した地球側勢力の主力と激突した。

 

「フェニックス、こちらソヴァ05。Zone05まで速やかに前進。500kmラインを越えたところでAAM発射。そのまま500kmラインに留まり戦線を維持せよ。クラーチカと日本(ジャパン)海軍(ネイビー)のマーレがカバーに入る。敵部隊はZone03に展開、急速に接近中。速度M4.5。敵に500kmラインを越えさせるな。」

 

「フェニックス了解。500kmラインまで前進する。

「フェニックスリーダより各機。500kmラインまで前進する。速度M4.0。AAM発射準備(レディ)。続け。」

 

 言うや否や、レイラの機体が弾かれた様に加速し前に出る。

 一拍遅れてL小隊のポリーナとセリアが加速しレイラを追いかける。

 残る十八機がさらにその後に続いた。

 

 すぐ後方に展開したAWACSから常に戦術情報が送信されてきており、HMDには敵情報が投映されている。

 ファラゾア来襲の後常に最前線であり続け、戦線を一度も後退させたことの無いこの激戦区のAWACSは、子機が撃墜されることも恐れず、戦線のすぐ後ろにAWACS子機を配置して高精度の敵情報収集を行いつつ、得られた情報を戦線で戦う味方機にほぼリアルタイムで提供し続けるという豪胆な配備を取っていた。

 最前線に於いて気が遠くなるほどに幾度となく繰り返された敵との攻防の中でその采配の技術も磨き上げられ、最前線で戦う戦闘機隊にとって信頼のおける管制部隊となっていた。

 

「フェニックス、あと十秒で500kmラインに到達する。ミサイル発射(リリース)用意(レディ)。」

 

「フェニックスリーダより各機。カウント5でミサイルリリース。5、4、3、2、1、フェニ(オール)ックス全機(フェニックス)、FOX1、FOX1。」

 

 飛行隊長のレイラ機を先頭として、鏃の様な形の大きな変形デルタ編隊をミサイル発射のために通常よりも間隔を開けて緩く組んだ二十一機の銀雷が、翼下パイロンに懸架された各四基の蘭花ミサイルの内、二基ずつを発射する。

 リリースの指令と共にパイロンから切り離されたミサイルは、しばらく自由落下して母機からの距離を取った後、重力推進による加速で母機を置き去りにして前方に向けて飛び去る。

 前方に飛行して母機から充分な距離を取ったところで、四十二発のミサイルはさらに加速して視野の中で急速に小さくなっていく。

 

 ロケットモータによる白煙を引くことも無く急速に飛び去っていく白いミサイルを肉眼で追えるのは発射後の僅かな間だけであり、その後はHMD上に投映される味方ミサイルを示す青三角形のマーカのみでその位置を知ることが出来る。

 彼等戦闘機隊によって形成された戦線のすぐ後方に展開するAWACS隊は、精度の高い探知能力でより詳細にミサイルの動きをモニタしていた。

 

 ミサイルとしては一発当たりの価格がかなり高い部類に入る蘭花は、実は一部の部隊にしか配備されていなかった。

 もちろん、一発のミサイルで敵を一機撃墜できるかどうかと云った一昔前のミサイルに較べれば、一発で複数の敵、事によると数十機もの敵を撃墜する事が出来る蘭花は、その意味に於いては非常にコスト対効果の高いミサイルであると言う事が出来る。

 

 しかしながら今現在地球人類が相手にしているファラゾアという敵は、一度に数万もの戦闘機を戦場に投入する事が出来、日産数千機もの戦闘機製造能力を持っている。

 敵戦闘機一機当たりのコストが信じられないほどに安価であろう事は想像に難くなく、例え一発のミサイルで十機のファラゾア戦闘機を落としたとしても、実際のコストインパクトとして、ミサイルを撃った側と戦闘機を落とされた側のどちらがより大きな損害を受けているのかどうにも判断が付かないというのが現状であった。

 その為、熱核融合炉(リアクタ)(Thermonuclear Fusion Reactor:TFR)、AGG/GPUを備えた高価で且つ製造数量がまだ十分でないこのミサイルは、「撃ち時」を正しく判断出来る一部のエース部隊にのみ配備されているのだった。

 

 666th TFWから放たれた四十二発の蘭花ミサイルは、加速を開始した後一気にM6.0まで速度を上げて、500kmラインに展開する連邦軍を中心に構成された地球人類側の戦闘機部隊に向かって今にも襲いかからんとしているファラゾア戦闘機の大部隊に対して、放射状に広がる様に互いの距離を取りつつ突っ込んで行った。

 ファラゾア大部隊の前面に向けて反応弾ミサイルを撃ち込んでくるという従来の地球側の戦術を警戒してか、真っ直ぐ突っ込むミサイルを避ける様にして、まるで雲の様に大きく広がるファラゾア戦闘機群に幾つもの大きな穴が空く。

 当然その分だけ、敵戦闘機の密度が高い部分が生まれることとなり、蘭花はその様な敵密度が高い空間を目敏く見つけて、急旋回し、突撃していった。

 

 既に反応弾頭ミサイルである疑いは晴れたのであろうが、ファラゾア戦闘機は蘭花の突撃を避ける。

 加速能力ではファラゾア戦闘機には劣るものの、状況を読み取り判断する反射速度では地球人の遙か上を行く、AIを備えた四十二発ものミサイルがファラゾアの群れの中を乱れ飛ぶ。

 蘭花の接近を避けようと高機動したファラゾア機が、半ば偶然ながらも狭い空間に複数機集まる。

 すかさずそこに蘭花が飛び込む。

 蘭花がAGGを全開にした時のGv-Res(重力共鳴)半径は数kmに及ぶ。

 即ち、1000m離れた所を蘭花が通過するだけで、ファラゾア戦闘機は重力推進器に不調を起こし落下する。

 流石に敵の反撃に遭い撃墜され、全機無事ではいられなかった三十四機の蘭花が辺りに見えない破壊を振り撒きながら空間を飛び交う。

 

「タリホー。エンゲージ。ブレイク。ランカに近付きすぎるな。こっちまでやられるぞ。」

 

 500kmのラインから少し内側に入り込んだところで666th TFWはファラゾア群と接触した。

 レイラの交戦開始宣言により、二十一機の銀雷が、まるで腹を空かせた肉食獣の檻に餌の肉塊を投げ込んだかの様に、獲物に向かって喰らい付いていく。

 

 地球人類の戦闘機のAGGは、蘭花のGv-Resによる影響をファラゾア戦闘機よりも比較的受けにくいとは言え、全く受けないわけではない。

 蘭花に1000m先を飛び抜けられればそれなりに不調を来し、しばらくの間不調を抱えたまま飛ぶことになる。

 しかしそこは頭の良い蘭花のこと、地球側の戦闘機の存在をAGGが発する重力波で見分けて、接近しすぎないように軌道を変更して自ら距離を取るという機能を持っている。

 それは地球側戦闘機に対してだけではなく、同じ空間を飛ぶ蘭花同士にも当てはまる。

 

 666th TFWはいつも通り各小隊ごとに分かれて戦闘を開始した。

 達也率いるA1小隊も、いつも通り個人技特化による大量破壊を開始し、A2小隊がその後をフォローして、達也達に掻き回された戦闘空域の中で、飛び回る達也達三機に気を取られた敵機を集中した火力で脇から次々と撃破殲滅していくというところまで、全くいつも通りの戦い方であった。

 

 やがて敵の群れの中を飛び回り次々と敵機を追い落としていた蘭花が、あるものは敵に撃墜され、またあるものは敵を追うために濃密な大気の中で最高速度M10を越える高機動を繰り返す中で徐々に機体が崩壊して機能を失い、ひとつまた一つと消えていく。

 

「フェニックス、こちらソヴァ05。戦闘空域の全ランカミサイル消滅。好きに暴れろ。」

 

「フェニックス、了解。ウチのクソガキどもを野に放つ。

「フェニックスリーダより各機。聞いたな? あまりママから離れるなよ? ママが寂しい。」

 

 レイラの指示に、激しく格闘戦を行いつつも666th TFWの面々から笑い声が上がる。

 

 激しい戦いの中でなんとも締まらない会話で冗談を飛ばしてじゃれ合う666th TFWの会話を脇で聞きながら、666th TFWが戦う空間を担当する空間管制ソヴァ05の担当オペレータは、搭乗するAWACS母機内のコンソールに向き合い冷静に戦況を分析しつつ、先ほど全機消滅した蘭花ミサイルによる戦果を集計する。

 発射四十二発、敵到達四十二発、平均生存時間5.75分、全撃破数2052機、平均撃破数48.9機。

 悪くないぞ。全く悪くない。

 やはりランカは、敵戦闘機が大量かつ濃密に存在する空間に投入するのが一番効率よく敵を墜とせる。

 刻々と変わる戦況を映し出すCOSDARモニタを監視する傍らで、オペレータは簡易的に集計した結果を小さなウィンドウに表示させて確認した。

 

 簡易分析結果に目を走らせたオペレータは、表情を変えず満足げに頷くとその場での分析を中止し、蘭花ミサイル関連データをひとまとめにして機内のデータサーバに放り込むと同時に、バースト通信に載せて後方の司令部に向けて送り出し、戦況の監視に戻った。

 今の戦闘によるデータは、蘭花を使用した過去データと併せて情報部か参謀本部で分析され、兵器の改良や、兵器を投入する戦術の改善に用いられるのだ。

 

 高価な重力推進式ミサイルを存分に暴れさせるため、戦闘空域に制限をかけられていた666th TFWは、その軛を解かれ、持てる力を存分に発揮させて続々と押し寄せる敵の大集団の中で目を見張る様な戦果を挙げていく。

 

 もともと空力航空機とは思えない機動をし、地球側の戦闘機よりもファラゾア戦闘機に近い人間離れした動きで戦っていた達也であったが、AGGセパレータという新機構を備えた最新鋭機を得たことで、その機動にさらに磨きが掛かっていた。

 

 ガンサイト内に表示された敵機マーカを、自動照準の助けを借りつつ次々と撃破する。

 その間、機体は重力推進によって機首の向きとは全く異なる方向に動き続け、さらに重力推進を使って小刻みにその軌道を変えてランダム機動を続ける。

 ランダム機動を行いつつも、機首は常に目標としている敵の集団を向いており、切れ間無くガンサイト内に多数の敵マーカを捉え続け、ほぼ最高の効率で自動照準のシステムが働き続けて、あり得ない速度で撃墜数のカウントを増加させる。

 その間に機体は少しずつロールし、目標としていた集団を全て撃破すると、空力を利用して瞬時に機首の向きを変えて次の集団をガンサイトに捉えて攻撃し始める。

 相変わらず機首の向きと機体の移動方向は全く一致しておらず、時には背面飛行で機体後部を前にして飛行し続けながら、空力による姿勢制御と重力推進による機体の回転を併用して、新たな敵集団を見つけては集中攻撃を行い、殲滅しては次の敵集団に機首を向けるという動きを繰り返す。

 だからといって闇雲に敵を見つけては喰らい付いていっているだけかと言えばその様な事は無く、機体は常に高度4000から8000mを維持しており、味方である666th TFWの他の機体が戦う空間の外縁、特に敵が侵攻してくるノーラ降下点側の空間に存在する様にコントロールされており、次々と常に新しい敵機が「供給」され、効率よく敵を叩き墜とすために都合の良い、敵密度が最も高い空域を外れることなく動き続けている。

 

「コイツ、イカレてるわ。戦闘開始二十分でもう撃墜二百四十? いやいやいや、おかしいだろ、これ。バケモン、というよりむしろ殺戮マシーン? 静止目標でもこんなに墜とせねえ・・・」

 

 モニタ上に表示される異常な動き方を思わず眼で追ってしまったフェニックス02の詳細情報を表示させて、そこに並ぶこれもまた異常な数字に思わずと云った風に独り言を漏らしてしまったソヴァ05のオペレータは、突然モニタに大きく表示された赤い点滅警告に目を見開いた。

 

 WARNING: PHARAZOREN FLEET

 

「こちら統合管制ソヴァ01。敵艦隊が出現した。ノーラ降下点ポイントゼロ上空、高度550km。戦艦二、空母四、護衛艦八。艦砲射撃および敵戦闘機の降下が見込まれる。全機警戒せよ。繰り返す。こちらソヴァ01。敵艦隊が出現した。ノーラポイントゼロ上空・・・」

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 達也君の変態機動はますます磨きが掛かっています。

 蘭花の動きは、フ○ンネルを想像して戴ければ、一番近いかと思われます。勿論、遠隔でのコントロールは出来ませんし、ビームも出しませんが。

 ビームは出さないけれど、近寄られたらお終いです。

 ・・・ビーム出すよりタチが悪い様な気が・・・

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[良い点] 面白かった [一言] 航空戦はちょっと満腹気味。
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