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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第八章 Base Deffence (基地防衛)
203/405

32. BASTARD(クソガキ)


■ 8.32.1

 

 

「しかし・・・見事にバラバラだな。同じ部隊の戦闘機がこれだけ揃わないというのもな。」

 

 達也は周りを見渡して、前方から右側、さらに後方を飛んでいる僚機達、即ち3666TFSが形作っている五つのデルタ編隊による自機も含めた十五機の編隊を眺めると、思わずと云った風に呟いた。

 

 現在達也達3666TFS(フェニックス)は、日本から中国内陸部を経由し、最終経由地である蘭州から酒泉に向けて移動する予定の特殊攻撃機部隊を護衛(エスコート)する任務のため、酒泉基地を出て蘭州に向かっているところであった。

 その為、普段のRAR(武装巡廻偵察)任務ではなかなか発生しない、飛行隊全機での編隊飛行を行っている。

 そしてその飛行隊全機で形作っている十五機の編隊は、半ば呆れ声で達也が思わず呟いたのも無理からぬ様相を呈している。

 

 現在の3666TFSの機体構成は、飛行隊長のレイラを含めて七機が高島重工の雷火、A2小隊長である沙美達五機がMONECのモッキングバード、達也達A1小隊は高島重工の最新鋭機である鋭電という構成になっていた。

 特に今回新たに転属してきたB2小隊長であるゲイリー・レベッキーニ中尉率いるB2小隊に於いては、小隊長は雷火、他の二機がモッキングバードと、小隊内に於いてさえ機種が統一されていない状態であった。

 

 当然の事ながら、戦闘中常に共に行動する小隊に於いては、その性能や挙動と云った特性が一致する様に、同じ機体で統一されることが理想、というよりも本来であれば当然の事であった。

 しかし毎日のように次々と機体が破壊され、或いは撃墜される最前線に於いて、希望する機体の供給が間に合わず、この様にバラバラの機体構成になることが実質的に頻発していた。

 彼等3666TFSは、エース中のエースを集めたドリームチームという事で、優先的に高性能な新型機を回すことを誰もが認めているため、最低限全て最新の世代の戦闘機で揃えられているが、一般の兵士達で構成される他の飛行隊では、とりあえず飛べる機体を調達した結果、機種も世代もごちゃ混ぜのアンバランスな機体構成となっている事も珍しくは無かった。

 

 人類側の戦闘機の需要と供給に関する窮状を誰もが知っているので、達也が呟いた言葉が聞こえていたとしても、それに反応して声を上げる者は居なかった。

 

 やがて彼等3666TFSの十五機は600km以上あった酒泉ー蘭州間の移動の終わりに近付き、飛行隊長であるレイラが蘭州基地の管制に連絡を取った。

 

「LHW(蘭州中川空港:現蘭州航空基地)コントロール。こちら3666TFS。聞こえるか?」

 

「3666TFS、こちらLHW。よく聞こえる。」

 

「現在方位33より高度40、速度50でLHWに接近中。距離15でIFF単信。日本のお姫様を迎えに来た。撃つなよ。」

 

「LHW諒解。あー、お姫様だが、痺れを切らしてそろそろ出発するそうだ。予定ではLHW出発後、方位00高度30で300km北上の後、方位30に転針となっている。蘭州北方でのランデブーになると思う。姫様出発後は3025ACSコンミンが管制担当する。」

 

「は!? 対空戦闘能力の殆ど無い特殊攻撃機部隊だってんで、指名されてわざわざ出張って迎えに来たんだぞ? 裸でお家を飛び出してどうする気だ。重大な任務を帯びてる部隊って話だったんだ。間に合ったから良かったものの、バカやらかす前にアンタも止めろよ。」

 

「無理だって。その重大な任務が一刻を争うかも知れないと言われて、参謀本部からの命令書ちらつかされちゃ、こっちも黙るしかねえだろ。言わばこっちも被害者なんだ。勘弁してくれよ。」

 

「ち。分かった。せっかちな姫さんに直接抗議する。で、もう出たのか?」

 

「ちょうど上がり始めた所だ。蘭州北方100km地点到達予想は15分後。あんた達が今すぐ針路09に転針すりゃ、ちょうどぶつかる。」

 

「諒解。フェニックス転針。方位09、高度40、速度50。」

 

「LHW諒解。健闘を祈る(グッドラック)。」

 

 転針を宣言すると、レイラの機体は蘭州管制からの返答を聞くこと無くすぐに左に大きくバンクして旋回を始めた。

 L小隊の二機がそれに続いてデルタ編隊を保ったまま旋回して行き、A1、A2、B1、B2各小隊の順に見事なデルタ編隊を組んだまま次々と東に旋回して行く。

 大量の敵機との大乱戦の中でもデルタ編隊を維持できるだけの技量を持った3666TFSのパイロット達が、平時の旋回で編隊を乱すことなど有り得ず、旋回を終えるとすぐに僅かに高度差を付けた五つのデルタ編隊が再び綺麗に並ぶ。

 

「ったく。基地に降りてコーヒーの一杯も飲めねえのかよ。迷惑な奴等だ。」

 

 レシーバを通してレイモンドのぼやきが聞こえる。

 通常であれば、部隊内の士気を乱すような台詞を中隊長が吐くなどもっての外なのだが、互いの階級や役職に殆ど注意を払わない慣習が完全に根付いてしまっており、軍隊とは思えない程に各人が勝手な行動を取る666th TFWメンバーで構成されるこの飛行隊では、誰がその様な台詞を吐こうが気にする者は無かった。

 少なくとも、隊長のレイラ以外は。

 

「活躍して戦果を挙げるやる気に満ち満ちているのか、ただ単に死にたがっている阿呆か、あるいはさっさと用事を済ませてお家に帰りたいのか、ま、そんなところなんだろうさ。」

 

 レイモンドと長く共に闘ってきたというウォルターが応える。

 酒泉基地に配属され、同じ飛行隊に組み込まれてからの数日間で、達也もこの二人の性格を大体把握していた。

 やりたい放題のガキ大将のようなレイモンドと、その突飛な行動のブレーキ役でもある皮肉屋のウォルターだった。

 

 五分ほど東に飛ぶと、南方から二つのデルタ編隊を組んだ六機の中型機が接近してくるのが、AWACS情報とリンクしているCOSDARの画面に表示された。

 その六機が、達也達3666TFSが任務として下命された護衛対象の特殊攻撃機の集団であると推察された。

 COSDAR画面では、3667TTS(Tactical aTtacker Squadron:戦術攻撃機隊)として表示されており、そのコールサインは「ENSO」であると、部隊番号の下に表示されている。

 ENSOというコールサインが何語なのか、達也には分かりかねた。

 

「インソ(ENSO)、聞こえるか。こちらフェニックス。方位32より接近中。」

 

 色々と言いたいことはあるのだろうが、ひとまず落ち着いた声でレイラが呼びかけた。

 

「こちらエンソウ01。よく聞こえる。酒泉基地からの迎えか?」

 

 どうやらENSOとは、エンソウと読むらしかった。

 何語なのかは、相変わらず分からない。

 

「そうだ。そっちが勝手に蘭州を出発したので、こんな場所での出迎えになった。」

 

 レイラの言葉には明らかな非難の色が窺えた。

 

「そいつは手間をかけさせて済まねえな。その分合流も早いし、酒泉への帰投も早い。合理的だろ?」

 

 まるで悪びれないエンソウ01の飛行隊長らしき男の台詞に、Gもかかっていないのに血液が頭に上るのをレイラは自覚した。

 

「格闘戦能力が無いならエスコートが到着するまで大人しくしていろ。戦場で同じ事をすれば、簡単に死ぬぞ。試しに一度死んでみたいなら、止めはせんがな。」

 

「くく。ご忠告痛み入る。大丈夫だ。そんな間抜けじゃない。期待してろよ。戦場じゃ、あっと言わせてやる。」

 

 まるでスーパーチャージャーでも働いたかのように、さらに多量の血液が頭に向けて押し込まれるのを感じたレイラは、努めて冷静を保とうとする。

 

「生意気言っているクソガキから墜とされる。死にたくなければ、戦場で自分達を守ってくれるエスコートに相応の敬意を払うべきだと思うがね。」

 

「もっともだ。よろしく頼むぜ、死神サ(Grim )ン達よ(Reapers)。」

 

 レイラは、加圧され超高圧になった血流によって脳内の血管が決定的に破断されるよりも前に、通信機のスイッチを叩くようにして切り替えた。

 

「このクソッタレどもが。ブッ殺す。テメエ等、降りたらアレ、好きにして良いぞ。」

 

 怒り心頭のレイラが発した暴言に、部隊内に一瞬降りる沈黙。

 

「朱に交われば赤くなる(formed by surroundings)、ってトコか? あんたも大概気が短いな、おい。」

 

 呆れたような達也の声がレシーバを通じて隊内に聞こえ、そして笑いが巻き起こった。

 

 その後しばらくして、南から直行する針路で接近してくる機影を肉眼でも確認できるようになった。

 二つのデルタ編隊を組んで悠然と浮かぶ、ダークグレーの国連軍機色に塗られたそれらの大柄な攻撃機は、まるで輸送機のような機体に似合わない鋭角的なシルエットを纏い、視野の中で徐々に大きくなる。

 

 航路が交わり、達也達3666TFSは小隊毎に分かれて3667TTSを囲むようにしてエスコートを開始した。

 

「A1小隊、先行しろ。お前達のCOSDARレンジが一番広い。露払いだ。」

 

「02、諒解。」

 

 高島重工が設計した最新鋭機である鋭電は、同様に最新鋭のGDDを搭載していた。

 高島重工製戦闘機の伝統と言うべきか、その探知範囲は同世代のMONEC、或いはスホーイなどの他社で設計された戦闘機に比べて一回りほど広いレンジを持ち、近距離であれば探知精度も高かった。

 空域を管轄するAWACSから逐次情報はもたらされるが、それでも眼と耳が良く、格闘戦能力も不安の無い小隊が先行するのは、エスコートする側にとっても安心材料であった。

 

 指示を受けた達也は、武藤とマリニーを率いて、「攻撃機」という名前から想像するにしては巨大な黒い機体の下方を抜けて編隊の前に出て、そのまま10kmほど先行する位置に向けて前進する。

 達也は攻撃機の下を抜けながら、キャノピーを通してその異様な機体を観察する。

 

 まるで輸送機のように幅の広い胴体は、まるで戦闘機のような長く尖った機首を持ち、そして機体尾部は輸送機の様な後部ハッチのさらに後ろに伸びて、その上に左右に開いた垂直尾翼が二枚取り付けられている。

 目測での大凡の全長は30m程度、翼長が25m、胴体幅が最大で7m程度だろうか。

 主翼は胴体近くがかなり幅の広い高翼のダブルデルタ翼で、主翼下には半ば主翼と一体化した形状のジェットエンジンが四発取り付けられている。

 全体的に見て、他に余り例の無い独特な形状の機体であった。

 

 達也達A1小隊の三機の鋭電はその特徴的な黒い大型攻撃機の30mほど下をくぐり抜け、GPUを使用せずにリヒートモードで加速して編隊の前に出た。

 そのまま加速を続け、5分ほどで所定の位置に到達した。

 蘭州から方位00で300km北上し、その後方位29で約500km。

 蘭州を発った輸送機など、ハミ降下点からの敵機に絶対に遭遇したくない航空機が、河西回廊の各基地を常にハミ降下点との間に挟んだ位置を保ち続けて、安全に酒泉に向かう為の定期航路のようなルートだった。

 

 RAR時に希にちょっかいを出してくるファラゾアの小部隊や、「はぐれ」と呼ばれる十機前後のファラゾア機小部隊が人類側の制空圏深く侵入してくる行動においても、酒泉、張掖、武威、蘭州と、人類側の有力な航空基地が2~300kmの間隔で並ぶ河西回廊を抜いてその北側に現れることは無かった。

 常に各基地から上がった多数のRAR任務機が飛び回っている基地周辺から南西方向に広がる空域、そして高精度の大型GDDを配備した基地防空隊の眼が常に光っている河西回廊そのものは、さしものファラゾア機と言えど少数で簡単に突破出来る様な防空体制では無いのだ。

 

 約1時間半ほどの飛行により、達也達3666TFSと護衛対象の3667TTSは、敵の姿を見かけることも無く無事に酒泉航空基地へのアプローチラインに乗った。

 一直線に並んだ黒い大型の機体が次々に酒泉航空基地に向けて高度を落としていくのを見届け、3666TFSの十五機は護衛対象の脇を離れ、高度を3000mに上げて基地上空を周回しつつ3667TTSが次々と着陸していくのを見守る。

 

 六機の黒い大型攻撃機は、速度を殺しながら高度を下げつつも各機間の間隔を一定に保ち、酒泉基地のA滑走路に次々に進入していった。

 さらに速度を落としながら高度を下げ、先頭の機体が速度を100km/h以下に落として着地したのは、滑走路のほぼ2/3ほどを過ぎたところだった。

 着地した先頭の機体は地上でブレーキをかけてさらに速度を落とし、ゆっくりと誘導路に回り込んでいった。

 そのすぐ後に二番目の機体、三番目と、続々と着陸して誘導路に雪崩れ込んでいく。

 

 それを上空から眺めていた達也は、六機の3667TTSが全て着陸を終えた時、先頭から最後尾までの六機全ての機体の間隔がほぼ等間隔である事に気付いた。

 

「生意気なことを言うだけのことはある、か。」

 

「クソガキどもが全て着陸した。こっちも降りるぞ。」

 

 独り言を言うのとほぼ同時にレシーバから聞こえてきたレイラからの指示に従い、アプローチコースに向けて大きく機体をバンクさせて旋回するレイラ達L小隊の後に続く様にして、達也は操縦桿を右に倒した。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 自分の書いた文章を読み返し、その記述通りに頭の中で3Dモデリングしてみたら。

 なんと、出来上がったのはウルトラホーク1号でした。 w


 なんの重要任務を帯びている攻撃機?


 あとのお楽しみです。ふふふ。

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