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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第八章 Base Deffence (基地防衛)
182/405

11. 口径300mm三連装回転式レーザー砲 (300mmGLT: 300mm Gatling LASER Turret)


■ 8.11.1

 

 

 国連軍ハミ空軍基地を守る為の対空兵器は、実のところ多種あるわけではない。

 主力となる口径300mm単装レーザー砲が十二門、小回りの利く近接防衛用の口径200mm単装レーザー砲が六門、まだ試作段階であるが試験的に配備された口径300mm三連装回転式レーザー砲が二門である。

 これら三種の光学対空砲が主力となり、ほぼ旧時代の遺物と化した中国製地対空ミサイル紅旗11c型(HQ-11c:車載式)が二十基、同じく中国製の31式自走対空砲(35mm実体弾機関砲x二門)が六輌配備されている。

 

 前述の対空兵器は、試験配備的な意味合いの強い回転式レーザー砲(通称「ガトリングレーザー」)、主力兵装とされる単装レーザー砲、有効性を殆ど期待されていないが、35mm機関砲弾やミサイル本体と云った弾薬が中国国内に大量に存在し、資源として再利用するよりも分解リサイクル時の事故リスクの方が高く見積もられたため、ほぼ期限切れ兵器の廃棄目的のために配備された実体弾兵器、の三種に分類できる。

 

 車載型地対空ミサイル(SAM)紅旗11c型であるが、この時代全ての空対空ミサイルが前時代の遺物と化しているのと同様に、実際のところハミ基地では完全に廃棄物或いは邪魔者扱いされている。

 例えどのような誘導方式であろうとも、所詮はM5程度の速度しか出すことが出来ず、発射後数十秒もかけて目標に向かってのんびりと真っ直ぐ飛んでいくミサイルは、発見され次第ファラゾア機のレーザー砲によって迎撃され撃破される、或いはいかに「鈍間(のろま)な」ファラゾア戦闘機であろうとも、長い時間をかけて自分に向かって真っ直ぐ飛んでくるミサイルを探知し、着弾直前に高い機動力を生かしてまるで闘牛士のようにひらりと躱してしまう事が出来る為である。

 これは地上発射或いは空中発射の全てのミサイルに当てはまる致命的且つ重大な欠点であり、対ファラゾア戦で対空ミサイルが一切使われなくなった事の最大の理由である。

 

 紅旗11c型ミサイルがハミ基地に配備されている理由はただ一つ、ミサイル本体のリサイクルを行う作業のリスクが高過ぎた為に資源として再利用することも出来ず、とは言え無用の長物を火気厳禁取扱注意の不良在庫として抱えたくもない中華連邦政府が、国連軍の許可を得て実戦で廃棄する方針を決定し、その廃棄場所として無人且つ草木も生えないタクラマカン砂漠が最も適当であったため、である。

 紅旗11c型SAMはファラゾアが防空ラインである50km圏内に侵入してきたときにオペレータ判断で任意発射して良いことになっているが、命中を全く期待されていない、というのが実情である。

 

 これに対して31式自走対空砲は、敵機までの距離が1500m以下である場合にそれなりの確率で命中を発生することが期待されている。

 これは第4.5世代戦闘機に搭載された20~30mm機関砲でファラゾア戦闘機と渡り合っていた2030年代の空対空戦闘の実績に基づいて下された評価である。

 ただ実際のところは、自走対空砲が1500m以下という至近距離でファラゾア機を攻撃した場合、確実に攻撃目標として敵に認識され集中攻撃を受けることとなる。

 地上をたかだか60km/h程度でしか走ることの出来ない自走対空砲にファラゾア戦闘機械のレーザー砲による攻撃を避ける術などなく、攻撃されれば一瞬で撃破される事は過去の実績からも確実である。

 そのため31式自走対空砲は、被発見率を上げるだけのレーダーを取り払って光学センサーとそれに連なる照準システムに換装し、さらに敵情報を基地防空ネットワークから通信用レーザーを介して受け取り、光学センサーと連動しつつ自動で迎撃行動を取る制御システムが導入されている。

 使い潰し、リサイクル送りにすることが前提の自走対空砲に貴重な人的資源を搭乗させるという選択肢はあり得なかった。

 

 それら廃棄目的で配備された旧世代兵器に対して、各種光学砲は基地防衛の主軸を担う対空兵装である。

 主にヨーロッパ及びシベリア方面で大量に配備されたことで有名になったロシア製の対空車輌3LZA-4C2ストレラスヴェータなど、多くの対空車輌に搭載された実績を持つ300mmレーザー砲は、その強力な破壊力が注目され、対ファラゾア戦の主軸兵器である戦闘機にどうにか搭載できないかと小型軽量化およびさらなる破壊力向上が進められた。

 世界中の多くの技術者達の精神的肉体的健康を代償に小型軽量化は成功し、300mmレーザー砲は戦闘機に搭載可能となった。

 この小型化された300mmレーザー砲を、精密且つ極めて自由度の高い動きをする産業用ロボットの先端に取り付けたものが、現在多くの航空基地に防空用として配備されている対空300mm単装レーザー砲である。

 

 小型軽量化されただけでなく、出力も向上したため晴天時150km近い射程を有するようになった地球製レーザー砲は、ファラゾア機の遠距離狙撃と十分に対抗できるようになった。

 また小型軽量化され、反動が全く無いレーザー砲であるとは言え、従来用いられてきた産業用ロボットをそのまま使用することはさすがに出来ず、レーザー砲の重量に耐える事が出来、かつより精密な動きが出来るように改良が必要ではあったが、既存技術をほぼそのまま用いる事が出来た。

 ファラゾア機は機械動作の殆ど無い重力推進である為に、推進器を発生源とする震動による照準のブレが殆ど無いとは言え、地球の濃密な大気を掻き分けて移動する事に依る機体震動から逃れることはいかなファラゾア機といえども不可能である。

 それに対して地上という確固たる足場の上に設置された地球人類側の対空300mmレーザーは、専用に改良された産業用ロボットアームに支えられ、50km以下の距離であればまず目標を外すことはない。

 改良により出力も向上し、基地防空システムと連動する光学照準システムを備えたこの最新鋭の砲塔は、晴天時50km以下の距離の目標に対して確実に二目標毎秒の撃破レートを誇るまでとなっていた。

 

 口径200mm単装レーザー砲も同様の構造を持つ。

 300mmレーザー砲よりも遙かに軽い砲重量であるこの対空レーザーに期待される役割は、10km以下という至近距離にまで敵に接近された場合に、300mmレーザー砲よりも高速で旋回できる特性を生かし、角速度が速すぎて300mmレーザーでは追い切れない直上付近を飛び回る敵機に対応することであった。

 その形状から、口径200mm単装レーザー砲は通称200mmLTA(200mm LASER Turret Arm:レーザー砲腕)、口径300mmのものは300mmLTAと呼ばれる。

 

 口径300mm三連装回転式レーザー砲は、正式な通称で300mmガトリングレーザー(300mmGLT: 300mm Gatling LASER Turret)と呼ばれる。

 十九世紀に発明された従来の実弾体を用いたガトリングガンは、複数の砲身を束ねて集合砲身とし、その集合砲身を回転させて装填、発射、排莢を連続的に行う事で単装砲身に比べて遙かに高い発射速度を得るためのものであった。

 300mmGLTは三本の300mmレーザー砲身を束ねて回転させながら発射するという構造こそガトリング砲と酷似してはいるものの、その目的とする効果は全く異なっている。

 

 300mmGLTの三本束ねられた各砲身は、それぞれ半径方向に5度可動である機構を持っている。

 5度の可動角度は、50km先でレーザー光の光路を約4.4km移動させることが出来る。

 即ち、300mmGLTはその集合砲身を回転させつつ各砲身を最大角度で「開いた」とき、50km先で半径4.4kmの円を描くように三本のレーザー光が回転する構造となっている。

 

 ここで正しく認識せねばならないのは、レーザー砲とは線制圧兵器であると云う定義だ。

 この定義は二重の意味を持っており、一つにはレーザー光照射源から目標までの光路そのものである線と、もう一つは砲身を動かすことで目標周囲にレーザー光が描き出す線のことである。

 レーザー砲のこの特性を生かし、三連砲身を持つ300mmGLTをレーザー光照射しながら回転させた場合、300mmGLT本体を頂点とする頂点角度10度、50km先での断面が直径約9kmの円となるレーザー光線による円錐形を空間に描き出すことが出来る。

 集合砲身を回転させながら各砲身の「開度」を小さくしていくと、前述の円錐形は頂点角度を徐々に狭めていき、最終的には三本のレーザー光を束ねて回転する一本の太いレーザー光となる。

 即ち300mmGLTの集合回転砲身構造は、最大開度でレーザー照射したときにその円錐形内部に捉えた全ての目標を、砲身開度を狭めながら照射回転し続けることで円錐形を細くしていき全て殲滅する、空間殲滅兵器とするためのものである。

 

 空間にレーザーで描き出される円錐形は、三本のレーザー光が高速回転して断続的に形成しているものであるために、タイミングを合わせてファラゾア機自慢の高加速で離脱するならば、レーザー光の間隙を縫って円錐の外に逃れることも実際には可能である。

 特に距離が離れれば離れるほどレーザー光が命中した時の照射時間が短くなり、それに応じて目標に与える熱量も小さくなるため、100kmも離れてしまえば多少の損害を覚悟の上で、レーザー光に接触しつつも円錐の外に逃れることは不可能では無い。

 

 しかしながら物量で押すことを中心的な戦術に据え、高度10000m以下の濃密な大気中ではM6以上の速度を出すことを制限されたファラゾア機に対して、防空ラインとして設定した基地から50km以内の空間でこの300mmGLTを使用することは、まるで真っ直ぐこちらに向かってくる魚群に投網を投げて一網打尽とするが如く非常に効果的であった。

 

 当初この300mmGLTの構想が技術者によって提案されたとき、そのデザインを聞かされた者達は皆従来のガトリングガンの特徴を想定することしか出来ず、レーザー砲を回転集合砲身とする事を誰もが鼻先で嗤ったものだった。

 紆余曲折の末に試作機が製造され、アジュダビーヤ降下点に対する地中海戦線のマルタ航空基地の防空兵器として試験的に投入され、基地に向けて突入してくる「はぐれ」ファラゾア機三十二機を一瞬で殲滅したとき、国連軍司令部はこの300mmGLTが有する殲滅力にやっと気付いたのだった。

 その後細かな改良が施された後に制式防空兵器として採用されて量産化されるのであるが、想定される状況に合わせて色々と形を変え種々の型式が生産されたこのガトリングレーザーは、物量で押し潰す戦術を好むファラゾアに対する効果的な防空兵器として、この対ファラゾア戦の中で永く使われる事となった。

 

 それら防空兵器が牙を研ぎ澄まして待つハミ基地の防空ライン50km線を、九十一機のファラゾア機が踏み越えた。

 

 最初に火を噴いたのは、長射程を誇る十二基の300mmLTAと、対ファラゾア航空戦力兵器として期待を一身に背負った二基の300mmGLTであった。

 

 ハミ基地を頂点とした二つの巨大なレーザー円錐が、雲一つ無いタクラマカン砂漠上空の空間に描き出された。

 1200rpmで回転する三本の300mmレーザーで描き出される円錐は、50km先で二つの円を重ね合うようにして、紡錘形陣で密集して飛ぶファラゾア機九一機全てをその内部に完全に捉えた。

 回転しつつ狭められる円錐を作る300mmGLTは、僅か3秒で砲身開度を0度にした。

 二基の300mmGLTのたった一回、3秒の照射で、三七機のクイッカーが撃墜された。

 レーザーの照射時間が短いために十分な熱量を敵機に与えることが出来ず、外装から内部構造をレーザーで大きく抉られつつも戦闘続行可能な機体が多数残った。

 

 しかし300mmGLTの攻撃は一度で終わるものではない。

 開度を0度にした砲身が再び開かれ、レーザーを照射して円錐形を描き出す。

 僅か数秒で基地まで44kmに接近した五十四機の敵機を再びレーザーで作られた円錐形の檻がその内部に閉じ込める。

 円錐形の檻はまた閉じられ、回転する六本のレーザーが敵を切り刻む。

 

 同時に300mmLTAが、檻の中に閉じ込められた敵を一機ずつ確実に仕留めていく。

 2目標毎秒の理論値には届かないものの、平均1.5目標毎秒で十二基の300mmLTAが、次から次へと敵機を灼き、撃ち落とす。

 有効射程距離では300mmLTAに及ばないものの、50kmの防空圏以内であれば十分な破壊力を持つ200mmLTAも、軽量な砲身重量により獲得した精密な射撃を生かして、複数の砲塔で同一目標を攻撃することで効率的に敵を撃破する。

 

 敵紡錘陣中央部分に二機のファイアラーが存在することを知らされているハミ基地防空システムは、次々と目標を撃破しつつもその二機の高優先度撃破目標を探し続け、敵が50km防空ラインを突破した6秒後、ファラゾア突撃部隊が41km地点に達したところで目的の大型戦闘機械を特定するに至った。

 すぐさま各三基ずつの300mmLTAがファイアラー攻撃に割り振られ、照射しっ放し(Turning On)モードで六基の300mmLTAが空間を切り裂きながら目標へとその狙いを合わせる。

 2秒後、ほぼ同時に二機のファイアラーが火を噴き、独楽のように回転しながら砂礫の大地へと落下していった。

 

 ハミ基地に向けて突撃するファラゾア機は、基地まで約40kmの位置で対地攻撃を開始した。

 M5弱という高速で大気を切り裂いて飛ぶファラゾア機の照準は、空力航空機とはかけ離れた航宙機形状の表面で大量に生まれる乱流の影響で発生する震動によって連続的な照準のブレを発生する。

 一斉に照射されたファラゾア機レーザーは、目標とする基地防衛対空兵器の周りに震動するように着弾する。

 狙いを外して対空砲座の周囲のコンクリート表面を灼くだけに終わるレーザーも多いが、確率で上手く対空砲を捉えて撃破するレーザー光もあった。

 

 敵の対地攻撃の直撃を受け、ロボットアームを熔かされへし折られて崩れ落ちる300mmLTA。

 コンクリート床の爆発煙の中でなお甲高いサーボ音を響かせながら次々と目標に狙いを付けてレーザーを照射する異形の黒い影。

 双方の激しいレーザーの撃ち合いの中、ただ冷徹に目標を捉え、空間に必殺の円錐を展開して囲い込んだ敵機を押し潰すようにして円錐を閉じ次々と撃破する300mmGLT。

 敵の攻撃は対空砲座を破壊するのみならず、航空基地の命である滑走路を灼き、抉り、爆発させて破壊する。

 ハミ基地はレーザー砲の攻撃による閃光と、爆発によって発生した煙に包まれつつ、その劣悪な条件下でも対空迎撃の手を緩めることはない。

 高速でハミ基地に接近するファラゾア突撃部隊は、接近するに従いより精度を増す迎撃によって急速にその数を減らす。

 

 ハミ基地の防空ラインである50km線を超えた九十一機のファラゾア機は、大口径レーザー砲でハリネズミのように武装したハミ基地の防空システムによって斬撃され、ハミ基地から35kmの位置で全ての機体が撃破された。

 

 ハミ基地を守る各種対空レーザー砲塔は、三基の300mmLTA、二基の200mmLTAが大破し、一基の300mmGLTが小破した。

 大破した五基のLTAはすぐさま予備砲塔へと置換され、翌日には稼働可能となった。

 小破した300mmGLTも持てる限りの速度で修理が行われ、こちらも翌日には戦力に復帰した。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 とうとう出てきましたGLT。

 本シリーズの中ではガトリングレーザーは息の長い兵器であり、国連軍から地球連邦軍に至るまで永く使い続けられることになります。

 その理由は作中で述べたとおり、空間制圧兵器として、数だけワラワラ出てくる戦闘機やミサイルを撃ち落とすのに最適であること、そして開度ほぼ0で使用したとき威力3倍増しレーザーとしても使える柔軟性です。

 尤も後には、80mmGRG(Gravity Rail Gun:通称「Super Bofors」)から派生する大口径GRG、そしてその延長線上にあるホールショットが地球艦隊の主力兵器となっていくのですが、その時代でもGLTは防空兵器としてしっかりと生き残ります。

 二十一世紀初頭、ファラゾア来襲前には主力であったミサイルがファラゾア来襲後には長射程兵器としてゴミ同然となり、そして主力に返り咲いた機関砲がレーザーの台頭で駆逐され、しかしその後にはホールドライヴと組み合わせた大口径実体弾(重力レールガン)として復活し・・・と、兵器の各系統の栄枯衰退があるのが、自分で書いていても結構楽しいです。

 (もろにネタバレするので、上述の主力兵器の流れは途中色々省いています)

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ10年・・・ [気になる点] 前作のネタバレになるのですが、現在の666th TFWで、ここからまだ40年以上続いた接触戦争の末期に「Terraner Dream」で火星戦線に参加した…
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