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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第八章 Base Deffence (基地防衛)
181/405

10. ハミ基地防空司令室中央管制室(Air Defense Centre - Central Control Room)


■ 8.10.1

 

 

「フェニックスリーダー、こちらチャオリエ04。エリア02で敵が百機ほどの集団をつくって基地に向けて突撃している。追えるか?」

 

 Zone5-04の敵をほぼ殲滅し、そのままの流れでZone5-03に雪崩れ込んで引き続き敵の殲滅を目的として手当たり次第に周囲の敵を撃墜している達也に、AWACSからの緊急通信が入ったのは、Zone5-03東側の敵を粗方殲滅し、戦いの場が徐々にエリア03の西側に移っていっているタイミングだった。

 

「ちょっと待て。」

 

 コンソール上に手を伸ばし、戦術マップ脇のズームボタンを操作して表示エリアを広げる。

 縮尺を小さくすると敵マーカが重なり合(マージ)って判別がつかなくなるが、その様な状態になってしまうと同時に表示が切り替わり、空間の敵密度を色のグラデーションで表示する方式になる。

 そのグラデーション表示の中に、敵密度が異常に高く、赤を通り越して白く表示される部分がある事を達也は確認した。

 多分これが、チャオリエ04が言っている敵の集団だろうと思った。

 

 どこかで見たことがある。

 ノーラ降下地点でロストホライズンが発生した時に、ハバロフスクやコムソモリスク・ナ・アムーレに向けて突撃をした敵集団があった。

 あれとほぼ同じだ。

 

 あの時に較べて、こちらの機体にはGPUが装備され、一時的にではあるが、敵と遜色ない加速力と速度を出すことが出来る様になっている。

 だが、位置が悪かった。

 敵集団とハミ基地までの距離は今や100kmを切ろうとしている。

 自機から敵集団まで100km弱の距離がある。

 今から追いかけても、敵がハミ基地に到着するのが先になるだろう。

 追い付くより前に、自分達もハミ基地の防空ラインの50kmを踏み越えてしまう。

 無理だ。

 

「チャオリエ04、こちらフェニックスリーダ。敵集団を確認した。残念ながら、距離がありすぎて無理だ。俺達が追い付くよりも先に、敵がハミ基地に着いてしまう。エリア02でリフュエリングしている連中は回せないのか?」

 

 ジェット燃料が欠乏していようが、どうせ敵と交戦できる時間はごく一瞬だ。

 残燃料30%もあれば充分だろうと達也は思った。

 

「既に回してる。数が足りない。たったの六機で百機の突撃は止められない。あんた達ならやるかもしれんが、普通のパイロットにゃ無理だ。」

 

 なら、ハミ基地のスクランブルと対空兵力に任せるしかないだろう、と思った。

 同時にチャオリエ04オペレータの声が再びレシーバから聞こえた。

 

「クソ、分かった。無理言ってすまん。やれるだけやってハミ基地に任せるしかない。」

 

 どうやらAWACSオペレータも達也と同じ結論に達したようだった。

 

「期待に応えられなくて済まないな。これ以上突撃部隊が作れないように、こっちの始末は任せろ。」

 

「チャオリエ04、諒解。そっちは任せた。ハミ基地に連絡を入れる。」

 

「フェニックスリーダ、諒解。グッドラック。」

 

 達也との通信を切ったチャオリエ04オペレータは、すぐさまチャンネルをハミ基地の防空司令部(Air Defense Centre)に切り替えた。

 

 「始まりの十日間」と呼ばれる、ファラゾアが来襲しそれまで地球上に存在した電子的ネットワークとともに、空路海路と云った物理的なネットワークをズタズタに破壊し、地球上の陸地面積の約20%(明確な国境線のようなものが引かれたわけではない為、最大40%など様々な分析結果が報告されている)が一瞬にして敵の手に落ちた侵攻最初期に構築された降下点であるハミ降下点には、当時その地域を領土としていた中華人民共和国(PROC)が国軍を持って対応していた。

 ネットワークを破壊され、国軍にも大打撃を受け、さらには百機を超える原発のメルトダウンによる東部を中心とした広範囲の放射能汚染と電力の停止による実質的な国家機能の停止に喘ぐ米国、国土のど真ん中にシャマタワ降下点を打ち立てられ、国土を分断された上に米国同様原子炉のメルトダウンによる放射能汚染で、経済の中心である東部地域と首都に大打撃を受けて実質的に国家機能が壊滅したカナダ、広い領土を国内二箇所のファラゾア降下点とカスピ海沿岸に設置されたアクタウ降下点とで分断され、急激に国力を落としたロシアなどに対して、直接的な被害を受けなかったヨーロッパの先進四ヶ国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)を中心として、地理的に連携が取りやすいヨーロッパ諸国によって対ファラゾア抵抗組織として急速に力を付け再編成が進んだ国連と国連軍に対して、「西ヨーロッパ諸国(主に旧NATO加盟国)により私物化され形骸化した組織」であると不信感を露わにした中国(PROC)は、ほぼ属国であった統一朝鮮以外、国連軍はおろかあらゆる国からの軍事的な協力、即ち空軍戦力の中国国内への進駐を認めていなかった。

 

 「中国民主化解放」あるいは「中華革命」と呼ばれる様になった先の政変によって樹立された新中国政府、即ち中華連邦政府(Federation of China Union:FCU)は、政権交代とともにすぐさま国連軍および全ての各国軍の国内駐留を容認、あるいは要請したのであるが、僅かな時間であっても政変と政権交代による混乱がもとで発生したハミ降下点に対する最前線の軍事的圧力低下は、ファラゾアの北上東進を許し、あわや天山山脈以南の被制圧、具体的にはトルファン基地とハミ基地の壊滅、および青海省以西の被制圧寸前までハミ降下点を取り巻く状況を悪化させてしまった。

 (※:全世界の中華系人民、地域、国家の協力を呼びかける中華連邦(China Union:CU)構想と、旧中華人民共和国(PROC)の共産党政府を斃し打ち立てられた新国家である中華連邦政府(Federation of China Union:FCU)の混同に注意)

 

 カスピ海沿岸のアクタウ、アクタウ降下点の勢力圏と融合しアラビア海までを勢力圏下に置くアフガニスタンのルードバール、また国連自らが招いたこととはいえ東アジア内陸部に向けて大きく勢力を伸ばしたノーラ、の三拠点に囲まれた位置にあるハミ降下点がこれ以上勢力圏を拡大し、中央アジア地域の生存圏の縮小と物流の更なる悪化を非常に強く問題視した国連は、敵勢力圏に飲み込まれる寸前であった、タクラマカン砂漠北端、天山山脈南端に存在するトルファン基地とハミ基地を超重要強化防衛拠点として指定し、革命による政権交代で国連に対して極めて協力的な態度に変わった中華連邦政府と、もとより国連に対して協力的であった日本、台湾、シベリアと云った極東各国地域の精力的な協力を得て、これら超重要拠点の二基地に最新且つ大量の軍事的物資を投入した。

 

 その結果タクラマカン砂漠、即ちハミ降下点を北方および東方から抑え込む各基地には最新鋭の戦闘機多数と、多量の防空設備が配備される事となった。

 例えそれが半ば試作機、或いは実証機の範疇にあるものであったとしても、全世界で他に例を見ない程に最新鋭かつ強力な対空武装を整えた基地が二つ、中央アジアに誕生したのだった。

 その二基地の立地条件が、すぐ北方に標高4000mを優に越える峰々が連なる天然の巨大防塁である天山山脈を持ち、敵勢力圏外縁に形成する最前線となる主戦場が元々人口密度が極めて低く、またあらゆる植物、動物の生息が極めて希薄なタクラマカン砂漠であること、また東方には巨大工業国家と化した中華連邦と、そのバックボーンとなる技術大国かつ海洋(海中)輸送を支える日本と台湾という海洋国家が控えて物資の供給をサポートし、そして広大な太平洋という輸送ルートを持つという、戦闘地域への影響を気にせず比較的潤沢な物資供給を受けながら全力を出して戦える、言い換えるなら新型の兵器や新たな戦術を気兼ねなく投入できる都合の良い場所であった、というのは関係者誰もが理解していつつも公言しない理由である。

 

 そのような背景の元、トルファン、ハミ両基地は、最新鋭の戦闘機を多数揃えた強力な航空打撃能力のある基地となっただけでなく、まだ試作ナンバーが取れていないような試験機も含めて、こちらも最新鋭の対空地上戦力をも大量に擁する、この時点の地球上で他に類を見ない強力無比な最前線航空基地となっていたのだった。

 

 チャオリエ04オペレータは、ハミ基地の対空兵器と防空設備を統括管理制御する防空司令室を呼び出す。

 AWACS母機は基地との間に常にファラゾアからの干渉を受けにくいレーザー通信を維持しており、戦術データの共有が可能となっている。

 戦術データ共有レベルの高位の接続である為、AWACSは基地管制を通さず直接各司令室に通信を接続することが可能なのだ。

 勿論、常にハッキングの危険にさらされて前線近傍で活動するAWACSが基地内のネットワークに接続する為には多重に構築された複雑な認証手続きが必要となるが、一部必要な部分を除いてほぼ自動化されている為、必要とされるときに比較的短時間で接続することが可能である。

 

「ハミADC(防空司令室:Air Defense Centre)、こちら空間管制チャオリエ04。Zone5-02から敵突撃部隊がハミ基地に向かっている。数100、方位21、高度40、針路03、速度M5。確認できているか?」

 

 チャオリエ04からの呼びかけに対して、ハミADCからすぐに応答があった。

 

「チャオリエ04、こちらハミADC。こちらでも把握している。スクランブル発進中。全防空設備稼働中。今日は客が多めだな。連絡感謝する。」

 

 大型の機体に大型のGDDを搭載したAWACS母機と、GDDに加えてレーダーや光学探知機など複数の探知手段を搭載したAWACS子機の探知能力は、戦闘機のそれを遙かに上回るものであるが、地上固定型の巨大且つ精度の高いGDDを複数設置してある航空基地の探知能力は更にその上を行く。

 戦線と基地が至近に存在するこのハミ降下点北方の戦場では、AWACSが探知出来る距離に敵が居るならば、より精度の高い探知能力を持つハミ基地の防空警戒網は確実に敵の姿を捉えることが出来る。

 

 これまでにもハミ基地の防空警戒網は、戦闘中にしばしば発生するいわゆる「はぐれ」と呼ばれる二十機前後の敵突出部隊や、RAR任務機を追って基地近傍まで接近してくる敵機を確実に補足して対処してきた実績を持つ。

 そしてその実績はただ単に敵を捕捉しただけには止まらず、形勢が悪くなり一目散に逃げ帰ってくるRAR任務機を追い掛け接近して来る敵部隊や、味方戦闘機部隊による警戒網をかいくぐり基地を攻撃目標と定めて真っ直ぐ突っ込んでくる、時には数十機という数に達することもある「はぐれ」部隊などを、敵部隊が基地に到達する前にこれまで何度となく排除してきたという、実力面における実績も積み上げてきていた。

 基地防衛担当者、即ちハミADCに詰める兵士達だけで無く、AWACSオペレータ達や出撃元の基地を後ろに置いて最前線で戦い続ける戦闘機パイロット達も、ハミ基地自体の対空兵装による防空に関しては、慢心では無く一定の自信を持ち、同様に信頼を置いていた。

 

「ハミADC。リフュエリングキューに居た味方機六機が敵突撃部隊を追撃中だ。間違えて撃たないでやってくれ。」

 

 地球人類側の戦闘機の能力を遙かに超えるファラゾア戦闘機械を迎撃するための対空兵装である。

 地球側の戦闘機がその火線に巻き込まれでもしようものなら、ひとたまりもなく撃墜されてしまうのは当然であった。

 

「味方の追撃部隊も認識している。問題無い。あと15秒で敵突撃部隊はこちらの防空ラインを超える。迎撃機に知らせてやってくれ。」

 

「諒解。よろしく頼むぜ。帰るお家が無くなるなんて御免だからな。」

 

「オーケイ。任せろ。」

 

 ハミ基地の防空司令室で通信を担当している兵士は、特に気負った風でもない口調で心強い返答をAWACSオペレータに返した。

 

 紡錘形に集合したファラゾア機の「突撃部隊」は、当初百四機のクイッカーと二機のファイアラーで構成されていた。

 百四機のクイッカーは、地球人類側の区分で言うならZone4-02高度4000m付近の空間において、対地攻撃の要であるファイアラー二機を大事に内包するように紡錘形の集団を形成した。

 数分を掛けて総勢百六機の密集集団を形成したファラゾア機群は、大気密度の濃い高度4000mでも安全を確保出来る速度M5弱の速度に一瞬で達し、約200kmほど北方に存在するハミ基地へ向けて突進し始める。


 密集した紡錘形という突破力の高い陣形で僅か数機の損害を出したのみで前線を突破し、地球人類側の勢力圏へと突入した集団は、殆ど敵のいない空間を真っ直ぐにハミ基地に向けて突き進んだ。

 途中、Zone5-02でジェット燃料(TPFR)補給を行っていた二小隊六機が、事態に気付いたAWACSの指示によって迎撃に向かったものの、高速で飛び去る部隊に追い付くことが出来ず、遠ざかる敵部隊の後ろ姿に追い縋りつつ20km近くも離れた場所から当たらないレーザーを乱射して、やっと十機程度の敵を撃墜した程度の戦果しか得られなかった。

 

 九十一機を残した紡錘形陣のファラゾア機群はハミ基地に急速に接近する。

 配備されたレーザー砲の射程と、基地を発進或いは着陸する航空機の航路、また接近する敵部隊への追撃機やスクランブルで出撃する迎撃機の戦闘空間を考慮し、ハミ基地を中心とした半径50kmの円内に防空ゾーンが設定されていた。

 そして敵突撃部隊がその防空ゾーンへと侵入した。

 

「敵突撃部隊、数91、方位21、高度40、針路03、速度M5。50km防空ラインを突破。全防空兵装迎撃行動開始。SCスクランブル機は指示あるまで基地上空待機。」

 

 十数名の兵士士官が詰め、固唾をのんで大型のCOSDAR画面を見つめる中、基地防空司令室(ADC)の薄暗い中央管制室(Central Control Room:ADC-CCR)にオペレータの感情のこもらない声が静かに響いた。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。

 

 これまで基地の防空体制について記述してきたことが殆ど無かったと思います。

 勿論、40mm砲やSAMでは全くお話にならないので、基地の対空兵装というもの自体がろくに存在しなかった、という理由もありますが。

 車載(大型車輌)可能な大きさの核融合炉が一般化し、大口径(地球人類にとっての「大口径」)レーザー砲が小型化して量産される様になった今、やっと対空兵器がそれなりに使える状態となりました。


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[一言] 宇宙戦艦を降下させるほど進化した対空レーザー砲と敵と基地の進行ルートが絞られる事を考えたら小規模な敵勢力の迎撃そのものは問題無さそうな気もする 敵が例の電子戦機とか特殊なのが混じってたりタイ…
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