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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第二章 絶望と希望
16/405

2. 俺、この戦争が終わったら


■ 2.2.1

 

 

 三機の日本海軍機が急降下し、高度を3000mまで落とした。

 従来の空中戦のセオリーではあり得ない行動だったが、ファラゾアと戦うには有効な戦術だった。

 高度10000mには濃密な雲は存在しない。大気中の塵や霞と言ったものも極端に少なくなる。

 距離があれば、その薄い雲でもファラゾアのレーザーを拡散させる事は出来るが、100km以下の距離ではそれも見込めない。

 高度3000m以下に存在する濃密な雲や霞といったものが、地球の戦闘機がファラゾアに近付くためには絶対に必要なのだった。

 

「ターゲット接近。距離60。もっと引きつけるぞ。どうせミサイルは頼りにならん。」

 

 シベリアに降下したファラゾアと対峙し、毎日のように戦い続けて二ヶ月。

 ロシア東部、ノルスキー・サポヴェドニクに橋頭堡を設置したファラゾアの侵攻を押さえ込もうと日夜死闘を繰り広げるロシア、中国、日本の三国間で多くの情報が共有されていた。

 数十km以下という近距離に近付けば相手をレーダーで捉える事が可能だが、その高いステルス性から100kmを越える遠距離では難しい。

 敵の拠点に近付けば近付くほどジャミングが強くなり、条件はさらに悪化する。

 ジャミングとステルス性から、ホーミングミサイルは殆ど役に立たない。

 赤外線追尾式はそもそもファラゾアの戦闘機械を捉える事さえ出来ない。

 

諒解(ラジャー)。」

 

 三機の日本海軍機は、高空から見るとまるで地表に貼り付いているかの様に見える濃密な低層雲の中を、ファラゾア戦闘機械の編隊に向けて突き進んでいる。

 その様はまるで、水上の艦艇を目標として忍び寄る潜水艦の様だ、と、ジリジリとしながらHMDの中で減っていく数字を睨みながら実田は思った。

 もっとも潜水艦とは違って、多分こちらの姿は向こうから丸見えで、ただ単に連中が装備しているレーザーが雲を突き通す事が出来ないから攻撃してこないだけなのだが。

 

「ターゲット、数8、距離10、高度60、ヘッドオン。パワーマックス、突き上げるぞ!」

 

 スロットルを力一杯押し込む。

 機体が増速し、身体がシートに押し付けられる。

 一瞬遅れてリヒート点火の加速が襲い、さらにシートにめり込む。

 視野の端でHMDに投映された燃料計のカウンターが凄まじい勢いで減っていく。

 Gに抗いつつ操縦桿を引く。

 腹を殴りつけられた様な下向きのGが襲いかかる。

 HMDの水平儀線(ピッチスケール)が一気に下向きに流れる。

 HMDの機銃照準域(ガンサイト)にファラゾアの編隊につけられたマーカーが入って来るのと、機体が低層雲の上端を突破するのがほぼ同時だった。

 お互い対向している(ヘッドオン)ので、6000mという距離など、ほんの一瞬で縮まる。

 トリガーに掛けた指に力を入れようとした瞬間、敵が消えた。

 

「回り込まれた! ブレイクレフト!」

 

 左にロールし、急旋回。

 身体が軋む様な大G。

 僚機も一瞬遅れて追随する。

 瞬間的に大加速した敵は、小さな銀色の点となって遙か彼方からこちらに向かってくる。

 敵もバカでは無かった。

 こちらの機銃射程が1000m程度というのはとっくにバレている。

 ヘッドオンで接近し、射程ギリギリで高機動して回避、ターゲットを見失って狼狽えたところを横から攻撃する、というのが最近のファラゾア戦闘機のセオリーだった。

 しかしそれが判っていれば対処のしようもある。

 

「方位16。リアタック。ランダム機動。」

 

 雲の上に出てしまった今、真っ直ぐに飛べば良い的になってしまう。

 小刻みに動きながら接近するしかないが、めまぐるしく方向を変えて身体に掛かるGのストレスが凄まじい。

 HMDに表示される敵のマーカーを睨み付け、殆ど錐揉みと言って良い様な緩急を付けたバレルロールで敵に接近する。

 距離1000mとなる寸前に、敵が再び消える。

 しかし今度はこちらもそれを読んでいた。

 

「右だ!」

 

 敵が急加速した際の軌跡が見えたのだ。

 すぐさま右に旋回し、敵を追う。

 距離900。

 ガンサイトがマーカーに重なり赤く光る。

 僅かに外して未来位置を射撃する。

 曳光弾が混ぜてあるために光る機銃弾の線がファラゾアの銀の機体に向けて伸びる。

 機銃弾が届く寸前、敵の機体が急加速したが、そこがこちらの読んだ未来位置だ。

 毎分7000発を越える密度のタングステン弾が敵機を襲う。

 機体の破片が飛び散り、小さな炎が敵機から立て続けに発生する。

 突然姿勢を崩した敵機は、薄い煙を引いて錐揉みしながら落下していった。

 

「ビンゴ!」

 

「こっちもビンゴです。」

 

「クソ、外したっす。」

 

「よし、残6。」

 

 敵が移動した方向を見る。

 四機の敵が見えた。

 嫌な予感がして、上を見上げる。

 上空に殆ど動かない銀色の点が二つ見えた。

 

「ブレイク! 上にいる!」

 

 三機の日本海軍機は一瞬でそれぞれ別の方向に散った。

 実田はパワーダイブしながら、低層雲の上端に僅かに潜り込みつつ旋回する。

 他の二人もほぼ同じ行動をとっていた。

 HMDの中で、編隊を解いた敵機がまちまちの方向に移動する。

 

「敵はバラけた。囲まれている。注意しろ。食い破るぞ。」

 

「05、コピー。」

 

「06。」

 

 実田は辺りを見回し、喰い付きやすい方向の中で最も距離の近い右上方の敵に狙いを定めた。

 

「上の奴に注意しろ。何か仕掛けてくるぞ。」

 

 実田の機体が旋回しながら目標に定めた敵機に向かって加速する。

 その少し後ろを二機の僚機が追従する。

 

 その時、上方のファラゾア機二機が消えた。

 一番後ろを追従している長谷川機、即ちマーレ06の左右僅か200mほどの場所に突然ファラゾア機が現れた。

 

「クソッタレ!」

 

 瞬間的にスロットルを戻し、スティック(操縦桿)を引く。

 推力偏向パドルが急上昇に対応しようとするが、エンジンの回転数は下がり始めている。

 機首だけが急激に上を向き、機体進行方向に腹を見せた長谷川機は急激に減速した。

 一瞬上を向いた機首をすぐに水平に戻す。

 視野に先行する隊長機が入って来るのと同時に、長谷川機の挙動に付いてこられなかったファラゾア機が左右前方に居た。

 距離600m。

 機体は失速寸前。

 しかし絶好の射撃位置。

 右のファラゾア機にガンサイトを合わせ、0.5秒の射撃を行った。

 命中も確認せず、スロットルを開け、バレルロールする。

 上下が反転した長谷川機のガンサイトには、もう一方のファラゾア機が丁度入り込む。

 ラダーで僅かに調整してサイトを合わせ、トリガーを引く。

 20mmガトリングガンの甲高い発砲音が機体を通して身体に響く。

 火線が伸び、ファラゾア機から銀色の破片が飛び散り、小さな火が幾つも噴き出す。

 爆発し、機体の半分を失ったファラゾア機は、錐揉みしながらそのまま落下していった。

 息を吐く間も無く、スロットルを開けて先行する二機を追う。

 囲まれているときに、一機だけ編隊から離れるのは危険だ。

 狙い撃ちされる可能性がある。

 

「ヒュー。やるなあ。コブラから捻ってバレルロールか。お前、ブルイン入れるぞ。」

 

 僚機の後ろに追い縋る長谷川機に、若林中尉が口笛を吹く。

 

「俺としちゃ、アグレッサーの方が好みっすケドね。」

 

 ブルーインパルスも、アグレッサー部隊も、創設からまだ時間が経っておらず、同様の部隊を整えるだけの余裕の無い海軍航空隊には、ある意味憧れの部隊であった。

 

「実戦でコブラたあ、くそ度胸あるなお前。なかなかやるじゃないか。」

 

 そう言いながらも、実田機も若林機も敵機を追い、攻撃を躱すため細かく急激な機動を止める事は無い。

 最前線で続く実戦に鍛え上げられ、誰もがその技量と体力を急激に向上させていた。

 

 速度は戦闘機の命だった。

 速度が落ちれば、機動力が下がる。

 機動力が下がる事は、特に格闘戦時に於いては致命的な問題となる。

 その機動の性格上、コブラ機動は急激に機体速度を落とし、その結果機動力も同様に落とす。

 展覧会での派手なパフォーマンスとして見る者の眼を楽しませる事は出来ても、実際の空戦で使える様なものでは無い、と言うのが常識だった。

 

「やるぞ。右だ。」

 

 実田が機体を右に横滑りさせ、ガトリングガンで掃射する。

 緩いカーブを描いて空中に描かれた機関砲弾の光る射線がファラゾア機を捉えた。

 日本海軍が採用する高価なタングステンを含んだ弾頭が、その質量による運動エネルギーを存分に生かし、ファラゾア合金と呼ばれるチタン系合金の外殻を食い破り、機体内部に叩き込まれる。

 20mm徹甲焼夷弾は、ファラゾア機内部に侵入したところで弾頭内部の炸薬が爆発し、弾頭の破片を周りに撒き散らす。

 細かな弾頭片は周囲の機械を手当たり次第に破壊し、必要最小限の機能に洗練されたファラゾア機の内部機構を次々に破壊する。

 破片の内幾つかは、ファラゾア機が飛行、或いは動作するために必要である重要部分を破壊し、ファラゾア機は飛行する能力を失った。

 空力飛行する術を殆ど持たないファラゾア機は、推進力を失った時点であとは引力に引かれ落下していくしか無い。

 

 薄い煙を引きつつ落下していくファラゾア機を横目に、三機の青い機体がファラゾアの包囲網を食い破ってそのまま低層雲の中に突入した。

 

「反撃するぞ。右の奴から・・・ありゃ?」

 

 三対三と彼我の機数が同じになった事で、本格的に反撃を行おうと反転する実田が素っ頓狂な声を上げた。

 反転した彼等の前方レーダーには、急速に戦闘区域を離れていく三機のファラゾア機が映っていた。

 

「敵さん不利になったとみたら一目散に逃げ出しやがった。逃げ足速えなあ。」

 

 上昇し、低層雲を抜けて周囲を確認する。

 確かに、もう周囲にファラゾア機の姿は無かった。

 

「ふう。生き残れたな。偵察任務に戻る。ベクター30、高度このまま、35。」

 

 実田は大きく息を吐くと、本来彼等が出撃してきた任務を完遂する事を宣言した。

 再度のファラゾアとの接触を警戒して、いつでも雲の中に逃げ込める様に高度を上げずに移動し、拠点に近付いたところで一気に高度を上げて視界を確保して偵察任務を行うつもりだった。

 

「05、コピー。」

 

「06、コピー。」

 

 水平飛行に移った実田機の後方両翼に僚機が並んだ。

 

「良かったな、長谷川。色々踏んづけたみたいだが、フラグは立ってなかった様だ。」

 

 若林が笑いながら言った。

 

「たり前っすよ。俺には勝利の女神が付いてるって言ったじゃないすか。今日も無事に帰って彼女の笑顔に癒やされるっすよ。」

 

「そういう事を言うから、色々踏んづけてると言われるんだよ、お前は。」

 

 身を削り精神を削る命のやりとりに勝利した後の、高揚の残るひとときに交わす軽口が心地良かった。

 季節が変わり、徐々に冷え込みが増すに連れて色の深みを増していく広大な緑の針葉樹林の上、三本の飛行機雲が真っ直ぐに伸びていく。

 

 

■ 2.2.2

 

 

 「カミン(暖炉)」という名前のその店は、白い布を敷いたテーブル二つだけの屋台を、ツェントラリニ・アエロドロムの新造兵舎の中に設けられた多目的ホールという名の簡易店舗用スペースに出店していた。

 数十年前からハバロフスク市内で店を出し、毎朝焼き上げるパンや焼き菓子を売る小さな店だった。

 儲けは少なくとも、実直に良質なパンを作り続けるその商売の姿勢と、真面目に作る続けられる安定した味の良いパンを確実に毎朝焼き上げる事で、市内、少なくとも店が存在する近隣の地域では長く安定した人気のある店だった。

 

 東西冷戦の華やかなりし頃、その空港には活気があった。

 西側陣営の最前線である日本と韓国に睨みを利かせる事が出来、逆に相手側が入り込めないほど内陸にある大都市近隣の空港として、偵察機を含めた多種多様な軍用機の発着基地として、そして軍や政府の要人が到着する、都市への移動時間が殆ど必要ない玄関口として、それなりに重要な拠点であった。

 民間の衛星でさえも基地の詳細が確認出来るほどの画像を得られる時代になり、そしてソビエト連邦が崩壊して大きく体制が変わり、それに応じて軍のあり方も変わってきた今、都市に隣接した軍用空港は、重要な任務を帯びた機体が頻繁に離発着する最前線の空港としては使いにくいものとなってしまった。

 今ではこの基地から飛び立つ航空機も少なくなり、大都市に隣接している立地を生かして移動用のヘリコプターや輸送機がぱらぱらと離発着するだけの、打ち棄てられた冷戦時代の新鋭機の残骸が無惨な姿をさらす寂れた空港となってしまっていた。

 

 ある日その空港の北方約1000kmほどの森の中に、遙か空の彼方からやってきた一万を超える異星人の戦闘機械が降り立った。

 異星人は何を語る事も無く無言でその実力をもって、その降り立った場所の周辺地域に一方的な制空権を主張し始めた。

 彼等が主張する制空権と、数十万年の昔からこの星で生まれ住み続けてきた地球人類が主張する権利が激しくぶつかり合い、降下地点から数百kmほどの領域にお互いの権利を実力で主張し合う戦闘空域が発生した。

 そしてその戦闘空域は、この寂れた空港から僅か500~600kmしか離れていなかった。

 

 一昔前、お互いの事を敵と認識し合い、その空港から何百何千回と手の内を読み威嚇するための軍用機を送り出したまさにその相手が、今微力ながらも彼等を助けるために、太陽の印を刻んだ翼を駐機場に休め、そして昼夜を問わず忙しく滑走路から飛び立っていく。

 閉ざされ隔絶された島国に住んでいた筈の彼等は、いつの間にか言葉の違う他国の人々と共存し混ざり合う術を手に入れており、食品や日用品、果ては武器弾薬や一部の簡単な機械部品までをその都市或いは都市近郊から手に入れる手筈をつけて、敵地に近すぎるために衰退が始まったその大都市にとって今や経済の一翼を担う大きな存在となりつつあった。

 

 設備が整っていない或いは古すぎて使い物にならない、祖国から遙か遠くにある寂れた基地に寝起きし、食事から衣服まであらゆるものに欠乏している軍隊と、想像さえしていなかった未知の敵が、飛行機であれば一時間もかからない距離に居座ってしまった事でそこに住む人々が逃げ出し始め、未来を悲観し絶望に暮れて消費が大きく落ち込んだその都市に残る住人達の思惑が一致した。

 その軍は、温かい食事、温かい寝床と衣服、そして何よりもいつ果てるとも知れず毎日続く激しい戦いで疲れた心と身体を休めるために、軍属以外の人々との温かい交流を欲していた。

 

 その結果、軍用地である筈の空港の敷地内に新たな兵舎が作られ、兵士達の世話をするためにその都市に住む人々が雇われ、食料や日用品やその他ありとあらゆる日常に必要な物を売るための店が軍施設内に開かれた。

 それはまるで、軍用地内に突如発生した市の様でもあった。

 パンや肉類、菓子や飲料、衣服や文房具、髭剃りから石鹸、歯ブラシまで、人が生活するためにはこれほどの色々な物が必要なのかと目を見張るほどに多種多様な物を店先に並べた小さな店が所狭しと並んでいた。

 「ピカルニャ(ベーカリー)・カミン」もその様な店の一つであった。

 

 太陽が大きく西に傾き辺りを温かみのある茜一色に染める中、兵舎の一階に出店された屋台の並びの中を一人の男が歩いてくる。

 猫背気味に俯き肩を落としたその姿は、誰が見てもその男が何らかの理由で失意の海の底に深く沈んでいる事が判るほどにあからさまだった。

 

「おい、長谷川。」

 

 屋台が並ぶ通路を反対側からやってきた二人連れが、その男に声を掛ける。

 どうやら知り合いが真正面から近づいて来ても判らないほど、その男は意気消沈してしまっているらしい。

 

「・・・若林さん。」

 

 疲れ果てた様な表情の顔を上げたその男の眼に光がない。

 

「どうした?・・・・はん。さては振られたな、お前。」

 

 若林はニヤリと笑い、長谷川の横に並んで肩を組んだ。

 

「まあ気落ちするな。女は他にもいる。シベリアでだって、男以外は全部女だ。」

 

 ニヤニヤと笑いながら語りかける若林を、ジト眼で見る長谷川中尉。

 

「若林さんはいいっすよね。あんな綺麗な奥さんと、可愛い娘さんが居て。」

 

「バッカお前、世界一美人な嫁と宇宙一可愛い娘に会えないのがどれだけ寂しいか知ってるか?」

 

 ちなみに同じ中尉ではあるが、若林の方が長谷川よりも2年ほど先任になる。歳も五歳ほど上だった。

 

「うう。俺はもうダメっす。」

 

 若林の惚けにも反応せず、溜息を吐いた長谷川は肩を組まれたまま項垂れる。

 

「どうした? 小野に先を越されたか?」

 

 向かいに立ち止まった実田が、やはりニヤニヤと問う。

 

「違いますよ。彼女、結婚してるっすよ。子供も二人いるっす。」

 

 実田と若林は顔を見合わせて、そして同時に吹き出した。

 

「あんな可愛いのに、まだ二十歳前だってのに、あんな若いのに、金髪で青い眼で胸もデカいのに・・・子持ち。はぁぁ。」

 

 しょげ返る長谷川の顔に、笑いを噛み殺す二人。

 だが堪えきれない。

 

「・・・笑ってくださいよ。ああ、俺はもうダメだぁ。彼女がOKしてくれたら、この戦争が終わったら彼女と結婚したいと思ってたっすよ。マジで。」

 

 二人は再び盛大に吹き出した。

 余りに大きな笑い声に周りの注目が集まるが、三人の内誰もそんな事を気にしてなどいない。

 

「良かったじゃないか、盛大にフラグがへし折れて。これで生き延びられるな、お前。」

 

 大笑いする若林が長谷川の背中をバンバンと叩く。

 

「いやもうダメっす。失意のどん底で明日墜とされるんすよ、俺は。」

 

「そんな事言ってる奴は墜ちねえよ。しょうがねえ。今夜は俺が奢ってやる。酒はダメだが、腹がはち切れて死にそうになるまで食え。行くぞ。」

 

 若林の反対側に肩を組んだ実田が、右手で長谷川の髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回す。

 

「隊長、俺も奢りですか?」

 

「おう。二人で盛大にフラグ折れ祝いをしてやろう。何が良い? ボルシチか? ステーキか? なんなら山積みピロシキでも良いぞ?」

 

「いいっす。ピロシキはもう当分いらねえっす。俺のブロークンハートにピロシキがしみるっす。」

 

 二人はまた盛大に笑った。

 重く湿った溜息を明るい笑い声で挟み込んで、窓から差し込む赤い光の中、肩を組んだ三人の姿が兵舎の端の食堂の中に消えていった。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 やってみたかったんですよこれ。「俺、この戦争が終わったら・・・」をへし折るの。


 ちなみに、グーグルアースでツェントラム・アエロドロムを見ると、打ち捨てられたフォックスバットやフロッガーに混ざって、現役のフランカーらしき姿も見えます。


 因みに私は目の色と髪の色にこだわりはありませんが、スレンダーな方が好きです。

 でも20年経つと・・・どうしてこうなった?

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