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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第六章 大中华帝国的衰落
148/405

23. 低燃費な女


■ 6.23.1

 

 

 晴れ渡った空に無数に散る銀の点。

 HMDのターゲットマーカがその点に重なり、無数の大小の紫色の四角が視野の中に表示される。

 遠い目標に付けられたTDブロックは小さく、色も薄く。

 10km以内の近い目標には、大きく鮮明なブロックが付与されている。

 その機能が無ければ余りに多量に表示されるマーカに惑わされ、どの敵を狙うべきか判断できなくなってしまう程の数のマーカが視野の中に表示され、重なり合いそれぞれ別の方向に動いている。

 

 この極東地域で初めて反応弾が、達也達の手によってロストホライズン状態となったファラゾア戦闘機群に対して用いられたのが、2045年5月11日、約ひと月前のことだ。

 八発の反応弾によって二千機近い損害を出したファラゾアはノーラ降下点に撤退し、達也達はロストホライズンを阻止することに成功した。

 即ち極東地域の都市や航空基地の防衛に成功したのだった。

 

 ロストホライズン部隊はそのままノーラ降下点に駐留したため、現在ノーラ降下点には一万機以上の敵機が存在することになるが、しかし現在ファラゾアからの攻勢圧力は一時的に低下しており、達也がハバロフスク航空基地に着任した今年の初め頃と同レベルとなっている。

 それはまるで嵐の前の静けさのような不気味さを感じさせるのに十分な脅威であったが、しかし攻勢が落ち着いたことは極東地域を防衛する達也達に僅かばかりの余裕をもたらした。

 ノーラ降下地点の敵の動きに活性化が見られない為、毎日の出撃も同様に年初頃の警戒態勢に戻っており、連日十時間近い出撃時間を強いられた先のロストホライズン前後の警戒態勢から打って変わって、毎正時毎に小隊単位での出撃を行うRARやCRARによる通常の警戒レベルに戻っている。

 

 達也は機体を右にロールさせ、急旋回させた。

 先ほどから付かず離れず右側をウロチョロとする六機のクイッカーの集団が鬱陶しい。

 急旋回でその集団がガンサイトに入る。

 自動で中心に近い一機をガンレティクルが追尾して、一瞬で重なる。

 トリガーを引き、撃墜。

 レティクルが跳ねるようにして隣のターゲットに合う。

 撃墜。

 達也が二機撃墜する間に、達也の左右に居るカチェーシャと優香里もそれぞれ一機ずつを撃墜している。

 残る二機の片方に再びレティクルが跳ねる。

 撃墜。

 同時に残り一機も撃墜される。

 二人の内どちらかがやったのだろう。

 

 スロットルを開け、半ば失速しながら旋回半径を小さくしてさらにそのまま旋回する。

 後ろを取ろうとしたクイッカーが八機。

 レティクルが跳ねる。

 撃墜。

 再びレティクルが跳ねる。

 撃墜。

 それと同時に、別の二機が火を噴く。

 カチェーシャと優香里がちゃんと付いてきている。

 操縦桿に力を込め、僅かに機首をずらす。

 ガンサイトに入った敵をレティクルが一瞬で追尾。

 マーカと重なる。

 トリガーを引き、撃墜。

 また別の一機が火を噴く。

 さらに別の一機が火を噴くと同時に、残る一機が消える。

 逃げたか。

 

 ほぼ失速した機体を立て直しながら辺りに目を走らせる。

 下方に青いマーカが三個と、それを囲むように数十の紫色のマーカが視野を横切る。

 囲まれているのか。

 力の無い者が墜とされ消えていくのは仕方の無いことだ、と達也は冷めた視線を戻して再び味方の三機を見る。

 しかしその三機が生き延びれば、少しでも多くの敵を墜とすことが出来る事も、或いは自分達に群がってくる敵を分散させる事が出来、自分達の危険性が下がることもまた事実。

 達也は、失速から立ち直ったばかりの機体を回転(ロール)させて背面になり、機首を「上げ」た。

 足下にあった青い空が消え、正面一面を緑色の森が覆う。

 味方機を囲む敵をガンサイトに捕らえると、再び自動で照準が合う。

 トリガーを引く。

 スロットルを開けて増速。

 ほぼ垂直のパワーダイブ。

 レティクルが隣の目標に移ったところで再びトリガーを引く。

 撃墜。

 地球の引力と、MAXリヒートの加速で急激に増速する。

 敵に照準が合う。

 トリガーを引く。

 三機の味方機と敵機が混戦を繰り広げる高度は1500mくらいか。

 達也達が今の高度からパワーダイブすると、敵の集団を突き抜ける頃には高度が下がりすぎ、引き起こす前に地面に激突する。

 さらに一機墜としたところで、名残惜しくも機体を引き起こす。

 高度200mほどで水平になり、そのまま僅かな間直進する。

 釣られて来たのが四機。

 カチェーシャ達の方も多分ほぼ同じ状況だろう。

 左ロールから旋回。

 前方に同じ行動を取っているカチェーシャ機の排気炎と、それを追うクイッカー四機が見える。

 旋回半径を僅かに小さくし、カチェーシャを追うクイッカーをガンサイトに入れた。

 再び敵を追尾するレティクル。

 照準が合う。トリガーを引く。撃墜。

 レティクルが跳ねて次の目標を捉える。

 トリガーを引く。撃墜。

 それの繰り返し。

 カチェーシャを追う四機は居なくなった。

 そのカチェーシャは、優香里を追っていた敵機を撃墜し終わった。

 それを確認し、さらに旋回半径を小さくする。

 腹にかかるG。

 暗くなる視界。

 HMDのGメーターは11.5Gを表示している。

 ガンサイトに、未だ味方機を囲んでいる敵機の群れが入って来る。

 前方で爆発。

 味方機の内、一機が被弾して爆散した。

 運が無かったな。

 あと少しだけ保たせられていれば、生き延びられたかも知れない。

 再びレティクルが跳ねて、敵に照準が合う。

 撃墜。

 味方を囲む敵機群を端から削っていく様に撃墜していく。

 二人も同じように行動しているはずだ。

 味方を囲んでいた敵十七機の内、六機を撃墜したところで残る十一機が視野から消えた。

 逃げたか。

 機首を上げ、高度を稼ぐ。

 同じ行動をしたカチェーシャと優香里が後方に合流してくる。

 

「デーテル04、こちらクラーチカ(3366TFS)02。助かった。囲まれてもうダメだと思った。」

 

 囲まれていた味方機の小隊長であろう、クラーチカ02が荒い息で聞こえ難い中で礼を言ってきた。

 

「気にするな。お互い様だ。」

 

「新兵がやられた。先週配属されたばかりだった。可哀想なことをした。」

 

「新兵は、運が無かったな。あんたは生き残った。新しい新兵を鍛えてやれば良い。」

 

「・・・そうだな。割り切れんがな。」

 

 クラーチカ02は一瞬の沈黙の後、酷く疲れたような声で言った。

 仕方の無いことだった。

 いつまでも引きずっていては、生き残った者の精神が保たない。

 忘れることは無くとも、心を整理していくしか無かった。

 

「次に向かう。グッドラック、クラーチカ。」

 

「ああ。ウダーチ、アムルスキー・シュトルマヴィク。」

 

 高度が5000mに達したところで水平に戻す。

 

「カチェーシャ、ユカリ、問題は無いか?」

 

 すぐ近くにさしあたっての危険が無いことを確認した達也は、僚機の状況を確認する。

 

「問題なし。ジェットフュエル50%。」

 

「問題なし。こっちはフュエル60%。」

 

 達也はコンソールを見て、自分の機体の残燃料を確認した。

 JET FUEL : 49%

 優香里がおかしい。

 そう言えば前も似た様なことがあった、と達也は思い出した。

 どうやら優香里は燃料を上手くセーブしながら戦闘する術を持っているようだった。

 

「ユカリ、なんでそんなに燃料が残ってるんだ?」

 

「さあ? 普通に戦っているだけよ?」

 

「一度お前を先頭にしてみるのが良いかも知れん。」

 

 戦闘中に消費し続けるジェット燃料の残量は、文字通り命綱だった。

 燃料が無くなれば、戦闘機動を行えなくなり、即墜とされる。

 残量が心許なくなれば、補給に戻る他ない。

 だがこの引き際を読み間違えると、減り続ける燃料に焦りながら敵の群れに追い回され、逃れることも出来ずに燃料切れを迎えて、そして墜とされる。

 どうやっているのか分からないが、優香里の妙な特技は有用だった。

 

「ユカリ、小隊(フライト)リーダーやれ。今のお前なら出来る。お前の飛び方を教えろ。」

 

「え? えええ? 私、リーダー? えええ?」

 

 先ほどまで落ち着いた声で対応していた優香里が、いきなり崩れた。

 押し問答をするつもりが無い達也は、いきなり機体の高度を20mほど下げ、優香里の右後ろ、三番機の位置に付いた。

 カチェーシャが後退し、達也の左に並ぶ。

 

「ユカリ、お前がリーダーだ。任せた。」

 

「えええ? ちょっと、心の準備が・・・」

 

「準備するのは構わないが、右から来るぞ。3時、数12、高度60、距離18。」

 

「分かったわよ。やりゃ良いんでしょ、やりゃ。コンチクショー。」

 

 喚きながら優香里が機体を右にバンクさせ、リヒートの炎を引いてシャンデルの要領で駆け上がる。

 大きく旋回しながら、真っ直ぐ突っ込んでくる敵の針路を外すが、敵もそれに対応する。

 ヘッドオン。

 正面の敵は優香里の担当だ。

 達也は優香里の機体の僅かに下方に占位し、敵の緩い集団の右側を中心にガンサイト中央を合わせる。

 小刻みに機位を変えて敵の攻撃を躱しながら、レティクルが敵を自動追尾し照準するタイミングで次々と敵を墜とす。

 

「ブレイク!」

 

 敵の集団とすれ違う直前で優香里が叫ぶ。

 達也は僅かに機体を沈み込ませた後に、右に急回転(ロール)して、右下方に急旋回する。

 後方を確認すると、ブレイク前に七機を撃墜され残り五機になった敵は逃げ散ったようだった。

 そのまま旋回を続け、上方から降りてくる優香里の後ろに付く直前に、左下方へ旋回していたカチェーシャ機とすれ違う。

 優香里が上下反転して、正常な編隊構成に戻る。

 

「次、10時、高度25、距離11。」

 

 優香里が指定した方向を見ると、また三機の友軍機が二十機程の敵に追い回されているのが見えた。

 

 優香里は高度を逆に僅かに上げながら針路を変更し、集団に近付く。

 この行動で彼女が敵集団の真上から逆落としを掛けようとしていることを理解する。

 高度6000mで、逃げ回る友軍機とそれを追いかけるファラゾア機の集団の上空に到達する。

 集団は達也達の下方約4000mを5時の方向に向けて移動している。

 

「逆落としを掛ける。攻撃開始。ビストリー(3360TFS)B1、こちらアムルスキー・シュトルマヴィク。針路維持せよ。後ろの煩いのを殲滅する。」

 

 優香里は機体を反転させて急降下に移りながら、追い立てられている友軍機に攻撃を通知する。

 優香里が自ら「アムルスキー・シュトルマヴィク」と名乗ったことに、達也は内心溜息を吐きながら、優香里の機体に続いて機体を反転させ垂直降下に移る。

 渾名を付けられると云うことは、それだけ群を抜いて目立った活躍をしたと云うことで名誉なことではあるのだが、調子に乗って自ら名乗り続けると只のイタイ奴扱いされることになる。

 まあいいか。俺が名乗ったわけじゃ無い。それに、優香里は確かに少々イタイ奴ではあるしな。と、かなり酷いことを考えつつ、達也は機首を振り、ガンサイトをファラゾア機の群れに合わせる。

 通常と同じ、進行方向に対して敵の中央部分が優香里の担当、右側が達也、反対の左側がカチェーシャが担当する部分となる。

 垂直降下しながら、次々と敵を撃墜していく。

 敵機群はこちらに気付いていたのかも知れないが、急に攻撃を仕掛けられ、対応できていない。

 降下しつつ立て続けに五機を撃墜し、高度が急降下の限界に達したため引き起こす。

 優香里が真っ直ぐ上方、カチェーシャが左、達也が右。

 機体が水平になったところで再び左に捻り水平旋回。

 「頭上」を見上げると、友軍機三機を追っていたファラゾアはすでにどこかに逃げ去っていた。

 右90度ロールで水平に戻して、垂直上昇。

 

「デーテルA2、ありがとう、助かった。本気でヤバかった。」

 

 追い立てられていたビストリーB1からの例の言葉が聞こえた。

 

「お互い様よ。グッドラック。」

 

 優香里がそれに応えた。

 

「デーテルA2? リーダーは男だったよな?」

 

 戸惑うビストリー05の声。

 

「ちょっとね。気にしないで。」

 

「・・・性転換したのか?」

 

「!! ばっ、バッカじゃないの!? そんなわけ無いでしょ!!」

 

「わははは! 冗談だ。いや、助けてくれたことは感謝している。タツヤによろしくな。あ、それと、自分で『アムルスキー・シュトルマヴィク』とか言うの、イタイからやめとけよ?」

 

「っ!!」

 

「わはは! じゃな。スパシーバ。」

 

 あー、言っちまったな、と思いながら達也はマスクの下で笑いながら優香里の後ろをついて行く。

 ビストリーB2の三機は翼を翻し、遙か下方で達也達から離れる向きに旋回していった。

 

「タツヤ。」

 

 優香里の低い声が聞こえた。

 

「何だ?」

 

「もうやらない。やめた。絶対ヤダ。アンタ知っててやらせたでしょ。リーダーなんてやらない。すぐ替わって。」

 

「バカ言うな。お前の燃料消費が少ない理由がまだ分かってない。命がかかってる。ちゃんと見せろ。」

 

「ヤダ。死ぬほど恥かいた。先に教えなさいよ。替わって。」

 

「ダメだ。ちゃんと見せろ。うだうだ言ってないでさっさと行け。右、4時、数50、針路21、高度55、距離25。ちょうど良い獲物が居る。」

 

「・・・ぶっコロス。」

 

 低い声で呟いて優香里は翼を右に捻った。

 ちょうど良いところに八つ当たりの生贄が出てきて上手く誤魔化せた、と達也は再び笑いながら優香里の動きに従って右にロールした。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 最後まで緊張感が保ちませんでした。(笑)

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[一言] タイトルはブラックユーモアって奴ですか? 文学は難しい(笑)
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