表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第五章 LOSTHORIZON
120/405

18. 戦略物資


■ 5.18.1

 

 

「ちょっと待ってよ。じゃぁ、どのみち人類は滅亡すると予想されてる、ってわけ?」

 

 フィラレンシア大尉が、氷の冷たさで無感情に絶望的な地球人類の未来についての情報を場に投下すると、達也から少し離れた所から声が上がった。

 プロジェクタ投映の明かりで大分明るくなった部屋の中、声がした方に達也が眼を向けると、昼前に車庫で見かけた三人組の女が座っており、その中の金髪が怒りとも驚きともつかない表情で大尉を睨み付けていた。

 驚くべき情報を突然もたらされ、思わず声に出た、そんな風に見えた。

 

「ええ。今のままでは。その為、人類の閉ざされた未来の打開策の一つとして設立されたのがこの第666戦術航空団であり、皆さんトップエースが集められた訳です。皆さんには今後とも獅子奮迅の活躍を期待しています。」

 

 それも計算に入れた上での二十五年ではないのか、と達也は思ったが、いずれにしても打開策を次々と打ち立てなければならないのは間違いなく、腕の良いパイロットばかりを集めたこの航空団に色々やらせるつもりなのだろうなと納得する。

 フィラレンシア大尉がプロジェクタ映像のページを切り替えた。

 

「続けます。当然我々は自分達が滅びるのを指を咥えて眺めているつもりは無く、今後状況改善の為に死力を尽くさねばなりません。滅亡を回避する為の方策としては三つの選択肢が考えられています。

「一つは、ファラゾアと停戦あるいは和解すること。しかしこれは、ファラゾアがどの様な呼びかけをも全て無視する現状から考えて、可能性としては極めて低いと言えます。そもそも、我々地球人類が滅亡する未来が見えている中で、完全に優勢に戦いを進めているファラゾアとしては、我々地球人類からの停戦の呼びかけに応える必要もありません。」

 

 大尉が一旦言葉を切った。

 全員が納得した顔である事を確認して、続きを話し始める。

 

 達也は先ほど旧市街で見かけたデモ隊を思い出していた。

 彼等が、今大尉が説明している様な内容を知った上で行動しているとは思えなかった。

 ただ単に、戦争は嫌だ、死ぬのは怖い、家族が死ぬのは悲しい、と感情のまま行動しているだけだろう。

 それでは大尉が言った通りごく短期間の内に人類は滅亡してしまうだろうが、誰もが持っている感情というものを元に行動しているのは、多くの人間を巻き込みやすいだろう。

 今後、その様な思考停止した連中が増えなければ良いのだが、と達也は思った。

 

「第二案は、第一案の逆です。この地球上からファラゾアを殲滅してしまえば良い、ということです。」

 

 大尉が再び言葉を切り、皆の反応を確認してからまた続ける。

 

「ご理解の通り、この案の実現もほぼ不可能です。最大の理由として先ほど申し上げたとおり、我々地球人類には彼等を殲滅するだけの力が無いという事、そして我々がそれだけの力をつける前にタイムリミットがやってきて、我々は滅亡します。つまり、手詰まり、という事です。」

 

 ああ、確かにこれは第666(T)(F)(W)をわざわざ国連司令部に呼び寄せて、666TFWだけに聞かせる様な内容だ、と達也は理解した。

 一般兵士、ましてや一般市民にこんな事を聞かせたら軍も社会も崩壊するだろう。

 自分たった一人でも敵と戦っていけるという自信があり、実際に絶望的な状況を何度もくぐり抜けてきたこのTFWのメンバーだから、この様な話をされてもまともで居られるのだ。

 もしかすると、過去の絶望で遠の昔にとっくに心は壊れていて、これ以上狂いようが無いだけなのかも知れないが。と、心の中だけで皮肉に嗤う達也。

 

「この第二案を実現不可能とするさらに悪い情報があります。今回皆さんに開示する情報を幾つかここでお話しします。

「一つ目。ファラゾアはほぼ無尽蔵に戦闘機械を生産可能です。」

 

 プロジェクタ画像が、赤い惑星に切り替わった。

 達也でも知っている星だった。火星。

 

「先日、地球と火星が接近した際に、火星に大規模なファラゾアの基地がある事が確認されました。現在、地球大気圏外は完全にファラゾアの制圧圏であることから、ここ十年は惑星探査機の様なものを一切飛ばせていないこと、前回の接近時までは、惑星表面部分に露出している部分が小規模であった事から、発見が遅れました。

「昨年三月に発生した火星接近時に光学観察した画像を解析したところ、現在までに三箇所の大規模拠点が確認されています。いずれの拠点も、戦闘機械の生産工場を中心とした施設であると推察されています。生産力は不明ですが、ファラゾアの科学力から考えて、三箇所の合計生産能力はクイッカークラスの戦闘機に換算して日産数千機はあるものと考えられます。」

 

 火星の画像が平面のメルカトル図法にばらけ、三箇所に赤色の丸が付けられた。

 それぞれ「Gordii Cracks」「Cimmerian Sea」「Ascraeus Lake」と名前が表示されている。

 

「過去三ヶ月間平均推定で、我々地球人類がファラゾアを撃破した機数は一日当たり八百六十三機です。もうお判りでしょうが、現在の我々の敵撃破数では、永遠に彼等を殲滅することは出来ません。二十五年以内に敵を殲滅するのは絶望的です。今後彼等の生産拠点が増加する様であれば、尚更です。」

 

 大尉が言葉を切る。

 冷たく、絶望的。どう足掻こうと、人類に未来はない。

 フィラレンシア大尉の口調と、そして説明されている情報の内容から達也が受けた印象だった。

 しかしその情報を、自分はまるで他人事の様に感情の動き無く受け止めている事にも気付いていた。

 

 人類の未来がどうであろうと、自分のやれることをやっていくしかない。

 いや、そんなストイックで模範的な感情では無いな、と達也は自分自身を分析する。

 俺は、自分自身の不幸や、自分の周りにいた者達に死をもたらした敵を殺したいだけなのだ。

 戦略的な長期的展望や、人類の命運を賭けた戦い等といったものには関心など無く、ただ眼の前に憎い敵がいるから殺す、叩き墜とす、それが自分の戦いの原動力であり、目的なのだと思った。

 いつか敵に墜とされ命を失う日が来るだろう。

 その時まで、力の限りとにかく敵を墜とす。復讐する。或いは、仇を討つ。

 それが、自分が今戦っている理由の全てなのだ、と。

 結果的にそれが人類の未来に繋がるなら、それで全く問題無いだろう。

 それが、短時間の間に出した達也の結論だった。

 

「彼等の機体に使われている素材の解析結果と、彼等の持つ科学力から考えて、ファラゾアは物質転換技術を保有しているものと推察されています。であるならば、火星資源の枯渇は全く問題にならず、火星そのもの全てを食い潰すまで彼等は戦闘機械を生産し続けられます。現在の生産能力で彼等が火星を全て消費するのにかかる時間は百億年以上です。また例え火星が消費され切ったとしても、太陽系には他に幾つも彼等の資源となり得る惑星があります。例えば木星の質量は、火星の約三千倍です。太陽系全体で考えれば、ほぼ無尽蔵の資源、と言って良いでしょう。」

 

 火星の映像が再び球状になり、そして急速にズームアウトする。

 太陽系全体の図になり、それぞれの惑星系の主要な星の名前が並ぶ。

 絶望的である事は理解できた。

 しかしもうすでに、話のスケールが大きすぎて達也の理解を超えていた。

 

「即ち、第二案、今のまま戦ってファラゾアをこの地球上、或いは太陽系内から完全に殲滅或いは排除するのは、余程の飛躍的技術革新による大量殲滅ができない限りは不可能、と結論づけられます。

「そこで第三案ですが、これは第二案を現実的に修正したものです。最終的な目的は当然、ファラゾアの殲滅、排除である事に変わりはありません。しかしそれ以前に、当面の最大の目標を『人類の生存』に置きます。」

 

 再び大尉が言葉を切った。

 光る眼鏡の向こう側で、大尉の眼が全員を見回す。

 が、誰も口を開くものはいない。

 

「ファラゾアの殲滅排除と、人類の生存。これら二つの目標は、一見同じものに思えるかも知れません。しかし目標に対するアプローチの仕方が根本的に異なります。その内容については軍機にも関わることですので今詳しくお話しすることが出来ませんが、目標を変更し、その為の手段を変更した結果、当初の2070年には人類が滅亡するという予想よりも改善されたということはお知らせしておきます。

「今後国連および国連軍を始め、各国政府、各国軍はこの第三案を目標としたロードマップに沿って技術的、軍事的な計画を進めていく事となります。使い古された表現ですが、既存の枠組みに囚われず、生き残るためには高度に練られたものから馬鹿馬鹿しく見えるものまでありとあらゆる手段方法を採ることとなります。それを承知しておいて下さい。

「ちなみに、本第666戦術航空団の創設も、このロードマップの中で計画されたものであることも合わせてお伝えしておきます。」

 

 大尉が再び間を置き、部屋全体を見回した後で話を再開する。

 

「次に足元の案件に移ります。先ほどファラゾアの火星基地、或いは生産拠点のお話をしましたが、今度は現在の地球上のお話しです。」

 

 話題が切り替わると同時に、プロジェクタ画像が地球に切り替わった。

 

「2035年にファラゾアが降下したのは十箇所。さらに米国カリフォルニア半島と、アフリカ大陸、コンゴ共和国とルワンダの国境にあるキブ湖周辺への追加拠点形成が認められています。この内、コンゴ側キブ湖畔に建造された地上施設は、現在地球上で確認されているファラゾアの地上施設としては最大で、一辺2500mのほぼ立方体の形状です。他の降下地点は全て、降下中心地を取り巻く様な直径二十から五十kmの円周上に十から三十の複数の地上構造物が設置されているのに対して、キブ湖畔ビラヴァ降下地点のみ、降下中心地に他のものと較べて大型の地上構造物の設置が確認されています。」

 

 地球上に十二箇所の赤い点が散り、それぞれ降下地点の名称が表示される。

 地球がクルリと回り、アフリカ大陸が大写しになった後、その中央よりも僅かに南東にずれた辺りが急速にズームアップされた。

 そこには湖とは思えない程に複雑な形状をした淡水湖があり、湖の中央辺りをコンゴとルワンダの国境が走っている事が図示された。

 画像はさらにズームアップし、湖の南部が大写しになると、まるで画像の欠落でも発生したかの様な白い四角形が湖と陸地を跨ぐ様にして存在するのが否が応にも目立つ。

 

「本画像は、ファラゾア来襲前の衛星写真に、現在までの所で明らかになっているビラヴァ拠点構造物画像を合成したものです。これほどの大きさの構造物は、他の十一拠点では一切確認されていません。

「また、ビラヴァ拠点には全長1000m弱の敵中型艦艇の降下が複数回確認されています。敵降下艦艇の着陸質量と離陸質量の差から、本拠点は地球上の物資集積拠点であり、地球上で確保した物資を中型艦艇に積み込む為のステーションであると推察されています。」

 

 フィラレンシア大尉は何の感情の起伏も無く説明をした。

 しかし当然の事ながら、達也はその説明内容に興味を引かれた。

 達也だけでは無く、その場に居合わせた全員が興味を持ったであろう。

 ファラゾアは、一体何を地球から持ち出しているのか。

 それが、ファラゾアが地球にやってきた目的なのか。

 

「地球上で確保した物資、って何? それが連中の侵略の目的のブツなの?」

 

 先ほどの金髪が再び声を発した。

 車庫で見かけた時とはがらりと変わって、硬く冷たく、有無を言わせない意志が込められている様に聞こえる。

 先ほどの発言時よりも、声にさらに鋭さが加わっている。

 

「当然の質問かと思います。次に説明する内容が、その質問の答えとなります。」

 

 さらにプロジェクタ画像が切り替わる。

 今度は世界地図を背景とした円グラフだった。

 円グラフの1/4程が赤色に染まり、残る部分の約半分が黄色く染まっている。

 

「2035年7月。ファラゾア来襲時の世界人口が約八十五億人でした。そのうち約五十億人が、2045年現在のファラゾア制圧圏下に居住していました。皆さんもご存じの通り、数千人規模以下の小規模な街、或いは村はファラゾア制圧圏に於いても、奇妙なことに殆どがそのまま存続できています。ファラゾアは地上の交通手段に対して興味を示すことが殆ど無いため、その様な小規模の街や村は生活物資に困窮しつつも、陸上輸送によって最低限以上の生活水準を維持しています。

「またそれとは別に、地球外からの正体不明の未知の敵の侵略を恐れた多くの住民がファラゾア制圧圏を脱出し、我々地球人類が未だ我々の勢力圏内であると認識している地域へと移動し、難民と化しています。

「ファラゾア制圧圏下にて今も生活している人々の総数推定は十億人です。人口数千人以下の街や集落をつくり世界中に分布しており、且つ敵制圧圏かであるため、精確な総数は判明していません。

「ファラゾア製圧圏下から逃げ出した人々の数は約十九億人と推定されています。そのうち八億人は脱出先で就労する、或いは親類縁者を頼って身を寄せるなどして最低限の生活を維持できていますが、残る十一億人ほどはいわゆる難民キャンプの劣悪な環境での生活を余儀なくされている状態です。」

 

 フィラレンシア大尉の説明に、達也はラチャブリ難民キャンプでの日々を苦々しく思い出した。

 窃盗、殺人、強姦、誘拐、詐欺とありとあらゆる犯罪が横行する、片時も気の休まることのない場所。

 生活を改善する、或いは難民キャンプを出て犯罪から身を遠ざけようとしても、その切っ掛けとなる現金収入を得るための仕事が無いところ。

 結局は我が身の非運を嘆きながら、僅かな配給と後ろ暗い方法で得られた食料とでどうにか生命活動をギリギリ維持できるレベルで食いつないでいくしかない。

 生きる希望を失い、体力も見る間に低下し、何をすることも出来ず空を眺めて地面に横たわり、緩慢に訪れる死を待つしか無い場所。

 季候が良く、比較的食料の手に入りやすいタイという場所で、国連の事務所の仕事にありつくことが出来た自分達は、本当に運が良かったのだ。

 

「既にお気づきかも知れません。先ほど私が申し上げた世界人口の数字と、今挙げた数字の合計が一致していません。

「ファラゾア来襲後、地球上で総人口の約1/4に当たる二十億人の人々が行方不明となっています。国連および各国の一致した見解として、この行方不明になった人々はファラゾアに捕獲されたものと考えられています。」

 

 部屋の中の空気がいきなり数十倍の重さを持った様に思えた。

 

「捕獲? どういう事だ? 殺されたのではないのか?」

 

 先ほどの金髪の女とは反対側に座っている男が、低く静かに、しかし明らかに不機嫌な声を発した。

 大尉はその声に注意を払いつつも、反応すること無く話を進めた。

 

「勿論、ファラゾアの攻撃により命を落とした人も少なくないでしょう。しかし、皆さんならよくご存じと思いますが、ファラゾアが地上の人間を直接攻撃することはありません。彼等は大都市を直接攻撃して、そこに住んでいる人々もろとも焼き払う様なことはしません。戦闘で民間人に死傷者が出るのは、運悪く流れ弾の爆発に巻き込まれるか、市街地上空の戦闘の流れ弾で建築物などが崩壊する時に、運悪くそれに巻き込まれて死亡するか、等が殆どです。

「しかし、ファラゾア制圧圏下の大都市はすでにゴーストタウンと化しています。人口数十万の大都市が、建造物などに一切の被害無く一夜にして誰もいないゴーストタウンとなった事例もあります。」

 

 市街地上空で爆発した、俺達が撃った反応弾に吹き飛ばされる場合もあるが、な、と誰も見ていない暗がりで達也は皮肉に嗤う。

 

「彼等の行動は基本的に、地球人類を殺そうとするものでもなく、また人類の文明、或いは地球そのものを破壊しようとするものでもありません。むしろ、人類をできるだけ殺さない様、傷つけない様に行動しているものと推察されています。

「皆さんは、戦い死んでいった戦友達のことを思い否定するでしょう。しかしそれは、ファラゾアにしてみれば、軍事的脅威があったのでそれを最低限排除しただけのことです。」

 

「納得できないな。」

 

 大尉の言葉の切れ目ですぐさま反論の声が上がった。

 

「奴等が攻めてくるから、俺達は迎撃している。武装していない民間の船舶や航空機もやられた。そもそも、最初に攻め込んできたのは奴らの方だ。」

 

「仰る通りです。その点については、彼等が航空機と大型船舶について、武力を持つ直接的な脅威、或いは軍事的に重要な物資を迅速或いは大量に輸送する間接的な脅威と見なしているものと思われます。航空機は全て攻撃の対象であり、1000トン以上の船舶も攻撃対象となっています。陸上の輸送手段は全て攻撃対象から外されています。

「逆に考えるならば、1000トン以下の船舶を武装してどれだけ彼等の脅威となるか、或いはどれだけの軍事物資を輸送できるか。陸上のみでどれだけ即応性のある長距離大量輸送を達成できるか。そう考えるならば、彼等の線引きは納得できます。」

 

 憮然とした様子で話す長髪の男に大尉は向き直り、反証を行う。

 

「一番最初に攻撃を受けたアメリカ合衆国はファラゾア来襲初日に、ありとあらゆるものを破壊されました。通信ネットワークのみならず、電力供給網や発電所とそれを制御するシステム、水道などのライフラインを制御するシステム、交通信号を管理制御するシステムや民間のビルのエレベーター制御システムまで、ありとあらゆるものがクラッキングされ、破壊されました。全てを破壊され奪われた米国は、目が見えず耳も聞こえず、手足を動かすことも出来ない巨人と成り果て、国家としても衰退の一途を取る事となり、またライフラインを奪われ、治安が悪化し、結果的に五千万を越える死者を出すこととなりました。

「しかし米国の次に攻撃を受けた南米、ヨーロッパ、ロシアでは、通信回線こそ完全に破壊されはしたものの、送電網やそのシステムは彼等の攻撃対象から外されました。ここストラスブール、そしてパリやサンクトペテルブルク、モスクワでは、今でも電気を使う事が出来、蛇口を捻れば水が出てきて、人々は地下鉄を使って朝晩通勤しています。二番目以降に攻撃を受けた地域では、これら地球人類の生存に必要であるものは、明らかに攻撃対象から外されており、それは現在でも継続しています。」

 

 それは誰もが知っている事実だった。

 何もかもズタズタに引き千切られた米国は、あらゆる国力を失って二流国家に転落し、文明から切り捨てられた様な生活を余儀なくされ、悪化し続ける治安は山の様な死体を積み上げている。

 放射能に汚染された食物を口にすることは出来ず、夜の闇を照らす明かりも無く、寒さを凌ぐ暖房も無い。

 それに較べて、ヨーロッパはまるでファラゾア来襲前と変わりない生活と文明を謳歌しているかの如く、国力を維持し、発言権を増し、今や地球防衛の要である国連を支える大黒柱として揺るぎない存在感を放ち続けている。

 

「最初の攻撃目標であった米国で『やり過ぎた』彼等は、それ以降人類を殺さぬ様手心を加えて戦っている。彼等に向かって反攻することは認めないが、しかしながら地球人類を滅ぼすつもりはさらさら無い。むしろ、我々地球人類を殺さぬ様に優しげに(Gentry)扱ってさえいる。

「なぜならば、地球人類こそが彼等にとっての資源、彼等が地球にやってきた目的であるからです。」

 

 フィラレンシア大尉がまた話を切った。

 それは、今彼女自身が語った内容が全員の頭に染み込むのを待っている様にも見えたが、次に話す内容のインパクトを依り大きくするための「溜め」の様にも見えた。

 

「人間を生きたままどこかに連れ去ってる、ってこと?」

 

 疑い深げな声で金髪が言った。

 

「半分正解で、半分誤っています。」

 

 皆を見回したフィラレンシア大尉の眼鏡が、プロジェクタの青い光を反射して冷たく光る。

 

「彼等が必要としているのは、人類の(Brain)。彼等は既に二十億もの地球人類を解体し、生きたまま脳を取出し、この地球上から持ち去りました。それが彼等が必要とし、地球から持ち出している『物資』です。」


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 長くなり済みません。また、ちょっと遅れてしまいました。

 流石にこれだけの量の説明分を書くのには時間がかかってしまい・・・


 フィラレンシア大尉オンステージ状態です。デキル女のプレゼンテーションです。

 ただの説明回にしてしまうと、読んで居られる皆様に敬遠されるかと思い、ちょっと趣向を変えてみました。


 クールでキツそうな眼鏡美人のプレゼンテーション。

 どストライク。最高っす。

 読者への配慮でなくて、殆ど自分にご褒美?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ