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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第五章 LOSTHORIZON
117/405

15. ミーナーブ上空にて


■ 5.15.1

 

 

 右に大きく傾いた機体の、さらに右下をホルムズ島が一瞬で後ろに飛んでいく。

 前方僅か20kmには、燃え盛り盛大に黒煙を上げ続けるバンダレ・アッバース基地。

 そしてその上空に無数のファラゾア。

 達也はトリガーを引き続ける。

 達也が一度トリガーを引く度に、空中に小さな爆発が一つ発生する。

 僅か1秒にも満たない照射では、120mmレーザー砲の威力ではファラゾア機を撃墜出来ない場合もある。

 しかし両舷二門の120mmレーザー砲を同時に同じ目標に叩き込めば、大概の場合は一撃で破壊できる。

 その為にワイヴァーンには二門の120mmレーザーが搭載されており、両方のレーザー砲が同時に同じ目標に照準を合わせるようなシステムになっているのだ。

 

 地上を海岸線が流れる。

 バンダレ・アッバースの市街地が急速に接近してくる。

 その向こうに、既に原形を止めないほどに破壊された基地が見える。

 達也は右手の中に収まる操縦桿を小刻みに動かしつつ、同時にトリガーを引いて、上空を飛び回る敵機をまた一つ、一つと叩き落とす。

 

 基地を攻撃している敵機の中には、ファイアラーが必ず混ざっているはずだ。

 基地などの地上目標攻撃専用と言って良い600mm以上ある大口径レーザーを一門機体中心部に備えた攻撃機。

 ファイアラーが十機も居れば、バンダレ・アッバース程度の規模の基地であれば、十分もあれば元々そこに何があったのか全く判別付かないほどにまで破壊し尽くすことが出来る。

 しかし今、500m/sにも達する相対速度の中、一瞬たりとて手を休めることが出来ない回避行動を取り続ける中で、基地上空を飛び交う無数のファラゾア機の中でどれがファイアラーかを特定している暇など無かった。

 本来ならばファイアラーは優先撃破目標だった。

 しかし今の状況では無理だ。

 そもそも敵の数が多すぎて、ファイアラーを特定出来ない。

 そして、ファイアラーを特定する為に機動や思考を割く余裕もない。

 構わないだろう。

 必死になってファイアラーを特定して何機か撃破したとしても、どうせすぐに補充されてしまうのだ。

 それならば選り好みで時間を浪費することなく、ただひたすら無差別かつ確実に敵の数を減らしていく方がまだ効果的だろう。

 達也はトリガーを引き続ける。

 

 バンダレ・アッバース基地から立ち昇る黒煙の中を突き抜ける。

 達也は一瞬地上へと眼をやる。

 つい先ほどまで着陸して整備を受けていた格納庫(ハンガー)も、毎日寝起きしていた兵舎も、口喧しく文句を付けてきた良く気の付く管制官が詰めていた管制塔も、アクロバットか或いは度胸試しのチキンレースのような無謀な着陸を行った細い誘導路も、そして最後にあらゆる規則とルールを無視した強引な離陸をやってのけた広いエプロンも、今は全てが灼き尽くされ融けて燃え落ちて混ざり合い、ただの爆発クレーターとその底に溜まる溶岩状の物質と、絶え間なく吹き上がる黒煙と炎へと変わり果てていた。

 それ程酷く愛着のある基地というわけではなかった。

 それでもやはり、人類の保有するファラゾア降下地点への反攻拠点である航空基地がまた一つ失われたことは、達也の心の奥底に苦い思いと同時に、なかなか消えることのない熾火のような熱い熱量を静かに植え付けた。

 

 基地に眼をやったことで一瞬よそ見をした格好となった達也の目の前を、白銀色のファラゾア機が一機横切った。

 ずんぐりとした機体形状。

 前方に突き出した爪の様な特徴的な三本の突起。その突起に囲まれる様にして中心部に大型のレーザー砲。

 後方に突き出した角張った突起。

 

 考えるよりも先に身体が動いていた。

 右足が力一杯ラダーを蹴り飛ばす。

 推力偏向パドルによって横向きに吹き出されるジェット噴射と、ラダーに呼応して大きく斜めに角度を変えた垂直尾翼。

 垂直尾翼とは逆を向くカナード翼。

 機体は大きく右にテールスライドし、そのまま空気の流れから剥がれた。

 左向きに独楽の様に回転する機体の機首が、一瞬だけファイアラーの後部を捉える。

 120mmレーザーの一閃。

 後方から撃ち抜かれ、小爆発を発生して吹き飛ぶファイアラー。

 その大型の機体はゆっくりと回転しながら放物線を描いて地上へと落ちていく。

 さらに回転する達也の機体は、本来の進行方向に戻り、風を捕まえた途端に回転(ロール)して再びランダム機動を開始する。

 

「ざまあ、みろ。人ン()を、好き放題、ローストしやがって。クソッタレが。」

 

 超音速状態でのコークスクリュー機動で急激に身体にかかった強烈なGに息を荒げながら、達也はマスクの下で嗤いつつ吐き捨てる様に言った。

 

 しかしこれ以上バンダレ・アッバース基地にかかずらっている訳にはいかなかった。

 どれ程必死に回避しようと、敵の真っ只中を単機で飛べば敵の攻撃によってダメージが溜まっていく。

 焼け野とクレーターとマグマの海に変えられた基地の復讐にばかり気を取られ、敵本体にたどり着けないのでは本末転倒してしまう。

 そもそも、いつまでも敵が都合良くミーナーブ上空に集結している訳ではあるまい。

 いつか必ずホルムズ海峡を渡り、ムサンダム半島上空の味方を攻撃しようと動く。

 そうなると敵味方入り乱れてしまい、任務の遂行が極めて難しくなる。

 達也は、友軍機がまだ飛行している可能性が高いウィンドワード海峡に見境なく反応弾をぶち込んだ合衆国政府の様な真似をするつもりは無かった。

 

 ホルムズ海峡を右手に見ながら、達也は海岸線に沿ってホルムズ海峡最深部を目指す。

 バンダレ・アッバースを離れたので敵密度は下がるが、敵がいない訳ではない。

 回避行動を採りながら、ガンサイトに入り込んだ敵を次々と墜とし続ける。

 

 ミーナーブ上空に集結している一万二千の敵に動きがあった。

 その北側の一部、五百機ほどが本体から別れて西に進み始める。

 余りの敵の多さに、達也はその小さな動きに気付けなかったが、他に気付いた者がいた。

 

「アルシャイン04より始末屋。ミーナーブ上空の敵の一部がそっちに向かっている。数約五百。迎撃されるぞ。気をつけろ。」

 

 ホルムズ海峡のイラン側を管制していたAWACSからの通信。

 この状態でもまだ敵の近くにAWACSが頑張っていることに驚いた。

 通信すればそれだけ撃墜(おと)される危険が増すだろうに。

 

「諒解した。アルシャイン04、情報感謝する。そっちこそ気をつけろ。」

 

「気にするな。これが仕事だか・・・」

 

 通信が突然途絶える。

 メイフライが撃墜(おと)されたか。

 撃破されるのは無人機だけで、それを操っている人間は多分無事だというのがせめてもの救いだった。

 

 ミーナーブまで40km。

 ウェポンセレクタで、両翼下に懸架されているミサイルを呼び出す。

 コンソールに画面が開き、ミサイルの残弾状態を図示する。

 外側のBパイロンに黄色い帯が書かれたミサイルが表示され、内側Aパイロンには赤色の帯が描かれたものが表示される。

 達也は、チャンスを見つけたらいつでもミサイルを発射できる状態にしておき、そのままミーナーブに向けて突入する。

 

 前方に本体から別れた一群の敵機が明らかになる。

 AWACSからの知らせにあった、自分を迎撃するために分隊化された五百機だろうと、HMDの表示を見ながら達也は理解した。

 HMD表示の中で、そのちぎれ雲の様な一群が急速に接近して来るのが分かる。

 遠い敵は一回り小さな目立たない輝度のマーカーで。

 近い敵は少し大きく、明るく目立つマーカーが付与される。

 自分を墜としに来る五百機をまともに相手する訳にはいかなかった。

 流石にそんな事をすれば無事では済まない。墜とされるだろう。

 

 達也は照準をシステムに任せ、レーザーを乱射しながら分隊に向けて正面から突っ込む。

 ひとかたまりになっているので、多数の敵が同時にガンサイト内に収まる。

 トリガーを引きさえすれば、1.5秒に一機の割合で、まるで単純作業の様に撃墜数だけが伸びていく。

 敵分隊が目前に迫ったところで、背面急降下。

 パワーダイブ。

 海岸線を僅かに外れた海面ギリギリで低空飛行。

 達也の機体の周りをレーザーで加熱された水蒸気爆発の水しぶきが覆う。

 海水を被るのは、エンジンにも良くない上にキャノピーも曇る。

 しかしそんな事は言っていられなかった。

 敵の分隊は頭上から背後の上空にいて、達也を狙い撃ちにしてくる。

 流石にこれだけの数の敵に狙い撃ちされれば、至近弾が次々と発生して機体を削る。

 直撃しない様祈るばかりだが、この距離でこの数だと殆ど確率の問題だった。

 

 ミーナーブまでの距離が30kmを切った。

 運の良いことに、敵本体はまだミーナーブ上空で集結したまま動いていなかった。

 ウェポンセレクタでBパイロンのミサイル二発を選択。

 操縦桿上面の追加兵(ウェポン)装発射(リリース)ボタンを押す。

 左右の翼から二発のミサイルが分離されて、一瞬落下した後にロケットモータに着火し、ダミーミサイルは白煙を曳きながら敵本体に向けて突き進む。

 ファラゾアに妙な警戒心を持たれない様、ミサイルの挙動を制御する思考ルーチンには巧妙な偽装が施してある。

 ダミーミサイルはまるで空対空ミサイルがファラゾア機を撃墜しようと追跡するかのような動きを見せる。

 しかし重力推進によって高い機動力を持つファラゾア機はミサイルを易々と避け、ミサイルの機動力では追いつけない位置に移動し、追跡してくるミサイルを簡単に撒いてしまう。

 目標を見失ったミサイルはすぐに次の目標を見つけ、同じ様に追跡を開始するが、やはり簡単に撒かれる。

 そうやってミサイルはファラゾア機に翻弄され、右往左往しながら敵を追いかけるが、結局標的を捉えることはない。

 

 達也は再びウェポンセレクタを回し、残る四本のミサイルに対して一斉(Relea)発射(se all)を選択する。

 ランダム機動による回避行動を行い続ける中、機首がミーナーブの方向へ向いた瞬間を狙って、残る全てのミサイルを発射(リリース)した。

 翼下パイロンから次々に切り離されたミサイルは、先のダミーミサイル同様に空中を僅かに落下した後、ロケットモータに点火して白煙を曳いてミーナーブの方向へ向けて突き進んでいった。

 達也はすぐに針路を反転し、最大推力でミサイルと反対方向に飛ぶ。

 

 四本のミサイルは、これもまた同じ様に空対空ミサイル(AAM)の様に振る舞い、ファラゾア機を追っては躱され、別の目標を見つけて追ってはまた躱され、という動きを繰り返す。

 先に達也が撃った二本のダミーミサイルは、逃げ回る敵に翻弄され、すでにロケットモータの燃料を使い果たして力なく地上に向かって落下していっている。

 第二陣の四本も同様に、追尾しては逃げられるという動きを繰り返す。

 その動きを繰り返しながらも、四本のミサイルは次第にそれぞれ別の方向に向けて互いに離れていき、ファラゾア機を追いかけ続けて徐々に高度を上げていった。

 やがてミサイルは、ファラゾア機が最も多く集まっている高度8000mを越え、さらにその上に向けて上昇していく。

 いつの間にかその四本は、ミーナーブ上空に集結するファラゾア群の最も密度の高い場所を四方から囲む様な位置に散らばっていた。

 

 達也はリヒート最大でホルムズ海峡を西に向けて逃げる。

 ミサイルが30km飛ぶ間に、こちらも20kmは退避しておきたかった。

 50km有れば、まず間違いなく安全だ。

 しかし、背を見せて全速力で逃げる達也を五百機のファラゾアが追う。

 速度を上げて遠ざかることを優先しているため、回避行動の動きが鈍り、次々と至近弾が発生する。

 操縦席至近を掠めたレーザーによりキャノピーは一部白濁し、翼は既にささくれ立った棘を沢山生やした、まるで植物の葉の顕微鏡観察写真の様になっている。

 右の垂直尾翼は1/3ほど失われており、胴体中央部にも浅い角度でレーザーが掠めた破砕孔が開いている。

 小さな穴は言うに及ばず、機体表面が溶けて爆ぜた様な穴が機体全てのあちこちに開いており、達也がコクピットから左右に顔を向ければ、主翼や胴体にそれらの穴を幾つも確認することが出来た。

 回避よりも離脱に重きを置いたことで、それら同様のダメージがさらに蓄積する。

 

 今また新たに主翼の先端が鋭い明かりを発して融けて爆散し、鋭い角度で前に突き出す前進翼の先端から30cmほどが消滅した。

 しかし達也はそれら増加する被害を無視して、敵弾の直撃を受けて撃墜さえされなければ良いとばかりに、ひたすら海上をムサンダム半島に向けて飛び続けた。

 

 やがて四本のミサイルは迷走しながらも、集結するファラゾアの大半を追い越してその上空に達する。

 ファラゾア機が最も集中する高度8000mを越え、それぞれのミサイルが高度10000から10200mに達した時、標的にぶつかった訳でも無く、しかしミサイルは唐突に爆発した。

 

 爆発のタイミングについて互いに通信し合っていたミサイルは、いずれも数ミリ秒の差でほぼ同時に、ファラゾアが集結する空域を四方から囲む様にしてファラゾアの集団の上空で爆発した。

 弾頭の核融合反応を起こさせるために、それ専用の小型核融合炉を持つという不思議な構造をしたこれらのミサイルは、起爆に原子爆弾を使用しないいわゆる「純粋核融合弾」に分類される。

 

 ミーナーブ市街上空10000mで発生した直径500mほどの四つの巨大な火球は、目も眩む量の可視光と、10000mも離れた地上の市街地を焼き払えるだけの熱線と、周囲数十kmに存在する対策を施していない電子回路を簡単に焼き切るだけの電磁波、そしてむき出しの核融合反応から期待される充分な量の放射線と、そして轟音と衝撃波を当たりに撒き散らした。

 さしものファラゾア戦闘機と言えど、地上に出現した人工の太陽から叩き付けられる強烈な熱線には耐えられず、爆心近傍にいた機体は膨大な熱量を受けて一瞬で焼き払われた。

 

 四方で同時に発生した爆発衝撃波は、爆心から外に向けては四つの同時爆発が共鳴する様な相乗効果を、そして爆心に囲まれた中央部分に向けては、空気を含めて空中に存在するあらゆるものを四方から押し潰す様な力を発生した。

 ファラゾア機の飛行速度、或いは加速度それ自体は、発生した爆発衝撃波から充分に逃れられるだけの能力を持っているのであるが、突発的に発生した事態に対する反応に人類に較べて約1.5倍もの時間を要する「のろまな」ファラゾア機のうち爆心に近い空間に存在したものは、この事態に対応する事が出来ずに衝撃波に飲まれて機体を破壊された。

 

 ファラゾア機が脚にものをいわせて逃げ出す際には、地上近くの濃密な大気による空気抵抗と、断熱圧縮による機体の過熱を避けるために、一旦大気密度の低い高空へと上昇することが殆どであるが、集結するファラゾア機群よりも高い所で四発の反応弾が彼等を囲む様にして爆発した為に、まるで上から押さえ付けられた様に逃げ場を無くしたことも彼等の被害を大きくした理由のひとつだった。

 

 アフガニスタン国内の高地に存在するルードバール降下地点を発し、ホルムズ海峡を目指して雪崩の様に侵攻した総勢一万二千機は、対岸のムサンダム半島に集結した人類の防衛隊を一気に押し潰すためにミーナーブ上空にて集結し態勢を整えている最中に反応弾四発を打ち込まれて、約二千機を一瞬にして失った。

 

 遙か数千kmの彼方から現地のリアルタイム情報を確認することも無く発射される大陸間弾道弾では、たった四発でこれだけの成果を上げることは出来なかったであろう。

 数千機の敵機を前にして危険を顧みず、大過剰飽和攻撃を行う敵前を単機で駆け抜け、最適な時、最適な場所に最小限の反応弾を撃ち込むことが可能である通称「始末屋(EXECUTOR)」の存在無くしてはこのロストホライズン抑止攻撃を実施することは出来ない。

 

 そしてこの始末屋の役割こそが、各前線基地で華々しい成果を上げ、各方面でエース中のエースと呼ばれた兵士達を引き抜いて構成された666th TFWの現在最も重要な任務であり、そしてまた文字通り一騎当千の技能を持つパイロットを多く必要としている理由でもあった。

 当初はロストホライズン時の抑止攻撃を行う「始末屋(EXECUTOR)」が主な任務であった666th TFWであったが、徐々に様々な困難な任務を遂行する特命部隊としての性格を強くしていき「SHOCK TROOPS:ST」と呼ばれる様になるのはまた後の話である。

 

 しかしこのロストホライズン抑止攻撃は、大規模飽和攻撃を行っている最中のファラゾア大部隊を、そこにある市街地や放棄された航空基地などの存在を一切考慮せず、ただ一機でも多くの敵を巻き込み大量破壊するため何もかも一緒くたに全て核の炎で焼き払うという酷く強引で荒っぽい方法を採るため、作戦を実行した地域出身の兵士達に極めて不評であった。

 愛する国土、生まれ育った街、長く働いた基地、慣れ親しんだ風景、思い出の残る故郷、そしてそこに眠る親族や知人友人達。

 まともなやり方では量的な勝利を得ることが出来ない敵に、大きなダメージを与える絶好の機会であるという事を頭で理解はしてはいても、故郷に向けて反応弾を撃ち込もうとする始末屋、即ち666th TFWの兵士に対して良い感情を抱ける訳がなかった。

 そして彼等始末屋は、彼等が混ざり込んだ基地は近いうちにロストホライズンに巻き込まれる可能性が有る末期的な状態にあるという意味と、故郷に死の兵器を撃ち込む者という二重の意味を持って「死神」と渾名される様になったのだった。

 

 逃げ回る達也は、後方で発生した鋭く強い光と、その光が作った自分の影がコンソールに映ったのを見て、自分が発射したミサイルが爆発したことを知った。

 後ろを振り返ると、ホルムズ海峡最奥の上空に白い爆発衝撃波の歪な球が四つ浮いているのが見える。

 衝撃波の白い球は膨れあがるにつれて徐々に薄くなり消滅していき、その後に赤黒い爆炎で形作られた巨大なキノコ雲が立ちのぼった。

 爆発の強烈な上昇気流で発生するキノコ雲は、四発のミサイルの爆発位置が近かったために互いに干渉し合い、四つの核爆発の中心に向けてねじ曲がった様な歪な形をしている。

 

 いずれにしても、打ち込んだ四発のミサイルが全て無事爆発したこと、予定通りファラゾアの大部分よりも上の高度での爆発であった事を達也は一瞬で見て取り、満足げな笑いをマスクの下で一瞬浮かべると、再び追撃してくる敵機群の攻撃を避けて海上を逃げ回る作業に戻った。

 

「こちらエウユン・カビーラリーダー。始末屋(EXECUTOR)によるロストホライズン抑止攻撃は成功した。推定敵被害数は三千。現在敵被害状況と敵部隊の動向を確認中。始末屋が有力な敵部隊に追撃されてホルムズ海峡上をムサンダム半島方面へと退避中。ムサンダム半島先端で待機中の防衛隊グループAは、海峡中央部まで進出して始末屋(死神野郎)を援護せよ。」

 

 ある者は四発の反応弾による敵の大量撃破に喜びながら、ある者は祖国に向けて容赦なく撃ち込まれた反応弾の被害を思って苦い顔で、また別の者は任務とは言え反応弾で故郷を消滅させた友軍機のマーカーを腑の煮えくり返る想いで睨み付け厭々ながら、AWACSの指示によりムサンダム半島上空3000mを遊弋していた防衛隊グループAに所属する150機が、500機もの敵に追い立てられ逃げ回りながら海峡の反対側から離脱してくる一機のワイヴァーンを援護するために動いた。

 

 達也を追い立てていた500機を含め、ホルムズ海峡へと侵出してきたファラゾア機一万二千機の内、人類側の切り札とも言える反応弾による殲滅攻撃を生き延びた一万機弱のファラゾアが、針路を東方に変え高空へ向けて全機撤退したのは、その後すぐのことであった。


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 済みません。区切りの付くところまで進めようとして、少し長くなりました。

 カリブ海であれだけ酷い目に遭っておきながら、躊躇無く反応弾を発射出来る達也君の精神力もなかなかのものです。

 ま、十三歳でアサルトライフルで反政府ゲリラの頭を冷静に撃ち抜く奴ですから、こんなものですか。


 ファラゾア機で、ファイアラー(FIRERE)初お目見えです。

 大口径のレーザーを一門だけ装備した、分類するなら攻撃機、或いは一種の移動砲台と分類できる機体です。

 600mmを越える口径のレーザーは、リアクタ(パワーコア)の出力の関係上長時間の連続照射は不可能ですが、当たり所が悪ければ300m級の駆逐艦を一撃で沈めることも出来る強力な攻撃力を持っています。

 そんなものを地上に向けて撃つのですから、殆ど艦砲射撃を受けた様な航空基地など、瞬く間に地表はマグマ化して大炎上です。

 (実際、300m級の駆逐艦の主砲は600mm~1200mm程度のレーザーであることが多いです)

 

 普段は余り見かけない、ロストホライズン時にのみ出撃してくる様なレア敵(SSRとか、星五つくらい?)なので、効率的なレベルアップのため見つけたらすぐに撃墜する事を推奨されています。

 嘘です。地上施設に大被害を与えるので、攻撃優先順位が高いです。

 ま、一万も居る敵の中で、生きて見つけることが出来ればいいね、という話ですが。w


 今回から投稿時間を土曜日のお昼に変更致します。

 執筆時間の配分と、あと、土曜日昼間に投稿した方が「客の入り」が良いみたいなので。w


 それと、年内はこの話が最後になりそうです。

 この年末年始は帰省移動は無いのですが、その分家庭内サービスに忙殺されそうですので・・・

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