1. 始まりの日
作品紹介にも書きましたが、本作品は拙作「夜空に瞬く星に向かって」(N5979DP)の約三百年前のストーリーになります。
本作からお読み戴いている方、有難うございます。前述の続編(が先にほぼ完結していますが)の方も宜しくお願い致します。
「夜空に・・・」を先にお読みになった方にとっては、既にネタバレまくりで結末も殆ど分かっているお話かも知れませんが、「夜空に・・・」でばら撒いた幾つもの伏線を時代を遡って回収する予定でもあります。その様な場面に行き当たって、ニヤリとして戴けると作者冥利に尽きます。
今回は最初に書きます。
本作のBGMとして。(聞きながら書いてます)
・ Cinderella Effect / Standing (本来ゴシックな曲なのですが、曲と歌詞が本作によく合うので)
・ ATB / My Everything (場面を選びますが。)
■ 0.1.1
校門を抜けて市道に出たところで、地面からの照り返しと、熱されたアスファルトから立ち上る午後のムッとした空気が達也の全身を包んだ。
校門脇の塀に絡みつくブーゲンビリアの花と、向かいの住宅の庭にこんもりと植えられたアレカヤシの葉がサワサワと風に揺られている事から、海から風が吹いている事は分かる。
が、暑い。
住み慣れた街とは言っても、暑いものは暑い。
雨季はかなり前に終わっているので、あの独特の湿り気を持った熱い空気に悩まされる事は無いが、湿気は低くとも気温そのものは似たようなものだ。
ほぼ赤道直下にあるこの国で、気温が下がる事を期待する方が間違ってはいるのだが。
快適な気温の中に居たいなら、エアコンの効いた屋内に居る他に手は無い。
午後のこの時間は外を歩けば一瞬で汗が噴き出し始める。
どうせ今からさらに汗をかくのだ。気にすることは無い、と思って照りつける太陽の下駆け出そうとした達也に脇から声が掛けられた。
「タツヤ、今から練習なの? 今日も?」
少し巻き舌音の強い、アクセントの平滑な子供の女の声だった。
達也は駆け出そうとした足を止め、声がした方を振り返る。
細面の顔に黒い髪を長く伸ばして、少し浅黒い肌に赤色で大きな花がプリントされた白いTシャツと細身のジーンズを履いた女の子が一人、校門の脇で建物の陰の中に立っていた。
「ああ。週末の試合に向けて、今週は毎日練習があるんだ。言ったろ?」
家の中でゲームばかりしていては身体にも心にも碌な事は無いと、父親の発案で強引に押し込まれたサッカーのジュニアクラブだった。
最初のうちはゲームの時間が削られることが嫌で、父親に叱られながら渋々通っていたのだが、身体がそれなりに動くようになるとボールを追いかけるのが思いの外面白くて、徐々に自発的に通うようになり、今ではレギュラーメンバーの座を獲得するに至っている。
もちろんゲームはゲームで続けているが。
チーム自体が弱小チームなので彼に注目が集まるほどのことは無かったが、他のチームとの試合をすれば、練習試合だろうと公式なものであろうと、大概一試合の中で一点は得点する程の実力を持っていた。
彼のファンというわけでも無いのだろうが、今校門脇で声を掛けてきたシヴァンシカは、試合があると大体いつも応援に来てくれている。
試合では無くただの練習の日でも、コート脇で彼の練習が終わるのを待っていたシヴァンシカと一緒に家に帰ることもあった。
同じアパートメントの四つ下の階に住んでいる彼女とは、幼なじみと言っても誰からも文句を付けられないほど幼少の頃から一緒に遊んで育ってきた仲だった。
同じ棟の中に同年代の子供が他に居なかった、というのが遊ぶときにいつも行動を共にしていた理由ではあるが、他の棟に行けばそれなりに歳の近い子供も居なかったわけでは無い。
一番家が近いから、と言うのが主な理由だろうが、それでも二人で遊んでいる時間が一番長かったのは間違いなかった。
両親の教育方針で日本人学校に行かず、MRTで3駅ほど離れたところにあるインターナショナルスクールに通うことになったという事を達也が母親から告げられたとき、日本製のゲームで供に遊んでいたシヴァンシカが、強い意志を持った眼で自分も同じ学校に行くと宣言したことを妙によく覚えている。
夕食の時間が迫ってきたので自分の家に帰っていった彼女は、夕食の時間の内に両親を説得し、夕食が終わる頃の時間になって、自分も同じ学校に行くことになった、と満面に笑顔を浮かべて、本日最大の戦果を達也に知らせに再びやってきたのだった。
そして今に至る。
彼女の母親は、このインターナショナルスクールから少し離れた所にあるインディアンスクールに彼女を通わせたかったらしいのだが、織物の貿易商を営む彼女の父親が全面的に賛成したため、母親が意見を引っ込めて、彼女の要求が通ったのだという。
「私も行って良い? 一緒に帰る。」
「良いけど、走るぜ? 遅れそうなんだ。大丈夫か?」
「大丈夫。今日はこれだから。」
そう言って彼女は自分が着ている服を指差して笑った。
時々サリーを着て登校してくる彼女だったが、今日はいかにも動きやすそうな服装だった。
「OK。鞄貸せ。行くぞ。」
達也はそう言うと、シヴァンシカが持っていた通学用のボストンバッグを奪い取り、自分のバッグを左肩に、シヴァンシカのバッグを右肩に掛けた。
シヴァンシカから奪ったバッグが地味に重い。
走ると持ち手が肩に食い込んで痛そうだと思ったが、女の子に重い鞄を持たせたまま走らせるという選択肢はあり得なかった。
ここは旧大英帝国領なのだ。インターナショナルスクールなどに行けば、その辺りのマナーは真っ先に小さな頃から叩き込まれる。
走り始めたところで、爆音が辺りに響いた。
見上げると、空軍のF15戦闘機が四機、上空を南に向けて飛んで行くのが見えた。
学校はパヤ・レバー空軍基地の近くであり、軍の飛行機の離発着する爆音が比較的頻繁に聞こえる。
室内であればそれ程気にもならない爆音だったが、屋外で、しかも真上を飛ばれると戦闘機の発する爆音はなかなかのものだ。
さらに爆音が続く。
四機編隊のF15が続々と離陸していき、全て南に向かっていく。
演習でもあるのだろうか、と思った。別に珍しい事でも無かった。
飛行機の爆音は確かに凄まじいのだが、実は慣れると気にしなければ意外と気にならないものだ。
数百m走り、住宅街の中にある小さな個人商店で少し休憩する。
軒先に置いてある冷蔵庫から、冷えた水のPETボトルを2本取出し、金を払ってから1本をシヴァンシカに渡した。
PETボトルのキャップを開け、店先に植えてある椰子の木陰で仲良く並んでボトルを煽った。
しっかりと冷えた水が喉を流れ落ちていく感覚が心地良い。
今日は暑い。彼女が自分を待っている間にも水が必要だろうと思った。
練習場でも水は手に入るが、古い給水器の水なのでなんとなく匂いが鼻につくのだ。
以前彼女が給水器の水の匂いに文句を言っていたことを覚えている。
「行けるか?」
「大丈夫よ。」
シヴァンシカからボトルを受け取り、自分のボトルと一緒に自分のバッグの中に仕舞う。
走り始めようとしたところで、ジーンズのポケットに差した携帯電話が異音を発した。
聞いた事の無い音だった。
汗でも染み込んで動作不良を起こしたのかと思い、慌ててポケットから携帯電話を取り出す。
ポケットから出したことで、耳に突き刺さるような大音量が辺りに響き渡る。
シヴァンシカも同じ様に自分の携帯を取り出した。
彼女の携帯も同じ音を発していた。
思わず顔を見合わせる。
「ミサイル警報。ミサイル警報。速やかに近くのシェルターなどの安全な場所に避難して下さい。ミサイル警報。ミサイル警報。速やかに・・・」
携帯電話が発する異音の音量が小さくなったと思ったら、今度はとんでもなく物騒なことを喚き始めた。
「ミサイル警報・・・って。」
恐怖よりも、困惑が先に立った。
一体どこの国が攻めてくると言うのか。隣国マレーシアとの関係は良好で、それは海の向こう側の隣国インドネシアも同様だった。
子供でも知っていることだった。
中国は南アジア地域のあらゆる国に対して相変わらず軍事的或いは政治的な恫喝と懐柔を繰り返していたが、この小さな国土の国にミサイルを飛ばすほど馬鹿とは思えなかった。
資源も無く国土面積も極めて小さい、経済だけで成り立っているこのシンガポールという国に、ミサイルなど撃ち込んでしまっては占領後何も得るものが無くなってしまう。
ベトナム、タイ、カンボジア、東チモール、パプアニューギニア、どの国をとってもシンガポールと仲良くやっていきたいと思いこそすれども、ミサイルを撃ち込んで来そうな国は全く思い浮かばなかった。
携帯電話の着信音が鳴った。父親からだった。電話から聞き慣れた声の日本語が聞こえてきた。
ほぼ同時にシヴァンシカにも着信があった様だ。
向こうも多分親だろう。シヴァンシカがヒンディー語で受け答えしているのが聞こえる。
『達也、今どこに居る?』
日系の商社に勤める父親は今勤務時間の筈だった。日系企業は勤務時間中の私的通話にうるさいと聞いている。実際、父親が仕事中に電話を掛けてくるのはかなり珍しい。
ミサイル警報などと言う前代未聞の警報が発令されては、家族の心配が先に立ってルールどころでは無いのだろう。
「学校の帰りだよ。今から練習に行くところ。」
『よし。練習は行かなくて良い。すぐにシェルターに入るんだ。一番近いシェルターはベドク駅地下だな。MRTは使えないものと思った方が良い。シヴィーちゃんも一緒か?』
彼の父親は、シヴァンシカのことをシヴィーちゃんと呼ぶ。
ちなみに、彼女たちの民族にその様な短縮愛称を付ける習慣は無いそうだ。
「ああ、一緒に居るよ。」
『じゃあシヴィーちゃんも一緒に行くんだ。お前は男なんだから、ちゃんと守ってやれよ。絶対にはぐれるな。』
「MRT使えないなら父さんはどうするのさ。まだ会社なんだろ?」
『俺も少しし・・・』
父親が何か言おうと話し始めたところで突然通話が切れた。
携帯の画面を見ると、「No Signal」の文字が見える。
回線混雑でも「No Signal」という表示にはならないはずなのだが、皆が一斉に電話してシステムが落ちたのだろうかと首を捻る。
シヴァンシカの方を見ると、彼女も電話を耳から離して不審げな顔で画面を見ていた。
状況は同じらしかった。
ミサイル警報は出たものの、実際に何が起こっているのかさっぱり分からなかった。
既に携帯電話のモバイル回線も電波が来なくなった。情報を得る手段が無くなった。
どう考えても、MRTのベドク駅に行ってシェルターに入るのが最適解に思えた。
両親と離ればなれに避難しなければならないのは多少気に掛かるが、昔日本で大きな地震があったときに、家族の元に走った者の多くは津波に呑まれ、めいめいに避難した者達は生存率が高かった、というのは有名な話だ。
「誰だった? こっちは父さんだった。ベドク駅のシェルターに逃げろ、って。」
「私の方はお母さん。同じ事を言ってた。タツヤと一緒に居ろ、って。」
「行こう。」
達也はシヴァンシカの手を取り、毎日通学に使っているMRTのベドク駅に向けて走り始めた。
頭上を轟音が通り過ぎる。
見上げると、最新のF35戦闘機の四機編隊が、離陸直後に翼を翻してロールし、南に向かって飛んでいくところだった。
先ほどからひっきりなしに空軍の戦闘機が発進していくが、全て南に向かって飛んでいく。
当然、ミサイル警報と無関係では無いだろう。
しかし、南にある国と言えば、インドネシア、東チモール、オーストラリアと言ったところだ。
或いは、中国の海軍がジャワ海辺りからミサイルを撃ってきたのか。
「こっちだ。こっちの方が近い。」
シヴァンシカの手を引いて、シグラップ・ロードを北に走った。クブール・カシム墓地の中を突っ切る。
本来ならムスリム以外が入ると怒られる場所だが、今はそれどころでは無い、というか実は普段からこっそり抜け道に使っていたりするので、墓地の中の道は良く知っている。
「大丈夫、かな。ミサイル、って、核なの、かな。」
ほぼ全力疾走で走っているので、シヴァンシカの声が途切れる。
だが、幼い頃から達也と供に近所を走り回って大きくなってきただけあり、脚がもつれたり息が上がって走れなくなったりはしていないようだった。
「そんなの、分からない。核ミサイルだと、思ってた方が、良い。」
本などで良く見かける台詞だった。
最悪の場合を想定して行動しろ、と。
今の場合本当の最悪は、今すぐに頭上で核ミサイルが炸裂することだが、それは考えても仕方の無いことだったし、ましてやシヴァンシカに言うようなことでは無かった。
万が一彼女が恐怖に捕らえられてその場に踞ってしまうようなことがあれば、本来なら生き延びられる筈だったのが、シェルターに辿り着くこと無く二人とも死んでしまうことになるだろう。
墓地を抜け、フェデリオ・ストリートを駆ける頃から、自分達と同じ様に慌てて避難する付近の住民達が増えてきた。
誰もが慌てて、われ先にと他人をかき分けながら走り逃げる。
絶対にはぐれてはならないと、シヴァンシカの左手を強く握り、大人達の間をかき分けて走る。
花屋の敷地を通り抜け、ベドク・サウス・ロードに出ると、正面が大きく開ける。
世界的にも超有名な日系企業の工場が軒を連ねる場所だが、工場の中でもサイレンが鳴っており、従業員達が半ばパニックで逃げ惑っていた。
片側三車線の広い道路には、逃げ惑う人が溢れ、自動車が走れる状態では無かった。
無理に走破しようとした車に轢かれる人身事故も発生しているようだった。
だが、ここまで来ればベドク駅はもうすぐだ。
しかしこれだけの人数が、駅地下のシェルターに入りきるのだろうかと周りを見回したとき、駅の向こう側の住宅地が一瞬白い光に包まれた。
全身の骨を砕くような轟音と衝撃波が襲ってきた。
爆風で吹き飛ばされ、何か硬いものに叩き付けられたが、それも達也の身体が叩き付けられた衝撃で壊れ、さらに地面の上を転がった。
奇妙な静けさが辺りを覆う。
アスファルトの路面に打ち付けられ、転がり回った全身が痛む。
それでもゆっくりと立ち上がることが出来た。
周りを見回せば、彼と同じ様に爆風で吹き飛ばされた人々が、地面に横たわるか、或いはゆっくりと立ち上がろうとしているのが見える。
爆風で思わず手を離してしまったシヴァンシカを探す。
白いTシャツ姿の彼女は、すぐ近くに仰向けで倒れていた。
あらん限りの力を振り絞り、痛む足を引きずりながらシヴァンシカに駆け寄った。
ざっと見て、大きな怪我はしていないようだった。
抱き起こす。
名前を呼びかけるが、そもそも自分の声が聞こえない。
それでも何度か呼びかけるうちに、シヴァンシカがゆっくりと眼を開けた。
良かった。
「シヴァンシカ、聞こえるか。大丈夫か。」
眼は開いてこちらを見ているのだが、焦点が合っていない。こちらの呼びかけに対して反応が無い。
たぶんシヴァンシカも自分と同じ様に、爆発のせいで耳が聞こえなくなっているのだろうと達也は理解した。
シヴァンシカを抱いたまま耳が聞こえるようになるのを待つ。
少しずつ音が戻って来ると同じくして、呆然と彼の顔を見ているだけだったシヴァンシカの眼が動き始めた。
「シヴァンシカ、大丈夫か。」
「タツ、ヤ。」
その余りに力の無い声に、もしかしてどこかに大きな怪我でもしているのでは無いかと焦る。
彼女の背中に回していた右手を見るが、特に血は付いていない。
彼女が血を吐くようなことも無い。
「脚が、痛い、の。」
顔をしかめるシヴァンシカの目線を追って、彼女の左足を見る。
血の跡はない。
左足を触っていくと、膝の辺りを触ったとき彼女は顔を歪めて激しい痛みを訴えた。
「ちょっと動かしてみろ。」
そう言うと、ゆっくりではあるが左の膝を曲げ伸ばしする。
どうやら骨は折れてないようだった。多分、吹き飛ばされた時に地面に強く叩き付けた酷い打ち身になっているのだろうと思った。
もしかしたら骨にひびは入っているかも知れないが、とりあえず移動出来ないという事は無い。
「痛みが少し治まるまでじっとしていよう。動けるようになったら逃げよう。」
シヴァンシカが頷く。
とは言え、どこに向かって逃げれば良いのか分からない。
ベドク駅の向こうに立っていた何棟ものHDBは、一部が倒壊し、まだ建っているものもいかにもボロボロになっており、いつ崩れてもおかしくないような状態に見えた。
これではベドク駅の地下シェルターも、入口が崩れていて入れないかも知れない。
その時、頭上から轟音が聞こえた。
見上げると、南の空をF15戦闘機が大きく旋回しながら上昇していくところだった。
その機首が殆ど真上を向こうかと云うとき、F15は胴体からポッと火を噴いたと思うと、次の瞬間爆発して空中に赤黒い爆炎を轢きつつ、大量の部品と、もはやガラクタとなった機体構成物を辺りの空間に撒き散らした。
あのF15は攻撃されて、撃墜されたのか?
撃墜されたという事は、あのF15を攻撃した敵がいるはずだった。
さらに南の空を見る。
そこには戦闘機と思しき、夥しい数の黒い点や銀色の点が飛んでいた。
飛行機雲や、ミサイルの航跡の煙などが幾つもの曲線を空に描いている。
その中を、時々陽光を反射してキラリと光りながら、数えることが出来ないほどの数の航空機がドッグファイトを行っていた。
どれがシンガポール空軍の戦闘機だろうか。
どれが敵の飛行機だろうか。
この街にミサイルを撃ち込んできた敵を撃ち落として欲しかった。
シヴァンシカを傷つけた奴を叩き潰して欲しかった。
そのぐるぐると飛び回る飛行機達の様子を見ながら、達也は自分の心の底にふつふつと激しい怒りが湧き上がってくるのを感じた。
だがそこで、達也は気付く。
空に浮いている銀色の点の数が多すぎることに。
銀色の点の中には、白い航跡を残しながらなだらかな曲線で旋回していくものと、物理法則に反したような明らかに異常な動きをするものとがあることを。
シンガポール空軍は、質という面では近代的装備を誇りはするが、量はそれほど大きな規模では無かったはずだった。
昔から使われているF15SGストライクイーグルに、同世代のF16Dファイティングファルコン、最近になって導入された最新のF35SGライトニング、全て合わせても200機も無かった筈だ。
昔、父親に連れられて行ったパヤ・レバー航空基地祭でその様な説明をされて、少し物足りなく思ったことをよく記憶している。
だが、いま達也が見上げる南の空を埋める銀色の光点の数は、数百等という量では無かった。
南の空一面を、まるで夜の街灯に蚊が群がるような勢いで、夥しい数の飛行物体が埋め尽くしてていた。
またひとつ、空軍のものらしき戦闘機が火を噴いて遠い空を落ちていく。
空中戦の空域は徐々にこちらに近づいて来ている様に見える。
空軍は、負けているのか?
敵はもうすぐここまで来てしまうのか?
南の空を見上げる達也の頭の上を、また轟音が駆け抜ける。
青地に黄色の十四芒星のマークを翼端に付けた、マレーシア空軍のSu30MKMと、MiG29N、そしてF/A18D戦闘機が目の覚めるような勢いで頭上を飛び抜け、マラッカ海峡上空で繰り広げられている極めて大規模かつ熾烈を極める空中戦領域へと突入していった。
拙作お読み戴きありがとうございます。
「夜空に瞬く星に向かって」からこちらに流れてきた方、お待たせ致しました。
本作を先に読んで戴いている方、初めまして。
地球人が宇宙にそして銀河に飛び出して行った全ての始まりとなる戦いです。その「地球史」を書いていきたいと思います。
近未来というよりも現代を舞台にしていますので、考証や背景との摺り合わせに時間がかかり、少々筆が遅くなるかも知れません。愛想を尽かされない程度にはペースを保つつもりですので、宜しくお付き合いの程お願い申し上げます。
ちなみにですが。
既に気付いておられるかと思いますが、シヴァンシカはインド人です。ヒンディー語を話すことから、中部から北部の民族出身と思われます。(「印度人なのになんでリトルインディアに住んでないねん!?」というツッコミは無しの方向でお願いします)
そして主人公が住んでいるのはシンガポールで、実は主人公は国籍は日本人ですが、生まれも育ちもシンガポールです。(「日本人なのになんで日本人学校行ってないねん!?」というツッコミは以下略の方向でお願いします、というか、そのうち作中で説明します)