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88.神託と謁見

 オレは昼間に案内出来ないと言われた最奥の区画に連れられていた。

 区画を区切っていた城壁を通ると、四角い平屋だけが建っている空間に入る。


「何と言う事だい……外にまで光が漏れ出しているなんて……」


 聖女様が呟いたとおり、平屋は淡い金色にほんのりと光っていた。


「綺麗……こんなの初めて見た」


 セリカ姉さまが目を細めて呟く。

 彼女は聖女様に休むよう促されたが、付いていくと言って聞かなかったのだ。

 とはいえ彼女が三度「行きます」と言っただけで聖女様は許可を出した。

 そのため、聖女様はかたちだけ休むよう言ってきたのではないかとすら思えたほどあっさりと彼女は付いてきたのであった。


 平屋の扉が開かれると、小さなホールが見えた。

 ホールに居た女性の警備兵が敬礼をして迎えてくれる。

 前方にある両開きの大扉から光が漏れ出しているので、降臨の魔法陣というのはその先にあるのだろう。


 ホールの警備兵が大扉を引いて開けてくれた。

 かなりの広さがあるその部屋の中央には、複雑な文様を描く魔法陣があった。

 魔法陣の文様は光り輝き、その全容をはっきりと映し出していた。


 魔法陣の直径は六十メートル程だろうか。

 目測ですぐ分かるのはオレの魔法効果範囲と比較出来るからである。

 何しろ直径がほぼ同じなのだ。


 文様に沿ってそこかしこで聖玉(せいぎょく)が光っていて、外周に近い箇所には人が立てそうな円が数カ所ある。

 本来ならばそこに人が立ってこの魔法陣は発動するのだろう。

 今は誰もいないその箇所はうっすらと円状に光っていたのであった。


「覇王の子を此処へ」


 声に合わせ魔法陣の発する光が強弱をつける。

 魔法陣が喋った!?


「連れて参りました」


 オレ達より一歩前に出た聖女様が跪き、魔法陣の発言に答えた。

 慌ててオレ達も跪く。


「気配を感じぬ。覇王の子を此処へ」


 再び魔法陣が声を発した。

 どうやら魔法陣は覇王の子を認識していないようである。

 つまり竜王ゴロドから覇王の子と呼ばれていたオレを認識していないらしい。

 まあ、今のオレは魔力も空っぽだしね。


「覇王の子とは、灰色髪に淡い金色の瞳を持つ方の事で間違いないでしょうか」


 魔法陣に質問をしながら聖女様が手招きするので、オレは一歩前に出た。


「相違ない。だが、よい。それよりも」


 魔法陣が聖女様に答えたけど、それよりも!?

 呼びつけておきながら、どうでもいいの!?


「其処な若き星の子よ。星の聖都へ向かい我が巫女に会え。さすれば邪を――灯火を得……」


 続けざまに魔法陣から声がするも、後半が聞き取りにくい。

 というかオレはほとんど聞き取れなかった。

 魔法陣の光が徐々に弱まっていく。


「刻限が近――。覇王――伝え……。星の……相見え……。……闘い……」

「あの、あなたは一体、あっ」


 思わずオレが垂れ流した疑問を言い切る前に、魔法陣の光は完全に消えてしまった。


「星の子とは何なのかね。でも、若いとなると……」


 ゆっくりと立ち上がった聖女様が疑問を呟く。


「アレラかな?」

「若いという意味では貴女もよ、セリカ」

「わたしはお姉ちゃんなので幼さは妹に譲るのです」


 オレのことであると即答したセリカ姉さまに聖女様が冷静に突っ込む。

 しかしセリカ姉さまは大丈夫ではない答えを返していた。

 てか、幼いって言われた! さっきの声は若いって言ってたよ!?


「まあ、いいさね。まずは神託を報告して解読してもらおうかね」


 聖女様にもスルーされた!?

 まあオレの外見は十歳なので仕方がない。十歳以下ではない、十歳である。

 でも本当の年齢が十三歳だなんて突っ込んではいけないのだ。


 オレの思考が迷子な間に、警備兵に紙とペンを渡された聖女様が何やら書き込んでいる。


「皆様、聞き取れた神託を書いて頂けませんか」


 警備兵がそう言いながら紙を差し出してきたのでオレも書き込む。

 魔法陣の言葉が聞き取れなかったので、誰かオレよりも聞き取っていて欲しいと願ったが、一番聞き取れたのはオレというオチであった。


「神託の全文は得られませんでしたが仕方がありません。これを解読班に渡して下さい」


 聖女様は警備兵に紙を渡すと、オレとセリカ姉さまの方に向き直った。


「改めて、夕食にしようかね。色々聞かせておくれ」


 警備兵への応対と打って変わりオレを見て相好を崩した聖女様である。

 うん、オレ覇王の子じゃなくて幼子認定された。間違いなく。


 その後の夕食では色々な話をした。

 オレは魔法陣の異常事態で一緒に立ち会ったからか、緊張することもなく会話に興じることが出来た。


 オレの会話内容は主にムリホ王女の愚痴ばかりだったが気にしてはいけない。

 聖女様とセリカ姉さまがムリホ王女の知り合いだったのも気にしてはいけない。

 オレに親切な二人がムリホ王女に告げ口することはないだろう、気にしてはいけないのだ。




 翌日。

 オレは聖王教会本部の大聖堂で王城からの迎えの馬車を待っていた。

 迎えに来てもらうまで大聖堂の見学をしているのだ。

 平民に開放されているこの大聖堂は本部の建物から少し離れて橋の近くに建てられている。

 しかし、入口は橋と反対側である南側に造られていた。


 元々王侯貴族と平民の礼拝を分けるために建てられたとはいえ、大聖堂の内装は豪華だった。

 祭壇に置かれたホイールキャップ、もとい太陽紋章もさんさんと輝いていた。


 御神体の太陽紋章は本部であろうとも大きさは変わらない。

 何故なら御神体の大きさは聖王様の神器の大きさを模しているからである。

 直径は三十五センチメートルちょっとである。大体十四インチである。


 大聖堂の大きさに対して御神体の大きさは目立たないほどに小さい。

 代わりと言ってはなんだが、この大聖堂には九枚の御神体が置かれている。


 聖王様は、伝承では常に両手足に計八枚の神器を展開なさっていたという。

 とはいえ神器は手足と関係なく振り回せる上、無限に出すことが出来たと伝わっている。


 ちなみに神器という名前だが聖王様の魔法なので元々現物は存在しない。

 ゆえに聖王教会本部といえど御神体は模型なのである。


 ともかく大聖堂の御神体も八枚で良いのではという話なのだが、やはり中央に何も無いのは締まらないらしい。

 ということで中央の祭壇にも頭を守るという解釈で御神体が置かれ、合計九枚なのだそうである。

 だが決して頭の上でホイールキャップが回るのを想像してはいけないのだ。


 この大聖堂は太陽の動きに合わせてそれぞれの御神体に光が当たるよう窓の角度が調整されている。

 午前中である今の時間帯は入口から見て左手の御神体に光が当たる。

 そのまま右回りに正午になると中央の御神体に光が当たり、季節によるが日没には一番右の御神体に光が当たるわけだ。


 だが中央の御神体が常に暗いというのはよろしくないのか、この御神体には光を当てる魔法具が使われている。

 その魔法具は天井の中央に設置された球体である。


 オレの、空太の知識はあの球体がミラーボールにそっくりであると訴えていた。

 その所為で厳かな大聖堂だというのにホイールキャップを照らすミラーボールがあるというシュールな絵面の認識となっている。

 もうやだこのホイールキャップ教……。




 元々、海が陸地に対し北側にあると分かっていたのだが、改めて認識するとこのアラルア神聖王国は北半球にあるのだ。

 つまりここはヨーロッパ……いやきっと違う。チガウよね。


 オレの記憶にある地図は人族の領域しか描かれていなかった。

 魔王の領域が描かれた地図は出回っていないのだ。

 つまり世界地図はないである。


 この人族最古の国であるアラルア神聖王国は人族の領域で最東端である。

 ちなみに魔王の領域に接するケラク賢王国は最西端である。

 だから地球のヨーロッパと合致しているわけではないのである。


 と言いたいのだが、ケラク賢王国以西がどうなっているかはさっぱりである。

 アラルア神聖王国以東もオレの記憶から出てこない。海であったかもさっぱりである。


 流石オレのぽんこつなおつむ。孤児院時代に習ったことがあやふやである。

 こんなことなら昨日の夕食時に、もっとこの世界について聖女様から聞けばよかった。


 ただひとつ分かるのは空太にとってここは異世界だということである。

 そもそもアレラであるオレは年齢どころか性別すら空太とは異なる。

 魔法もあるし、ここが異世界なのは今更であるのだ。

 だからここはヨーロッパではないのだ。


 オレの思考が迷子に陥っていると、シスターがオレを呼びに来た。

 どうやら迎えの馬車が到着したらしい。


 オレは今日で聖王教会本部から王城に移動するわけだが、神託の解読結果は分かり次第教えてもらえることになっている。

 だからオレは心置きなく王城へ向かえる。


 いや、王城なのである。緊張しない方がおかしい。

 そもそも考えていなかったが迎えは誰なのだろうか。

 知り合いであって欲しいと願いながらオレは大聖堂を出たのであった。


 馬車の前には陽光を浴びて銀色に光る鎧をまとった騎士が立っていた。

 ムリホ王女の護衛騎士である。

 オレは見知った顔を見たことで安堵したのであった。


「ではアレラ嬢、王城に向かいましょう」


 オレは彼にエスコートされて馬車に乗り込む。

 当たり前のように女性をエスコートする彼はまさしく騎士であった。




 馬車の中は銀色の騎士とオレの二人きりであった。

 気まずい。


 何が気まずいのかというと、彼は無口なのである。

 長旅で彼に対しては人見知りしないオレであるが、話を振るということが苦手なのに変わりはない。


 手持ち無沙汰なオレとしては魔法の訓練でもしたいところであるが、揺れる馬車の中で金槌を振るうわけにもいかないし、そもそも手元に金槌が無い。

 かといって銀色の騎士に剣を借りて馬車の中を血塗れにするわけにもいかない。

 もちろん彼を斬るわけではない。オレの血である。


 ともかく、暇なので誰かと会話しようにもオレ自身は話しかけられなければ会話が出来ないのだ。

 結果として馬車の中は沈黙が保たれたままなのである。


「きょ、今日は天気もいいですね」


 沈黙に耐えかねてオレは彼に声を掛けた。


「そうですね」


 会話は終わった。

 もうちょっと話を膨らましてくれ!


「今日は姫さまを護衛しなくても大丈夫なんですか?」

「アレラ嬢を迎えに行くよう命じられましたので」


 会話は終わった。

 こうなったら禁断のネタを使うしかない。


「あの、今日も綺麗な鎧ですね」

「船旅の間に一通り手入れも済ませましたので。帰国してからは戦闘もしておりませんので綺麗に保てております。ですが見て下さい。この籠手の部分、実は傷が入っているのです。一度鍛冶師に預けて修理してもらおうと考えているのですが、姫様のことですから直ぐに何処かに行こうとするでしょう。まったく少しは鎧を労ってほしいものです」


 鎧に話を振った途端に饒舌になるんじゃない、この鎧馬鹿!!

 いや、分かっていたけど。それを期待していたけど。


 取りあえず鎧自慢というBGMを確保したオレは彼の話を聞き流しつつ、アラルア神聖王国の王城に入城したのであった。




 流石は人族史上最古の国である。

 聖王教会本部も旧時代の王城ということでそれなりに荘厳ではあったが、やはり現役の王城はひと味違っていた。


 嫌みなほど豪華絢爛になることもなく、かといって簡古素朴でもない。

 壁には所々に絵画が掛けられ、随所に花瓶が設置されている。

 流石は女王が治める国の王城である。生けてある花も華やかだ。


 行き交う人々の服装も様々である。

 とはいえ晩餐会でもないので豪華なドレスを着ている人はいない。

 どの人もそれなりに簡素な服装であるが、それでも細やかな刺繍が入っている。

 司祭服と修道服だらけの聖王教会本部とは華やかさが段違いであった。


 逆にシスター服であるオレが浮いている。

 聖王教会は成人しないと修道者になれないので当然のことであるが、子供がシスター服を着ているのは珍しい。

 行き交う人々の視線がオレに刺さる。つらい。


 銀色の騎士にしばらく付いていくと、成人男性の背丈の数倍は高さがある大扉に行き着いた。

 この扉の向こうが何か分かる。多分謁見の間。


 どうやらオレの到着は知らされていたらしく、銀色の騎士が大扉を守る騎士に一言声を掛けるだけで、大扉は開かれた。

 いや待って、オレこの国での謁見の作法知らない。誰か教えて。


 立ち止まっているオレを見て銀色の騎士が手を取ってくれた。

 そのまま手を引かれオレは玉座へと一直線に敷かれた赤い絨毯を歩く。

 幸いにも玉座には誰も腰掛けていないので、オレは安心して周りを見回して歩くことが出来た。


 かなりの広さがあるだけではなく高さもある。

 幅も高さもオレの魔法効果範囲を超えていた。

 天井が高いからか、柱が等間隔に並んでいる。

 左右の壁に窓はないが、代わりに天窓があった。


 それにしてもこの玉座の間、騎士しかいない。

 一介のシスターに他の貴族を紹介する必要はないということなのだろうか。


「ここで跪いて待っていて下さい」


 銀色の騎士は小声でそういうと、オレから離れていってしまった。


 そのまましばらく待っていると、騎士達が一斉に敬礼をする音がした。


「アリツ陛下、ご入場!」


 男性の声と共に、扉の開く音がした。

 オレは顔を一層下げて待つ。


 誰かが玉座に向かって歩いてくる。

 玉座はオレの魔法効果範囲に入っていないが、その人の魔力はかなりのものだ。

 その人はそのまま玉座に腰掛けたようだ。


「其方がアレラかえ」


 何処となくムリホ王女と同じイントネーションの声が聞こえた。

 まあムリホ王女の母親なのだから当然といえば当然なのだろう。


 思わず顔を上げたくなるが、オレは我慢した。

 で、でもチラッと見るくらいなら良いよね。

 いや、我慢である。


 というか流石は女王様である。

 オレの名前はご存じらしい。


「顔を見せよ」


 顔を上げろではなく見せろと言われた。


「はよ」


 そう言われれば仕方がない。

 挨拶もしていないがオレは顔を上げた。


「なるほど。見事な瞳の色じゃ」


 真っ直ぐにオレを射抜くアリツ女王の眼光は鋭い。

 アップヘアにした燃える炎のような髪の色はムリホ王女を彷彿とさせるものの、淡い金色の瞳は限りなく冷たい。


 アリツ女王は口元を扇で隠しているために表情が読めなかった。

 その銀色の扇は複雑な文様が描かれていて、手に隠れて見えにくいが要のところに大きな赤い宝石が付いているようであった。


 いや、あれ宝石じゃない、魔石。

 あの扇は魔法具だ。


 そこでオレはようやく気付いた。

 アリツ女王は殺気を放っているのだ。


 それだけではない。

 彼女の魔力を感じていたということは、オレは魔法を掛けられていたのだ。

 なんか、マズいんじゃないかな、これ。


「やはり其方が、次に生まれし魔王で間違いないの」


 ゆらりとアリツ女王が立ち上がる。


 次の瞬間、アリツ女王は支配系魔法“場の支配”を発動したのであった。


ようやくエピソードで登場させていた人物とアレラが出会い始めました。

そしてようやくアレラの不運シーンが書けそうです。

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