85.エピソード 星の勇者と聖剣の勇者
少々胸糞悪い描写があります。ご注意ください。
「そっちは任せたぞ、ソラタ!」
声を掛けられたオレは土魔法の“岩の槍”を空中に生成して向かってくる魔物に撃ち込んだ。
魔物が絶命したことを確認して放出している魔力を止めると、“岩の槍”は形を失い塵のように霧散する。
本当に魔法は不思議だ。不思議だからこそ魔法なのだろう。
この世界に召喚されたことも不思議だし、今のオレは髪の色こそ黒色のままなのに瞳の色が淡い金色なのも不思議である。
瞳の色が変わるのなら、どうせなら身長ももう少し高くなって欲しかった。
身長が西洋人並なこの世界の人達の中で、東洋人然としているオレは年齢不相応に背が低い。
元々年の割に背が低かったので、この世界では完全に年下に見られるのだ。
「うおらあ! 死ねや!」
向こうではオレに声を掛けてきた青年が聖剣と呼ばれる剣を振るっていた。
彼の振るう聖剣は魔力を込めるとショートソード程しかない剣身よりもはるかに長い光の刃が形成される武器だ。
使用者自身の魂が持つ魔力パターンに反応しているので選ばれた者でなければ扱うことが出来ないという、人族によると神話時代の武器らしい。
人族は知らないことであるが、聖剣は太古に滅んだ古代文明の武器である。
そして聖剣を扱うための選定基準は、古代文明の時代に登録した者と非常によく似た魔力パターンを持つ者ということであった。
つまり古代文明では元々個人の専用武器だったはずが、永い年月を経てそっくりさんに使われているということになるのだろう。
(で、合ってるよね? チリロイ)
普段は姿を見せない土の聖霊チリロイにオレは頭の中で話しかけた。
(ええ。面白い武器でしょう?)
チリロイがオレの頭の中に答えを返してきた。
聖霊様に性別はないそうであるが、太古から永い間巫女とばかり触れ合ってきたというチリロイは思考が女性寄りになっているらしい。
また、人族から名付けられたらしいチリロイという名前も女性名である。
なのでオレはチリロイを女性の聖霊様であると認識することにしている。
オレこと草凪・空太がこの世界で目覚めた時、一番初めに話しかけてきたのはチリロイである。
姿を現さない彼女の声にオレがパニックになったのは、今となっては懐かしい。
チリロイがオレに初めて話しかけてきた時、彼女はやたらと難解な言い回しをしていた。
だが、おつむがぽんこつなオレと意思疎通が全く出来ていないことに気付いた彼女は、平易な言い回しというか親しみのある話し方をするようになってくれた。
そしてぽんこつなオレのおつむが敬語を考える時間は無駄であると彼女は考えたらしく、オレはタメ口を許されているのである。
チリロイの話によると、オレはこの世界で邪王を倒すという使命があるらしい。
その為にオレは魔法を覚えたり身体を鍛えたり、戦闘の経験を積む必要があるとのことであった。
この世界で右も左も分からないオレに、魔法だけではなく言語や知識を教えてくれたのもチリロイである。
教えるといっても、オレのぽんこつなおつむが理解出来ない場合はオレの頭の中に直接刻み込んでくる。
スパルタでないのはありがたいが、ちょっぴり不気味な話である。
ちなみに、チリロイが教えてくれる情報をオレが勝手に他者へ伝えるわけにはいかない。
何せ人族が知らないようなことも色々と教えてくれるからである。
迂闊なオレとしては知りたくないようなことすら勝手に教えてくるのはかなり困りものである。
その上オレがぽろりと言いそうになるのを愉しんでいるあたり、彼女はたちが悪かった。
オレが目覚めてからひと月ほど経ったとき、チリロイはようやくオレの前に顕現した。
それによりオレはここアラルア神聖王国で王城の居候から勇者に格上げして扱われるようになったのだ。
だが今のところは内々に扱われているだけであり、正式にお披露目するためにはオレの知名度が必要とのことであった。
その為オレは現在、王家の手により各地の騒乱に送り込まれているのだった。
話を聖剣に戻すと、チリロイは蒐集癖があるそうで古代文明の道具を大量に所有しているらしい。
聖剣もその内の一つだったらしく、彼女はかつてこの国の祖先に与えていたそうである。
(まあ、あの剣の正式名称は竜滅剣なのですけど)
(そうなの!?)
情報を小出しにしてオレの反応を愉しむのはチリロイの悪い癖である。
(ええ。ドラゴンが空を飛んでいても敢えて剣で斬りたいからと開発したらしいのです。あれだけ魔力を込めれば本来ならばもっと長い剣身が出るので、あの剣は壊れています)
何とも無茶苦茶な開発動機である。
それにしても青年に振るわれている聖剣は余裕で数メートルは切り裂いているのだが、あれで壊れているのか。
「遅いぞ! それでも星の勇者か!!」
再び青年に声を掛けられたので、オレはチリロイとの会話を打ち切って彼に駆け寄った。
恥ずかしながら、星の魔法陣で召喚されたオレは星の勇者と呼ばれている。
そして当然ながら彼は聖剣の勇者と呼ばれていた。
「とにかくこいつらを倒せばいいんでしょ?」
「そうだ。数が多い、頼むぜ」
オレ達の前に群れているのはミノタウロスを小ぶりにしたような魔物である。
マッチョなところに目を瞑れば、立派な角とつぶらな瞳を持つその魔物はまるで鹿より一回り大きな動物を二足歩行させたような姿だった。
この地域ではよく見かける魔物らしく、性格は温厚で群れることもないらしい。
だが最近は町の近くに群れを作っているだけでなく、人を襲ってくるのだ。
「アースバインド!」
気合を入れたオレの声と共に複合魔法である“地の束縛”が発動した。
植物どころか土だろうが岩だろうが地面にある物の一切合切が蔦のように伸びて対象に絡まる魔法である。
蔦の長さが短いという欠点はあるものの、魔法効果範囲が広いので集団を足止めするには向いているのだ。
「相変わらず無茶苦茶な魔法だな!」
足を拘束された魔物達を聖剣の勇者が一振りで薙ぎ払った。
とある町外れの別荘へとオレ達は部隊を引き連れて向かっていた。
今回の任務は、実は魔物の討伐ではない。
数ヶ月前から異常な行動を取り始めたとある司祭の捜査である。
その司祭は今まで大事に育てていた孤児院の子供達に、ある日を境にとても公表出来ないような事をし始めたらしい。
何とか逃げ出した孤児の密告を受けた聖王教会は内部調査を行ったそうだ。
しかし聖王教会が送り込んだ調査員は路地裏で変死した状態で発見された。
抵抗したらしい調査員が自らの太ももに“支配”と爪痕を刻み込んでいたことにより、死因が支配系魔法による自殺の強要であると判明したのである。
支配系魔法使いに対抗出来るのは支配系魔法に耐性のある者だけである。
しかし耐性のある者は少ない為、国から派遣された捜査員には捜査対象が支配系魔法使いだった場合にその場で裁く権限が与えられていた。
この国では支配系魔法使いの犯罪者はその場で処刑することと規定されていた。
今回の任務は知名度を上げるためにと、オレに割り当てられた。
そして経験が浅いオレの補佐として聖剣の勇者が同行しているのである。
なのであるが、猪突猛進な彼は先陣を切って斬って伐りまくっていた。
そう、司祭が孤児院の子供達を連れ出して潜んだ別荘は森の中にひっそりと立っていたのである。
(木がかわいそうです。ソラタ、この魔法を使ってください)
チリロイの声が響くと共に、新しい魔法がオレの頭の中に刻み込まれた。
「メイクトレイル」
植物操作系の複合魔法らしい“小道生成”により周りの草木が左右へ大きく身を逸らし、オレ達の視界が開けた。
「おいおい、なんだよこの魔法。ま、奴らは丸見えだな。死ねや!」
嬉々として魔物達へ剣を振るう聖剣の勇者は相変わらず物騒である。
「イルク! 少しは周りを気に掛けてよ!」
「おう!」
聖剣の勇者イルクは返事だけは威勢が良いのである。
しかし威勢良く聖剣を振るうので返事の前後でやっていることに違いはなかったのであった。
そのままオレ達は司祭の潜む別荘に到着した。
ここから先は支配系魔法をもろに受ける危険がある。
オレは部隊に外で待つよう指示を出した。
イルクが勢いよく扉を叩き切ったにも関わらず一階は静まりかえっていた。
いや、複数の気配がある。
(いかん! 剣を止めよ!)
「ロックバインド!」
オレは戸口に使われている石材を利用して土魔法の“岩の束縛”で聖剣を振り上げたイルクを拘束した。
慌てると口調に素が出るチリロイへの突っ込みはさておき、まずはイルクへの説明が先だ。
「おい! 何しやがる!!」
「よく見てよ! ライト!!」
イルクの抗議に対し、オレは光魔法の“明かり”を打ち上げた。
一階の玄関ホールには数人の子供が何をするまでもなく突っ立っていた。
しかしオレ達を見るや否や、口をだらしなく開けてゆっくりと近寄ってきた。
「おいおい、ガキ共じゃないか。どうなってんだ?」
我に返ったイルクを解放すると、彼は振り上げた聖剣を下ろし後ずさった。
この世に斬れないモノはないとされる聖剣は、逆に言えば必ず斬れるという弱点がある。
聖剣が発する光の刃は剣のかたちをしているが、実際はどの方向にも斬れる光の束なのだ。
つまり、手加減の必要な場面で聖剣は役に立たないのである。
(あの子達は精神系魔法で行動を縛られています)
(何とかならないの? 苦しそう)
(苦しむほどの思考力は残されていませんが……私が眠らせますので一先ず足止めしてください)
「アースバインド」
チリロイの言葉を受け、オレは一歩前に出て子供達を“地の束縛”で足止めした。
(チリロイ、頼む)
オレがお願いすると、何処からともなく砂塵が舞い込んできた。
砂塵はオレの真横に集まり人の形をとり、淡い金色に光り輝く。
光が収まると、そこには赤褐色の全身鎧をまとうチリロイが顕現していた。
フルフェイスの兜に隠れどのような顔かは分からない。
装飾が施され淡く光る甲冑の赤褐色は、まさしく純銅の色である。
(それでは眠ってもらいましょう)
顕現してもオレだけにしかチリロイの声は聞こえない。
彼女が手を差し伸べると、子供達は一瞬だけ淡い金色の光に包まれた後に糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
オレとイルクは、眠りについた子供達を一箇所に集めておく。
「あとはどこだ? というか奴はどこだ?」
周りを見回すイルクの言葉をうけオレも玄関ホールを見回す。
玄関ホールは天井も一階分しかなく、真正面には二階へと続く階段の側面と手すりが見えている。
ここにいる子供達は男女合わせて六人。報告されている人数よりは少ない。
その時、階段から音が聞こえた。
オレとイルクは頷き合って階段の死角へ隠れ、チリロイはかき消える。
“明かり”があるために警戒しているのか階段を降りる足音はゆっくりだった。
階段の手すり越しに降りてくる足が見え隠れする。
足は靴ではなかった。そして明らかに人族の足ではない。
階段を降りてくる足の位置から推し量ると、そろそろ相手は手すりから身を乗り出せるはずである。
オレがそう考えた瞬間、イルクが飛び出し振り向きざまに聖剣を一閃した。
派手な音とと共に手すりが吹き飛ぶ。
オレはイルクに対し声を荒らげた。
「何考えてるのさ!」
「魔物は斬る、それだけだろ?」
「階段使えなくなってもいいの!?」
「あっ」
考えなしに聖剣を振るったイルクの所為で階段は半壊している。
魔物は例によってつぶらな瞳が可愛らしい二足歩行のマッチョだった。
「二階にもこいつらがいるってことか」
「待って。魔物がいて、この子達が無事ってことは……」
「魔物を操っていやがる、ということだな」
オレの考えをイルクが肯定してきたことにより、今回の任務がただの支配系魔法使いの捜査から魔王候補の討伐へと格上げした。
「一度撤退して増援を呼ぶか?」
オレの緊張を見抜いたイルクが声を掛けてきた。
オレ達と外に控える部隊では魔王候補の討伐が出来るかというと不安である。
思わず頷き掛けるも、玄関ホールに寝かせている子供達が目に入ったオレは首を振る。
他の子供達も気になるため、撤退することなど考えられなかった。
(悩んでいる時間はありませんよ。既に敵も気付いているでしょう。一気にカタを付けるべきです)
チリロイの言葉に後押しされたオレは意を決して、イルクの目を見つめる。
「行こう。二階の広さならそこまで魔物もいないはずだ……よね」
格好付けた発言も尻すぼみになってしまえば台無しである。
「そうだな。なんとかなるだろ」
イルクの同意を得て、オレ達は階段を駆け上がったのであった。
二階の廊下に魔物は数体しか居なかった。
どうやら別荘に踏み込まれることは想定していなかったらしい。
というよりも魔物を一刀のもとに斬り伏せる勇者が二人も派遣されること自体、異常なのかもしれない。
オレ達は二階の扉を全て開けて回り、最後に一番奥にある居室に踏み込んだ。
その場にいた魔物数体もすぐに倒した。
残るは続き部屋の寝室だけである。
「蹴破るぞ」
慎重さの欠片もないイルクがそう言いながら寝室の扉を蹴破った。
次の瞬間、支配系魔法“場の支配”がオレ達に襲いかかる。
だがそんなものはオレ達に効かない。
「死ねや!」
叫びながら寝室に飛び込むイルクに誰かがしがみ付いた。
イルクにしがみ付いてきたのは裸の男の子だった。
「なっ!?」
「イルク!」
寝室の入口で手を差し伸べるオレにも真正面から誰かがしがみ付いた。
背丈はオレとほとんど変わらない。
慌てて確認するとオレと同年齢の女の子だった。
ネグリジェしか身に着けていない彼女の柔らかな感触にオレは戸惑う。
だが、その締め付けてくる半端ない力で彼女が“場の支配”に操られているということにオレは気付いた。足止めだ。
「よくここまで来たな、褒めてやろう」
ベッドの脇に立つ男がオレ達に声を掛けてきた。
男は寝間着を着てナイトキャップを被っていた。慌てて着たらしく少々着崩れている。
男を守るかのようにもう一人の裸の少年が立ち、ベッドの上でシーツを身体に巻き付けた少女がゆらりと立ち上がった。
流石に寝室には魔物を置きたくなかったらしい。
この場には男と四人の子供達だけであった。
「貴様あああ!!」
(ソラタ、子供達を確保!)
怒りで吠えているイルクに気を取られていると、チリロイの叱咤が飛んできた。
慌ててオレは周りを見回す。幸い室内は木製品で溢れている。
「ウッドバインド!」
男の前に立つ少年を本棚から伸ばした蔓で抱き込んで本棚に引き寄せた。
ベッドの上にいる少女をベッドから生やした蔦で絡め取り引き倒した。
イルクにしがみ付く少年を床板から生やし絨毯を突き抜けた蔓で拘束した。
オレにしがみ付く女の子はオレ自身の腕で拘束した。
「死ねや!」
イルクが聖剣を振り下ろし、男が真っ二つになった。
血飛沫がベッドの上に拘束した少女に降り注いだ。
「いや……きゃあああああ!!」
ベッドの上の少女が叫ぶ。
男が絶命して“場の支配”が解けたのだ。
「あ、あの……」
オレは耳元から聞こえる声で我に返った。
力が抜けた女の子の柔らかな感触は実に気持ちいい……じゃなくて!
「ご、ごめん!」
慌てて拘束していた腕を広げると、彼女は床にへたり込んだ。
「助かった……のでしょうか」
「ああ、うん」
彼女の呟きにオレは頷く以上の言葉を掛けられなかったのであった。
「なんだよ、しょぼくれた顔しやがって」
イルクに声を掛けられたが、膝を抱えるオレは俯いたまま言葉を返せなかった。
今は、待機させていた部隊が別荘に入ってきて後処理をしているところである。
オレに出来たことといえば、子供達に回復魔法を掛けたくらいであった。
身体の傷は癒えても、心の傷は癒えない。
オレは子供達に何と声を掛けて良いかわからなかったのだ。
「あの子達は――」
「いちいち気に病むな。俺達に出来るのは戦うことだけだ」
オレの声に被せるように、イルクが慰めてくる。
オレは顔を上げてイルクを見つめた。確かにオレにはこれ以上何も出来ない。
オレは気持ちを切り替えるべく別の話題をイルクに切り出した。
「イルクはいいの? オレの手柄になるんだよ?」
「お前もちゃんと役割こなしてんだ。何もしていないわけじゃないんだぞ」
「でも……」
再び膝に顔をうずめるオレの頭を、イルクが軽く小突いた。
「あのな、いいに決まってるからコンビ組んでるんじゃねえか。報酬もしっかりともらってるっての。それに手柄なんてあればいいってもんじゃねえぜ? こんなの持ってると特に、な」
顔を上げたオレを優しく見つめながら、イルクは聖剣の柄を叩いた。
「今のお前には手柄が必要なんだからよ、もらえるものはもらっとけ。そのうち俺が困ったら手を貸してくれよ、な?」
「……うん」
「さあ、王都に帰ろうぜ」
オレが頷くと、イルクは満面の笑みを見せたのであった。
(あのさ……こんなオレは本当に邪王と戦えるの?)
王都に向かう馬車の中、オレは頭の中でチリロイに問いかける。
任務で力不足を感じていたオレは自信を失っていたのだ。
(そうですね、今のままでは無理でしょう)
(もっと特訓しなきゃだね)
(いいえ。特訓もですが、あなたの力は本来の半分もありません)
彼女の返事にオレは首を傾げた。
(どういうこと?)
(召喚の際、星の魔法陣の破損によりあなたは二つに分離しています)
いや、それ初耳なんだけど。
(二人ばらばらの状態では本来の力を発揮することが出来ません。邪王を討伐するには二人を一人として統合する必要があります)
そんなことを知っているとはチリロイは本当に何者なのだろうか。
そもそもチリロイは土の聖霊様という割には他の属性の魔法も教えてくれる。
そんな彼女自身の正体は常にはぐらかされていた。
だが彼女は嘘をつけないらしいので、間違いなく土の聖霊様でもあるのだろう。
(その場合、オレはどうなるの? 消えるの?)
まあ、オレは疑問を垂れ流すだけである。
(あなたの方が残ることになると思いますが、特に変わりはありません。統合するときに両者の意識は完全に混ざり合いますし、元々どちらもあなたです)
そこでチリロイは少し黙り込んだ。
どうやら更なる情報をオレに与えるかどうか迷っているらしい。
(……問題はあの者に私の声が届かないことです。ですので一度、星の聖都にいる私の巫女を通じてしっかりと確認する必要があります)
続けて彼女は教えてくれたが、オレは星の聖都という場所を知らない。
知らないということはアラルア神聖王国の国内ではないのだろう。
巫女を通じてということは、チリロイが現地に行く必要があるということだ。
(じゃあ、オレも星の聖都に行かないとなんだね)
(いいえ、あなたが行く必要はありません)
チリロイは確か、常にオレの側に付いていると言っていた。
つまりオレが行く必要はないということは、ここにいるチリロイとは別に少なくとももう一人チリロイが存在するということになる。
やはりチリロイの正体は気になるが、今の問題はもう一人のオレのことである。
(統合の際にあなたが側に居る必要はありません)
つまりオレはもう一人のオレと会うことはない、ということなのだろうか。
(一応あの者には案内人を用意しましたが、彼女は私の声をはっきりとは受け取れません。おまけに彼女は現在あの者に同行出来ていません)
チリロイの口ぶりでは向こうのオレには案内人が付いているらしい。
しかもその案内人とはどうやら女の子らしい。リア充爆発しろである。
いや、同行出来ていないのなら爆発しなくてもいいか、うん。
(幸いあの者はこの国に向かってきています。場合によってはあなたに伝言をお願いすることになります)
(あの者って言うけど、どんな格好なの?)
(会ってみれば一発で分かりますよ)
それもそうである。何しろオレが分離したというだけなのだ。
きっと見た目もそっくりなのだろう。
ドッペルゲンガーに会うような感じになるのだろうか。
結局、オレの気は晴れなかったのであった。
ついに登場しましたソラタ君です。
アレラに比べて何だか恵まれた環境なようですが、主人公はアレラですからね!
来年も本作をよろしくお願い致します。
それではよいお年を。