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8.メレイの想い

「やっぱり…私が回復魔法なんて教えるからアレラが大変な目に…」


 俯いているメレイさんは悔やんでいるようだったが、オレはそうは思っていない。

 アリレハ村では教えてくれる人が居ないことから使えなかった、魔法というものが使えるようになったのだ。


「いえ…ワタシはメレイさんに回復魔法を教えてもらえて、嬉しかったです」


 オレの言葉にメレイさんは少しだけ嬉しそうな顔を見せたが、また俯いてしまった。


「メレイや、話してお遣り。おぬしが司祭になりたくない理由を」


 ヘレン院長の言葉にメレイさんは頷き、オレの目をしっかりと見つめて話し始めた。


「私が支援系魔法を教わりだしたのはアレラくらいの歳だったわ」


 当時新しく赴任してきた司祭は複数の魔法が使え、孤児達に魔法を教えてくれたらしい。

 そしてメレイさんに回復魔法の適性があることを見いだし、手取り足取り教えてくれたそうだ。


 その司祭が先生としてどんなに素晴らしいか、ここから怒濤の先生推しが始まった。

 それはもう、細かい容姿から所作まで含めて随分時間を掛けて身振り手振り熱く語ってくれた。

 色々と内容を割愛すると、回復魔法以外の支援系魔法全般に、さらに町の治療院で治療の勉強もさせてくれたらしい。

 それからメレイさんの教育だけで無く、司祭という職について良いところも悪いところも話してくれたそうだ。


「そして先生に教わり続けて、成人した私は孤児院を支えたくてシスターになったの」


 メレイさんはそこで一息ついた。あれ?成人は十五歳だよね?

 今の話は歳の計算が合わない…もしかして。


「あの、ワタシ今、十二歳なんですけど」


 その瞬間、メレイさんが凍り付く。ヘレアの目はどんどんと丸くなっていく。ヘレン院長はにこにこしている。


「えええええ!!」


 メレイさんが叫ぶ。

 そういえば身の上を話した時にアレラの年齢の事は話していなかった。


「アレラ、ほんとに…?」


 メレイさんは口をぱくぱくさせている。ヘレアはわなわなと震えている。ヘレン院長はにこにこしている。


「このまま何時までも大きくならないアレラちゃん…ああ…お世話したい…」


 メレイさんが閉口する。ヘレアは恍惚としている。ヘレン院長はにこにこしている。


「大きくなるよ!?」


 オレは声を張り上げた。

 主に身体の一部に対して大きくなるとアレラから訴えられている気がするが、オレも人並みの背丈は欲しい。まだ成長期だからね!


「…だから、アレラちゃん、おむつ穿いて…」


 だから、じゃありません!

 ヘレアの暴走が始まってしまった。こうなると止められない。かまい倒されるしかない。

 彼女が抱きすくめたままのオレの頭をなでなでし始めたので、ヘレン院長が遂に口を開けた。


「メレイ、続けて」

「…そうですね」


 ヘレアを放っておいてメレイさんが話を続け始める。なでなでを止めさせてはもらえなかった…。


 さて、当時の聖王教会は今ほど支援系魔法の使い手を積極的に囲い込もうとはしていなかった。

 方策が変わったのは、教皇が代替わりしてからだそうだ。


「私は、司祭になる修行で町を離れるのが嫌で、治療師に頼んで助手という扱いにしてもらったの」


 しかしそれだけではメレイさんがオレに回復魔法を教えたくない理由には弱いと思えた。


「ワタシに回復魔法を覚える必要が無いって言った理由には弱いような気がします」

「それは…」


 オレの意見に彼女は言いよどむ。

 しばし沈黙して、彼女は話を続けた。


「先生は二年前に別の町へと赴任していったわ」


 その町の名前は良く知っている名前だった。アリレハ村の隣町だ。


「そう…あの魔物の大襲撃。先生は亡くなったのよ」


 メレイさんは俯く。ヘレアのオレを抱きしめる力が強くなる。ヘレン院長は痛ましい顔をしている。


「…司祭になれば何時何処に赴任させられるか分からないの。それこそ何時危険なところに…」


 メレイさんはかぶりを振った。


「だから私は司祭になりたくないし、孤児院の子には司祭になって欲しくないの。大襲撃を経験したアレラは余計に…」


 それは彼女の個人的な思いであり、同時にオレを心配してくれているということだった。

 メレイさんは再び黙った。


「だから、治療師のところへ頼みに行ったのかい?」


 沈黙を破ったのはヘレン院長だった。


「はい…でも、アレラのことも頼もうとしたら断られました」


 メレイさんが悔しそうに俯く。

 まあ、治療師からしたら会ったことの無いオレの話をいきなり振られた訳だしそうなるよね…。


「やはり、二人も名前だけの助手というのは治療院の立場としては無理があるかの」


 ヘレン院長の考えにメレイさんは頷く。


「それだけではありません。アレラの名前を聞いて嫌がりました」


 名前?なんだ?オレの名前に何かあったか?


「名前?そうか、名前の問題があったか。すっかり忘れていたわい」


 そうだ、アレラの記憶の方からオレも思い出す。アレラという名前には特殊な発音が入っているのだった。


 それは生まれに吉凶が絡む子に聖霊様の加護を祈るべく名付ける発音だ。

 吉事が絡むのならよいが、凶事が絡んでも名付けられる。

 そのため、この発音が入った名前に忌避感を示す人が居るのだ。


 アレラは、出産に立ち会った司祭が名付け親であると両親から聞かされていた。

 しかし今となっては、吉凶どちらか聞こうにも知っていそうな人達は魔物の大襲撃により生死不明だ。


「まったく。アレラを見れば聖霊様の加護を強く受けておるのが一目で分かるのじゃが。連れて行けないのが残念じゃ」


 ヘレン院長は嘆息した。今の言葉から疑問が浮かぶ。

 連れて行けないのはオレの体力の問題なので聞くまでもないが、周りの人は何を以てオレに聖霊様の加護があると判断しているのか。


「聖霊様の加護を受けてるのって一目で分かるんですか?」


 オレの問いにヘレン院長の顔には、何を言っておる、と書かれていた。


「受けておるじゃろ、その容姿は」


 オレの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。確かに灰色の髪の人は見かけないが、しかし。


「でも、灰色をした聖霊様というのは聞いたことがありません」


 そう、どうしてもそこが引っかかっている。

 聞いたことのない聖霊様からの加護。気になって仕方がない。


「そうじゃの。灰色の聖霊様や精霊というのは知らぬ。じゃが、普通ではありえぬ色じゃ。そして何よりその淡い金色の瞳」


 ヘレン院長でも灰色をした聖霊様については知らないのか…。

 とはいえ確かに金色の瞳は平民では珍しいのだ。と言うか金色みたいと思っていたアレラの瞳の色は、淡い金色そのものだったのか。

 ヘレン院長から改めてオレの容姿について説明がなされた。


 聖霊様の加護を受けている者は、加護を受けている聖霊様の色に髪や瞳の色が染まる。

 これは聖霊様の眷属たる精霊の加護を受けている者も同様である。

 強く加護を受けている者ほどその聖霊様の色に近づき、髪を陽光にかざすと透き通るほど純粋な色ともなれば一目で分かる。


 そして何よりも淡い金色の瞳は主神たる聖王様と同一の瞳の色とされ、聖霊様どころか聖王様の加護を受けているとされているのだ。

 平民では稀だが王族や貴族には多く現出する故に高貴な瞳の色とも言われ、王族が聖王様の末裔を名乗る理由の一つにもなっている。

 一部の貴族に至っては、一族に一人でも金色の瞳を持つ者が生まれていただけで王族に次ぐ高貴な一族であると喧伝するくらいだ。


 アレラは容姿から加護を受けていると一目で分かる故に、目の前で名乗れば忌避感を示す人も少ないだろうとのことである。


「そうね…確かに灰色をした聖霊様や精霊は神話にも聖典にも出てこないのよね」


 メレイさんも知らないらしい。

 ヘレアはひたすらオレの頭をなでなでしている。


「参拝に来る人達も知らなかったの」


 まさかのヘレアが会話に参加してきた。

 しかもその言い草は参拝者に聞き回ったということだ。


「気になるじゃない、アレラちゃんのことなんだもの」


 抗議すべくヘレアから離れようとすると、開き直られた。

 そしてまた抱きすくめられる。オレは抵抗を諦めた。


「…推薦状が既に送られたんだから…もう決まったことよね…」


 メレイさんが落ち込む。もう何度目か分からない。


「そうじゃの。しかもシスターでも無いというのに、勝手にシスターと書きおって」


 ヘレン院長も困った様子だ。

 というよりシスターと推薦状に書かれているのは初耳だ。


「なんでシスターに?支援系魔法の使い手は別にシスターになる必要はないんですよね?」


 オレの疑問にヘレン院長は即答した。


「単純じゃ。出自をここの教会の所属にしたいだけじゃよ」


 その回答に少し考えて、そしてオレは理解した。


「あー…」


 思わず声が漏れる。

 確かに支援系魔法の使い手を見つけたのか輩出したのかでは教会の功績としての意味合いが変わってくる。


「大人って汚いよね。アレラちゃんはこんなに清いのに」


 抱きすくめたままのオレにヘレアは頬ずりをする。

 ヘレアのアレラ愛はもはや病的に感じるので素直に喜べない。


「しかしそうなると困りましたね」

「アレラの意思は無視じゃろ…」


 ヘレン院長もメレイさんもそのまま話を続けた。

 確かにオレの意思は無視なのだろうが、オレにとってはチャンスかもしれない。


 司祭ってようはプリーストじゃないのか?漫画やゲームだと支援系魔法の使い手は勇者パーティから外せない職業だ。

 この世界の勇者の定義からいえば、オレも勇者になれるのだ。男の夢だ!あっ、今は女の子だったなオレは。

 ということは、聖女になるのか?いや、柄じゃないし…と妄想を膨らますオレを余所に周りの話は進む。


「うむ、やはり最低限のシスターとしての知識が要るのお。教え込まねばの」


 ヘレン院長の教育宣言にオレの意識は引き戻される。

 神話や聖典の知識、シスターの仕事内容、礼儀作法、都市部の一般常識等々多岐にわたって教育内容が挙げられる。

 ヘレアに拘束されているオレが勉強量に戦いていると、ヘレン院長がにやりと笑った。


「なに、知識についてはさわりだけ知っておればよい。仕事についても出来る様な身体では無いのが一目で分かるしさわりだけじゃの」


 絶対嘘だ。知識を叩き込むつもりだ。

 オレの孤児院生活はリハビリの毎日で、他の孤児達と違い仕事の手伝いをしたことがない。まともに動けないので手伝い禁止だった。


 勉強も、空太として男子高校生だった時の学業の成績は中の下だったし、読書も好きではなかった。

 漫画とゲームの知識だけで司祭をやっていけるとは思えないし、このままではシスターすらやっていけないだろう。

 アレラの記憶を辿っても、せいぜい神話を聞きかじった程度だ。そもそも聖典を触ったこともない。

 勉強が出来ないと自負しているアレラに学業チートなんてものはない。

 そしてアリレハ村の司祭は聖句を諳じていたことを思い出し、段々と顔が青ざめてきた。


「大丈夫、アレラちゃんは清いもの」


 ヘレアサン、その根拠のない発言はヤメテください。

ヘレアの暴走が始まってしまいました。


2019年10月22日、追記

改行位置を変更致しました。

聖霊様の加護の説明に「精霊の加護」の説明文を一行追加しました。それに伴い前後の会話文に「精霊」の単語を加えています。

その他には誤字訂正以外に本文の変更はございません。

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