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71.ドラゴンとの交流開始

 気が付くと見知らぬ…うん、ここ何処。


 オレが今寝ているのはベッドというよりは布団に近かった。

 わらのような何かの上に布団が置かれている感じである。

 そして床は磨かれた石、というよりは結構大きな石板か岩だった。

 少なくとも視界の範囲内に切れ目は見当たらなかった。


 その視界はというと、周りを囲むテントのようなモノに遮られている。

 このテントは細めの丸太を円形に並べて頂点でくくった円錐のような形状だ。それらの丸太を支柱にして布を被せているため、テントの外の様子は分からない。

 そして大体二人か三人分の布団が入りそうな大きさだった。

 ちなみにオレはテントの種類など知らないのでこのような形状のテントを何て言うのかは分からなかった。


「確か、ドラゴンに連れ去られて…」


 ドラゴンに空高く釣り上げられてからの記憶がない。

 オレは気絶する前のことを思い出しながら、テントから出た。

 そして周りを見て息を飲んだ。


 テントはかなり広い洞窟の端に設置されていた。

 床の全面が磨かれ周りを岩で囲まれたこの空間は、天井付近からいくつかの明かりで照らされていた。

 その明かりをよく見てみると、壁に作られたくぼみに何か光る石のようなモノを置いているのだと分かった。その石の光が天井に反射して空間全体を明るくさせているのだ。


「アレラ!」

「ひゃい!」


 突然響く少女のような声にオレは跳び上がってしまった。

 その声の主はこの空間の端にあるドラゴンでも通れそうな通路から首を覗かせていた。

 いやどう見てもドラゴンである。その色は青白く、首元に何か布を結んでいた。


 そのドラゴンは慌てた様子で通路の奥に振り返り何やらオレには理解出来ない言葉を出しているが、『アレラ』という単語だけは理解出来た。

 どうやらオレのことを誰かに伝えているらしかった。


 通路の向こうから、同じくオレには理解出来ない言葉が返ってきた。

 その返事を聞いたドラゴンはオレの近くまで歩いてくると、屈み込んでオレを見つめてきた。


「あ、あの…おはようございます?」


 何とかオレはそのドラゴンに挨拶してみる。

 取りあえずおはようとは言ってみたが、この空間は外の様子が分からないので朝かどうかなど勿論分からない。単純にオレ自身が起きたからおはようなのだ。


「あ…お…おはよう」


 そのドラゴンはオレにも分かる言葉で挨拶してきた。


「ごめんごめん。そう言えば人族語でないと分からないんだよね?」

「え、あ…はい」


 次の瞬間、そのドラゴンは流ちょうな発音で謝ってくる。

 『人族語』というのが何を指すのかいまいち分からないが、オレというかアレラが理解出来る言語なので人族が使う共通語のことで間違いないのだろう。

 だからオレは取りあえず頷いておいた。


「さっきのは…ドラゴン語、ですか?」

「ん?あー、人族語で言うと何て言うんだっけ。取りあえず私達だけが使っている言語じゃないよ」

「はあ…」


 そしてオレは疑問を垂れ流していた。

 そのドラゴンの返答から、どうやらオレが知らない言語なだけで種族を限定しない公用語のようだった。

 何となく分かったのだが語彙力が足りず、オレは曖昧な返事しか出来なかった。


「起きたようだな、アレラよ」


 その時、男性の老人が先程の通路から現れオレに挨拶してきた。

 この人は確か…。


「あ、おはようございます。えーと…露出狂さん?」


 ごめんなさい、名前忘れました。今日もオレのぽんこつなおつむは絶好調です。


「誰が露出狂だ。まあ良い、改めて名乗るとするか」


 彼がオレに向き直ったので、オレも居住まいを正した。


「儂の本当の名前はゴロド。一応、竜王を名乗っている」


 ゴロドさんはそう言って胸を張る。

 『本当の名前』とか言われても王都で名乗られた名前を覚えていないオレはどう反応すれば良いか分からない。取りあえず首を傾げておこうか。

 あと、胸を張ると外套がはだけそうでコワイ。ん?


「りゅ…りゅう…おう?」

「そうよ。おじいちゃんは竜王なの。凄いでしょ」


 オウム返しに単語を発するオレに、少女のような声を出すドラゴンが肯定してくれた。

 どうしよう。魔王チートは遂に竜王を引き当てたようです。


「世界の半分とか、要りません」

「いきなり何を言っているんだ?」


 オレの口から無意識に飛び出した言葉にゴロドさんが突っ込みを入れてきた。

 いやだって竜王だよ竜王。ラスボスじゃないかラスボス。


「あれ?でも竜王が野菜市場?買い出し?王なのに?」

「ん?ああ、此処に居ても暇だしな。それに人化出来るドラゴンは少ない」


 オレはどうやら疑問を垂れ流していたようだ。

 しかし彼は普通に返事をしてくれた。


「コロン、お前もちゃんと名乗っておけ」

「はーい」


 彼の言葉に少女のような声を出すドラゴンが返事をする。

 そのままそのドラゴンが縮み始めると、人族の少女になった。

 青白い長い髪と金色の瞳を持つ十三歳くらいの少女に変身したのである。


 決してオレというかアレラの十二歳という年齢を基準に判断したわけではない。

 ヘレアより少し背が高いからだ。つまり決してヘレアの十五歳という年齢も基準にしたわけではなく。えーと、そう。ムリホ王女と同じくらいなのだ。胸が。

 違うそうじゃない。

 あくまで背丈の話である。それと、決して王女様の名前を忘れたわけではない。


「あたしはコロン。よろしくね」

「…あ、はい。アレラです。よろしくお願いします」


 変なことを考えていたら彼女の名乗りに対する反応が遅れてしまった。

 彼女はドラゴンの時に自身の首元に付けていた布を羽織り直してボタンを留め始めた。どうやら人化した際に着るフロントボタンのワンピースだったようだ。


「はっはっは。いきなり人化して驚いたか?」

「え?ドラゴンって人に変身出来るんですよね?」

「は?」

「え?」


 オレの反応遅れに対するゴロドさんの見当違いな推理に、オレはついうっかり素で返事をしていた。

 すると彼は驚いたので、オレは思わず首を傾げた。

 おかしい。ドラゴンって空太の記憶だと人化出来て当然だったよね?あ、漫画の中の話だったか。


「人族にはごく一部にしか人化について教えていなかったはずだが。エレヌか?まさかエレヌが教えたのか?あやつ、そんなに口が軽かったのか?」

「あ。いえ、違います!…エレヌさんじゃないです。何となくそうなのかなって」

「…そうか。まあ、エレヌは昔から口が堅い奴だからな。しかし…」


 ゴロドさんの呟きにオレは思わず慌てて言い訳をしておく。

 いや、両手を左右に振るだけで言い訳にすらなっていない。だがエレヌさんに濡れ衣を着せるわけにはいかないのだ。

 オレの言い訳を信じたのかは分からないが、少なくともエレヌさんに対する誤解は解けたようである。しかしゴロドさんの目は疑いの色を浮かべたままであった。


「あ!」

「む!?」

「うん?」


 そうだ!思い出した!

 突然オレが声を張り上げたのでゴロドさんとコロンが首を傾げた。


「そうだ!エレヌさん!知り合いなんですか!?というかワタシがさらわれて!どうしたら…あー。ヘレアに殺されちゃいますよ!」


 途端にオレは混乱してしまった。どうしたらいいんだ本当に。あと、流石にヘレアサンでもドラゴンを殺すとか出来な…出来そう?出来るかもしれない…。


「取りあえず落ち着け。お前が寝ている間にちゃんとエレヌと話し合ってきたぞ」

「そう、だったんです…か。よかった…無謀なヘレアサンは居なかったんだ…」

「あの少女か。飛びかかってきたから少し稽古をつけてきたぞ」

「…何て言うか、うちのヘレアがごめんなさい」


 どうやらエレヌさんにオレが此処に居ることも伝わっているようなので、一先ず安心して良いということなのだろう。

 そして安定のヘレアサンだった。逆上して暴れたりとかしていたみたいだが、双方怪我をしなかったらしいので本当によかった。


 ゴロドさんの目は笑っていた。

 意図していなかったが先程の疑いはうやむやになったようである。




「ところでゴロドさんってエレヌさんとどういう知り合いなんですか?あ、いえ…言えなければ別に言わなくても…なんですけど」

「エレヌに聞くと良い、とでも言いたいところだがしばらく会えなくては気になって仕方ないと思ってだな。大体のことは話しても良いと許可は取ってきた」


 オレがこの質問を出すことについてどうやらゴロドさんは予想していたらしい。

 そして彼はエレヌさんについて教えてくれた。


 エレヌさんはまだ幼い頃に、このドラゴンの巣から降りた麓にある村で身寄りを無くし孤児となっていたらしい。

 そんな彼女を見つけたゴロドさんは、可哀相に思い彼女を巣に連れ帰ってきたそうだ。

 とはいえドラゴンでは人の育て方が分からない。

 仕方なくゴロドさんは彼女を反対側の麓にある都市に住む知り合いの人族に預けたそうである。この都市というのはあの王都のことだ。

 その知り合いならば彼女を立派に育ててくれるとは理解していても、ゴロドさんは気になったので時々様子を見に行っていたそうだ。

 しかしエレヌさんは育つにつれゴロドさんに冷たくあたるようにようになり、今のような関係となってしまったそうだった。


「他の者に聞いても良い子に育ってると言われるのだが、何故儂だけあんな態度を取られるのかまったくわからん。もう反抗期って歳でもなかろう?」


 気が付いたらゴロドさんの説明は愚痴へと変わっていた。


「あの、どれくらいの頻度で会いに行っていたんですか?」

「そうだな。数週間だったり数ヶ月だったり特に決めてはいなかったな」

「市場への買い出しは?」

「毎月一回は必ず行っているぞ?」


 オレの垂れ流した疑問に彼は少し考えた後答えてくれる。

 確かエレヌさんは人化した状態で現れたゴロドさんに『私なんて気にも留めてなかったはず』と言っていた。都市に行く頻度と会う頻度が違う。つまり…。


「もしかして…ゴロドさんにも捨てられた、とか構われてない、とか思っているんじゃ…」

「なん…だと。いや、待て。そう言われると確かに。何てことだ」


 オレの簡単な推理にゴロドさんは落ち込んでしまった。

 何故気付かなかったんだこの人、いやドラゴン。

 とはいえエレヌさんのあの態度は今でもゴロドさんを慕っているからとも考えられる。年増だが反抗期なのだ、うん。

 まあ、敢えて言う必要はないか。


 そういえばもう一つ気になったことがある。


「あの、エレヌさんが元々住んでいた村って…何処の国の村ですか?」

「クラルク共和国だが」

「ということは…エレヌさんってもしかして魔族…」

「人族語で言えばそうだな」


 どうりでエレヌさんが覇王教を知っていたりするわけだ。

 もしかしたら今も彼女は密かに覇王教を信仰していたりするのかもしれない。


「あ、あの…へり…ろぐ?市って何処にあるんです?ゼラロデ県にあるって」

「ヘリログ市か?何でお前が魔族の国の地名を知っている。まあ良い。此処もゼラロデ県にあたるぞ。ヘリログ市は此処から飛んで一時間も掛からないぞ」

「飛んで…」


 ゴロドさんの言葉にオレは戦慄した。

 ドラゴンがどれだけの速さで飛べるかは分からないが、どうやらロリコン魔族(トルク)の出身地から此処は遠くないらしい。むしろ同じ県内だから近いともいえる。

 というよりオレ今、魔族の国に居るわけだ。どうしよう。


「さて雑談は終わりにするか。魔法を教えるにあたってまずはアレラの実力を」


 ゴロドさんが何かを言いかけたその時、ぐうっと鳴いたオレのお腹が彼の言葉を遮ってしまった。

 仕方がない、腹が減っては戦が出来ぬ。


「何か食べるものありませんか?」


 オレは首を傾げて彼に問いかけた。

 そんなオレを見てゴロドさんは何故かため息を吐いた。


「まったく。コロンといい最近の子は羞恥心というものがないのか?」


 随分と酷い言い草である。

 オレだって羞恥心くらいあるつもりだ。

 ほら、隣のコロンだってお腹を鳴らしている。ちょうどお腹が空く時間なのだ。

 お腹が鳴るのは決してオレが食いしん坊だからではないのだ。

おはようございます。

単身魔族の国に連れてこられた主人公は生きて帰れるのでしょうか。

食欲があるから多分大丈夫ですね、はい。

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