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52.王女の魔王さま

 晩餐会の翌日、オレは与えられた客室で昨夜のことを思いだしていた。


 ケラム王子とムリホ王女がダンスを踊った後、ムリホ王女は二人の踊りに魅了されて積極的になった多数の貴族からダンスに誘われ続けた。

 しかし断り続けるのにいい加減疲れたのか、彼女はケラム王子より身分の高い者としか踊らないと宣言したのである。

 そのためにケラム王子の弟君は彼女をダンスに誘えず撃沈してしまった。


 そこで終われば良かったのだが。

 何を思ったのか酔っ払ったケラハ王がムリホ王女をダンスに誘ったのだ。

 流石の彼女も踊らないわけにもいかず、踊ったのだが…。


 ケラハ王が彼女の腰に手を回してやたらと密着しようとする。セクハラである。

 結果、王様の足を踏みまくる王女様のご乱心ダンスが披露されたのだった。

 そして一曲ダンスが終わってケラハ王から離れた直後、ムリホ王女は彼の股間を蹴りで撃ち抜くという処刑を実行した。

 ケラハ王が倒れたことで晩餐会は終わりを告げたのであった。


 後で聞いたがケラハ王は絡み酒。おかげで彼と踊る女性はいないとのことだ。

 やはり王族は基本的に踊れなかったのである。




「アレラ、入るぞ」


 オレの部屋にノックの音が響いたかと思うと、扉を開け放ってムリホ王女が入ってきた。

 彼女がノックをすることに驚いた。そうじゃない。中からの返事を待て。


「着替え中とかだったらどうするんですか」

「構わんだろう。おぬしじゃし」

「…酷いです」


 相変わらずムリホ王女は傍若無人である。

 それよりも、彼女の後ろに隠れる人影が気になる。


「魔王さま…」


 その人影は開口一番オレを魔王呼ばわりしてきた。


「どうじゃケリカ。本物の魔王じゃぞ」

「違います!魔王じゃありません!」

「失礼しました。お忍びなのでしたね」


 人影は緑色の瞳に淡い金色の髪をした少女だった。

 後からこの部屋に入ってきたコリス司祭の姉妹と思うくらいそっくりだった。

 背丈を見るにオレと年齢は近いだろうか。

 しかしどう見ても高貴な格好をした少女はオレを完全に魔王と勘違いしていた。

 彼女はムリホ王女にだまされていたのだ。魔王がお忍びって何ですか?


「ムリホ王女様、こちらの方は?」

「ん?ケラハ王の末娘、ケリカ第一王女じゃ」

「失礼しました。ワタシはアレラ。シスターをしております」


 ムリホ王女に慣らされた元村娘の心臓は段々と毛が生えてきたみたいだ。

 外見に威圧感がなければ王族と挨拶を交わすなど造作もなくなってきたらしい。

 もっとも人見知りがなくならない限り何時オーバーヒートするか分からないが。


「子爵令嬢じゃろ」

「…そう、でしたね」


 しかしムリホ王女に突っ込まれたが子爵令嬢という実感は一切ないオレである。


「魔王アレラさま…」


 ケリカ王女の中で魔王にオレの名前が混ざった!?


「ケリカがここにいると聞いたが!」


 そこに昨日の酔っ払い、もといケラハ王が飛び込んできた。

 酔っ払いに敬意は要らないので怯える必要もない。


「あ。ケ…国王陛下…」

「む!魔王候補!」

「違います!魔王アレラさまです!」

「ケリカ王女様!?」


 オレが思わず彼を名前で呼びそうになってしまったのはご愛敬である。

 しかしケリカ王女の訂正はいただけない。誤解は早く解かないと。


「魔王アレラさま。お父様はあなたにとって敵です、逃げましょう」


 そう言ってオレの手を取るケリカ王女は可愛い。

 確か御年十一歳。十二歳であるオレより背が高いのも可愛…くない。

 そうじゃない。アレラが育たないのが悪いだけだ。


 一方、ケラハ王は無言で支配系魔法を使ってきた。視界の端にいるメイドが少し震えている。

 彼に敬意も威厳も感じなくなっているオレは緊張していた晩餐会の時とは違い、彼が魔法を発動したことに気づいたのだった。


「お父様なんて、嫌いです!」


 父親に対する最大限の口撃をケリカ王女は放った。

 ついでに支配系魔法も放った。

 ケラハ王がたじろいでいる。父親の性として娘には勝てないのか。


「あ」


 オレは手を繋いだままのケリカ王女から、支配系魔法の魔力が流れるパターンを読み取ってしまった。

 オレの側ではムリホ王女が笑いを堪えている。あと一押しで笑いそうだ。

 オレもその魔法を使えるか試してみよう。彼女へのドッキリということで。




…どうも、魔王アレラさまです。

 今の客室はその状況から連想出来る部屋がある。『魔王の間』である。


 目の前には顔色の悪くなったケラハ王が膝を付いている。

 コリス司祭が三つ指をついて命乞いをしている。違う、そう見えるだけだ。

 そして扉の側にいるメイドは床に転がりピクリとも動いていない。


「ああ…魔王アレラさま…素敵…」


 ケリカ王女は涙目でオレを見上げている。

 泣き顔も可愛い…って今はそんなことを考えている場合ではない。

 彼女は人質かのようにオレの側に崩れ落ち、辛うじて耐えている状態なのだ。

 ただし不穏な台詞は聞こえないこととする。


「…このアホラ…。早よ、『場の支配』を解除せぬか…」


 どうやら支配支配と呼ばれていたこの支配系魔法の正式な魔法名は『場の支配』と呼ぶらしい。

 その魔法名を教えてくれたムリホ王女でさえも、満身創痍の勇者といった風情である。


「…ごめんなさい、解除の仕方が分からないんです」


 正直に答えるしかない。

 こんな時は笑えばいいのかな?笑うしかないよね。


「…。おぬしはアホかあああああ!」


 泣き笑いのオレにムリホ王女の強力なドロップキックが炸裂した。


 オレが吹っ飛んだことで『場の支配』が解除されたらしい。

 部屋の中にいる全員が、動き始めた。

 取りあえずメイドは生きていた。一安心である。


「アホラ!支配系魔法の使用を禁ずる!」

「ひゃい、ごめんなさい…」


 ムリホ王女に命じられたオレであるが、自然と土下座していた。

 名前の一部を変えられアホ呼ばわりされているが事実なので否定出来ない。


 いやまさか魔法の制御が出来ないとか思いもしなかった。

 そういえば無意識に発動する『弱者の排斥』も止め方が分からないのだ。

 オレは不用意に支配系魔法を使うべきではなかったのだ。


 魔王チートが暴走するという悪い例である。支配系魔法怖い。

 今後『場の支配』は絶対に使わないようにしなくては。絶対に。




「そうそう、わらわが来たのは別の用事があったからじゃ」

「何でしょう?」


 平常運転に戻ったムリホ王女にオレは話の続きを促した。


「ケリカ王女がたまたま歩いていたので拾ったのじゃ」

「ソウデスカ」


 ケリカ王女は恍惚としてオレの腕にしがみ付いて離れない。

 こんなアブナイ子を拾ってきて欲しくなかった。

 ちなみにケラハ王は逃げ帰ってしまった。王としての威厳も何もないですね…。


「まあ其奴は放っておくとして…シスター服が完成したのじゃ」

「!…ありがとうございます!」


 ムリホ王女の発言をうけてコリス司祭がオレに一着の服を差し出した。

 コリス司祭という公爵令嬢を荷物持ちにするとか、やっぱり王女様は凄いです。

 ケリカ王女が名残惜しそうにしつつもオレの腕から離れてくれたので、オレは無事に両手でその服を受け取れた。


「どうじゃ!良い服じゃろ!」


 渡された黒色のワンピースと頭巾は肌触りが麻布とはまるで違う。

 同時に渡された白色の襟が普通の布らしい肌触りなのは幸いである。


「…何で出来ているのでしょう、これ」

「知らぬ。わらわが持っておる旅装の予備から作らせたからの」


 王女様の旅装とか凄く防御力のある素材なんでしょうね、きっと。


「…これ、凄く高価な素材なのでは…」

「そうじゃな…。手枷…足枷…それは拘束衣って言うと良いかもの」

「その呼び方はご勘弁願います…」


 どうやらこの王女様は高級品を押し売りしてオレを奴隷にしたいようです。

 つくづく…鬼!悪魔!魔王!




…ムリホ王女のこの国での用事は終わった。

 無事に…ではないがオレのシスター服も完成した。

 今日オレはムリホ王女に連れられてこの王城から出発するのである。

 出発前、見送りに来た王族とオレ達は挨拶を交わしている。


「ムリホお姉様、魔王アレラさま。またお会い出来る日を楽しみにしております」


 名残惜しそうにケリカ王女がオレ達に挨拶した。

 結局オレは彼女の誤解を解くことが出来なかった。半分自業自得ではあるが。


「ではケラハ王、世話になった」

「二度と来るなよ、魔王候補」

「ひゃい…」


 ムリホ王女の言葉を受けて何故かオレの方を向くケラハ王であった。

 オレは身体を縮こめて頷くことしか出来なかった。


「お前もだ、ムリホ王女」

「何故じゃ!ケリカも喜ぶじゃろ」

「何でお前がケリカを呼び捨てにする!」


 ケラハ王とムリホ王女が言い合いを始めた。


「わたしがムリホお姉様にそう呼んで頂くようお願いしました」

「ケリカ!?やっぱりお前はケリカの教育に悪い!」

「何故じゃ。わらわの体験談を聞かせただけじゃぞ」

「それが教育に悪いと言っておるのだ!」


 ケリカ王女はムリホ王女を慕っていた。

 これではケラハ王が心配するわけだ。

 しかし教育に悪い体験談とは、ムリホ王女は過去に何をしてきたのだろう。

 とはいえ聞くに聞けない。きっとオレ自身の教育にも悪いに違いないからだ。


 「心配しないでください、お父様。わたしもいつかムリホお姉様のような立派な王女になってみせますから!」


 あ、これもうダメなやつ。


「ムリホ王女、コリス嬢、アレラ嬢。また会えるのを楽しみにしていますよ」

「ケラム、そんな奴らとは二度と会う必要などないぞ」


 ケラム王子は普通に別れの挨拶を述べてくれた。

 しかしケラハ王はお世辞すら許さない様子だ。

 どうやらムリホ王女は本当に嫌われているらしい。

 とばっちりを受けたコリス司祭は可哀相である。オレ?多分大丈夫、うん。


「ムリホ王女、また会え…」

「それでは行くかの!」


 ケラム王子の弟君が別れの挨拶を言い切る前にムリホ王女が動いた。

 王女様、やっぱりこの弟君のことはお嫌いなんですか?

 そういえば結局彼の名前をオレは知らないままである。まあ、いいや。




…自国の王族から魔王と呼ばれ続けたオレは落ち込んでいた。

 実は出発前までは笑顔を貼り付けていたのだ。

 しかし馬車に乗ったことで彼らの視線がなくなり、今は暗い顔をしていた。


「まあアレラよ、勇者となって見返せばよい」


 流石に見かねたのかムリホ王女がオレを慰めてきた。


「姫様、それはケラハ陛下の前で言われた方がよろしかったのでは?」

「勇者アレラの名が気づいたら広まってた方が面白かろう?」


 コリス司祭がムリホ王女に話しかけた。

 一方、ムリホ王女の返事は如何にも彼女らしい。

 確かに王族の前で汚名返上して欲しかった。

 オレ自身では醜態を晒したので無理だろうが、ムリホ王女なら…無理だな。


「何、この国にはまた来るから心配するでない」

「また来られるのですか?」


 彼女の言葉にオレは顔を上げる。

 どうやら国外追放に近い状態のまま終わるわけではないようだ。


「当たり前じゃ。魔王の領域はこの国の向こうじゃからの」

「え?」


 初耳だと思ったが、確かに記憶を辿るとこの国は魔王の領域と隣接している。

 オレのぽんこつなおつむは今日も絶好調だった。


「いずれアレラには箔を付けてもらうために魔王と戦ってもらうぞ」

「!?」


 それは真の勇者になれるということだ。嬉しい話ではあるが…。

 しかしこの王女様ならオレを一人で魔王の前に放り出しかねない。死ねと言っているのかもしれない。

 また暗い顔をしたオレを見てムリホ王女は微笑んだ。


「もちろんわらわも行く」

「姫様!王家の介入は!」

「こんな面白そうなこと見逃すわけがなかろう」


 何故かコリス司祭が止めてくるがまたムリホ王女が禁則事項に触れたのだろう。

 まあそんな会話をして嗤うムリホ王女の方こそ、オレは魔王だと思うのだった。




…ようやく落ち着いたオレはムリホ王女の様子をうかがった。

 先程の会話が終わってから彼女は何やら考え込んでいたのだ。


「ムリホ王女様?」


 オレが問いかけると、彼女は意を決したかのようにオレを見てきた。


「おぬし、今からわらわのことを王女と呼ぶでない」


 オレは彼女の言葉にどう呼ぶべきか少し考える。


「ムリホ様?」

「わらわは構わんが、他の者に聞かれるのは良くないぞ」


 つまり、そう呼ぶのは不正解らしい。

 不敬と思われるのかもしれない。王族に貴族って面倒くさい。


「姫様は、アレラさんにも姫様と呼んで欲しいのですよ」

「ああ!」

「まあ、これからも引っ張り回すのでな。何時までも他人行儀な呼ばせ方はさせられん」


 コリス司祭の助け船でオレは理解した。

 ムリホ王女はというと少し照れくさそうに頬を掻いていた。


「アレラさんが側近になって嬉しいのですよ」


 コリス司祭がそう言ってにっこりと微笑む。


「違うわコリス!」

「きゃあー」


 ムリホ王女とのじゃれ合いが楽しいらしく、コリス司祭は棒読みな悲鳴を上げている。


「え?側近…?」


 オレは不穏な言葉に気づいた。


「不服かえ?」


 オレの顔色が悪くなったのを見て聞いてくるムリホ王女は、いい笑顔である。

 内心を隠し、オレは微笑んだ。


「いえ!そんなことは!」


 はい!不服です!

こんばんは。

主人公の魔王チートが炸裂したのは予定にありませんでした。

まあでも今までの状況から行くとこれくらい普通ですよ普通。

それにしても話が進みません。

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