51.晩餐会と子爵令嬢
オレは今王城にいた。
そうである。王都に入った、ではなく王城にいた。
王都に着いて船を下りた途端、向かえに来たという馬車で王城に連れ込まれた。
そしてオレはろくな説明もなくムリホ王女達と引き離されたのである。
オレには客間が与えられて王城勤務というメイドも付けられた。
しかしオレにとってはメイドが監視する中で軟禁されているに等しかった。
しかも軟禁されて二日が経っている。
この間ムリホ王女にもコリス司祭にも会えていなかった。
「まあ…あの王女様だし何か企んでいそうだけど…」
オレは与えられた客間で一人呟く。
だが扉の横に控えたメイドは聞こえているにも関わらず会話をしてくれない。
そして人見知りするオレは用事もなく彼女と雑談することなど出来なかった。
それ故なのかこの部屋にいる時の彼女は基本的に調度品かのように立っていた。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「お待たせ致しましたアレラ様。こちらにお越し下さい」
「あ、はい」
どうやら軟禁生活は終わりを告げたようだ。
メイドに言われてやっと解放されたと一安心した。
しかしメイドに連れてこられた部屋は、衣装だらけだった。
その部屋の中には数人の見知らぬメイドしかいない。
てっきりムリホ王女かコリス司祭のところに行って話が聞けると思っていたオレは面食らってしまった。
「ここでドレスにお召し替えをさせて頂きます」
「え?」
メイドの一人に言われるも、オレが今着ている服も一応ドレスなはずである。
だがこの部屋に並べられている衣装はもっと高級な品だと一目で分かった。
そして今並んでいる衣装は全部オレが着られそうなサイズなのだ。
だから待ち時間があった理由も何となく分かった気がした。
つまりこの部屋に衣装を集めていたのだろう。
しかしそれにしては随分と待たされた気がするのだけど…。
メイド達は衣装の前で何やら話をしていた。色がどうとかサイズがどうとか聞こえてくる。
メイドの一人がコルセットを選んでいた。あれ相当細くない?
取りあえずオレににじり寄るメイド達が次に何をしてくるかは分かった。
オレは今から着せ替え人形にされるのだ。
ともかくもう一度言わせてください。あのコルセット、相当細くないですか?
…オレは控え室という場所に案内されていた。
相変わらずろくな説明をされていなかったため、何処の控え室かさっぱり分からない。
普通に考えると謁見の間の控え室だろうか。
よくあるファンタジーものだと謁見の間とは廊下から大きな扉をくぐるものだった。しかしこの控え室にある扉は両開きとはいえそれ程大きな扉ではなかった。
そしてオレが入ってきた方の扉から、一人の若い青年が入ってきた。
「アレラ嬢、お待たせしました」
「王子様?」
その若い青年はやたらめかし込んだケラム王子だった。
そしてオレは『嬢』と付けられて少し違和感を感じた。
「ドレスを着られると、より一層可憐に見えますね」
「…ありがとうございます」
王子様からお褒めの言葉を頂いても正直反応に困ります。
そんなオレは今、淡いピンク色でフリルたっぷりのドレスをまとっていた。
髪も一部が三つ編みにされている。メイドに髪型を聞いたら三つ編みハーフアップとか言われた。
何処かで見たのか馴染みのあるような気がしますがよく分かりません。
「その様子だとろくに説明を受けていないようですね」
「はい…ここは何処なのでしょうか」
「大広間の控え室ですよ」
「謁見をするのですか?」
「いいえ。大広間では今、晩餐会を開いているのです」
「え?」
ケラム王子はオレに簡単な説明をしてくれた。
どうやらオレは国王陛下への謁見と討伐報告の会議をすっ飛ばして晩餐会からの参加となったらしい。
どうりで随分と待たされたわけだ。
そして貴族達どころか国王陛下でさえオレのことを名前以外知らないそうだ。
これはムリホ王女の意向らしい。貴族達にドッキリを仕掛けるつもりだとか。
いたずら好きの彼女らしくオレのことは秘密とされていたのだ。何てことだ。
しかもオレのエスコート役はこの国の第一王子たるケラム王子である。
これはもう、元村娘へのイジメである。王女様の鬼!悪魔!魔王!
「王子様、そろそろお時間です」
「分かった。アレラ嬢、エスコートいたします」
あっという間にオレはケラム王子に手を取られて立たされていた。
そしてそのまま手を引かれて両開きの扉の前で待機する。
うん、恥ずかしいねコレ。そして扉の向こうが怖いねコレ。
アレラという元村娘の心臓はオーバーヒートしそうである。
しかし今倒れるとケラム王子に恥を掻かせてしまう。
何とか足を踏ん張って待機していると、扉の向こうの大広間から誰かの声が聞こえてきた。
「それでは、今回の魔王候補討伐において最大の功績をあげた方をご紹介致しましょう。アラルア神聖王国=アラルア聖都=セラエ子爵の子・アレラ子爵令嬢のご入場です!」
誰が呼ばれたの?その名乗りって誰のこと?オレの名前が聞こえたような?
オレの疑問を余所に拍手が聞こえてきたと同時に両開きの扉が開かれた。
ケラム王子が一瞬オレを見て頷いたのでオレも意味が分からず頷き返した。
そして彼がオレの手を引いて歩き始めたので慌ててオレも歩き始めたのだった。
…オレが大広間に入場した途端、拍手の音が一際大きくなった。
だが一部の人が目を見張って硬直している。
特にオレの前方に立つ高級そうなサークレットを付けた偉丈夫の男性が驚愕の表情を浮かべてオレを見つめていた。
その顔付きがオレの隣に立つケラム王子を老けさせた感じなので、恐らく彼が国王陛下なのだろう。
そして彼の横に立つケラム王子を少し若くした少年はケラム王子の弟君なのだろう。こちらは口をぱくぱくとさせていた。
そんな二人の側でムリホ王女がお淑やかに控えていた。
彼女は深紅のドレスをまとっていた。
彼女自身が赤色の髪をしているだけに赤色が相当お好きなのだろう。
きっとあのドレスは返り血を浴びても構わない色なのだ。恐ろしい色なのだ。
彼女はオレを見て一瞬嗤った。どうやら彼女の期待通りにドッキリが成功したようである。
背後から扉の閉まる音が聞こえたので、オレはそっと振り返った。
オレが出てきた両開きの扉は大広間側から見ると凄く豪奢な作りである。
そして王族へ一直線に歩み寄れることを考えると、もしかしてあの扉って王族用とか主賓用とかそんな感じの扉じゃないのか?
これはもう、元村娘が晒し者である。王女様の鬼!悪魔!魔王!
オレはケラム王子に手を引かれて国王陛下の側までエスコートされた。
その時、ムリホ王女が国王陛下に小声で話しかけた。
「どうじゃケラハ王、アレラは」
「聞いておらぬぞムリホ王女。まさか別の魔王候補を連れてくるなど…」
どうも。国王陛下に魔王候補認定されたアレラです。
国王陛下が殺気を伴ってオレを見つめてきていた。やばいです。殺されます。
オレは動揺を隠して微笑むのに必死である。
どうやらオレが軟禁されていたのは彼にオレの容姿がバレないようにするためだったようだ。ちゃんと事情を説明してからの対面で挨拶をさせてください。
そこでオレは気づいた。国王陛下に挨拶をしなくては。
しかし何を言えば良いのか全く分からない。
取りあえずゆっくりと丁寧にカーテシーをして微笑んでおいた。
そんなオレを国王陛下は目を丸くして見つめていた。
オレは何かを間違えたのだろうか。しかしこの場では聞けやしない。
気づいたら拍手は止み、貴族達が国王陛下の側に立つオレを見つめてきた。
何か言わないといけないのだろうか。
ああいや、そういえば空太の記憶では表彰式とかで賞状等を受け取る時に三方の礼をしていたのだった。挨拶をしなくては。
オレは貴族達にも向かい合い、丁寧にカーテシーをして微笑む。
うん、緊張で言葉が出ないけどどうやらこれでよかったみたいだ。
「あー。アレラ嬢。此度は大義であった」
国王陛下が何とか言葉を絞り出した。
こんな時何を言うんだっけ。
取りあえず笑いを堪えているムリホ王女は無視するとして…。
オレの頭の中は真っ白だったが何とか月並みな返答を思い出す。
「勿体ないお言葉ありがとうございます」
オレも何とか言葉を絞り出した。
オレの隣に立つケラム王子が頷いたので、どうやらこれでよかったみたいだ。
しかしケラム王子の顔色は悪かった。どうしたのだろう。
「兄上。大丈夫なのですか?」
だがオレが彼へ質問する前に、国王陛下の隣に立つ少年がケラム王子に問いかけていた。
やはり彼はケラム王子の弟君だったらしい。
そして何故か彼の顔は青ざめていた。
「問題ない。彼女が安全であることは私とムリホ王女が保証する」
「そうですか…」
ケラム王子にそう言われて弟君は納得のいかない顔ではあるが引き下がった。
しかし体調の心配かと思いきや、どうやら違ったようだ。オレの危険性についてだったらしい。
こんなか弱い少女を危険視するとか何ということだろう。
「まあ、アレラ嬢。ごゆるりとなされよ」
「あ、ありがとうございます」
何とか声を絞り出す国王陛下にオレがお礼を言うと、執事がオレにグラスを渡してくれた。
けれどこれってワインじゃないかな?
「あの…すみません」
「ああ、アレラよ。色はちょっとあれじゃがそれはジュースじゃぞ」
オレがグラスを返そうとしたところでムリホ王女の待ったが掛かった。
そしてオレがグラスを手に持ったことで晩餐が再開されたようだ。
貴族達のうち何人かは手近の席に着いて食事を頼んでいた。
それをぼんやりと眺めているオレの元にコリス司祭が近づいてきた。
「アレラさん。お綺麗ですよ」
「ありがとうございます。コリス様も…。何ていうか司祭服なのは卑怯です」
「わたくしは司祭ですので」
そう言って微笑むコリス司祭は、いつも通りの司祭服である。
オレが少し苦しい思いをしてコルセットを着用しているのに彼女だけゆったりとした服装をしているなんて卑怯だ。だからちょっと文句を言ってもいいはずだ。
「ところで…これからどうしたら」
「ああ。そういえばアレラさんはこのような晩餐会に出席されたことがないのですね。何か食べたいと思われたら各々好きな席に着いて構わないのです」
コリス司祭がこの晩餐会における食事の方法を教えてくれた。
どうやら動き回って挨拶をするもよし、好きな席に着いて好きなメニューを頼んで食事をしてもよし、ということである。なかなかフリーダムな晩餐会のようだ。
ふと思い出してムリホ王女を探すと、彼女はどこかの貴族達に囲まれていた。
彼女に話しかける貴族達の中には少年を連れている貴族が何人もいた。
彼らの話しぶりから若い世代で交流を図るなどというものではなさそうだ。明らかに少年が王女様との恋仲になるようにと狙っている。貴族怖い。
ムリホ王女には色々と問い詰めたいことがあったのだが、これでは彼女に話しかけることは出来ないとオレは思った。
仕方がない。取りあえずお腹が空いているので食事をしよう。
オレが席に着くとすぐに執事がやってきてメニューを見せてくれた。
とはいえメニューを見ても何の料理かさっぱり分からない。
だがオレの食べたいものは決まっていた。
「お肉の料理はありませんか?あとミルクも」
好きに頼んで良いということなので、やはりお肉である!あと元牛飼いの娘としてミルクも外せないのだ。
…オレが席に着くとすぐに誰かが近づいてきて対面に座った。
誰かと思えば領主さまである。
何故此処にと思ったが、魔物の領域が発生した一連の事件は彼の領地で起きたことだ。
むしろ此処にいないとおかしい人物だった。そもそも侯爵様だし。
更にオレの横にセラエ司教様も席に着いた。そしてコリス司祭も席に着いた。
どうやらオレのためにこのテーブルを身内で囲ってくれたようだ。
侯爵たる領主さまがいる所為かオレに近づこうとしていた貴族達が離れていく。
少年を連れた貴族も何人か来ていたが諦めたのか去って行った。
もしかしてムリホ王女だけでなくオレも狙われていた?
「改めて礼を言おう。君がいなければ領地の奪還はなし得なかった。本当に感謝している」
「あ、いえ。そんなことは…」
「アレラ、謙遜することはないよ。君は素晴らしいことを成し遂げたんだから」
「あ、はい…光栄です」
領主さまのダンディなボイスによる謝辞をうけて困惑していると、司教様まで褒めてきた。
「それにしても…子爵の子って呼ばれた気がしたのですが…」
折角なのでオレは疑問を垂れ流した。
「ああ、一計を案じたと話したことがあるだろう。そのうちの一つだよ」
「え?」
「勝手だとは思ったが、君を私の養女としたのだよ」
「ええ!?」
そして司教様がその疑問に驚きの答えをくれた。
「…どういうことですか?というか司教様って子爵様だったのですね」
「ああ。司教ともなれば貴族の会合にも出ることとなるのでね。軽んじられぬようにと聖王教会の司教以上の階位の者は皆、アラルア神聖王国から爵位を授かっているのだよ」
そこから一計の内容を延々と説明されたわけだが、話が長すぎてオレのぽんこつなおつむには入りきらなかった。黒板とノートが欲しいです。
取りあえず理解出来たのは…。
司教様が一計を案じる前のオレは、回復魔法の能力が高いのに未成年の平民女性という、貴族達にとってまさに鴨が葱を背負っているような存在だったらしい。
おまけに邪王の冥護を受けているのだ。王族に見つかれば抹殺されてしまう。
司祭になると個人情報が公示されて彼らに見つかってしまうので司祭候補のままとしたそうだ。
そして見つからないようにと慰問任務を与えることで市井に隠したそうである。
もっとも、能力があるにも関わらず司祭にさせないのも司祭候補のまま慰問任務を与えるのも前代未聞だったそうだ。
そのため使えるだけの伝手を使い教皇様に掛け合ったとのことである。
教皇様は司教様に全責任を負わせようと、オレを司教様の養女にすることを交換条件にしたそうだ。
つまりオレの後ろ盾は教皇様ではなく司教様自身とのことである。まずい、頭が追いつかない。
それから、貴族に逆らえない平民は養子縁組に本人の承諾を得なくていいとか、国王や教皇様なら戸籍操作なんて簡単だとか、オレの人権が迷子である。
あとは、一計を案じたことでオレが成人すると教皇様お墨付きの女性司祭とかいう極上の鴨葱になってしまうとか。いやそれ本末転倒じゃないの!?
だからムリホ王女に捕まったのは計算外だったらしい。
しかし世界中で一番家格が高い王家の王女様による庇護なのでこれ以上の後ろ盾はないという。
あの魔王みたいな王女様が一番ましだとか、貴族社会はどれだけ闇が深いのだろうか。
「あら。わたくしなんて豚と婚約解消したくて魔法の腕を磨いたのですよ?」
常に上品な口調のコリス司祭が人を表すのに『豚』とか言った!?
で、でもオレもそんな婚姻の危険性があったわけだ。貴族怖い。
「ですからアレラさんも姫様に感謝しなくてはいけませんね…」
コリス司祭の顔が怖いです。いい笑顔です。
ムリホ王女の名前が出た時、オレが何を思っているのか顔に出ていたようだ。
コリス司祭、ムリホ王女が大好きなのは分かりましたから脅さないでください。
だからごめんなさいムリホ王女は、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花で…ええっと、慎ましく風格がある純粋な王女です。
「おぬし何かわらわに対して良からぬことを考えておらぬか?」
「ひゃい!?」
いきなり真後ろからムリホ王女に話しかけられてオレは飛び上がった。
ジト目で見てくる彼女にオレは愛想笑いを浮かべるので精一杯である。
「どうやらわらわが仕立てさせておるシスター服は要らぬようじゃの」
「え!?要ります!要ります!!」
「ならばよい。よかったぞ、うむ」
「…本当にシスター服なんですよね?」
「…そうじゃ」
ムリホ王女がオレのためにシスター服を用意させていることに驚いた。
唯々嬉しくて欲しいとは言ってみたが、彼女の反応は何かおかしい。
嫌な予感しかしない。受け取っていいのか?
「そうそう、先程の挨拶は面白かったぞ」
「え?」
挨拶とは誰と誰のだろうか。ムリホ王女が会ってきた人の話だろうか。
「ケラハ王が支配を使ったのに全く効いていなかったからの。あの時の王の顔など面白くて敵わんかったぞ」
「え?え?支配を使われた、のです?」
「うむ。おぬしが気づいていないのも最高に面白かったぞ」
オレのことを言われてようやく気づいた。
ムリホ王女の話はつい先程オレが国王陛下と挨拶した時のことだったのだ。
「じゃあ、王子様がお二人とも顔色が優れなかったのは…」
「ケラハ王の支配にあてられたのじゃ」
「…そうですか」
つまりオレの心情はともかく、国王陛下から見たオレとは殺意に怯むどころか支配系魔法も効かず平然と微笑む魔王候補だったのだ。
どうやら魔王チートはか弱い少女という真実をねじ曲げるようである。
…気づけば大広間の中央が空けられダンスが始まっていた。
何人かの少年がオレをダンスに誘いたいのか近づこうとしては領主さまと司教様という保護者に睨まれて逃げていく。
一方公爵令嬢たるコリス司祭が誘われても二人は助けに入らないのだが、彼女は司祭服を理由に誘われても断り続けている。つくづく卑怯である。
今はムリホ王女もこのテーブルについているが、彼女も誘ってくる相手を丁寧に断り続けていた。流石王女様は社交辞令が上手い。
「ムリホ王女。一曲踊りませんか」
オレ達のところへやって来たケラム王子の弟君が、果敢にもムリホ王女をダンスに誘った。
「断る」
王女様、先程までの貴族相手に使っていた社交辞令はどうした。
もしかしてこの弟君のことはお嫌いなんですか?
「それに先約があるのでの」
ムリホ王女はそう言って立ち上がると、ケラム王子の方に向かった。
二人はこの晩餐会では話した様子がなかったのだが…。
「ケラム王子、一曲踊ろうぞ」
「ははは。参りました。まさか王女から誘って頂けるとは」
周りからのダンスを断り続けていたケラム王子が苦笑している。
もしかして王族って基本的に踊らないのだろうか?むしろ踊れないとか?
「まさか、兄上が王女の好み…」
「何を言うておる。おぬし等はわらわの好みではない」
「えっ」
ムリホ王女は彼女の行動にショックを受けていたケラム王子の弟君をばっさりと切り捨てた。
ついでにとばっちりを受けたケラム王子の口はぽかんと開いている。可哀相に。
「さあ行くぞ」
そう言ってムリホ王女はケラム王子の腕に抱きついた。
正気に返ったケラム王子だが、ムリホ王女にそのまま引きずられていく。
「これは一本取られましたね」
「どうじゃ。役得じゃろ」
苦笑するケラム王子の腕にどう見てもムリホ王女の胸が当たっていた。いや違う、彼女は当てている。
好みではないと言いながらも、傍目には何とも仲睦まじい様子だった。
王子様と王女様のダンスは、誰もが見入る素敵なものであった。
こんばんは。
不思議です。主人公はラストまで平民として書くはずだったのです。どうしてこうなった。
王女の『先約』とは「39.エピソード 王女と銃」の最後の会話です。




