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5.孤児院初日

 オレは今、孤児院の庭へ出された椅子に腰掛けて、辺りを見回しつつ日向ぼっこをしていた。


 昼食の後は、しっかりトイレに連れて行ってもらった。

 ヘレアがいい笑顔で介助しようとしてきたが、何とか個室に逃げ込めた。

 村のお姉ちゃんを自称するアレラの手に掛かれば、オレ自身のおむつを穿くことくらい造作もない。

 はあ…空しい。


 とにかく。

 ヘレアが声を掛けてくる中、無心でトイレに勤しんだことが良かったのだろうか。

 自然とアレラの記憶通りに身体が動き、異世界かつ女の子としての初トイレは問題なく終えられた。




…というわけで子供達が居る庭に連れてきて貰ったのであった。

 そして椅子に座った途端に疲労がどっと押し寄せて動けなくなり、日向ぼっこに強制突入してしまった。


 庭の端には等間隔に木々が並んでいて、さらに低木が囲むことで同じ敷地にある教会側との視線を遮っていた。

 庭の中心は石や雑草が取り除かれていて、土が剥き出しになっていた。

 そこを十人ほどの子供達が走り回っていて、メレイさんが時々一緒になって遊んでいる。


 昼から雲が掃けて風もなく、冬に差し掛かるというのに今日は暖かい。

 オレは何気なく自分の髪を一束取る。

 横髪と後ろ髪は肩より少し下くらいの長さのようだ。

 オレことアレラの灰色の髪は、陽光にかざすと白く光って見えた。

 不思議なことに、金色や茶色など他の色が一切混ざっていない純粋な灰色だ。


 この世界、赤色や青色や緑色など様々な髪や瞳の色をした人族が居る。

 これらの親と違う髪や瞳の色を持つ者は、聖霊様の加護を受けた者と言われている。そしてこの色は一代限りだ。


 しかし、灰色をした聖霊様の話は一度も聞いたことがなかった。

 ちなみにアレラの瞳は金色らしい。

 淡い金色が主神たる聖王様と同一の高貴な瞳の色と言われているが、血縁に貴族は居ないはずだった。

 尚、鏡は高級品なためにアリレハ村の自宅に鏡がなかったアレラ自身には、瞳の色の自覚が薄かった。


 そういえば、先程まで孤児院の人達の容姿に目をやる余裕がなかったことに気づいた。

 庭の端では幼いエルケくんがよちよち歩いていて、ヘレン院長がゆっくり歩いて付き合っている。

 エルケくんの赤色の瞳が好奇心旺盛に辺りを見回し、茶髪の頭がひょこひょこと揺れていた。

 その様子をヘレン院長は青色の瞳で優しく見つめていて、肩より少し下で切りそろえた白髪が歩きに合わせて揺れている。


 さらに向こうには知らない女性達が集まって雑談をしていた。

 その中に赤茶色の癖がある毛のおばさんが混ざって居るのが分かる。ハレアさんだ。

 孤児院の子供はオレを含めて五人のはずだが、庭には子供達が…さらに増えて十数人わらわらとしている。

 どうにも孤児院の庭というか、公園の様な感じだ。


 少年達の中からシスター服の女性が抜け出て、こちらに歩いてきた。メレイさんだ。

 メレイさんは一つに括った緑色の髪を揺らし、茶色の瞳からは疲れが読み取れる。

 それを見たのか、女の子達の中からヘレアが動いた。

 ヘレアは焦げ茶色のふんわり波打った髪を揺らし、青色の瞳を輝かせながらメレイさんに駆け寄っていく。

 すると小さな女の子ことマレルちゃんが緑色の瞳で辺りを見回した後、薄茶色の真っ直ぐな髪を揺らしヘレアに飛びついていた。

 三人とも前髪は眉の下ですっぱりと切りそろえていた。


 そこでオレは気づいた。

 もしかして孤児院の女性陣は全員の髪が同じ切りそろえ方じゃないか?

 孤児院ではまだ鏡を見かけていないので、オレは今の自分の容姿が分からない。


「調子はどう?大丈夫そうね」


 メレイさんが目の前まで来て、オレに声を掛けてきたので聞いてみることにした。


「あ、はい。あの…ワタシの前髪ってどうなってるんですか?」


 オレの質問の意図をメレイさんは汲んでくれたようだ。


「ああ、一緒よ。今まで髪型でヘレン院長に逆らえた子は居ないわ」


 彼女は自身の前髪を指で掬いながら答えてくれた。

 そうか、一緒か…ってヘレン院長の好きな髪型なのか?オレは辺りを見回してヘレン院長を探す。

 ヘレン院長は…同じ髪型だった。マジか…。


「アレラちゃんもお水、飲む?」


 マレルちゃんにコップを渡していたヘレアが問いかけてきた。


「あっ、うん」


 返事をしてオレはコップを受け取ろうとしたが、手を持ち上げる前にヘレアがオレの手を押さえてきた。


「飲む?」


 そしてオレの口元にコップを近づけてきた。いい笑顔だ。

 オレは逆らわないことにして頷いた。

 彼女は青色の瞳を輝かせ、うれしそうに水を飲ませてくれた。


 その後、寒くないかの確認から始まり今年の気候についてなど雑談をしたが、日差しが気持ちよくて意識がまどろんで来た。




…ふと肌寒く感じて目が覚めた。

 日が少し傾いていた。少しの間、眠っていたようだ。


 冒険者と思しき中年男性がいつの間にか来ていて、少年達の剣術を指導しているようだ。

 オルカが青色の瞳で正面に立つ中年男性を見据え、茶色の短髪を揺らし…いや木刀を振るたびに頭が動いているだけだ。

 メレイさんはまたしても少年達に混ざって、なんと木刀を振っていた。木刀を振るシスターってシュールだな。

 一方ヘレアはというと、少し離れたところで女の子達と雑談していた。

 こうして見ると、ヘレアの背丈は周りの女の子と変わりがない。

 ヘレアは背が高いと思っていたが、単に幼いマレルちゃんと…オレの背が低いだけだったのか。


 身体の成長を感じられない自分にため息をついたところで、オレはトイレに行きたくなり起き上がろうとした。が、全身に力が入らない。

 これは昨夜や今朝と同じだ。

 どうにも、動き出すには毎回あのうごめく感触を念じないといけないようだ。

 腕から腰、足へと動けるように意識を回していったが…遅かったようだ。


 思わず「あっ」と声を漏らす。

 はっとしてヘレアの方を見ると、彼女もこちらを見ていた。

 そっと視線を逸らしたが、彼女は近づいてきた。


「アレラちゃん、替えたげる」


 うん、知ってた。ヘレアは、いい笑顔だった。




…幸いにも、夕食の会話は普通だった。


 オレはこの町が、大きな街道沿いにある為にこの世界の町としてはそこそこ大きく、宿場街を持っていることを知った。

 そして孤児院といえば、資金繰りで苦労するパターンをよく思い浮かべるがそんなことは一切なかった。

 とはいえ孤児達が贅沢をしているわけではない。

 シスター達が模範となり、清貧を美徳とするように教育を受けているのだ。

 そんな孤児達の服装も昼間見た子供達と比べて遜色がなく、よく洗濯されていて清潔だ。


 この孤児院は井戸とトイレ付きな上にシスターが見守る安全な広場として、ご近所さんからの好評価を得ているらしい。

 さらには孤児達への差別もなく、敷地内の教会共々町の人達に愛されていることが分かった。




…そして特筆することもなく夕食も終わり、トイレに連れて行って貰い。

 水浴び代わりに身体を拭き合って、というかオレは一方的にヘレアに隅々まで拭かれた。

 恥ずかしくお礼を言うオレに対し、ヘレアは凄くうれしそうに微笑んだ。

 そして彼女も服を脱いで、オレというかアレラより年上と感じさせる胸を惜しげもなく晒しながら身体を拭き始めた。

 その様子を凝視しないようにオレは目線を逸らしたが、彼女の態度から今のオレは本当に女の子なのだなと認識させられた。


 一方オルカはというと、オレが服を脱がされる前にさっさと自身の体を拭いて出て行ったので今は居ない。

 女性陣が拭き終わったので少年が呼び戻され、各々ベッドに潜り込んだところで明かりが消された。

 こうして、アレラになってしまったオレの異世界一日目は終わった。




…わけでもなく。

 夜中に目が覚めてしまった。

 あー、このパターン、昼にもあったやつだ。


 オレは上体を起こすところまでは成功した。

 だがギシッとベッドが鳴って、心臓が飛び跳ねた。そして全身も震えた。

 その物音でヘレアが起きてしまった。

 星明かりの下、隣のベッドから寝ぼけ眼で見てくる彼女は可愛かった、が。

 次の瞬間、ヘレアはいい笑顔になった。


 明かりを灯したことでオルカまで起きてしまった上に、恥辱にも布おむつ交換の手伝いまでされてしまうこととなった。

 もちろん彼には素肌を見せていないというか、のぞき込もうとしない彼は意外なほど紳士的な少年であった。




…翌朝。

 ベッドから起き上がると皆が挨拶を交わしてきた。


「クローバー、おはよう!」


 駄目な少年おはよう。

 オレは名前を呼ばれていないから、挨拶しないからな?


「クローバーちゃん、あ!あー…アレラちゃん、おはよう」


 大きな女の子、駄目でした。

 いや、駄目な少年の声掛けが悪い所為だよな。なにせ半年クローバーちゃん扱いだったからな。

 彼女は何度かオレことアレラの名前を小声で呟いている。何とも可愛らしい。


「おはよう、ヘレア」

「あ、ごめんね。アレラちゃん、おはよう」


 オレの挨拶に、彼女はもう一度挨拶をしてくれた。


「…。…あれら?おねーちゃん、おはよー」


 小さな女の子、何とか大丈夫なようです。

 いや、この子、ヘレアの真後ろから今のやりとり見てたよね?

 首傾げていたの見えたよ?駄目ですか?名前の記憶、駄目ですか?


「おはよう、マレルちゃん」


 寛大なオレは指摘しないことにした。


「クローバー、おしっこもらさずに寝れたか?」


 下劣な少年は除く。

 コイツは当然知ってて言っている。オレは少年を睨んだ。


「オルカおにーちゃん、しー」


 マレルちゃん、お前もか。




…そうこうしているうちに数日経った。

 オレは理解した。

 衰弱しきった身体は股間の筋力もないのだと。移動もままならないので尿意を感じてからでは手遅れなのだと。


「トイレに住みたい…」


 オレの呟きに耳ざとく布おむつを用意するヘレアは、いい笑顔だ。


 そしてオルカがオレをクローバーと呼ばなくなり、代わりに漏らし姫の称号を押しつけてきた。

 少年からの不名誉な称号に、オレは顔をしかめるしかなかった。

お待たせしました。容姿説明回です。

結局お漏らしは治りませんでした。どうする主人公。

尚、本作は決してお漏らし小説ではありません。


2019年10月22日、追記

改行位置を変更致しました。誤字訂正以外に本文の変更はございません。

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