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34.セレサの夜

やらしい描写があります。ご注意下さい。

「ゆゆしき事態です」


 オレ達は今、とある村の宿屋で一階にある食堂に集まっていた。

 毎晩恒例のパーティ会議でセレサが真剣な顔をして話す。


「二人部屋を二つしか確保出来ませんでした。まあこの場合の部屋割りも決めているけど…」


 オレ達が宿屋に泊まる際、普通は二人部屋二つという選択をしない。

 主に男同士で嫉妬しないためというかなんていうか、男性陣全員が揃ってない中で女性陣と同室になることを避ける配慮からである。


 だから他の宿屋も探して本当に部屋が空いていない場合のみ取る手段だった。

 この場合のみ男性陣で比較的安心出来る、セレサの兄という立場のサルセがオレ達女性陣と同室になる。

 そしてベッドが足りないのでオレはもちろんセレサの抱き枕になる。


「問題は、この宿屋には一人部屋が空いていると言うことなの。つまり私達の資金は今、一人部屋を追加で取る余裕すらないのよ」


 セレサの告白にオレ達の顔がこわばる。


「どうして、そこまで資金が減ったのかい?」


 メラシの疑問はもっともである。

 遠征に備えてそれなりにパーティ資金を貯めてきたはずだ。

 これ程ぎりぎりの旅は想定していなかったはずである。


「宿代が、領都の三倍なのよ!」


 立ち上がったセレサが勢いよく机に両手をつく。

 ダンッと鳴った音で食堂に居る客から注目を浴び、オレ達は席に着いたまま無言で周りに頭を下げて謝った。


「と、取りあえず。この村に泊まるしかなかったのは想定外なの。宿屋もこの一軒しかなかったし」


 腰掛けたセレサが話を続ける。

 何度か彼女から先に進むほど宿代が上がってきていると聞いてはいたが、パーティ資金の管理を任せっきりだった他のメンバーは領都の三倍も高くなっていたとは思っていなかった。


 宿代が高くなるのは隣国への街道が魔物の領域で途絶えた事による。

 冒険者くらいしかまともに通らなくなったので宿屋の収益を考えると仕方がないとも言えた。

 それでもまだ町ならば数軒はある宿屋から安いところを選べる。

 だが村ともなると宿屋は一軒しか無いか、一軒も無い場合が多い。


 宿屋があれば積極的に利用し、宿屋が無い場合でもなるべく民家に迷惑を掛けないというのが冒険者の慣習であった。

 オレ達も冒険者としてのプライドから宿代が高くても宿屋に泊まらないという選択肢は選ばなかったのだ。


 だがオレ達はここに来るまで満足にクエストをこなせていなかった。

 資金は目減りする一方だった。


 だからオレ達は宿泊回数を減らすべくこの村を通過して次の町へ移動するつもりだった。

 時間的にも問題が無いようにと前の町は早朝に出発したのである。

 それでもこの村までしかたどり着けなかったのは、例によってゴブリンの群れに襲われて時間を取られたからだった。


 頻繁に冒険者が通るこの街道でゴブリンに襲われるのは稀なはずである。

 それなのにオレ達は今日の移動で二度も襲われたのである。


 一度目は例によってオレがゴブリンに転がされた程度だったが、二度目に至ってはセレサとオレの貞操もオレ達全員の命も危なかった程だった。


 ゴブリンに数で押し切られたオレ達は他の冒険者パーティが加勢したことで事なきを得た。

 たまたま通り掛かっただけ、と言っていた彼らがオレには神の御使いに見えるくらい今回は肝が冷えた襲撃だった。

 逆方向に進む彼らと別れた後、二度の襲撃を受けて疲弊したオレ達は次の町までの強行軍をあきらめた。


 だから仕方なくこの村で泊まることにしたのであった。




「このパーティ最大の弱点よね」

「ごめんなさい」


 セレサの言うことはもっともなのでオレはみんなに謝った。


「アレラのせいじゃないよ。生理現象は抑えられないもの」


 サルセが慰めてくれるものの、ゴブリンに襲われやすいのはオレがトイレ休憩をとることに原因があるのだ。


「まあ、こればっかりはアレラのせいじゃないしな」


 コルシも慰めてくれる。

 みんな良い奴だ。


「毎回、アレラちゃんの休憩が終わったあとに襲ってくるのよね、あいつら」


 セレサがため息を吐く。

 彼女の言う通り、思い返すと街道でゴブリンが襲ってくる場合はオレがトイレを済ませて少し移動してからが多かった。


「モテモテだね、アレラ」

「ゴブリンにモテてもうれしくない」


 メラシがとんでもないことを言うのでオレは即座に拒絶した。

 あんなのにモテるとか本当にうれしくない。


「何で私の時は襲ってこないんだろうね」


 セレサがため息を吐いた。

 襲ってこない方がいいよ、本当に。


「まあ、冗談はともかく」


 顔を上げたセレサは特に落ち込んでいなかった。

 というかゴブリンにモテたいとか言い出すのは人としてどうかと思うから冗談でないと困るところだった。


「女の子の匂いに寄ってくるのが、ね…」


 セレサはまたため息を吐いた。

 今度のため息はよく分かる。

 オレも同意するとばかりにため息を吐いた。


「しょんべんってそんなに臭いか?」


 時々コルシはデリカシーが無くなる。

 というかここは食堂だ。

 セレサとオレは彼に冷ややかな視線を浴びせる。


「動物がマーキングに使うくらいだよ。ゴブリンを呼び寄せるには十分だと思うけどね」


 サルセが人差し指を立てて振りながら彼に答える。

 確かにそうだけど、だから食堂でこの話は止めよう?


「兄さんには失望したよ」

「ええっ!?」


 セレサの呆れた目にサルセが目を丸くしていた。




「少しあっちの二人と会話してくるよ。二人は先に寝てていいからね」


 部屋に入ってしばらくした後、そう言ってサルセは立ち上がった。

 セレサの隣でベッドに腰掛けたオレがサルセに頷くと、彼は部屋から出て行った。


「セレサ…」

「何?ううん、分かってる。大丈夫…じゃないかも」


 オレが名前を呼ぶとセレサは柄にも無く弱音を吐いた。

 みんなの前では何事も無かったかのように振る舞っていた彼女であったが、部屋に入った途端に崩れ落ちたのだ。


 何とかオレとサルセの二人で、いや非力なオレの助けは意味をなさずサルセによって、彼女はベッドに運ばれた。

 そして彼女はそのままうずくまってしまっていたのだ。


 無理もない。

 何しろ昼間の戦闘でセレサは抵抗も空しくゴブリンにスカートを引き剥がされたのだ。

 しかし絶賛転がされ中だったオレは見ていることしか出来なかった。


 むしろオレ自身の下半身を守ることに必死でセレサが押し倒される貴重なシーンもとい眼福なシーンちがう屈辱のシーンを目に焼き付ける暇など無かった。

 ごめんなさい嘘です焼き付いています。


 オレも今回はあと少しで危なかったのだが、オレより危なかったセレサの方が今は心配でたまらなかった。


「アレラちゃん…回復魔法お願い…」


 セレサがオレに重要なクエストを発注してきた。

 彼女は服を脱いで下着姿となりベッドの上で横になった。

 実に眼福と言いたいところだが、彼女の全身はゴブリンによる殴打の痕で正直痛々しかった。


 そして予想通り内股やお尻を中心にゴブリンによる爪痕が残っていた。

 回復魔法は打撲や傷を癒やせても心の傷は癒やせない。

 せめて彼女の肌に傷が残らないようにと、オレは丁寧に回復魔法を掛けていった。


「そこも…脱いで」

「え?」


 彼女はきょとんとしたが、治療のためと称してオレは彼女の最後の砦を開城してもらった。

 金色の髪のセレサなだけに、金色の穂先が揺れる金色の草原は金色に輝いていた。そして草原は平穏無事だった。


 しかしオレの中にある空太という少年の心の平穏は保てなかった。

 この光景への感動と、治療と称して欲望を実現した罪悪感が入り混じり、目が離せないまま硬直してしまった。


「ねえ、アレラちゃん」

「な、何?」


 彼女に呼びかけられて正気を取り戻したオレは顔を上げた。

 そんなオレを見て一糸まとわぬセレサが微笑んだ。


「アレラちゃんの無事も確認しないと、ね」


 オレが彼女の貞操の無事を確認し終えたと思ったら、今度は彼女がオレの貞操の無事を確認してきた。


「確認させて、ね?」

「いや、まっ、あっ」


 オレは逆らうことも出来ずシスター服を引き剥がされた。

 灰色の髪のオレなだけに、彼女は灰色の雑草を求めていた。


 結局オレの中にあるアレラという少女の心の平穏も保てなかったのだった。


 まあ昼間の戦闘よりよっぽど怖い思いをしたが、セレサが少しは元気になったということで良かったとしよう。


 正直彼女の顔がにやけていて怖かったけど。

 というか凄く怖かったけど!




…翌日、遂にやって来た魔物の領域に一番近い町でオレ達は途方に暮れていた。

 この町より先にある村まで行けば、すぐ側にオレ達の目的地となる防衛線の砦がある。


 だが冒険者ギルド支部で話を聞いたところ、砦へは徒歩で一日掛かると言われたのだ。

 つまり次の村で一泊する必要があった。


「問題は、この町に一泊する分の資金しか残っていないことね」


 冒険者ギルド支部の中にある酒場で、オレ達は緊急会議を開いていた。


「むしろ一泊出来る分が残っているとは思ってなかったよ」


 メラシの言うことにオレも賛成して頷いた。


「当然でしょ。一泊分を残すために昨夜は二部屋だけにしたんだもの」


 セレサは胸を張った。

 オレはそれを見て昨夜の治療の件を思い出し一人赤面していた。


「まあ依頼をこなすことを考えると数日は泊まれないとまずいんだけどね」


 サルセの言う通り資金難は緊急事態であった。


「手持ちのお金を使えばもう少し泊まれるんじゃないかな」


 メラシが答えてコルシも頷いた。

 確かにパーティのみんなから個人資金をかき集めればもう何泊か出来るだろう。


「今日明日にクエストを請けられなかったらそうするしかないのかもね…気は進まないけど」


 だがセレサの言う通り、パーティ資金で遣り繰りするというのはオレ達の基本方針である。

 誰かの財布に頼ってはいけない。

 お金は友情すら壊すのだ。


「まあ取りあえず、この時間でも請けられるクエストが無いか見ようぜ」


 コルシの言う通り日没まで少し時間はある。

 まずはクエストを探そう。

 オレ達は立ち上がって掲示板の前に向かったのであった。




「正直、ここまで請けられそうなクエストが無いとは思わなかったよ」


 オレ達全員の気持ちを代弁するかのようにメラシが嘆いていた。


「ギルド職員にも聞いてきたけど、朝に掲示されるクエストもこんな感じだそうだよ。むしろもっと難しいクエストばかりなんだって」


 お手上げといった様子でサルセが首を横に振っていた。


「せめて敵の数が半分なら何とかなるんだがなあ」


 コルシが討伐クエストの木札を手に取って眺めていた。


「囲まれない限り何とかなるけど…もう少し安全な方法を採りたいね」


 メラシも読んでいたクエストの木札をそっと掲示板に返した。


 オレもクエストを探すべく、みんなから少し離れて掲示板の上の方に掛けられている木札を見上げていた。


「君、一人?」


 その時、不意に話しかけられてオレはすくみ上がった。

 恐る恐る振り返るとサルセと同じくらいの背丈な青年が、オレの真後ろに無表情で立っていた。


「え、あ、違います」


 オレの緊張した声を聞いて掲示板を見ていたパーティのみんなが振り返った。


「君たち知り合い?」


 無表情な青年はオレ達の顔を見回した。

 彼の視線がオレから外れた隙に、オレは急いでサルセの後ろに隠れた。

 そしてそのまま彼の様子をそっとうかがった。


「何その可愛い生き物!」


 入口の方から急に女性の声が上がった。

 びっくりしたオレはサルセの後ろに隠れ直す。

 自分でも忘れがちだけど人見知りなんです一応。


「やだ可愛い!」

「落ち着け」


 その戦士の格好をした女性の頭を、彼女の後ろから入ってきた大柄な青年が叩いた。


「迷子じゃないならいい」


 どうやらオレは無表情な青年に迷子だと思われていたらしい。

 心外ではあるが、見た目十歳の少女が冒険者ギルド支部に居るとか迷子に見えても仕方がないのかもしれない。


「何?ナンパしてたの?」


 女戦士が無表情な青年を小突いていた。

 どうやら知り合いらしい。




「じゃあ俺達が手伝うよ。このクエストとか手頃じゃないかな?」


 大柄な青年はそう言って微笑み一つの木札を手に取った。

 オレ達の力量と懐事情を聞き出した彼らは、快く協力を申し出てくれたのだ。


「あ、ありがとうございます」


 その木札を受け取ったセレサがはにかんだ。

 彼女の反応にコルシが明らかに不機嫌な顔で青年を見つめていた。


「ゴブリンとオークの集団を偵察または討伐。場所は…半日ほど歩く必要がありそうだね」


 メラシがクエストの内容を読み上げた。


「歩く時間を考えると出発は明日の朝かな?」


 サルセは彼らと話し合いを始めていた。

 どうやらこのクエストを請けることに賛成らしい。

 そのままオレ達は合同でクエストを請けることになった。


「それにしても、見習いじゃないなんて信じられないわ」


 オレはと言うと、女戦士に後ろから抱き上げられていた。

 女性に抱き上げられるのはご褒美かというと決してそうではない。

 彼女が着ける金属の胸当てがオレの背中に食い込んでいるからだ。


 お願いだから嬉しそうに抱きしめてきて頬ずりしないで下さい。痛いんです、甲冑が痛いんです!


「姉さん、締め落とす気?」


 無表情な青年がオレに助け船を出してくれた。

 というか姉弟なんですかそうは見えません。


「アレラ、大丈夫かい?」


 ぐったりしたオレをお姫様抱っこしたメラシが、微笑みながら問いかけてきた。


「…大丈夫」


 オレは返事をしておくが、彼の微笑みは心配からではなく嬉しさからではないかと疑ってしまう。

 もし嬉しさからの微笑みだった場合は、何故嬉しいのかは考えないようにしよう。だからオレをさっさとサルセに引き渡して欲しい。


「それじゃ、また明日ね」


 女戦士はそう言って手を振って出て行った。

 オレ達も宿屋を探すべく冒険者ギルド支部から出たのだった。




…その日の宿は二人部屋二つと一人部屋一つの部屋割りだった。

 数軒の宿屋を調べた結果この宿屋でこの部屋割りを選択するのがこの町で一番安かったのだ、とセレサは言っていた。


 事前に話し合った通りにまず男女別となり、サルセがメラシに用があると言い出したことから今夜の一人部屋担当はコルシだった。


「今夜は先に寝てて。私はちょっと用事があるから」


 セレサは突然そう言い出してオレが理由を問いかける暇もなく出て行ってしまった。

 安宿故に彼女が階段を下りていく足音は部屋にいても聞こえていた。


 部屋に一人残されたオレはふと、セレサと共に受けたエレヌさんによる冒険者の心得講座を思い出していた。




「いい?パーティを組む場合、女の子が一人だと駄目。もしそうなるなら彼氏にしたいような好みの男が居るパーティを選びなさい。好みの男が居ないなら全員に食われる気で居なさい。冒険者の男はそれだけ信用しちゃ駄目だからね」


 セレサの師匠であるエレヌさんはなかなか過激なことを言い出した。

 オレのような見た目十歳で年齢十二歳の少女に言うことでは無いだろう。


「それってまさか」


 オレの横に居たセレサも息を飲んだ。

 彼女は見た目も年齢も十四歳だ。

 元の世界の年齢に換算すると彼女の年齢はもっと高い。

 用心するに越したことは無い。


「経験則よ。私が選んで集めたパーティだったけど、全員の相手とか腰が砕けるかと思ったわ」

「ひっ」


 セレサと共にオレは思わず小さな悲鳴を上げた。

 つまりエレヌさんは全員に食われた経験があると言うわけだ。


 あれ?でも彼女が集めたのならこれって全員を食った話じゃないか?

 まあどちらにしろ恐ろしいことに変わりは無い。


「まあそう言う事だから、早く恋愛経験を持ちなさい。初めてが襲われてってのはあんまりだからね」




…ここまで思い出したオレは気づいた。

 恋愛経験。

 用事があると言い一人階段を下りていったセレサ。


 この夜セレサは大人の階段を昇った。


 何故オレが知っているのかというと。

 安宿の壁が薄いのは当たり前の話だが、まさかの床板も薄かったのだ。

 奇遇にもセレサが逢いにいったコルシの部屋は真下だったのだ。


 確かにゴブリンとかに襲われるよりは自分から食いに行く方がよっぽど良いのかもしれない。

 なにかちがう?食われに行く?

 いやでもさっき床下から聞こえたのって。


 とにかくオレに恋愛経験を持てと言われても難しい。

 空太という少年の自意識がある以上、誰も選ぶわけが無いのだ。

 一瞬青色の瞳の天使が脳内をよぎるが無かったことにしよう。


 それでも敢えてアレラとして選べと言われたら…サルセだろうか。

 彼は磨けば将来ダンディになれるだろう。

 って何を考えているんだ。


 まあオレが今こうして落ち着いていられるのは床下の音とは関係なく…も無い。

 さらに落ち着いているとはいえ別のことに頭が回るわけでも無い。

 何故ならセレサの捕食は未だ終わっていなかった。


 そして音を拾うためひたすら床に張り付いていたオレは、不覚にも息子(マイサン)が無くても発散出来ることを知ってしまったのだ。シスター服を濡らしてしまったのだ。


 神様どうかお許し下さい。

こんばんは。

表現の自主規制により文章量を減らしたはずがゆゆしき事態により長考かつ長文となってしまいました。

雑草についてはお答え出来ませんこと、ご容赦願います。


2019年11月16日、追記

改行位置を変更致しました。

セレサのアレラに対する呼び方をちゃん付けに統一し直しました。

その他には誤記修正以外に本文の変更はございません。

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