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32.屋根の修理

 取りあえずオレ達は気を取り直して冒険者ギルドに戻ったのである。


「稼がないと先に進むのもつらいからね」


 そう言ってサルセが残っていた討伐クエストの木札を持った。


「なんでそんなの選ぶの!兄さんの馬鹿馬鹿意地悪大っ嫌い!!」


 セレサがサルセに猛抗議をしている。

 その木札には大コオロギの討伐と書かれていた。


「そんなこと言ってもこれしか残っていないんだから」


 苦笑するサルセの言う通り討伐クエストの残りはその一つしか無かったのだ。

 ちなみに討伐クエスト以外はというと。


「塀の補修、塀の修理、こっちも塀の補修…どんだけ塀が壊れてるんだよこの町」


 肉体労働の募集ばかりである。

 木札を読むコルシはげんなりとしていた。


「ワタシには無理だね…」


 オレの目の前にあるクエストも肉体労働の募集だった。

 その木札には屋根の修理と書かれていた。ん?


「冒険者ギルド支部の雨漏りを直してほしい…」


 オレはクエストの内容を読み上げた。

 その呟きにパーティのみんなが注目する。


「冒険者ギルド支部の…」


 思わずオレ達は揃ってカウンターを見た。

 ほう、とカウンターに居る男性職員が息を漏らしオレ達を眺めてきた。


「若き冒険者共よ。そのクエストに目を付けるとは流石と言うべきか…」

「あ、俺達これを請けますんで」


 彼が仰々しい台詞を吐ききる前にメラシが大コオロギ討伐のクエストが書かれた木札を提出した。

 だがメラシの提出した木札を一瞥したかと思うと、彼は真っ直ぐにセレサを見つめてきた。


「魔法使いの娘よ。お前は本当にこのクエストを請けたいか?」

「うっ」


 セレサは動揺している。

 それもそうだ。

 彼女はこのクエストを凄く嫌がっているのだから。


「ならば屋根の修理をすると良い」


 ギルド職員はそう言うとカウンターの中から一枚の木札を出してきた。

 クエストの内容は掲示板で見た木札と同じ、屋根の修理である。


「個別に請けても構わん」


 そう言って彼は木札を追加した。

 何枚あるんだそれ。


「どんだけ屋根を修理させたいんだよ…大工は居ないのか?」


 コルシが呆れて彼に問いかけた。


「居るには居るが他のことで忙しい。だが流浪の民など寄り付かぬこの町では職人など増えぬ。それに我はここを離れるわけにはいかぬ」


 彼の台詞はいちいち仰々しい。

 やっぱりこのギルド職員、魔王じゃないの?


「あの、あなたは一体?」


 サルセが彼に問いかけた。

 確かに彼の正体は気になる。


「我こそがこの冒険者ギルド支部の支部長である」


 なんと彼は支部長だった。


「気が付けばここに左遷されていたのだがな」


 どう考えてもその口調の所為だと思います。


「支部長がどうしてカウンターに…」


 メラシが問いかけた通り、何故支部長なのに一職員のようにカウンターに居るのか。


「我が支部には我しか職員が居らぬ」

「かわいそう…ねえ、みんな。屋根の修理してあげよう?」


 セレサが動揺から立ち直ったと思ったら同情していた。




「すぐに雨漏り箇所を発見出来るとは実に素晴らしい。さあ屋根に上るが良い」


 屋根裏から確認した結果、先日の雨により濡れていたため雨漏りの箇所がすぐに見つかった。

 そしてクエストのために用意済みだったという修理道具を受け取りに下りたオレ達は、支部長からこの台詞を頂いたのである。


 馬鹿と煙は高いところに上るという言葉がある。

 支部長におだてられたオレ達は言葉通りの意味だけでなく字面通りに屋根へと上がった。


 本来オレのようなか弱いシスターは屋根に上がるべきではない。

 だがオレは屋根の上に居た。

 オレはみんなの安全の為に増幅魔法を掛ける必要があったのだ。


 オレの増幅魔法が届く高さであればたとえ屋根から地面に落ちたとしてもかすり傷で済むのだ。

 そしてこの冒険者ギルド支部の建屋ならば十分オレの魔法効果範囲内に収まる。


 しかし障害物があるとオレの増幅魔法は届かない。

 だからオレは仕方なく屋根に上がったのだ。

 決して上がりたくて上がったわけではないのだ、決して。


 オレは屋根に上がった途端バランスを崩したのでサルセに引かれて屋根の天辺まで連れて行かれた。

 なので今は棟に座り込んでいる。


 オレの横にパーティのみんなは並んで立った。

 メラシとコルシなど片足を棟に乗せてポーズを取っている。

 まったく格好良いとは言えないのだが、その気持ちはよく分かるので馬鹿っぽいとか突っ込まないようにする。


 セレサは風で揺れる髪を手で軽く抑えている。

 その横顔が少し魅力的でオレは思わず見惚れてしまった。

 オレが空太のままだったならそのまま彼女に惚れてしまっていたかもしれない。


 今日はよく晴れていて少し暖かいので彼女はローブを着けていなかった。

 そのため緩やかな風で彼女の末広がりなロングスカートがはためいている。

 そう言えばオレのシスター服も末広がりなワンピースである。

 風をはらんでめくれないよう少し押さえておこうか。


 オレがスカートを押さえたその時、少し強めの風が吹いた。

 その風にあおられたセレサは思わず横に立つサルセに両手で掴まった。


 結果として彼女は盛大にそのスカートの中身を披露してくれたのである。


 ばっちりセレサの下着を拝んだメラシとコルシは彼女により屋根から蹴落とされた。

 彼女と密着していて下着を拝めていないであろうサルセも蹴落とされたのは理不尽である。




…オレの増幅魔法の効果を身を以て体験した彼ら三人は屋根から落ちてもかすり傷一つ負わないと知り、無謀なほど作業をどんどんと進めていった。


 一方、先程屋根に上がっていたセレサは屋根裏に入っていた。

 そこから足音を聞きながら声を上げて彼らを誘導している。

 屋根裏部屋の窓を開けていることから、特に声を張り上げているわけでもない彼女の指示は良く聞こえていた。




「あ、駿馬だ」


 作業が一区切りついたので窓から外を見ていたセレサが声を上げた。


「しゅんめ?あの速い馬?」


 棟の上からセレサを見下ろしオレは問いかける。

 セレサの指差す方向から駆けてくる馬が見える。

 しかしその速度は空太の想像する駿馬よりも随分と速い。


「うん、増幅魔法が使える馬だよ。冒険者ギルドの伝令に使ってるの。貴族の伝令とかにも使うらしいけど」

「馬が魔法を使えるの!?ただ速いんじゃないの!?」


 セレサの言葉にオレは驚いた。


「滅多に居ないらしいよ。訓練して覚えさせるとかいう話も聞いたことがあるね」


 オレの横に腰掛けて休憩していたメラシがセレサの言葉を補足した。


「動物も…魔法が使えるんだ…」

「使えるさ。魔力量に差はあるけど全ての生き物には魔力があるんだからね。例えば、ものすごくすぱしっこいうさぎとかたまに居るよね?」


 オレがショックを受けているとメラシが説明してくれた。

 確かにそうだった。

 ここは精霊なんて存在まで居る魔法があふれる世界だった。


「問題は、魔物だよね。明らかに魔法使えますって見た目じゃないと、普通のと区別が付かないもんね」


 セレサの呟きはなかなか危険な内容である。


 それで思い出した。

 かつて槍使いの腕を切り落としたゴブリンはもしかしたら魔法剣を発動させるだけの魔力を持っていたのではないだろうか。

 そしてオレはゴブリンよりも魔力量が多かったため魔法剣が発光するほど切れ味が強化され、ゴブリンをあっさり切り裂いてしまえたのだろう。


「ああ!」

「アレラちゃん、どうしたの?」


 セレサが突然声を上げたオレへ心配そうに問いかけるが、オレはすっかり忘れていたことを何度目ぶりか思い出したのだ。


「魔法剣の査定結果、聞いてなかった!」

「魔法剣?そんなの出てたっけ?」


 オレの言葉に彼女は首を傾げた。

 オレ達がいる屋根の上へと振り向きながら首を傾げる体勢はちょっと辛そうだ。


「このパーティ組む前に、領都に来たときにね」


 オレは彼女へ簡単に魔法剣の顛末を説明した。


「あー、あのギルドクエストの原因かあ」


 オレより冒険者歴が長い彼女はあの後のギルドクエストを請けていたらしい。


「そういえば、結局どうなったの?」


 オレはギルドクエストの結果も聞いていなかったことを思い出した。


「二本見つかったそうだよ。遭遇したパーティはかなりの死闘だったって聞いたね」


 修理道具を抱えながらサルセがやって来て教えてくれた。


「死闘…大丈夫だったの?」


 オレの質問に彼は首を横に振った。


「一本はゴブリンキングの手に渡ってたらしくてね、パーティが壊滅したって聞いたね」

「ゴブリンキング…」


 遭遇したことはないがもの凄く強いのだろう。

 あの平和なレラロチ町の側にそんな危険な敵が現れていたとは。


「そう言えばそうだったよね…。逆にキングを見つけたことでギルドが随分と感謝されてたねー」


 サルセの言葉を継いだセレサは随分と呑気な反応だ。

 直に戦ったことのないオレにとっても絵空事のように感じるのだから、オレと同じく彼女も他人事のように感じるのだろう。




「あの馬、真下についたね。ギルドの伝令かな?」


 メラシの言う通り、馬が柵に結び付けられ、乗っていた人は建屋の中に入っていった。


「作業も終わったし俺達も聞きに行こうぜ」


 コルシが修理道具を抱えてオレ達の側にやってきた。


「じゃあ、私はクエストの完了を報告してくるね」


 セレサがそう言って窓から身を翻して去って行った。


「ワタシも。お、下りるね」


 実は立ち上がるのすら怖くてオレは最初に屋根へ上がったときからずっと棟に腰を下ろしていたのである。


「飛び降りた方が早いな。先行ってるぜ」


 コルシがそういって屋根から飛び降りた。

 ここ元の世界で言えばマンションの四階くらいの高さですけど!


「じゃあ俺がアレラを連れて行くよ」


 そう言うや否やメラシがオレを掬い上げた。

 いわゆるお姫様抱っこだ。


「ちょ、待って」


 オレの静止を振り切って彼は飛び降りた。

 ゴスッと鈍い音を立てて、着地した彼の片膝がオレの腰に突き刺さった。


「ん?大丈夫?怖かった?」


 どうやら気づいていない彼は少し照れるように笑ってオレを見ているが、涙目のオレは返事をするどころではない。

 その間にサルセも飛び降りてきてこちらに微笑むと、さっさと建屋に入っていってしまった。


「ごめんごめん、今降ろすね」


 メラシがそう言いながらオレを降ろそうとするが、オレは反射的に降ろされないよう彼の首に抱きついた。


「えっ」


 彼はオレの行動に赤面したが、オレは決してそういう意図があって離れたくないわけではないのだ。


「…腰が」


 何とかオレは一言発することが出来た。


 オレは思いっきり打った自分の腰に無詠唱で回復魔法を掛けている。

 今降ろされても動けない。

 それだけではなく体に力が入らないので明らかに腰が抜けている。二重の意味で腰が辛い。


「…このまま運ぶね」


 メラシは苦笑しつつも、その赤面した顔をオレから逸らして歩き始めた。

 そういう意図じゃないから!


 でもお姫様抱っこってかなり密着するんだな。

 思わずオレも赤面したが、決してそういう意図はないから!

こんばんは。

取りあえず主人公達に一言いいですか。お前ら冒険しろ。


2019年11月14日、追記

改行位置を変更致しました。誤記修正以外に本文の変更はございません。

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