31.遠征最初の町
「近かったね」
セレサの言う通り、次の町は近かった。
朝になり廃村を出発したオレ達は昼になるよりも随分前に宿場街へと到着したのである。
そして宿場街で朝食兼昼食を取ったオレ達は、この町が近いことを知ってすぐに出発したのだった。
「それにしても…」
セレサは軽くオレを見上げてため息を吐いた。
「町に来たからもう降ろして?」
オレはサルセにお願いをした。
そう、オレは今サルセに背負われているのだった。
「まあ、アレラを見てれば、サルセの心配も分かるけどね」
メラシの言う通りだった。
今朝のオレは全く動けなかったのだ。それはもう見事に。
原因は体力が回復しなかったことである。
これは寝不足からというよりも睡眠の質からだろう。
何しろオレも含め全員が座って一夜を明かしたのだから。
そういえば昨夜はオレだけ見張り番をしていない。
ごめんなさい、一人だけ寝ててごめんなさい。
さて、ただ背負われているだけのオレではなかった。
これでも魔力の回復には自信があるのだ。
だからサルセに増幅魔法を掛けて移動の負担を減らしたのだが、オレが魔力については回復していると知ったコルシに続けて掛けて、としていたら結局全員に増幅魔法を掛けていたのだ。
まあ結果としてこの町への移動が随分と早くなったのだが。
「とはいえ、まさか歩き始めてすぐにくたばるとかなあ」
コルシの言う通り宿場街から出て少しだけ歩いたオレはすぐにへたばって再びサルセに背負われることとなったのだった。
そして現在に至る、まる。
…この町は冒険者ギルド支部がある町の一つだ。
ちなみに名前は知らない。
何々町へようこそ、とかそういった看板は町の入口に設置されていなかったからである。
そしてここから先の、村と呼ばれる規模の集落を除いた町という町は全て冒険者ギルド支部が設けられていた。
冒険者ギルドの所轄で討伐クエストが多く必要になると判断された町村には、ギルドマスターの権限で冒険者ギルド支部を設けることが出来る。
だから支部の長はギルドマスターではなく支部長なのであった。
とはいえ冒険者ギルド自体、都とは呼べない大きさの町にもあるのだ。
レラロチ町などが良い例である。
つまりギルドマスターは大きな町の数だけ居るのだ。
多くないかギルドマスター。
ちなみにオレは冒険者ギルドを統括している上位組織について知らないし、教えてもらってもいない。
なのでギルドマスターの上に立つ人は知らないのだ。
本当にマスターって呼ばれるくらいの職位なのだろうか?
もしかしたらバーのマスター程度なのかもしれなかった。
「ようこそ我が冒険者ギルド支部へ。おや、随分と若々しいパーティだな。よくぞここまで来た」
魔王みたいな台詞をカウンターの男性職員が吐いている。
うん、何なんだこの人。
「残念だがこの時間に今日のクエストは無い。もう帰って寝たまえ」
あっけにとられているオレ達に彼は台詞を続けていた。
「うん、宿屋決めよ?」
セレサの言う通りだ。
今日はもう休もう。
何せ歩きずくめだったのだ。オレを除いて。
「それにしてもアレラちゃんってちょっとおかしいよね」
宿屋の部屋でくつろぎ始めた途端、突然セレサが爆弾発言をぶちかました。
変なのかオレ!いや変だな。
少女の身体に少年の心。歪んでいてもおかしくはない。
いやそうじゃない、やっぱり爆弾発言だ。
「突然何を言い出すの…」
オレはベッドに転がりながら抗議をした。
シスター服のままベッドに転がるオレは少し行儀が悪いが、まともに立てないのだから仕方がない。
本日何度目かのおんぶをされたまま入店したので宿屋のかみさんに怪我人かと思われたくらい仕方がない。
「いやだってさ。自分に増幅魔法を掛けるとすぐ魔力切れを起こすのに、私達に掛けると全然魔力が減らないって言うのは凄くおかしいよ」
セレサの中でオレのおかしい度合いが上昇した。
とはいえオレもそこは疑問だったのだ。
「まあ、それについてはワタシも変だなって思ってるけど…」
「ほら、アレラちゃんおかしいよ」
おかしいとか認めないから!
いや今認めたか。うん、おかしい。オレおかしい。
「お菓子…」
「アレラちゃん…」
思わず呟いたらセレサに呆れた顔をされてしまった。
多分この世界の言語的には全く意味不明だろう単語の連想をしてしまったわけだが、オレは悪くない。
悪いのはお腹が空いたこの身体だ。いややっぱりオレが悪いじゃないか。
冷静な思考が出来なくて自分で思ったことに突っ込みを入れているオレはかなり疲れているのだろう。
だがこのまま寝てしまうわけにはいかないのだ。
なんとしてでも夕食は取らなければ。
決して食いしん坊ではない。いや食いしん坊じゃないか。
「まあ、少し早いけど晩飯に行こうぜ」
コルシが助け船を出してくれた。
「うん、行こ」
オレは頷いた後、致命的なことに気づいてしまった。
「ごめん…動けない。おぶって…」
オレのお願いにサルセが苦笑した。
…翌朝、オレ達は改めて冒険者ギルド支部を訪れていた。
クエストの書かれた木札が結構な数、並んでいる。
ほとんどが討伐クエストだ。
「おお見ろよ!ゴブリンじゃないのがあるぞ!大ガエルの討伐だぞ!」
コルシが一枚の木札を持って嬉しそうにしていた。
「えー、大ガエル…ちょっと勘弁してそれ」
一方セレサは嬉しくないようだ。
「大ガエルってどんなの?」
オレは隣にいるサルセを見上げて聞いてみた。
「一応魔物だよ。体高で一メートルはあるかな。結構重いから伸し掛かられると危険だね」
「あれすぐ飛び掛かってくるんだよ。ヌメヌメしてるし、舌も飛んでくるから嫌い」
どうやらセレサの苦手な敵らしい。
ヌメヌメした大ガエルに伸し掛かられて舌で舐め回されているセレサか…想像しただけでご飯が捗りそうな絵面である。
いやそうじゃない、女の子の沽券に関わる絵面である。
「ちょっとそれ見たいな。いや、ごめん冗談だって、分かったこれは請けないから!」
何を思い浮かべたのやら。
わざわざ言わなくても良いコルシの自爆により大ガエルの討伐クエストが書かれた木札は掲示板へと戻されたのであった。
「でもこれよりはマシだと思うよ…大コオロギの討伐」
「いやあああああ!!!」
どうやらまたしてもセレサの苦手な敵だったらしい。
苦笑しながらサルセがクエストの木札を掲示板へと掛け直した。
そして周りの視線が痛い。
「お騒がせしました」
オレ達は周りに立つ冒険者達へ謝り、そそくさと冒険者ギルド支部から退散したのであった。
「取りあえずクエストを請けないといけないのに出てきちゃったね」
「兄さんが悪い!」
のんきなサルセの発言にセレサが噛み付いていた。
「まあ、ワタシも大コオロギはちょっと…」
オレも大コオロギとは出来たら出会いたくない。
サルセが大ガエルよりも酷いと言っているのだ。危険な敵なのだろう。
「そう?王都でも見たけど簡単に倒せるよ?」
メラシの言う通りなら、王都は大コオロギに汚染されている。危険だ。
「ああ、そうだな。大きいって言っても大ガエルの半分くらいだしな」
コルシの言葉にちょっと想像してみたが、やっぱり大きい。
オレとか伸し掛かられたら動けなくなるんじゃないか?
「まあ、確かに大ガエルよりは危険かもね。いざとなったら殴っても倒せるけど、頭突きは痛いしアゴはナイフみたいに鋭いしね」
メラシがコルシの発言に付け加えて説明してくれた。
あ、それオレ死んだ。頭突きで転がされて首を掻っ捌かれる未来しか見えない。
「でも、ざっと他のクエストも見たけど、ゴブリンと、あとはアオダイショウくらいだったよ」
サルセはどうやらあの位置から掲示板に掛かった木札の内容が読めていたらしい。
オレはと言うと周りの冒険者に視界を遮られて木札が見えないし、身体を潜り込ませて最前列に立ったところでまともな討伐クエストは見上げる角度が悪くて却って見えない。
手当たり次第に取って読むのも他の冒険者に悪いので出来ない。
結局クエストを探すことに関してオレは役に立っていなかった。
「うん?アオダイショウ?」
オレはその敵が気になった。
確かアオダイショウってヘビだったよな。
「僕達の手に負えないから辞めた方がいいよ。見かけたら逃げないとね」
サルセがオレの疑問に答えてくれた。
「そんなに危険なのかい?」
メラシはどうやらアオダイショウをよく知らないらしい。
「そうだよ。性格は大人しいとは言え、人を一呑みに出来るからね。縄張りには近づかないようにしなくちゃね」
サルセの説明が入ったわけだが、どうやらオレの知っているアオダイショウとは全く別物のようだ。
「なんだそりゃ」
どうやらコルシはアオダイショウという名前自体が分からないらしかった。
「ヘビの魔物だよ。体長十メートルくらいかな」
サルセの説明が続くが、やっぱりオレの知っているアオダイショウとは全く別物だね。
「まあ、アナコンダよりは小さいけどね」
サルセに言われてオレはアナコンダという巨大ヘビの名前を思い出した。
この世界ではアオダイショウでさえ大きいのだから、もしかしてもの凄く大きい?
そうだよね、普通のヘビが討伐クエストになるわけ…ないよね。
「それって縄張りを知らないと森に入れないんじゃない?」
メラシが気づいた。
「そうだね。アオダイショウは木の上から襲ってくるからギルドで生息地をちゃんと聞かないとだね」
返事をしたのはセレサだ。
この遠征は前途多難のようだ…。
おはようございます。
小動物系の魔物が大きくなるのは必定ですね。
エロカエルとかやったぜ!いや想像の上ですよ。
2019年11月14日、追記
改行位置を変更致しました。誤記修正以外に本文の変更はございません。




