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28.駆け出し冒険者の日常

 オレ達は今、宿屋に取った四人部屋に居た。

 そう、四人部屋である。

 この五人パーティをどう組み合わせても男女同室である。


 まあ、三人部屋と二人部屋の男女別にしたいところだが、結成したばかりのこのパーティには先立つものが無い。

 個人の資金を当てにするのも良くないし、そもそも全員懐が寂しいのだ。


 ちなみに食堂すら無い安宿なので、昼間に狩ったうさぎを冒険者ギルドに売って稼いだお金程度で泊まることが出来ていた。

 冒険者ギルドは動物も素材や食料として買い取ってくれるので、駆け出し冒険者には凄く助かる。

 でも熟練冒険者ともなると動物を持ち込むのはひんしゅくを買うことになるのでお勧めしないらしい。


「アレラちゃんは男女同室でも大丈夫?」


 セレサがオレに確認を取ってきた。

 まあ四人部屋を取ってから確認をするあたりオレが拒絶しても主張は通らないだろう。


「んー、まあワタシは。でもセレサは大丈夫なの?」


 オレが逆にセレサに問いかけると、コルシがオーバーリアクションで反応してくる。


「俺達、信用されてない!?」


 メラシはというとぽりぽりと頬を掻いている。


「はあ…。そもそもアレラを襲う奴とか居ないと思うがな」


 そして真顔になったコルシがオレの容姿を酷評してくれた。

 どうせお子様ですよ!


「そうね、兄さんの目がある中で私にそんな事出来ると思う?」


 少し遅れてセレサがオレに返事する。

 まあ、サルセが居るから安心していいか。


「それにね、危ない人をパーティに誘ったつもりは無いよ」


 そういえば便宜上メラシがリーダーを務めているが、このパーティはセレサが集めたのだった。


「…で、セレサは本当にワタシと寝るの?」


 そう、この部屋は四人部屋である。

 つまりベッドが一つ足りない。


「もちろん。十分寝れるよね」


 セレサの言う通り、確かに一人用ベッドとはいえ少女二人が寝るには十分な広さがあった。

 決してベッドが広いわけではない。オレが小さいのだ。


「まあ、十分寝れるけど…」


 彼女の言葉に肯定するも、言葉を濁した。

 その理由は物理面からではない。オレの精神面からである。


 そう、オレの見た目はアレラという少女だが心は今も空太という少年のつもりなのだ、たぶん。

 なのでセレサと同衾するなんていかがわしいことこの上ないのだ、たぶん。


 大丈夫大丈夫、見た目には百合百合、じゃない姉妹で寝ているようにしか見えないから大丈夫。うへへへへ。


「アレラちゃん、その顔はちょっと…」


 オレのいけない妄想が表情に出ていたらしい。

 セレサに引かれてしまった。落ち着こう。


「取りあえず寝ようか」


 サルセにみんな同意して、男共が服を脱ぎだした。待て待て待て。


「…女の子の前で何してるかな」

「あ、ごめん」


 半眼になったセレサの苦言にメラシが謝り、サルセがガン見しているオレに気づいて苦笑した。

 べ、別にサルセは意外と筋肉質だなっとか思ってないんだからね!


「取りあえず私達は一旦外に出てるから、着替えたら教えてね」


 セレサに引っ張られたオレは室外に連れ出されたのであった。


 まあ、その後は男共と交代で着替えようとしたオレ達女性陣で動こうとしない彼らを叩き出したのだが。


 そして朝起きたらオレはセレサの抱き枕にされていたのだが…。




「なあ、もうゴブリンは飽きたんだが」


 コルシがぼやく。

 パーティを結成して早一週間。

 オレ達は今日もゴブリンの討伐クエストを請けていた。


「まあそうは言ってもここら一帯は他の魔物がほとんど居ないからね」


 メラシがそう言ってコルシを宥めている。


「でもゴブリンは放っておくと数が増えて危険だからね」


 サルセの言う通りだ。


 ゴブリンはネズミと同じくらい繁殖能力があるとまで言われているのだ。

 なのでゴブリンの討伐クエストは毎日複数枚も掲示されていた。


「んーまあ、私も。別の魔物も狩りたいよ」


 セレサが逃げようとする最後のゴブリンを風魔法で切り刻んでぼやく。

 彼女の魔法効果範囲はオレの増幅魔法で拡大しているため、オレ達後衛はほぼ固定砲台だ。


 オレは増幅魔法を掛けたら仕事が無くなるので荷物番も兼ねていた。

 今も足下には前衛の荷物が置かれている。


「そうだな、オークでもいいから狩りたいぜ」


 コルシがセレサに賛同している。

 しかしオレも同意見だ。オークでも良いから狩りたい。


「…オーク肉…」

「アレラちゃん、よだれ!」


 思わず呟いたオレにセレサの突っ込みが入った。


「えっ」


 オレは思わず袖で口元を拭ったが、よだれは付いてなかった。


「冗談だよ」


 にっこりと笑うセレサがちょっと憎らしい。

 オレは彼女を軽く睨んだ。


「まあ、ウルフくらいは出てきてもいいのにね」


 メラシもゴブリン以外を狩りたいらしい。


「ウルフは賢いから人里近くを避けるよね」


 サルセが悲しい事実をお知らせした。

 どうりで領都から離れないオレ達がウルフを見かけないわけだ。


「…じゃあ兄さん、ゴブリンは?」


 セレサが問いかける。


「ゴブリンは馬鹿だから」


 サルセがにっこりと微笑んだ。


「ゴブリンは人間が好きだからな」


 コルシが何か言っている。絶対それ良い意味じゃないよね。


「それなら猪とか狩るかい?」


 メラシが提案した。でもなあ…。


「動物を狩るのは最終手段だよね」


 セレサがサルセを見て確認を入れている。サルセは頷いた。


 そうなのだ。オレ達は別に狩人になりたくて冒険者になったわけではないのだ。

 夢は勇者なのだから。


 まあ、冒険者の中には狩りを専門にしている者も居る。

 というよりは冒険者ギルドを卸先とするために狩人が冒険者登録をしているのである。


 それにしても猪か…牡丹肉…。


「アレラちゃんよだれ!」


 セレサが突っ込みを入れてきた。

 オレは袖で口元を拭うがやっぱりよだれは付かない。


「垂れてないよ!」


 思考を読まれたか!?




…と言うことで、一泊旅行に来てみました。


 オレ達は商隊にくっついて領都から一つ隣の村に来ていた。

 護衛任務が出来る実力も無いしパーティ単独で移動するのも不安だったのでくっついてきたのだ。

 領都の近くなのに何故町ではないのかというと、ここは旅程で一泊する位置に出来た宿場街しかないからである。


「ここからなら、ウルフが出る草原に行けるからね」


 サルセがオレ達に説明する。

 と言うよりオレ以外のみんなは知っているようなのでオレに説明してくれたのだ。


「セレサとサルセは何度も来ているんだったか?」


 コルシが二人に確認を取っている。

 そう言えば二人は領都を拠点に近くの町村を回る中堅冒険者パーティと共に居たのだったか。


「うん、私達はね。隣町にまで足を伸ばせばメリロハ川で釣りも出来るよ」


 お魚!セレサの言葉にオレは反応した。


「アレラちゃん、すぐ食べ物に結び付けるよね」

「アレラは食い意地が張ってるよな」


 セレサとコルシが突っ込みを入れてくる。オレってそんなに顔に出てるのか!?


「まあでもその割に小食なんだよね」


 表情を直すべくほっぺたを揉んでいるオレを見ながらセレサが苦笑している。


「ワタシは美食家なんですっ」


 オレは自分でも何を言っているか分からない反論をしておいた。


「悪食の間違いじゃねえか?」


 コルシめ、こんなか弱い少女に向かって悪食だなんて酷い奴だ。

 取りあえず睨み付けておく。


「そう言えばアレラはお腹壊さなかったよね」


 サルセが思い出したように言う。


 一昨日のことだがオレを除くパーティ全員でお腹を壊したのだ。

 お昼に食べた干し肉がカビていたらしい。

 でも思い出したように荷物の底から干し肉を発掘したコルシが悪いのであって、肉屋が悪いのではない。


 オレはと言うとみんながお腹を抱えて苦しむまで気づかなかったのだ。

 そして慌ててみんなに救治魔法を掛けたので事なきを得た。

 結果として主にセレサから感謝された。

 まあ女の子がトイレから凄い音を放出するなんて恥ずかしいからね。


「これでも救治魔法が使えるので。体調不良は勝手に治っちゃうんです」


 オレの弁解はおかしくはないはずだ。

 孤児院時代のメレイさんによる毒物連続摂取というスパルタでオレの胃腸は鍛えられ、じゃないオレは防衛本能により無意識に救治魔法が発動するのだ。

 あれ?


「サルセも酷くない?」


 彼は密かにコルシに賛同していると思う。

 オレは彼を睨んでおく。


「兄さん、今のは酷いよね。アレラちゃんはちょっと胃腸が強いだけなのに」


 うん、セレサも酷いと思う。

 オレが彼女を睨むと明らかに目を逸らされてしまった。


「そ、それよりも。私、王都での話を聞きたいな!」


 彼女は強引に話題を変えてきた。

 強引すぎるが食い意地の話を引っ張り続けるのはオレも勘弁したい。

 それに王都の話は聞いてみたい。


「そうだね。そんなに大した話は出来ないけど」


 一連の会話を見守っていたメラシが苦笑して答える。


「おう、何でも聞いてくれ」


 コルシも自慢げに胸を張った。

 メラシとコルシは王都で知り合ってから、ここメラロム侯爵領へとやってきたのだ。


「そう言えばどうして領都に来たの?」


 オレは疑問を垂れ流していた。


「王都の事を聞くんだってば!」


 セレサが突っ込みを入れてくる。あ、そうだった。


「メラロム都は今や魔物狩りの最前線になってるからね。そうだね、王都の魔物事情について話そうかな」


 メラシが微笑んでオレの疑問にも答えてくれた。

 確かに王都の魔物事情は知りたい。

 美味しい魔物がいるか知りたい。


「アレラちゃん…」


 うん。セレサ、そんな目で見ないで。


「王都の横には広い平原があるけど、そこにはいろんな魔物が住んでいるんだ」


 物騒な話だが王都は魔物の領域との最前線に建設された要塞があった土地であり、当時の魔王が組織した軍勢との決戦場だったのだ。

 ひと月以上続いた攻防戦により辺り一面焦土と化したため、広い平原が出来たのだ。

 しかし多くの魔物がその平原には取り残されていたのだ。

 そして当時の魔王を倒した勇者の一人である賢者ケラクによって城塞都市が建設され、そのままケラク賢王国が出来上がって王都となったのだ。


 とオレは孤児院時代の詰め込み勉強によって習っていた。


「とは言っても、強い魔物は居ないんだけどね」


 おっと、思考が脱線していた。メラシの話を聞いておかなきゃ。


「どんなお店があるの?」


 セレサ…魔物の話ガン無視!?

こんばんは。

駆け出しがいきなり強い魔物を倒して、なんてチート物語ではありませんでした。

下積み時代は地味です。でも夢は大きく妄想も膨らみます。主に食べ物について。


2019年11月14日、追記

改行位置を変更致しました。

サルセのアレラに対する呼び方を呼び捨てに統一し直しました。

その他には誤記修正以外に本文の変更はございません。

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