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27.パーティ始動

「ファイアアロー!」


 セレサの火魔法がうさぎを貫いた。

 表面上は少し毛を焦がす程度でその魔法は消失しているが、発動のキーワード通りに矢が貫通したかのようにうさぎの体内を一直線に貫いて焦がしているのだ。

 当然うさぎは絶命していた。


「じゃあ次は僕が」


 サルセが弓を射るとうさぎがぱたりと倒れた。

 見れば矢が刺さっている。お見事である。


 オレ達は今、個々の力量を知るべく領都から出てすぐの草原へと来ていた。

 オレ以外の四人は既に一年以上冒険者をしているだけあって、全員何らかの魔物を倒した経験がある。

 剣士と戦士であるメラシとコルシも難なく単独でうさぎを狩っていた。

 オレが少し前まで居た冒険者見習いの少年達とは大違いであった。


 とはいえお互いを知らないとパーティとして連携した戦闘は出来ない。

 なのでクエストを受ける前にこうして動物を狩っているのだ。

 まあそれは建前であって、お昼時まで冒険者ギルドのバーで話し込んでいたら受けられそうな討伐クエストが無くなっていたからであった。


「じゃあ次はアレラが…武器は?」


 メラシに指摘されてオレは手ぶらなことに気づいた。

 いやもっと前に気づこうよオレ。


「えっと…解体用のナイフなら?」


 オレは腰に付けているナイフを抜いてみんなに見せる。

 解体用のナイフでも一番小さいサイズであるそれは、剣身が片刃で薄く(つば)も無く片手用の柄もオレの小さな掌分しかない。

 元の世界の包丁に例えるなら果物ナイフと言うに相応しいナイフであった。


「それは武器じゃないよアレラちゃん!」


 セレサの突っ込みにオレは苦笑で返した。

 確かにとても武器とは言えない。

 とはいえ杖すら満足に振れそうもないこの身体で武器なんて…。


「あ、ある」

「うん?」


 オレの呟きにメラシが怪訝そうな顔付きをした。


「ああうん、無いわけじゃないんだけど…たぶん当たらないよ」


 オレは今、ある魔法の応用を思いついた。

 ただ問題はオレが害意を持てば動物は逃げていくということだ。


「当たらなくても良いから、見せてくれ」


 コルシが言うので物は試しとオレはそれを実行することにした。


「シールド!」


 防御魔法の発動のキーワードを唱えると、淡い金色の膜が展開され一呼吸遅れて直径一メートルほどの円盤が完成する。


「ええっ」


 セレサがオレの防御魔法を見て目を丸くしている。

 というかオレ以外の四人とも驚いていた。何故だ。


「防御魔法を発動出来るのは凄いけど…それ武器じゃないよね」


 サルセの突っ込みは正しい。

 確かに本来は防御に使うのだが、オレにこの魔法を教えたのは肉弾戦闘系のニレバ司祭なのだ。


「まあ見てて。シールドカッター!」


 オレは展開した防御魔法の円盤を前方に投げるかのように移動させた。


 円盤は滑るように宙を走り数メートル先の地面に突き刺さる。

 突き刺さった衝撃で防御魔法は霧散していくが、そこには断ち切られた草とえぐれた地面が残った。


「何その魔法…」


 メラシは開いた口が塞がらないといった感じである。


「使い方間違ってるよ!」


 一方セレサはオレの防御魔法の使い方に突っ込みを入れてくる。


「なるほど。盾と言う割には薄い防御魔法を刃に見立てた攻撃として使うのか。確かに多少の威力はあるが…」


 戦士を呼称するだけあってコルシは剣以外を武器とすることに疑念を持たなかったようだ。


「遅いね」


 そしてコルシの言葉を継ぎサルセが指摘する。

 弓使いの彼から見たら確かにこの攻撃は遅いのだ。


「確かに、今の速度なら私でも避けれちゃうね」


 セレサの言う通りです。

 すみません格好つけました。

 攻撃と呼ぶには明らかに遅いんです。ゆっくり投げたボール並みの速度です。


「もっと訓練すれば早くなる…はず…」


 オレも勢いだけで初めてやってみたのである。

 今発動して分かったが、正直シールドカッターの有用性は見いだせなかった。


「まあ、当たらないと言うだけのことはあるね。けど止めには使えそうだね」


 立ち直ったメラシの慰めにオレは涙した。




「次は連携を試してみよう」


 メラシの発言にオレの心は躍った。

 その言葉を待っていたのである。


「増幅魔法、いきます!」


 オレは声を弾ませて宣言する。

 支援系魔法使いとして面目躍如のチャンスなのだ。


「増幅魔法?自分を強化してどうするの?あ、もしかしてアレラちゃんって実は格闘家…じゃないよね…」


 セレサの疑問は当然である。

 オレが格闘家になれないほど非力なのも当然である。

 だから彼女の言葉が尻すぼみになるのも当然なのである。…非力が悲しい。


「大丈夫、セレサに掛けるから。ブースト!」


 気を取り直したオレの発動のキーワードでセレサが一瞬だけ淡い金色に光る。


「え?今の光、何?」


 自分の手を見て驚いているセレサにオレはお願いをする。


「魔法を撃ってみて」

「あ、うん分かった。ファイアアロー!」


 オレの発言を聞いてすぐにセレサは頷き、うさぎに向かって火魔法を発動した。


 彼女の発動のキーワードで出現した火矢は直径六センチメートルほどになった。

 そして飛んでいくそれはまさしく五百ミリリットルのペットボトルである。

 火の赤色はまるでコーラ…ちょっと飲みたくなってしまった。


 そのペットボトルもとい火矢はうさぎを貫くと言うよりは胴を焼失させた。

 残ったのは真っ二つになって煤けた肉塊だった。


「え?」


 セレサは疑問の声を上げたまま口を開け呆然と立ち尽くす。


「えっと」


 オレも返答に困った。


「ちょっと待て何だ今の威力!」


 みんなの中で真っ先に立ち直ったのはコルシだった。


「いや、だから、増幅魔法掛けます、って」


 オレも困惑しながら事実だけ述べる。


「嘘でしょ…」


 セレサの呟きももっともだ。

 オレだってここまで威力が上がるなどと予想していなかった。

 威力の上昇は二倍もいかないと思っていたのに五倍は上がっている。


「そうだ…。それって武器の威力とかも上がったりしないかな?」


 メラシの期待に満ちた目にオレはたじろぐ。

 オレの増幅魔法にある最大の欠点を告げなくてはならない。


「武器じゃなくて筋力が上がるんだけど…。ワタシの魔法効果範囲が狭くて、あんまり…」


 オレの発言にメラシだけでは無くてコルシも項垂れる。


「と言うことは、弓を引く膂力(りょりょく)も上がるの?」


 サルセが少し期待をしてオレを見てきた。


「うん、上がるよ。サルセにも掛けてあるから試してみて」


 オレの言葉にサルセが矢を番える。

 彼が放った矢はうさぎに…当たらなかった。


「あっ」


 思わず声を漏らしたものの、矢に気づいて逃げるうさぎに彼は追撃をした。

 今度の矢はうさぎをあっさりと貫いた。


「いつもと弓を引く感触が違って手元が狂っちゃったよ。にしてもあの距離で貫けちゃうなんてね」


 サルセがにっこりと微笑む。


「凄いよ!凄いよアレラちゃん!」


 セレサが俺の手を取って飛び跳ねる。

 褒められすぎでちょっと気恥ずかしかった。


「でもこれは、連携をしっかりと練習する必要がありそうだね」


 メラシの指摘にオレ達は頷いたのであった。




…あの後、夕方までオレ達は連携の練習をした。

 セレサはオレの増幅魔法を受けた状態での魔法の出力制御に四苦八苦した。

 制御を試している際に増幅魔法の効果により彼女の魔法効果範囲も広がっていることが分かった。


 凄い凄い、と連呼して興奮する彼女は可愛かった。

 可愛かったのだがオレを振り回すものだから、オレの目は回った。


 さらにオレの魔法効果範囲の検証をした結果、前衛には増幅魔法を掛けないことが決まった。

 非常に残念だが魔法効果範囲から出入りするときに体勢を崩してしまう以上、仕方がなかった。


 サルセはというと、遊撃の戦闘スタイルである彼自身には増幅魔法が合わないと判断した。残念である。




「かんぱーい!」


 みんなで乾杯の音頭を取った後、大皿の争奪戦に乗り遅れないようオレは両手を組んで早口で祈りを唱える。


「聖王様、我らが命を繋ぐ為、この者達を糧とすることをお許しください」


 食事前の祈りを省く冒険者は多い。

 だがオレはシスターとしてこれだけは押さえておきたい。

 所謂、いただきます、であるからだ。


「わあ、それやっぱりするんだ。さすがシスターだね」

「え、あ」


 セレサがオレの聖句に気づいて話しかけてくる。

 そう言われるとちょっと恥ずかしい。


「あー、俺その言葉忘れたなあ」


 おいコルシ、曲がりなりにも国教だぞ。

 これくらいの聖句は覚えて置いて欲しい。

 まあ、ぶっちゃけ面倒くさいけどね。


「まあ、早く食おうぜお前等」

「あー!ずるい!ワタシそれ狙ってたのに!」


 彼の手には既に串焼きが握られている。

 あああああ、オレが目を付けていたのに…。


「雑談してるからだろ」


 正論である。争奪戦に出遅れたオレが悪い。

 だからオレはコルシがオレの側にある皿に手を伸ばした瞬間中身をかっさらった。


「あ!お前!近いからって卑怯だぞ!」

「へへーん。早い者勝ちでしょ。…んぐ!?」


 何これ辛い!

 オレことアレラのお子様な舌には刺激物すぎる!


「アレラちゃんやっぱり…。それ辛い奴だよね…」


 セレサはオレがその料理を食べたいのではなく意地悪で取ったと言うことに気づいていたらしい。

 それよりも辛いって知ってたなら止めて欲しかった。


「食えないなら吐き出せよ。そして俺にくれ」


 いやコルシ、他人の口の中にあったものを食べようとかどうかと思うぞ。しかも女の子の。

 セレサの冷ややかな視線に気づいて欲しいな。


「んー!んんー!!ん…」

「あ、飲み込んだ」


 オレはとにかく口の中から追い出すべく無理矢理飲み込んだ。


「た、食べ物は…粗末に出来ないから…ね。お、お水…」


 手近にあったコップを掴んでオレは中身を一気にあおる。


「アレラちゃんだめ!」


 セレサの静止は間に合っていない。

 オレは飲み込んだ瞬間に体が熱くなったのを感じた。

 追いかけるように何かの臭いがした。


「…お酒?」


 オレの疑問に彼女は叫ぶ。


「お酒だよ!ああもう兄さんアレラちゃんのそばに置くから!」

「ごめんごめん。まさか僕のコップを取るとは思わなくて」


 どうやらサルセの飲んでいたお酒だったらしい。

 オレとセレサ以外は成人なので普通にお酒を飲んでいたのだ。


「ほら、アレラちゃん早く吐いて」


 セレサはなかなか過激なことを言ってくる。

 まあちょっと視界が回る気もしてきたしそうした方が良いかもしれないが…。


 ここで吐いてしまえば今日からオレの称号はゲロ姫になってしまう。

 それだけは避けなければ。


「流石に俺は飲まないぞ」


 コルシの笑えない冗談が飛んできた。


「どん引きだよ!」


 セレサの突っ込みが入った。


「あー…キュア!」


 酔い方というのを理解したのでオレは救治魔法を唱える。


「え?」

「もう大丈夫、うん、心配してくれてありがとう、セレサ」


 口を開けたままのセレサにオレはお礼を言った。


 会話が途絶えている。あれ?


「アレラ…。キュアってそんな使い方もあるんだね」


 メラシが感心したように話しかけてきた。


 ちなみに回復魔法以外の魔法名は魔法使いでなければ覚えていないものだ。

 大抵の者は発動のキーワードが全て魔法名だと思っているのだ。


「酔っ払わないとか凄いな!酒場を潰せるぞ!」

「その前にお金が無くなるよ!」


 コルシの発言にセレサが突っ込んでいた。


「でもアレラちゃんって私とちゃんと話せるようになるのに随分掛かったのに…」


 オレがこの場に馴染んでいるのでセレサが少し不貞腐れている。


 まあ仕方がない。

 心は男子なオレは女子より男子の方が話しやすい。つまり親しみやすいのだ。

 元々、セレサの方からオレにぐいぐいと話しかけて来なければオレはセレサと話が出来るなんて思っていなかったのだ。


「そういえばパーティを結成したのはいつなの」


 午前中は話題にならなかったことを思い出し、オレはセレサに聞いてみた。


「今日だよ」

「えっ」


 もっと前から結成したかと思っていたオレは少し驚いた。


「まあ、予約はしてたんだけどね。アレラちゃんが入るから結成したの」


 どうやらオレが入ることはセレサの中で決定していたらしい。


「ワタシが断ることは考えなかったの?」

「入ってくれるって信じてたから」


 オレの疑問に彼女は即答してくれた。

 オレが入ることを信じて疑っていない目だった。


 まあこのパーティならオレもやっていけそうなので、彼女には感謝しておこう…。

こんばんは。

物語の尺の関係で主人公はすぐにパーティへ馴染みました。いやそうではありません。気が合うだけです。

不幸成分が少なくてタイトル詐欺な気がしますが、まあ安全な場所でそうそう大きな不幸が起きても…。


2019年11月14日、追記

改行位置を変更致しました。誤記修正以外に本文の変更はございません。

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