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第83話 時には殴らないとダメらしい

「えええ!先代魔王様だったんですか!?」


「ああ、まあな。だが気にするな」


「今はただの旅人ですから」


村に戻って村長さんに夫婦の無事と山賊の討伐、保護した女性達の件を伝えた時に旅の夫婦は先代魔王夫婦だった事も話の流れで伝える。


「まあ、普通は驚きますよね。ところで村長、保護した女性達ですが」


「はい。今夜は私の家で休んでもらいます。明日落ち着いたら話を聞いてどうしたいか聞いてみます」


「お願いします。問題は身寄りの無くなった子供達ですか」


この世界にも孤児院があるにはあるのだがそれほど数は無いし落命しやすいこの世界では定員一杯のところばかりだ。運よく入れても兄弟とは離ればなれになる事も珍しくない。


「兄弟と離ればなれは可哀そうよね」


「でも、何か出来る事あるの?いっそ孤児院を新たに建てる?」


「それも手だけどね」


 それだと、今回の被害者の子供達の件には間に合わない。


「孤児院を建てるって、お前。そんな簡単に出来ないだろ」


「御金いくらかかるか、わかってる?」


「あ~多分、建てるだけならなんとか。毎月の補助金は国から出してもらわないと、ですが」


「ウチも出しますし」


「私も出します」


「お前ら、そんなに金持ってんの?」


「子供が出せる金額じゃないわよ?」


まあ、普通の子供ならね。

冒険者としてもそこそこ稼いでるし、魔法の袋の収入。アイとユウは服や下着のデザインで稼いでいる。

特に下着は爆発的人気だ。


「まあ、孤児院の件はまた考えるとして、今回は帰る場所も身寄りもない人は新設された親衛隊の宿舎で働く人が足りてないから、そこで雇うかな」


「それはいいけどよ。お前らこれからもずっとそうやって行くつもりか?」


「というと?」


「人助けはいいけど全ての人を助けるのは無理でしょう?」


うん、まあ。前世でもよく話題になる考えでもあったよね。

でも、いいじゃない。目の前の人を救うだけしかしなくても。

偽善でもその人にとって善なら、それで。


「全ての人を助ける事は出来ない事は理解してます。少しでも助けられるなら、それでいいじゃないですか」


「わかってるならいいけどよ」


「ちょっと心配ねえ」


何がだろう?

やっぱり見た目が子供だからかな。

そこで話は一旦止めて。

ギンの家に戻ってからもう少し話をする。


「明日には城に帰りますけど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも一緒に帰りませんか?」


「そうだな。いつの間にか孫が生まれてるくらい帰ってないからな。一度帰るか」


「そうね、そうしましょ。エリザちゃんにも久しぶりに会いたいし」


パパ上はいいのかな。

ちょっとパパ上が可哀そう。


「御二人はどのくらい城に帰ってないんですか?二十年以上連絡がないとは聞いてますが」


「そうだなあ。いや、ちょうど二十年くらいじゃねえか?」


「二十一年と半年よ」


二十一年か。三蔵法師並だな。


「どんなとこに行ってたんですか?」


「色んな国に行ったぜ。まぁそれは追々話てやるよ」


「そうね、アスラッドにも話すし、その時一緒にしましょ。もう遅いし今日は寝ましょ」


確かにもう遅いし、何度も話すのも手間か。


「で、何でいるんですか」


用意してもらってる寝室に何故かお爺ちゃんお婆ちゃんがいる。

アイとユウも一緒に。


「今日はみんなで寝ましょう~」


「じいちゃんばあちゃんと孫との触れ合いだっ」


「はぁ。ま、いいですけど」


まあ、初孫と一緒に寝たいと思うのは、まぁ普通?なのかな。

前世から孫はおろか子供も出来た事はないし、十二歳の孫では少し遅いと思うのだけど。


翌朝。

ギンの実家で最後の美味しい朝食を頂き。

ギンの家族に御世話になった礼を述べてから村長の家へ向かう。

何故かギンの妹二人も付いて来ているが。


「お早うございます、村長」


「お早うございます、皆様」


村長宅の大広間には昨日救出した女子供、計七人がいる。


「話は聞けましたか?村長」


「はい。七人の内、自分が住んでた村に帰るのを希望してるのは二人だけです。あとはみな帰る場所が無いそうで。ジュン様の下で働く事を希望しています」


七人中五人か。

予想より多いけど大丈夫だろう。五人中三人が子供で二人が大人だ。

大人と言っても十五歳以上十八歳以下といったとこだが。

中身がオッサンなボクからすれば充分子供なのだ。

三人の子供は八歳から十一歳というとこか。望むならティナ達チビッ子メイドと同じように学校に通わせてもいいだろう。


「わかりました。そちらの五人はボクがお預かりします。今すぐ連れて帰る事も可能ですけど、家に取りに戻りたい荷物とかあるでしょう。護衛はボクの親衛隊の三人を付けますから、馬車を出してもらえますか?自分の村に帰る人も送る必要があるでしょうし」


「わかりました。村の自警団からも何人か護衛に出しましょう」


「お願いします。じゃあ親衛隊諸君、君達に命令する。彼女達を護衛し村まで送り届ける事」


「「「ハッ」」」


三人というのはギンも含めて、だ。

新しい刀も用意できたらしく問題ないだろう。

山賊は退治したのだし危険な魔獣もいない。危険はないはずだ。

護衛は念の為もあるが山賊に攫われたばかりの人達の心のケアの意味が大きい。


攫われた人達の村は二ヵ所。

場所が少し離れてる為、馬車は二台で護衛も二手に分かれていく事になった。

二ヵ所とも馬車で行けば夕方には帰って来れる位置にあるらしいので夕方まで待つとしよう。


「ただ待つのも退屈だし、一旦城に戻ってまた来る?」


「そうね、それがいいかも」


「温泉、気持ちよかった~。また入りに来ようね、お兄ちゃん」


「そうだな。もしくは城に温泉風呂作れないかな」


「あ、それいい。それ最高」


「よし、じゃあ一旦戻って……」


「お待ちください!わたくしの頼み事を忘れてませんか!?」


タマモさんが不安そうにジッと見て来るので気づいてたし勿論忘れてないが、ついからかってしまった。

調教…もとい、教育の影響も大分抜けて素に戻ってるみたいだ。


「冗談ですよ。大丈夫、覚えてますよ」


「本当にお願いしますよ!?それに責任も取ってもらわないとダメなんですからね!」


「あれはボクに何の責任もないでしょう。殆ど自分の責任でしょうに」


「わたくしの恥ずかしい姿を見ておいて、よくそんな事が言えますね!」


人聞きの悪い事を。

ボクは何もしてないだろうに。


「あの、ジュン様?タマモに何を……」


「ボクは何もしてませんよ。八割方はタマモさんの責任による自滅です」


残り二割は白猿の責任だ。

怖がらせた白猿だと自分でも認めていたし。


「でも!それはあまりに無責任です!」


「いや、ですからボクに何の責任が……。はぁ、わかりました。ならタマモさんもあの女性達と同じ場所で働きますか?新設されたボクの親衛隊の宿舎で働いてもらう事になりますが」


「え?し、仕方ないですね、とりあえず今はそれで良しとします」


「村長さんもよろしいですか?」


「ええ、私はタマモがいいなら。息子夫婦も何も言わんでしょう」


「でしたら、そういう事で」


「「ジュン様!私達もそこで働かせてください!」」


その場で一緒に話を聞いていたギンの妹二人もお願いしてくる。

そんなに王都に行きたいのかな。


「はぁ、仕方ないですね。御両親が許可したら、いいですよ」


「「やった~!許可貰ってきます!」」


元気だなあ。

これ以上は雇うつもりは無いので話を広めないように釘を刺しておく。


それから少したって昼ご飯前に例のワガママ三男坊が大勢の護衛を連れて馬車でやって来た。


「迎えに来たぞ、タマモ!さぁ馬車に乗れ!そして街に戻って式を挙げよう!」


う~ん、彼が件のワガママ三男坊リンク君か。

今のボクと同い年だが、とてもそうは見えない。

顔は確かに男前かもしれないが体型が全て台無しにしてる感じだ。

背もタマモさんより低い。

どう見てもタマモさんとは不釣り合いだとしか思えない。


「嫌です!以前から何度も言ってるように、貴方と結婚するつもりはありません!」


「何だと!手紙は読んだのだろう!俺様と結婚せねば、お前の家族は皆犯罪奴隷だぞ!」


「一体何の罪でですか!」


「俺様の命令に逆らう事、それはすなわち罪だ!」


ワガママと言うより傲慢というか不遜というか。

自分で握った権力でもないし、そもそも領主ですら無いし領主になる予定もないただの三男坊だと言うのに。一体どう育てたら、ああなるのか。


「おい、ジュン。あいつは何言ってるんだ?」


「無茶苦茶言ってるわねえ」


そう言えばお爺ちゃんとお婆ちゃんにはタマモさんの事情を説明してなかったか。

簡単に説明する。


「なんだそりゃ。ホレた女一人モノにするのに権力をかさに着なきゃできんのかよ」


「しかも自分の権力でもないし、最低ね。とてもジュンと同い年とは思えないわ」


やっぱり、そういう感想になるよね。


「わたくしは貴方とは別の!愛すべき方を見つけました!わたくしはその方の下へ参ります!」


え~。

そんなん言われたら登場しにくいわぁ。

ここで登場したらボクとタマモさんが結婚するみたいじゃない。


「なにい!どこのといつだ!俺様からタマモを奪おうとする奴は!」


「そこにいるジュン様です!」


いつの間にか集まってる村人達の視線とリンク君達の視線が集まる。

やだなあ。なんか見世物になってるじゃないか。

まぁボクも他人事なら見物してたと思うけども。

まぁ出ないと話が進まないし、仕方ない。


「あ~、どうもどうも。ジュン・エルムバーンです」


「ふん!どんな男かと思えば、女みたいな奴だな!こんな男のどこが…ジュン・エルムバーン?どこかで聞いた名前だな」


おいおい。

エルムバーンを名乗っている時点で王族だと気づけ。


「リンク様、ジュン・エルムバーン様は我が国の魔王子です」


「魔王子?あれが?冗談だろう?大体こんな所に魔王子がいるはずないだろう」


リンク君の傍にいる騎士がボクが誰か教えたが信じる気がないようだ。

まぁその気持ちはわからなくもないかな。

領主コタン家には、この村に来てること伝えてないし。


「大方、魔王子と容姿が多少似てるだけで名前を騙ってる偽物だろう。そんな奴に騙されるとはな。まぁいい、そいつは偽物だタマモ、早く馬車に乗れ」


う~ん。

確かコタンの街には治癒魔法使いとして一度訪れた時、領主オットー・コタンには会っているけど息子には会っていなかったな。

リンク君がボクの顔を知らないのは無理もないのだが、これ他所の国じゃ大問題になるんじゃないかな。


「いいえ!その方は本物の魔王子様!ジュン・エルムバーンその人です!」


「リンク様、私はジュン様を御見かけした事があります。あちらに居られますのはジュン様で間違いないかと」


「何を馬鹿な。ジュン様は王都で開かれた武闘会に出ていたのだろう?王都からここまで何日掛かると思ってるんだ。偽物に決まってるだろう」


あ~、まあ転移魔法を使える事を知らなきゃそう考えるか?

ボクの顔を知ってるのはあの騎士だけでなく、他にも数名居て、その人達の顔は真っ青だ。

可哀そうだし、そろそろ助け船を出そう。


「ボクは正真正銘、本物の魔王子ですよ。初めまして、リンク・コタン君。父君とは武闘会で会いましたが、まだ戻っておられないのかな?」


「フン!偽物が気安く話かけるな!おい、お前達!あの偽物をひっ捕らえろ!」


う~ん、自分の都合のいい事しか信じないタイプかな。

どうするか。

家紋の入った印籠とか無いしなぁ。

とりあえず王都からここまでどうやって来たのか説明するか。


「武闘会が終わってすぐにこの村にいるのはね、転移魔法でコタンの街まで来てからこの村に来たんだよ。転移魔法は知ってるかな?」


「転移魔法?フン!知ってるが、それが何だ?お前が使えるとでも言うのか?」


「うん、ほら」


リンク君の目の前の範囲で何度か短距離転移を繰り返す。

それを目にしたリンク君の目は驚きに染まる。

が、すぐに元の傲慢な態度に戻る。


「ふ、フン!転移魔法が使えるからなんだと言うのだ。転移魔法が使えるからジュン様だという証拠にはなるまい。さぁ失せろ!」


動揺はしてるが、まだ信じるつもりは無いらしい。

う~ん、他に何か信じさせる方法はあるかな。


「ねぇ、ジュン」


「何?アイ」


「なんか、すっごい腹立つ奴だし、ここは一発殴って気絶させて連れ帰らせれば?それから帰って来た領主に説明させれば信じるでしょ、流石に」


「私もそれがいいと思うよ、お兄ちゃん。何言っても信じそうにないし」


「ジュン様、それしか無いかと。大体たかが領主の三男がジュン様に対してあの口の利きよう。処刑されても文句は言えないかと」


「リリーもそう思うですぅ」


「わふ」


「わしもそれがいいと思うぞ。あの手のバカは何言っても無駄だ」


「そうねぇ、時間の無駄だし。私も賛成」


満場一致かあ。

しかしなあ、子供を殴ってわからせるというのも違う気が。

元教師としては抵抗のある考えだ。


「何をぶつくさ相談している!さっさと…んんっ?おお!なんと美しい!おい、そこの女達!お前達も俺様の妻となれ!そうすれば贅沢な暮らしができるぞ!」


「「「「は?」」」」


あ、そのセリフはダメだ。

流石にボクも看過できん。


「いい話だろう?そんな偽物魔王子の女男といるより、よほどいい暮らしができるぞ?さぁ馬車にっへぶぅ」


あ、我慢出来なくなって殴ってしまった。

しかも顔面を。

鼻が折れてるかもしれないな、これ。

治癒魔法を掛けておこう。


「おい、お前達」


「は、はい!」


未だ顔を青くして固まってるコタンの騎士達に命令する。


「このバカはさっさと連れ帰って牢にでも入れておけ。それから領主オットー・コタンに説明しておけ。あとの処断は任せるが、二度とこの村に手出しさせないようにと言っておけ。ああ、別の村なら同じ事していいわけじゃないとも伝えておけ」


「は、はい!畏まりました!」


バカを馬車に乗せてコタンの騎士達は帰っていく。

あいつに比べたらツオーレのバカ三兄弟のほうがマシだな。


「ふう、終った終った。じゃあ、ギン達が帰って来たら城に帰ろうか」


そう言ってアイ達の顔を見るが、なんかみんなニヤニヤしてる。

なんだよ、みんなの言う通りにしただけじゃん。


「ジュン、今の結構本気で怒ってたでしょ」


「普段のお兄ちゃんぽくない一撃だったねえ」


「見事な一撃でした」


「ジュン様、怒ってたですぅ」


「わふわふ」


そんな風にみんなにイジられながらギン達が帰って来るのを待ち。

タマモさんとギンの妹二人も結局来ることになり。

来た時より大幅に人数が増えて城に戻ることになるのだった。


尚、リンク君は帰って来た領主オットーにコテンパンにされ、性根を叩き直すため領軍の訓練に強制参加。肥満体が引き締まった筋肉の体になるまで続けられたという。

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