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第80話 捜索

「はぁぁぁぁ、いい湯だなぁ。たまらん」


「オッサンくさいよ、お兄ちゃん」


「でも、本当に気持ちいい~」


ギンの実家に帰って来たボク達は早速温泉を希望する。

一般家庭用の温泉風呂だったので男女別に別れて無かった。

そしてアイとユウが一緒に入ると引かなかったのでこの二人ならまあいいかと。

婚約者と妹だし。まだ子供同士だしね。見た目は。

ノエラももちろん入ろうとしたがリリーとセバストに捕まえてもらっている。

親衛隊二人にも入口をガードしてもらっているので安心だろう。


「ところで、どう?お兄ちゃん」


「何が?」


「全裸の美少女二人と混浴。男のロマンじゃない?」


「アーソウデスネー」


「む~。まぁいいわ。順調だから」


「順調?」


「なんでもないですぅ~」


気になるけど、今は温泉を楽しもう。

と、思いきや。

楽しめなくする人物がやって来た。


「失礼します」


「でたー!」


四人も見張らせたのにどうして!


「ふっ、私が本気を出せばあの四人は相手になりません」


身内に本気出すな!ていうか無事なんだろうな。

とりあえず転移魔法で逃げるしかないか。


「ちなみにジュン様の着替えは私が預かってますので転移魔法で逃げるのは御薦めしません」


仮にも主相手に何してんだ。

なんでこういう方面で一切引かないのこの子。

引くどころか押せ押せの一方だし。


「まぁまぁ、いいじゃないジュン。こんな美人が自分から男と混浴するなんて。実は凄い勇気を出してるんだから」


「そうだよ、お兄ちゃん。ただ一緒に入るだけよ。素直に眼福でしょ?」


なんか楽しんでないか、君達。

前世ではそんな事言わなかっただろうに、何故。


「一緒に入るだけだからね、ノエラ。それ以上は何もしないし、しちゃダメだよ」


「はい、ジュン様。ああ、ようやく念願のジュン様との入浴です」


そんな事を念願にしちゃダメ。

あともう少し隠しなさい。


なんとかそれ以上の事は起こらず。

温泉から出るとセバスト達に謝られる。


「済まない、ジュン様。ノエラを止められなかった」


「ごめんなさい、ジュン様」


頭を抑えながら謝る二人。

親衛隊の二人は未だ気絶してる。

薬物でも使ったのか?そこまでやる?


「いや、うん。悪いのはノエラだから。気にしないで」


本当に。疑いの余地なく。


「貴方達、そんな事ではジュン様を守る事などできませんよ」


だというのに、目を覚ました親衛隊に説教してるノエラ。

ハート強いな。


夜はギンの家族総出でもてなしをうけ。

出て来た料理は日本で旅館に泊まったら出て来るような料理だった。


「凄く美味しいけど、ギンの家ではこれが普通なの?」


「まさか。今日はかなり奮発してるでござる。父上はこの村の宿で料理人をやっているのでござるよ」


「宿は私の兄のでして、それで」


「なるほど」


ギンの家族はギンが次男で長男と長女次女がいる四人兄妹。

長男が父の跡をついで料理人になるのだとか。


「ギンが羨ましいですよ。王都で暮らすなんて」


「ね、ギン兄、私も付いて行っていい?」


ギンは家族に愛されてるようで何よりだ。

しかし、少し気になるのは


「ギンの言葉遣いは一人だけ違うようだけど、それはなぜ?」


「アハハ、やっぱり、そう思いますよね~」


「昔からの風習でサムライは語尾に『ござる』とつける者だってなってまして」


「それでギン兄は変な喋り方なんですよ。無理に使わなくてもいいのに」


ギンを見ると肯定とばかりに頷いている。


「まぁ、そうなんですよ。普通に話す事もできます。御不快であれば止めますよ」


「どちらでも構わないよ。ギンの好きなほうで」


「ありがとうございます、ジュン様」


「ジュン様ってやっぱりいい人なんだー」


「ねね、ジュン様。ついでに私も雇ってくださいよ~使用人でもなんでもいいので~」


などと、ギンの家族との宴も終わり。

夜には隣の部屋からこんな会話が。


「これはね浴衣って言って、こうして着るのよ」


「こうですか?」


「簡単に脱げちゃいますぅ」


「それでね、ユウ、引っ張って」


「うん、そぉ~れ~」


「あ~れ~!」


「と、こうやって男が女を脱がすのが定番なのよ」


なんか間違った使い方を教えてる気がする。

余計な事教えちゃダメだろう。特にノエラに。


とにかく寝てしまおう。

そして起きたら朝から温泉に入ろう。


そして翌日。

朝から温泉に入り美味しい朝食を貰って。

今朝は村をハティと散策していると。

何やら人だかりが出来ているので話を聞いてみる。


「何かあったんですか?」


「あ、これはジュン様。実は…」


話を聞くと。

最近近くの山に山賊が出て近隣を荒らしているのだが二日前にふらっとやってきた旅の夫婦が「じゃあ、わしらが軽く退治してやる」と向かったのだが未だ戻らないのだとか。


「その夫婦は非常に強そうに見えましたのでお願いしたのですが丸二日も戻らないとなると…」


「山賊どもは人数は多いので数に圧倒されたのかもしれません」


「村の自警団も大勢怪我人を出してしまいましたし」


ああ、こないだの治癒の時怪我人が多かったのはそれでか。


「しかし、ジュン様に治癒してもらった事で捜索隊も出せるかと思いまして。今相談を」


「そう言う事ならボク達が行きますよ。これでも冒険者として活動してますので」


「え…しかし、よろしいのですか?」


「ええ。ただ、この辺りの地理に詳しい人を道案内に一人付けてください。じゃあ一度戻って準備してきます。戻ろう、ハティ」


「わふっ」


準備をしにギンの家に戻ってみんなを集め事情を説明する。


「というわけで、ボク達で捜索と場合によっては山賊退治に行く。準備をして」


「「は~い」」


いつものメンバーに今回は親衛隊の二人を連れていく。

ギンはお留守番だ。


「拙者も行きます。道案内が必要でござろう?」


なんかちょっと普通とござる口調が混じってるけど、まあそれはいい。


「ギンはまだ正式に親衛隊に入隊してないし、王都に行けばまた暫くは帰って来れないんだからゆっくりしとけばいい。まだ新しい刀もないんでしょ?道案内は村長さんに用意してもらうから大丈夫だよ」


「あ、はい…わかりました。お言葉に甘えます」


ギンの刀は武闘会で仮面少女、アイシスに折られたままだ。

今、村の鍛冶屋で準備中だ。

ちなみにボクも大小一組の刀を買って帰る予定だ。

観賞用というかなんとなく欲しいだけで実用品を求めてないので安物を買うつもりだ。


先ほどの場所へ戻ると村長さんと一緒にタマモさんがいる。

狩人のような恰好をして弓を持ってる事から彼女が道案内役なのか。


「村長さん、道案内役はタマモさんですか?」


「はい。タマモは普段から山に入って狩をしてますのでこの辺りの地形には詳しいのです。本人の希望もありますし」


「ジュン様にはリック様との結婚を破談にしてもらうのに村にいてもらわねばなりませんから。山に入ったまま戻られないとなると困りますし。それにしてもらってばかりではなく、こちらからも何かお返ししたいと思っていましたので」


「そうですか。わかりました、道案内お願いします。山賊がでる場所はおおよそ聞いてますか?」


「はい、聞いてあります。御案内します」


こうして急遽、山賊退治と旅の夫婦捜索にボク達は山に入る事になる。

そして予想外の出会いを果たすのだった。

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