第71話 武術部門決勝トーナメント 4
武術部門決勝トーナメントもベスト4まで決まった。
今日は準決勝までで決勝は二日後。
魔術部門の決勝もその日に行われる。
ボクとの試合はその後だ。
まずは準決勝第一試合。
仮面少女vsクリステアだ。
「アイの予想だと仮面少女の勝ちなんだよね?」
「うん。やっぱり強いよ。紋章もまだ謎だし」
仮面少女の紋章は知れば対処出来る類の物じゃないと思うけど、やはり知ってるのと知らないとでは違うだろう。
「防御力はクリステアが上だと思うけど、その他は仮面少女の方が上かな」
「ウチもそう思う。でも、それはクリステア本人も分かってると思うよ」
そう、クリステアも分かっているはず。
ならどうするか。
そこがポイントになりそうだ。
『さあついに準決勝です!美少女vsクリステア!謎の美少女は謎の力を持っていました!今回は見れるでしょうか!?ちなみに前回見れた可愛いお尻は別のズボンに変えたようなので見れません!残念だったなロリコン共!』
ノリノリだな、ウーシュさん。
仮面少女は恥ずかしそうにしゃがんで頭を抱えてる。いくら強くてもそこらへんは年相応の反応だな。正確な年齢は知らないけど。
『対するクリステアさんは今回は重鎧ではなく軽鎧で登場です!全出場者の中でも最も美人でスタイルが良いと評判の彼女!今回は揺れる胸が堪能出来ますよ!良かったなスケベ男子共!』
クリステアはいつもの重鎧ではなく軽鎧で出てきた。防御力を捨て動き安さを重視したんだろうか。胸当ては固定されてないタイプなので確かに揺れるだろう。
「確かにあれなら動き安いだろうけど、せっかくの防御力が高いっていう優位性が失われるんじゃないか?」
「そうでもないんじゃないかな。クリステアの防御力は盾ありき、だから。盾さあれば防御は大丈夫だと踏んだんでしょ。あの力を使われたら重鎧だって簡単に斬られてしまう。それにあの子だってクリステアを殺す訳にはいかない。だから重鎧じゃなく軽鎧を着ることで迂闊に攻撃出来ないようにしたんじゃないかな」
なるほど。攻撃範囲が限定されるのか。
そして限定された範囲なら盾で防ぎ切ってみせるということか。
『さぁそれでは!試合開始です!』
開始して直ぐ、お互いにダッシュして中央で打ち合う二人。
一見するとクリステアが優勢だ。
だけど仮面少女はまだあの力を使ってない。
対してクリステアは紋章の力を既に使っている。
クリステアの消耗は激しい。
しかし、仮面少女が後ろに下がった瞬間。
クリステアが仕掛ける。
盾気をクリステアの身が隠れるほど広げてから
「シールドインパクト!」
を、放つ。
盾を前面に出し相手にぶつかり突き飛ばす技。
ルチーナとの試合でも見せた技だ。
仮面少女は大剣を盾にするようにして耐える。
そして反撃をしようと剣を構えた時、盾は地面に落ち、正面にクリステアの姿は無かった。
「こっちです!」
「!」
盾と必要以上に広げた盾気を身を隠す壁にして、盾を捨て死角に回り込んだのか。
「せぇい!」
仮面少女の左側に回り込んだクリステアは仮面少女の左腕を斬りつけ、追撃の蹴りを放ち仮面少女を蹴り飛ばす。
「!」
仮面少女が体勢を立て直す間に盾を拾い構えるクリステア。
まさか自分の命綱である盾を一時とはいえ捨てるなんて。
思い切った戦法だな。
「あの力は使わないのですか?」
「‥‥‥」
クリステアの問いに仮面少女は答えない。
いや、薄々思ってたけど、あの仮面は声を封じる効果のある魔法道具じゃないかな。喋れないって訳では無さそうなのだが。
「もしや使わないのではなく使えないのですか?」
「!」
使わないのではなく使えない、か。
考えられる理由は幾つか浮かぶ。
「消耗が激し過ぎるのですか?それとも一日で使用出来る回数、もしくは制限時間がある?他人に見せたくないというわけではないでしょう?もう見せてしまったわけですし」
あとは使用するには条件がある場合か。
「それともあの力を使わなくても私に勝てると思っているのですか?だとすればそれは思い上がりというものです」
確かにそうだろう。
実際に優勢なのはクリステアなのだから。
実情はクリステアにも余裕が無いのだが。
「さぁ、どうするのです?」
「‥‥‥」
仮面少女は無言で立ち上がり剣を構える。
そして剣と体が輝き始める。
「ようやくその気になりましたか」
ステファニアさんに見せた時より輝きが強い。
それに左腕の傷の出血が止まり傷が塞がっている。
「治癒の効果まであるのですか?いえ、自己治癒力の強化でしょうか。厄介ですね」
クリステアは油断なく構え観察している。
確かに身体能力の強化だけでなく自己治癒力の強化まであるなんて厄介極まりない。
準備が終わったのだろう。
仮面少女が攻撃を始める。
「速い!近くで見ると一層に!」
形成逆転。
一気に劣勢に追い込まれたクリステア。
防御で手一杯だ。
「速いし一撃一撃が重い!ですが!」
タイミングが読めたのか、仮面少女の大剣にシールドバッシュを当てて弾くクリステア。
そこで両者の動きが一度止まる。
「確かにその力は強い。ですが私の防御力を超えるほどではないようですね。何よりかなり消耗するようですね。随分お疲れのようで」
確かに、仮面少女の消耗は激しいようだ。
肩で息をしてるし汗も大量に流れてるようだ。
このまま持久戦に持ち込めば仮面少女の方が先に力尽きるだろう。このまま行けばだが。
「さぁ、続きをしましょう」
クリステアがそう言って構え直す。
すると仮面少女の輝きが増す。
「まだ強くなるのですか。底が見えませんね」
更に力を上げた仮面少女の攻撃力はついにクリステアの防御力を超えた。
盾気で強化された盾を切り裂いたのだ。
そして剣気で強化された剣も切り飛ばした。
「私の、負け、ですね・・・」
ついに勝敗が決まる。仮面少女の勝利だ。
『美少女の勝利です!クリステアさんも頑張った!素晴らしい試合でした!二人に惜しみない拍手を!』
拍手が贈られる中、大剣を杖代わりにするように体を支える仮面少女。やはり消耗が激しく立っているのもやっとなのだろう。
しばらく、その場から動けないでいたがやがてクリステアの肩を借りて去っていった。
基本、いい人なんだよねクリステア。
なんであんな残念な部分が出来てしまったのか。
続く準決勝第二試合は師匠とフィーリアさんの試合だ。
師匠が勝つと思うけど、フィーリアさんもかなり強い。
果たしてどうなるか。
『続きまして準決勝第二試合!カイエンvsフィーリア!イケメン騎士のカイエンさんは新設されたジュン様の親衛隊隊長だそうです!イケメンな上に強くて出世もしてる!正にイケメン・ザ・イケメン!』
何だよ、イケメン・ザ・イケメンて。
ていうかどこから情報を仕入れてるんだウーシュさんは。
「あ、それは私。カイエンさんの情報が欲しいって頼まれたから教えて欲しいって言われて~。結婚相手を探してる子が沢山いるみたいよ~。観客にも」
なるほど、ママ上が犯人だったか。
だからってそんな簡単に個人情報を流していいんだろうか?よくはないと思うんだけども。
『対するはハーフエルフのフィーリアさん!冒険者で現在恋人無し!この春から王都で暮らし始めたそうです!王都で暮らしてる人は仲良くしてあげること!』
本当にいいのかな、そんなに喋って。
後で問題になっても知らないぞ。
フィーリアさんは何か食べながら試合会場まで歩いている。
普通ならそんな事したら動きが鈍くなるんだが。
「あれは、今も加速の紋章を使ってるということかな」
「多分ね。燃費の悪い紋章らしいし。少しでもエネルギーを回復してるんでしょ」
「なんだかリスみたい」
確かに頬を膨らませてモグモグしてる姿はリスを思わせる。
元々の容姿も相まってかなり可愛らしく見える。
『それでは!準決勝第二試合開始です!』
開始直ぐにフィーリアさんは師匠の周りを高速で走り出す。
今までで最高の速度だ。
やはり試合前から使用し最高速度を上げていたのだろう。
しばらくただ走っていたフィーリアさんが攻撃を始める。
今まで使って無かった腰周りに付けたナイフを投げ始めた。
師匠の左側から投げたと思えば直後に反対側から投げる。
左から右、前から後ろから。
前後左右からナイフを投げるが師匠は全て防ぐ。
すると投げナイフだけでなく自身が持った短剣での直接攻撃も混ぜてきた。
投げたナイフよりも速くヒット&アウェイを繰り返すフィーリアさん。師匠は防戦一方。
かと思いきやフィーリアさんの攻撃に合わせて師匠が剣を振る、そして鮮血が舞う。
「もう動きは読めました。確かに貴方は速い。ですが貴方は自分の速さを生かし切れていない。そうやってぐるぐる回るか、直線的に動くのがせいぜい。そして恐らく今の速度が制御できる限界速度とみました。それ以上速くすると自分から場外に出たり壁に激突したりするのでは?」
攻撃を受け走るのを止めていたフィーリアさんが苦虫をかみつぶしたような顔をしてから再び走りだす。
図星だったようだがそれしか戦法が無いのだろう。
今までの相手はそれで倒せたが師匠には通用しなかった。
それだけだ。
やがて少しずつダメージを受けたフィーリアさんはみるみる失速し、パタリと倒れる。
「お、お腹空きました~」
初めて喋ったと思えばそんなセリフか。
そんなに長時間戦って無いはずだけどやはり加速の紋章は燃費が悪いらしい。
『え、え~と試合終了ですよね?カイエンさんの勝利です!』
準決勝にしては何とも呆気ない幕切れだが勝利は勝利。
これで決勝は師匠と仮面少女に決まったわけだ。
明日は魔法部門決勝トーナメントだ。




