第62話 変態は強いのかも知れない
王都会場予選参加者数は五百二十名。
その内三百四十名が武術部門で出場。
残り百八十名が魔法部門で出場。
それぞれトーナメント方式で八つのブロックに別れておりそれぞれのブロックで優勝すると予選通過となる。
基本ルールは相手を戦闘不能とするか参ったと言わせるか場外に出すかで勝利となる。
相手を殺した場合、外部から第三者の協力があった場合は反則負け。
武術部門では魔法禁止。魔法部門では魔法発動媒体としての使用以外武器の使用禁止。
紋章の使用はどちらも可。となっている。
まずは武術部門の予選からだ。
正直あまり大した事がない。
アイや師匠には遠く及ばない者ばかりだ。
しかし油断できない人も確かに混じっている。
師匠にクリステア、ルチーナはもちろんだが。
今戦っている棒術使いの男、いや棍棒?
少林寺とかで使ってそうな棍棒使いが強い。
攻守共にバランスの取れた強さだ。
如何にも武道一筋の真面目そうな・・・
「あ、ジュン様あ~ん。見ててくれたあ~?この勝利貴方へ捧げるわ~」
お前もかーい!
多いなオカマさん!
クネクネしなくていい!
次に強そうなのはノエラやティナ、ニィナと同じ短剣二刀流の女性。
ハーフエルフだろうか。
スピードを活かしたヒット&アウェイを繰り返し相手が疲弊した所に必殺の一撃を叩き込む。
ノエラ達も自分と同じような戦いをするその女性に注目しているようだ。
そしてこの人のこの強さは何だろう?
最早意味が解らない。
ハンマーで相手の武器や防具を破砕しているのだ。
装備を破壊されては立ち向かえない。
なら武器を必要としない体術使いならどうかと思ったがあっさりと撃破。
あの人のアレはなんなんだろう。
「お父さん、ステファニアさんのアレはいったい?」
「う~ん。わしもよくわからんのだがな。アイツは鍛冶屋だろう?だから武器や防具のどこを叩けば壊れるとか見ただけで解るとかなんとか。つまり武器や防具の弱点が解るらしい」
なんという能力。
鍛冶屋としての長年の経験から生み出された能力なのだろうか。
そして性質が悪い事に。
「壊れちゃった装備は私の店で直してあげるからねえ~。安くしとくわあ」
自分の商売にキッチリ繋げているのだ。
まあボクなら自分の装備を壊した人のとこで修理を頼むのは嫌だが。
とゆうかあんな壊れ方してるのに直せるのだろうか。
更にたちが悪いのは男性相手だと上半身裸にしてしまう事だ。
明らかに楽しんでいる。
武術部門で強者は以上だろうか。
この六人はブロックが別なのでつぶし合う事はない。
皆危なげなく勝ち進んでいる。
他に眼に付くのは女性参加者とオカマさんの頑張りだ。
皆気合の入り方が違う。
「私は勝つ!勝って独身生活に終わりを告げるんだ!」
うん。幸せになって下さい。ボク以外の誰かと。
「オホホホホ!ジュンちゃんの処女はあたしのモノよ!」
ボクの処女はボクのです。
あの人は危険人物だな。近づくのも避けよう。
「ギルドマスター、あの独身生活を終わらせたい女性と目的が一致してるんじゃないですか?」
「バカ言ってるんじゃねぇ。俺はもっとお淑やかな女が好みなんだよ。あんな胸まで筋肉になってそうな女に興味はねえ」
「そうですか。ところでモンジェラさんとは仲良くしてますか?」
「モンジェラ?何であいつが出てくる?」
「いえ、以前話をする機会がありましたので何となく。サブギルドマスターなんでしょう?」
「ああ、まあな。俺が体調崩してる間はギルドをよく支えてくれたぜ。差し入れとか持ってきてくれたりもしたな。いい奴だぜ」
「そうですか。いい奴ですか」
モンジェラさんがギルドマスターに惚れてるのが確かかは横に置くとして。
少なくともギルドマスターはモンジェラさんの好意に気が付いてる様子はない。
モンジェラさんの恋は多難だな。
そして武術部門の試合が全て終わる。
勝ち残ったのは、師匠・クリステア・ルチーナ・ステファニア・棍棒使い・ハーフエルフの女性・独身女性・オカマさんだ。
おかしい。
勝ち残ったノーマルな男性が師匠しかいない。
変態な奴ほど強いというのか。
いや、まあ流石に偶然だろう。
より変態な奴が強いとなるならボクも変態にならなくてはいけなくなる。
あれ以上の変態になるなんて嫌すぎる。
予選を突破した師匠達が貴賓席までやって来る。
「三人共、お疲れ様。予選突破御目出度う」
「有難うございますジュン様」
「「有難うございます」」
「三人共、危なげなく勝ってたけど三人からみて強そうなのはいた?」
「私は予選突破した者以外は特には」
「私も同じです」
「私もです」
ボクも同じ意見だ。
「なら予選突破者の中には?」
「ステファニアさんですね」
「はい。あの人は強いです」
「というかどうなってるんですか。八人中四人は変態じゃないですか。変態のほうが強いんですか」
うん。ルチーナさんの意見には激しく同意。
どうなってるんでしょうね。
「ルチーナ。その四人とは誰の事です」
「もちろん、あのオカマ三人と姉さんよ。決まってるじゃない」
「私はまだ変態じゃありません。まだジュン様に調教されてませんから」
「いや、もうその発想からして変態だから。手遅れだから」
それも同意。全く異論なし。
「既に変態・・・?まさかいつの間にか調教されていたと?流石ジュン様です!」
「「違うから!」」
ああ、クリステア、貴方はどうしてこんなにも残念なの。
「とにかく、もうすぐ魔法部門の予選が始まるから大人しく座ってなさい」
「はい。わかりました」
ボクの後ろの席に着いたクリステア。
そして何故か鎧を脱いでボクの後頭部に胸を押し付ける。
「クリステア、何をしている?」
「お好きかと思いまして」
うん。好きか嫌いかで言えば好きだけども!
「ルチーナさん、出番です」
「あ、はい!すみません!あっけにとられてしまいました!」
姉の突然の行動に驚いていたようだ。
無理もないと思う。
「姉さん!恥ずかしいからやめて!」
「私は別に恥ずかしくありませんよ?」
「私が恥ずかしいの!」
「ルチーナが?ああ、大丈夫ですよ。ルチーナの胸もそのうち大きくなりますよ」
「誰が胸の話してるのよ!ちょっとばかり大きいからって!大体私は小さくはないわよ!平均よ!平均!」
「そうでしょうか?」
「むっきー!」
ルチーナさんの胸は確かに平均くらいだろうと思う。多分。
しかし比べる相手が悪かった。無情。
「押すわね、クリステアさん」
「私も押したいけど、今はまだ武器がない・・・」
「そうだね。でもあと三、四年でいけるわよ」
ナニが三、四年なのかは聞かないでおこう。
きっと藪蛇になる。
「楽しそうだな。お前ら」
「そう見えます?」
「おう。人気があるのはいい事じゃねえか。嫌われ者の支配者なんていないほうがいい。不幸しか招かないからな」
それはそうかも知れない。
嫌われてるよりはいい。
愛されていれば前世のような一人で寂しい最後を迎える事もないだろうから。
「魔法部門の試合が始まったよ、お兄ちゃん」
魔法部門の出場者に知り合いはいるのかな。
あ、いた。
「ジュン様ー!私が勝ったらデートしてくださいねー!」
「ちょ!フレデリカさんずるい!ジュ、ジュン様ー!私も頑張りますー!」
あの二人は治癒魔法使いとして王都の病院で働いてるフレデリカとベリンダじゃないか。
病院はいいんだろうか。
今日は武闘会だから怪我人が大勢出てると思うのだが。
「武闘会の参加者は学校で治癒魔法を学んでる生徒の練習台になってもらってる。教師も同行してるから大丈夫だ。病院も一人、上位治癒魔法使いが残ってる」
もう一人というとニコルか。
彼が貧乏くじ引かされたのかな。
「普段病院で治癒魔法を使ってるから魔力は上がってそうだけど攻撃魔法とか使えたかな、あの二人」
「大丈夫でしょ。自信があるから出たんだろうし。それにフレデリカさんて魔法兵団出身じゃなかった?」
そう言えばそうだった。
なら大丈夫かな。
他には誰かいないかな。
「あれ、あの人、魔法兵団団長のロレンタさんじゃ?」
「おう?本当だ、ロレンタじゃねえか。あいつも出てたんだな」
魔法兵団団長って。
城にいる魔法兵のトップって事でしょ?
「やっぱり強いんですよね?」
「まぁな。だからこそ団長なんだし。パワーよりテクニックで勝負するタイプだ。パワーもあるがな」
技巧派か。
せっかくだから試合を見て学ばせてもらおう。
「お前が考案して学校の魔法訓練に取り入れた方法な。あいつがいたく感心してたぞ。魔法兵団の訓練にも取り入れたくらいだ。頭の固いあいつがな」
「頑固者なんですか?」
「ああ。オマケに魔法の事ばっかりで男に興味ねえから未だに独り身だ」
「聞こえてますよ!魔王様!」
「聞こえてんのかよ!どんな地獄耳だ!」
凄いな。この喧噪の中、この距離の会話が聞こえるなんて。
ああ、でも一時的に聴力を上げる魔法とかあったような。
「他にはめぼしいのはいなさそうかな?」
「何人か魔法兵団所属の者が出てますがロレンタ団長程の者はいませんね。あとはわかりません。魔法使いの実力は見た目ではイマイチ測れませんので」
見た目では確かに魔法使いの実力は分らない。
でも魔法使いは相手の魔力を探る能力とか持ってる。
ボクも持ってるけど、こう大人数が固まってるとよくわからなくなる。
「あれ、お兄ちゃん、あの人」
「あ、シルヴィさんじゃないか」
魔法が得意なエルフであるシルヴィさん。
魔法は得意なんだろうけど戦闘とかできるのかな。
ちょっと心配。
しかしそんな心配は杞憂だった。
普段ののんびりした様子からはとても想像できない動きと魔法の腕。
並の魔法使いでは相手にならない。
あっさりと予選突破していた。
優勝候補の一人だと思う。
魔法部門では女性の参加者が多く、強いのも女性が多いようだ。
フレデリカにベリンダ。ロレンタ団長も予選を突破していた。
結局魔法部門では八人中七人が女性だった。
シルヴィさんとロレンタ団長が要注意だな。
あとは正直何とかなると思う。
油断したり落とし穴にはまらなきゃだけど。
あと魔法部門に変態はいなかった。と、思う。
少なくともオープンな変態は、だけども。




