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第552話 母、怒る 1

「こんばんは、ダーリン」


「夜遅くに…じゃないか。エルムバーンでは朝だったな。迎えに来てもらって、すまないなハニー」


 夏のバカンス二日目の朝。

仕事の都合上どうしても一日遅れで参加となったエルとミネアを迎えにエルミネア教国に来ていた。

時差の関係で、こっちでは真夜中だが。


「何だが疲れた顔してるな。どうかしたのか?ハニー」


「目に隈が出来てますね…寝ておられないのですか?」


「ちょっとね…今年最強の敵と闘って勝利を納めたばかりで…」


 昨晩は本当に危なかった。

幸い、婚約者以外の女性も居たし夜になったからって皆が皆一斉にボクに襲い掛かるなんて事は無く。

シャンゼ様が去年と同じく酒盛りを始めたので…一服盛る事が出来た。

ユウが危ない薬を持ってる事は理解していたので、カウンターとして用意しておいた鎮静剤と睡眠薬だ。

新魔法「トランスファー」で薬を皆の飲み物の中に転移。

誰にも気づかれずに一服盛る事に成功。

ただ大人数に盛る事になったので全員に充分な量を盛る事は出来ず。

朝まで眠らずに目を覚ます可能性があったので夜は寝ずに警戒していた。

その為に徹夜だったわけだ。

今夜もまた同じ戦いがあるので一旦王都に戻って薬を調達しないと.


「ダーリン、どうかしました?」


「いや、何でもない。ていうか、ダーリンとハニーは止めてって前にも言ったじゃない」


「そうなのですが…それだと他の婚約者の方々と同じですし。私はジュン様の女だと周りに示しませんと」


「そういう事だ。諦めてくれ」


「二人を婚約者にした覚えは無いよ…はぁっ…じゃ、行こうか」


 エルとミネアを連れて島へ。

二人の世話をする者達は連れて行かなくていいのか尋ねたら、魔族が大勢いる場所へ連れて行けるような信頼出来る者はまだ周りには少なく。残って仕事をしてもらわないとダメだそうだ。

まだ改革は終ってないし、今回のバカンスもかなり無理をしてスケジュールを詰めたそうだから、当然か。


「ただいま」


「御帰り~エルとミネアも、いらっしゃ~い」


「久しぶりねミネア。エルも」


「久しぶりだな、皆」


「御世話になります……あの、エリザ様?何かあったのですか?」


「不機嫌そうですね、御義母様」


「……な~んでもないのよ?我が子のヘタレっぷりに呆れてるだけで」


「眠った美女集団に手を出さない紳士さを褒めて欲しいくらいなんですけど、ボクとしては」


 皆が眠った後はちゃんと部屋まで運んでベッドに寝かせたのだ。

おかしな事は何にもしてない。

英国紳士も笑顔で褒めてくれる紳士っぷりに違いない。


「何言ってるの!そんな状況、むしろ手を出して然るべき!手を出さない方が失礼でしょ!」


「婚約者だけの状況ならまだしも……婚約者以外の女性がいる中で手を出すはずが無いじゃないですか…」


 正直、眠らせる事が出来なかったらかなりヤバかったが。

カミーユさんの『淫魔の紋章』の力に一晩抵抗出来た自信は無い。


「んっもう!こうなったら毎日ビーチバレー大会を開催して――」


「そんな事したら『キャンセラー』を破壊してでも帰りますからね。ていうか、いい加減怒りますよ」


「うぅ~……」


「どうしてそこまで不満なんです。二ヵ月後には結婚式を挙げるんだし…今ここで焦る必要も無いじゃないですか」


「私には夢があるの!」


「夢?」


「私は大勢の家族に囲まれながら暮らして、幸せな毎日を送って!そして死ぬ時は家族全員に見守られながら逝きたいの!」


「…今からそんな、死ぬ時の事なんて考えなくても…というか、それならなんでもっと子供を産まなかったんです?」


「う…だって子供を産むの大変なんだもん」


「……だからボクの妻に子供を沢山産ませようと?」


 自分で産みたくないから子供じゃなく孫を沢山作らせようと?そんな勝手な…


「うぅ…で、でも一人っ子じゃ可哀想だと思って頑張ってユウを産んだのよ?でもユウもジュンの婚約者になったし…ジュンに孫を沢山作ってもらうしか無いじゃない?」


「それがボクに子作りさせたい理由ですか。婚約者を増やさせたい理由も同じで?」


「そうよ」


「今の人数で十分でしょう。二十人以上いるんですよ?」


「ダメよ。それじゃ一人四、五人は産んでもらう事になるじゃない」


「――は?一体何人の孫が欲しいんです」


「ん~……最低百人」


「ひゃ!?百!?」


 そんなアホな。

友達百人作るのとは訳が違うよ?


「そんなに作る訳ないでしょう……相続問題とか色々起きるでしょうし。それに関しては今更な気もしますが」


「だーいじょうぶよぉ。ジュンに奥さんが何人居て子供がどれだけ産まれようと、私の財産だけで一生遊んで暮らせるだけの財を分配出来るから」


「へ?お母さんはそんなにお金持ちなんですか?」


「そうよ。私も冒険者時代に相当稼いでるし、魔王子様シリーズの売り上げと貴方達の似顔絵の販売も順調。莫大な財が築けちゃった。ちょっと想像できない額の貯金があるわよ?」


 ……贅沢をしてる様子が無いと思ってはいたが。

本や絵の売り上げはボクの妻や子供達の為に貯めてあるのか。


「だからジュン!とっとと子作りしなさい!婚約者ももっと増やして!もう三十人くらい!」


「い・や・で・す!」


「五十人くらい居ないと大変じゃない!子供産むのって大変なのよ!男には解らないだろうけど!」


「ママ上が孫百人なんて無茶な夢を諦めたらいいだけじゃないですか!せめて三十人くらいに抑えてください!」


「い・や!最低百って言ってるでしょ!本音を言えば二百人でも五百人でも、千人でもいいんだから!」


「孫百人って事は私にとっては曾孫が百人になるのよね?…いいわね~それ。ジュン、お祖母ちゃんも曾孫が百人欲し~い」


「ほらぁ!御義母様もこう言ってるんだし!早く子作りなさい!」


「それで『よしわかった!』ってなるならとっくに子供出来てますよ…」


「むぅ~…もうっ!」


 そんな子供のようにむくれてもダメなモノはダメ。

友達百人なら挑戦しても良いけど、妻五十人と子供百人は目指しません、絶対。


「えっと…つまり御義母様はダーリン…ジュンさんに早く子供を作って欲しい、と」


「それで昨日、折角お膳立てしたのにハニー…ジュンは誰一人手を出さなかった、と。そういう事ですか?」


「そうなのよぉ!女の子が全員眠ったのもジュンが一服盛ったからなんでしょ!?全くもぅ!」


「さ~て。何の事でしょう」


 流石ママ上。既に見抜いていたか。

こういう時のママ上は無駄に鋭いからな…ていうか、今回は本当にご立腹らしい。

此処まで怒ってるママ上は初めて見た。


「ジュンの行動も解らなくはないんだけど…一服盛るのはやりすぎじゃない?流石のウチも傷付いたんだけど?」


「私も。私はただお兄ちゃんと皆とで楽しい夜を過ごそうと…」


「ユウが婚約者全員に例の媚薬を配ってるのはもう知ってるからね?何人かは懐に忍ばせてボクに飲ませる機会を伺ってた事も」


「「「ドキィッ!!!」」」


 …やっぱりか。婚約者のほぼ全員…ハティとベル以外は全員か。

うん、彼女達にボクを責める資格は無いな。


「……はぁ。あのさ、結婚式まで二ヵ月切ったんだし。ベルは成人してからだから、まだ先だけど…他の皆はもう結婚式まで待って

欲しい。結婚式を終えたら…その…ね?」


「しかし…それでは…」


「何か問題があるの?ノエラ」


「ジュン様の初めてを頂戴する事が出来ないかもしれません」


「そんなん昨晩の状況でも一緒でしょうよ…」


 真面目な顔して何を言うかと思えば。クリステアもか。


「そうよぅ。私とジュン君の結婚式はフレムリーラで挙げるのよ?でもユウ達がエルムバーンで式を挙げた後だから、結婚式まで待ってたら私は確実にジュン君の童貞を奪えないじゃない。そんなの不公平よ」


「…ママ上の陰謀の御蔭で今夜も大ピンチですけどね」


 シャンゼ様もか。誰が童貞奪うとか、そんなに重要だろうか…


「ふむ…ジュンと婚約者達の中はそれほど進展していないようだな。なら…御義母様、わたしも協力します」


「こ、子供を沢山産めばいいんですよね?望むところです!」


「だから二人は婚約者じゃないから。望んでもダメ」


「う…ま、まぁ朝っぱらからこんな話もなんだ。折角昨日は早くから寝て今日に備えたんだし、遊ぼう!」


「そ、そうね。久しぶりの息抜きだし。楽しまなくちゃ」


「……ぷぅ」


 未だに不満そうなママ上を置いて。

ボク達は海を楽しんだ。午後からは昨日の告知した通り、昨日負けたチームだけが参加出来るビーチバレー大会二日目が決行された。そして各ブロックの優勝チームには昨日と同じ特典が与えられる。


 そして夜だ。

エルとミネアもアンナさんを助っ人に参加し、優勝していた。勿論アンナさんはこの場には居ないが。

他にはイザベラさん達やセフィさんやマーヒさん達の姿も。

サンドーラのダメダメ姉妹の姿が無かったのは一安心。

居ても関係無いが。


「ふっふっふっ…私達は昨日の者達のようにはいかんぞ、ジュン殿」


「睡眠薬の対策はバッチリです!」


「うふふ…さぁ、ジュン様?とろけてしまうような、熱い熱い夜を過ごしましょう?」


 早速ですか。

全員が部屋に入って椅子に座ったばかりだというのに。


 というか、部屋の外に人の気配がする。

僅かに殺気も…確実にユウ達だな。何やってるんだか…


「……仕方ないですね。わかりました、熱い夜を過ごすとしましょう」


「…え?ええ?ず、随分と素直に……」


「「「あ、あの私達は初めてなので、出来ればベッドで優しく…」」」


 そんなセリフをユニゾンで言わないでください。

真っ赤になって照れた顔も合わさって破壊力抜群です。


「ですが、部屋に入っていきなりというのもムードが無いでしょう?朝までまだまだ時間がありますし。美味い酒を提供しますから、少し飲みませんか?」


「…それ、薬が入ってるんじゃないのか?」


「入ってませんよ。入っていたとしても睡眠薬ですし、対策を取ってるなら、問題無いでしょう?」


「…いいだろう。確かにまだ早い時間だしな。一杯貰おうか」


「はい、どうぞ」


 ふっ…掛かった。

始めにセフィさんが口を付け、その酒の美味さに大興奮。

例のリンゴを使ったリンゴ酒。その中でも最高品質の物を提供した。

初めて飲んだ人ばかりだし、甘くて飲みやすいリンゴ酒はみるみると無くなり。

全てのリンゴ酒が無くなる頃には皆夢の世界の住人となっていた。


 ただ一人、マーヤさんは飲んだ事があるし前回も寝落ちしてるので警戒したのか中々寝なかった。仕方無く彼女には睡眠薬を盛った。対策はしていても酒の力も合わされば抗えず。こっそり睡眠魔法も使ったのでマーヤさんも無事夢の世界の住人になった。


 そして翌朝。

昨晩も何にも無かったと知ったママ上がついにキレた。


「もーうだめ!もーう許さない!ジュン!女の子に恥をかかせるのがどれほどの重罪か!私が思い知らせてあげる!」


「……その前に。未婚の王族の女性に手を出す事が如何にリスキーかママ上に思い知って欲しいのですが…」


「だーまらっしゃい!ジュン!私と勝負よ!」


「はい?」


「私が勝ったら今日中に婚約者を全員抱きなさい!子作りするまで部屋から出さないから!」


「……ボクが勝ったら?」


「結婚式が終わるまでもう何も言わない!勝っても負けてもジュンにとって何もデメリットは無い筈よ!言っておくけど、拒否権は無いわよ!拒否したら――」


「ボクの側近をオカマさんに変えるとかしたら、それこそ子作りに励む事は出来ないでしょうね」


「う”………も、もう一生スケスケドレスを着た女の子を見る事は出来ないわ!」


「受けて立ちましょう、お母様」


「いや…何故、その脅しに屈するんだ、ジュン…」


「ジュン殿…そんなにあのドレス好きなんですか…」


 勿論、アレを着た婚約者が見れなくなるのはこの世の地獄だからです、イーノさん、カタリナさん。


 こうして。遂にボクに子作りさせる為の強硬手段に出たママ上と勝負する事に。

バカンスに来た筈が…妙な事になったなぁ…

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