第54話 遺跡の奥で
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今日は王都より東にある遺跡に来ている。
ここはもう調査され尽くした宝も何もない遺跡なのだが最近ここにゴブリンが住み着いたので討伐依頼を受けたのだ。
ゴブリンは繁殖力が高く農作物や家畜を奪うので巣を見つけ次第殲滅が推奨されている。
知能はあまり高くないが人と同じように武器や防具、罠や道具も使うし中には魔法を使う者もいる。
そしてゴブリンの上位種、ホブゴブリンやゴブリンナイト。ゴブリンキング等も稀に現れる。
ただのゴブリンの群れは討伐難度Dだがゴブリンキングが率いる群れは統率がとれ討伐難度Bにまで上がる。
「しかし広い遺跡ねえ」
「この遺跡は発見されてからもう何十年も経っています。調査も完了しており罠の類も全て解除されてます。故にゴブリンも住みやすい場所なのでしょう」
「この遺跡は知ってたけど、来たのは初めてだ」
「そうだねクーちゃん」
今日はいつものメンバーに加えてクーとルーが参加している。
クーとルー。ティナとニィナはノエラとセバストによってメイドととして鍛えられているのだが戦闘訓練も受けている。
そこでそろそろ実戦を経験させたいという事で今回はクーとルーが参加する事になったのだ。
メイドに戦闘技術はいらないんじゃないかと思わなくもないが魔獣だけでなく盗賊団等もいる世の中だ。
身を守る術は覚えておいて損はないだろう。
夜の勉強は少なくとも今はまだしなくていいと思うが。
「クーとルーはこの遺跡を知っていたのかい?」
「ああ、じゃなくて、はい」
「あたしとクーちゃんはこの近くの村で育ったんです」
成程、故郷の近くだったのか。
帰りに故郷の村に寄ってみるかと聞いてみた。
だけど。
「いや、いい。じゃなくて、ええと行かなくて大丈夫です」
「家族はもういないし私達が行っても村の人達も気まずいと思うんです」
二人の話によると村は決して裕福とは言えない人達ばかりで。
身寄りのなくなった二人を助ける事もできず。
奴隷になった二人を気の毒に思ってはいても何もできなかった人達なのだ。
そこに戻っても、という事なのだろう。
「そっか。戻りたくなったら言ってね」
「大丈夫だ。いや大丈夫です。てゆうかやめろよー」
「アハハ、くすぐったいです」
なんとなくしんみりしたので二人の頭を撫でてみた。
クーは不貞腐れているがルーは笑ってくれた。
クーも照れ隠しだと思いたい。
「流石に巣だけあって多いわね、ゴブリン」
「ああ。小さい分すばしっこい。こうゆう遺跡内では奴らのほうが有利だな。気をつけろ」
既に遺跡の入り口から数えて二十匹は始末してる。
全てゴブリンだが偶に武器に毒を塗っている奴もいる。
油断は出来ない。
それからやがて大部屋に辿りつくと三方からゴブリンの集団が襲ってくる。
「よっ、はっ」「えいっ、えいっと」
ルーとクーの二人はお互いをカバーしあうように動いている。
流石双子だけあって息はピッタリだ。
二人の武器はセバストと同じく鉤爪で格闘をメインだ。
獣人の高い身体能力を活かして身軽に闘っている。
セバストとノエラはいつでも二人のフォローに入れるよう待機してる。
「はっ、せい!」「マジックアロー!」
アイとユウも問題なく戦えている。
アイはこの前、拳士の紋章が拳闘士の紋章に変化した。
故にますます格闘能力に磨きが掛かってる。
九歳の女の子の拳とは思えない威力を出している。
ユウの魔法も磨きが掛かっている。
特に魔法の連射速度に重きを置いているようだ。
アイから体術を習っているかいもあって華麗に動きながら魔法を連射している。
魔法格闘とでも言えばいいのだろうか。
「ガウ!」「ハティちゃん、右奥のはリリーが!」
ハティとリリーのコンビも中々だ。
フェンリルの子であるハティは牙と爪でゴブリンを攻撃。
縦横無尽に駆け巡っている。かなり早い。
そんなハティに当てないようにリリーも弓で攻撃している。
リリーの紋章も弓使いの紋章から弓闘士の紋章に変化している。
リリーの放った弓は小さな衝撃波が生まれただの矢でもかなりの破壊力となっている。
ゴブリン程度の細腕なら吹き飛ぶ威力だ。
飛距離もかなり伸びている。
「お。大物っぽい奴が」
小柄なゴブリン達の中にあって一際大きいゴブリンが。
ホブゴブリンかな?
「あいつがこの群れのボスっぽいね。あいつはボクがやるよ」
「了解。周りのは任せて」
「お兄ちゃん、がんば」
双剣を抜き二刀流でホブゴブリンに向かい走る。
周りにいる奴らがボクに攻撃しようと動くが
ユウの魔法とリリーの援護射撃、ボクも魔法を撃ち撃破する。
残った周りのザコはアイ達に任せてボクはホブゴブリンに攻撃する。
巨大なこん棒を振り下ろしてくるがそれを躱しこん棒を持つ腕を切り飛ばす。
そして怯んだとこへ距離を詰めて剣で連撃。
バラバラにする。
「お疲れジュン」
「流石お兄ちゃん、ホブゴブリンも瞬殺ね」
「みんなも凄いよ」
本当に心から思う。
他の冒険者を知ってるわけではないけどここまで強いパーティはそうはいないんじゃないだろうか。
に、しても前世で格闘家だったアイはともかくボクとユウは戦闘向きの性格じゃなかったんだけどな。
この世界に転生して魔族に生まれた影響なのだろうか?
「ジュン様、次はどうしますか?」
「とりあえず、ゴブリンの死体をまとめて。討伐証明の部位の回収を忘れずに。生きてる奴がまだいるかもしれないから油断しないで。それから生き残りがいないか探索を続けよう」
「「「はい」」」
ゴブリン達の死体は部屋ごとに一か所に纏めてある。
帰る時に焼いて周るのだ。
ちゃんと処理しないと腐敗して疫病の原因になるかもしれないしアンデット化してゴブリンゾンビになるかもしれない。
大切な事なのだ。
遺跡内の探索を続け最後の部屋に辿りつく。
どうやらホブゴブリン達を倒した時で最後だったようだ。
「じゃあ戻ろうか」
「わう!」
「ん?どうしたのハティ」
ハティが何か壁に向かって爪を立てている。
何かあるのか?
「わふっふ!」
「この先が空洞になってるってハティちゃんは言ってます」
「ルー、ハティの言葉が解るの?」
「あ、はい。なんだか変な匂いが漏れてるって。あたしも少し感じます」
「あたいはわかんないや」
「リリーも感じないです」
流石、狼のハティと犬人族のルーだ。
嗅覚に関してはこの中では飛びぬけているのだろう。
「確かに、この先は空洞、というより通路になってるようです。罠の類もありません。しかし妙ですね。冒険者ギルドで貰った地図にはこの先に通路はないはずです」
「つまり、新発見という事か」
「御手柄じゃないハティ」
確かに新発見となれば御手柄だろう。
冒険者ギルドに報告するだけで功績となるはずだ。
「開けれそう?ノエラ」
「はい・・・ありました。これで開くはずです」
ノエラが壁の一部を押すと隠し通路の扉が開く
ちょっとわくわくしてきた。
「ねぇねぇ、もしかしたらお宝とかあるんじゃない?」
「あるかもしれないねえ」
見つめあってニヤニヤするボクとアイ。
考える事は同じというわけだ。
「お宝・・・は、早くいこうぜ!」
「クーちゃん落ち着いて」
お宝と聞いて興奮するクー。
ルーはクーを窘めているが尻尾はブンブンと振られている。
内心は早く行きたくてたまらないようだ。
「まあ、落ち着こう。新発見の通路という事はここから先は罠が残っているかもしれない。先頭をノエラ、殿をセバストに変更だ。ノエラ、罠の類は解るよね?」
「はい、大丈夫です。ジュン様」
「よし、じゃあ行こう」
ノエラを先頭に通路を進む。
結構大きな通路だ。
だけど・・・
「ちょっと妙だな」
「何が?」
「通路にあまり埃がない」
「それがどうしたの?」
「この通路が本当に未発見の通路ならもっとずっと埃が積もってるはず。でもこれだと・・・数ヵ月前までは誰かがこの通路を使ってたかのようだ」
「ゴブリンが使ってた、とか?」
「だとすると今度は埃がありすぎだ。ゴブリン達もここは発見できてなかったと思うよ」
「ジュン様、扉です」
通路の奥には一つの扉だ。
遺跡の奥にある扉にしてはまだ新しい。
ますます妙だな。
「中に誰かいる気配は?」
「・・・気配はありません。誰もいないと思われます」
「罠は?」
「ありません」
「よし、開けて」
ノエラがゆっくりとドアノブを回す。
そしてゆっくりと扉を開ける。
中にあったのは・・・
「これは・・・研究室?」
「そう、ね。何かの研究室に見える、けど・・・」
既に廃棄された研究室なのだろう。
中は埃っぽく物が少ない。
「何の研究をしてたんだろう?」
「まあ、まず間違いなく録でもない事だろうよ」
ユウの疑問にセバストが答える。
ボクも同意見だ。
「ここは調査の終わった遺跡。その奥にあった未発見の部屋での研究。人に言えない研究してましたって事だろうね」
「だな。そして魔獣に関する事のようだな」
「魔獣?」
「見な。あれの中」
あれって・・・
巨大なビーカー?
いや培養層?
中にあるのは何かの骨か。
「魔獣の研究、か。魔獣の何を研究してたんだろうな」
「あ・・・」
「どうしたの?ルー」
「あの、あたし達のお父さんとお母さん、冒険者だったんですけど、見た事のない魔獣に襲われて殺されたって・・・」
「あ・・・」
二人の故郷はこの遺跡の近くだと言ってた。
そして二人の両親を殺したのがここで作られた魔獣だとすると。
「ここで新しい魔獣を作る研究をしていた、という事か」
そりゃあ人には言えない研究だろう。
こんな奥でこそこそするのもわかる。
「父ちゃん、母ちゃん・・・」
「クーちゃん・・・」
クーの様子が少しおかしい。
無理もない。
両親の仇とも言える存在の手がかりが急に目の前に置かれたのだ。
「ルー、その・・・御両親が殺されたのは、いつ?」
「あたし達がまだ六歳の時ですから大体四年前、です・・・」
と、すると少なくとも四年前にはここで何者かが研究していて数ヵ月前にここを放棄したって事かな。
「とにかく、一通り調べてゴブリンの死体の処理してギルドに報告に戻ろう」
「「「はい」」」
残念ながら研究室にはここで研究してた人物の手掛かりは無かった。
廃棄する際にそういった物は処分したか持ちだしたのだろう。
そして王都の冒険者ギルドに戻って来たボク達はウーシュさんに報告する。
「というわけです」
「調査が終わったとされる遺跡で隠し部屋を新発見ですか。それだけでも功績になりますね。そして謎の人物が行ってたとされる魔獣の研究。こちらはすぐさま冒険者ギルドを通して各国に通達が行くことになると思います」
「はい、お願いします。ところでギルドマスターは?」
「はい、ギルドマスターはまだ役に立ちそうにないのでサブギルドマスターが今は仕切ってます」
まだ立ち直ってないのかあの人。
失恋の苦い経験はボクにもあるが、いい歳したおっさんがそこまで・・・
いや、おっさんだからなのだろうか。
「あの人、なんでも指輪も購入済みだったらしいですよ。いい歳したおっさんのくせに恋愛経験値低いんだから、いいように利用されちゃうんでしょうね~」
容赦ないなウーシュさん。
いやボクらも似たような感想だったけども。
しかし指輪まで購入してたのか。
よっぽど本気だったんだな。
仮に両想いだったとしてもあのママさんの見た目では犯罪にしか見えないのだが。
「ギルドマスターも無謀な恋なんてしてないで早くモンジェラさんとくっついちゃえばいいのに」
「モンジェラさん?その人はギルドマスターに好意を抱いているんですか?」
「はい。本人は隠せてるつもりのようなんですけど見てればまるわかりです。さっきチラっと出たサブギルドマスターがモンジェラさんなんですけどね。まさしくデキる女ってやつでして。仕事は出来るし料理上手で気配りも出来る。背も高くておまけに巨乳です」
「へえ~そんないい人に好意を寄せられてるんだギルドマスター」
「はい。あんないい人そうそういないのに―――」
「ウーシュ、お喋りが長いですよ。後が支えてます。仕事に戻りなさい」
「ひゃっ、モンジェラさん、ごめんなさい。あ、こちらが噂のジュン様ですよ」
この人がサブギルドマスターのモンジェラ・・・さん?
ウーシュさんの背後に現れた女性?は背が高い、とゆうよりデカい・・・
2メートルは確実に超えている。
いや、そこはさしたる問題じゃなく。
問題ハ・・・
「あら、そうでしたか。初めましてジュン様。私はサブギルドマスターのモンジェラです。よろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします」
「どうかされましたか?」
「い、いえ、何でも・・・」
問題は・・・
そこに居たのはメスゴリラだと言う事だ。
どう見ても女性の服を着ただけのメスゴリラがそこに居た。
「ええと、モンジェラさんは料理上手なんですか?」
「え?ええまあ、料理にはそれなりに自信がありますが」
「そして仕事が出来て気配りが出来るモンジェラさん?」
「え、ええと誰がそんな事を?」
「ウーシュさんがそう・・・」
「そ、そうですか。褒められるのは悪い気がしませんが、ウーシュ、お喋りはやめて仕事なさい。では私はこれで失礼しますジュン様」
「は~い」
「はい、お疲れ様です・・・」
そうか。あのメスゴリラがモンジェラさん・・・
言葉遣いも仕草も御淑やかな女性そのもの。
仕事も出来て料理上手で気配りも出来る。
でも見た目がデカいメスゴリラ。
あのクラブのママさんがギルドマスターの好みだとすると
モンジェラさんとタイプの違いが激しすぎる。
モンジェラさんの恋は前途多難のようだ。
「じゃあ、これゴブリン退治の報酬と隠し部屋の発見の功績の報酬です」
「はい。ありがとうございます」
とにかくあの遺跡の研究室の主の件は父アスラッドにも報告して調査してもらおう。
本当にルーとクーを殺した魔獣を作った奴なら放っておくわけにも行かないだろう。
ギルドマスターとモンジェラさんの恋の行方は神のみぞ知るって事で。
今度神様と話する時聞いてみようかな。




