第53話 家妖精
「ハアァァァァァァァ」
「まぁまぁ、お兄ちゃん」
「そろそろ切り替えよ。パパっと終わらせればいいじゃない」
ユウとアイには励まされるが。
昨日、ギルドマスターの依頼を突っぱねたというのに。
依頼を一つこなして城に戻るとお父さんに呼ばれて頭を下げられる。
「すまん!ラルクの依頼を受けてやってくれ!」
「嫌です!」
「頼む~!アイツに一つ借りがあってだな!お前を説得するように頼まれたんだ!お父さんのお願い!」
そんな調子で結局押し切られてしまった。
おのれパパ上・・・どうしてくれよう。
とりあえず城にある対霊装備は片っ端から集めてぶん捕って来た。
あと心を恐怖から守る護符等も。
それでも件の屋敷に向かう足取りは重い。
それにしても幽霊やゾンビが怖いからその対策の為に神聖魔法を会得したのにそれがこうして自分の首を絞める結果になるとは。なんという皮肉。
「あ、見えて来たよ。あれでしょ」
「お~。中々雰囲気でてるね」
ユウとアイは前世からホラー映画とか好きだった。
この状況を楽しんでいるようだ。
いくら対抗手段があるとはいえ、今はフィクションではなくノンフィクション。
そこら辺を分かっているんだろうか。
「ほら。いつまでもそこに突っ立ってないで入るよ~」
「お兄ちゃん行こう~」
なんであの二人はあんなにやる気なのか。
「仕方ない。行こう。本当に仕方なく!」
今日もメンバーはいつも通り。
ボクとユウ・アイ・セバスト・ノエラ・リリー・ハティだ。
「ところでみんな幽霊とか平気なの?ユウとアイはあの通りだけど」
「オレは平気だぜ?」
「私も問題ありません」
「リリーも平気でっす」
「わふふ」
みんな平気なのか。
ハティにはちょっと笑われた気さえする。
「むしろジュン様はなんで苦手なんだ?特に今までアンデット関係で何も無かったよな?」
「その辺りは秘密にさせといて・・・」
アレは前世でまだ小さい頃にホラー映画を見たあと仕掛けられた父のイタズラにより盛大におもらしをし・・・幼少期に最悪のトラウマを植え付けられたのだ。
おのれ糞親父。
「で、その幽霊は屋敷のどこにいるって話なんだ?」
「屋敷のどこかとしか聞いてない」
「じゃあ一つ一つしらみつぶしに探すしかないのね」
そうなるのねえ。
早く終わらせたいのにい。
「オレが先頭でいくか。ノエラは殿だ」
「はい、兄さん」
入口から順に部屋を探していく。
そして神聖魔法で浄化して幽霊が存在できる場所を減らしていき追い詰めていくのだ。
「それにしても・・・なんで態々こんな屋敷を買うかね」
「そうですねえ、確かに修繕と補修で大丈夫そうですけどぉ」
「幽霊がいる屋敷だとは知らなかったみたいだけど、店から近いんだってさ」
「店?ギルドマスターのお知り合いってお店だしてるんですか?」
「らしいよ。クラブのママだってさ」
ボクも日本では付き合いで行った事はあるけれどあまり楽しくはなかった。
この世界ではまだ行ったことはない。
美人が多いこの世界だと楽しいだろうか。
「クラブのママねえ。ギルドマスターの恋が実る可能性は薄そうだな」
まあそういう御店で働く女性なら男の扱いには慣れてるだろう。
いいように使われてるだけでない事を祈ろう。
「いいように使われてるだけに金貨三枚」
「ウチなんて所持金全部賭けちゃう」
「では私は金貨五枚で」
「リリーは金貨一枚で」
みんな酷いな。
しかも結構な高額を賭けてるし。
「ジュンとセバストはどうするの?」
「オレもいいように使われてるに金貨一枚」
「ボクも同じ」
まあボクも同意見なので人の事は言えないのだが。
「アハハ。賭けは成立しなかったか」
「まあそうよね。クラブのママを落とせるような恋愛経験があればもっと上手いアピールをするでしょうしね」
そうして会話をしながら浄化を進め。
一階の浄化が終わり二階の浄化へ。
「で、そのクラブのママって独身なのよね」
「そう言ってたねえ」
「一人で住むにはこの屋敷広すぎない?」
「確かにね」
「もしかして誰かと結婚するんじゃないの?それで屋敷を買ったとか」
「そして、それはギルドマスターじゃないってわけだ」
「もしかすると自分と一緒に暮らすための屋敷だ、なんて思ってらっしゃるのかもしれませんね」
あ~・・・
そのママさんが既に自分にホレていて結婚するつもりで屋敷を買ったと思い込んでると。
ありそうだなあ。
それならあそこまで執着するのも解る。
それが事実ならともかく違った場合は痛々しすぎる。
「痛々しいね」
「少し気の毒になるほどね」
アイとユウの中ではもうギルドマスターが失恋する未来が確定してるようだ。
やっぱり酷いな。
「ジュン様」
先頭を歩くセバストの声に警戒が混じっている。
見つかったかな。
「その部屋?」
「ああ。ここは恐らく屋敷の主の私室だった部屋だな」
部屋を開ける前に深呼吸。
護心の護符を握りしめて。
「スーハー スーハー。よし、開けて」
膝が笑う。
血の気が引く。
護心の護符があってもやはり嫌なものは嫌だな。
「開けるぞ」
ガチャリと特に抵抗も無く扉が開く。
部屋の中に居たのは一見、普通の女の子だ。
メイド服を着てる女の子。悪魔族・・・いやハーフかな?
そして足が無く下半身が透けている。
「あら、お客様ですか?それとも新しい御主人様?」
「どっちでもないよ。ボク達は君を浄化しに来たんだ」
「あらあら。それは困りますのでお引き取りください」
ペコリと頭を下げるメイド幽霊。
護符のおかげもあるけど思ったより怖くないな。
このメイド幽霊が特殊なのだろうか。
「この子、自我が残ってるな。なら説得が可能かもしれないな」
「説得?」
「幽霊には自我が残ってるのと残ってないのがいる。自我残ってないのは問答無用で浄化するしかないが自我が残ってるなら説得して心残りを解消すると浄化できるはずだ。そっちの方が幽霊にとっちゃいい、とされてるな」
「なるほど」
自我が残ってるから怖くないのかな。
結構可愛い子だし。
「じゃあとにかく話を聞いてみよう。ユウ、アイ。頼むよ」
「は~い」
「おっけ~」
同じ女性のほうが話しやすいだろう。
ここはユウとアイに任せるとする。
決して怖いからじゃない。
「ウチはアイ」
「私はユウ。貴方は?」
「私はメリールゥと申します」
「貴方はどうしてここで幽霊に?」
「はい、私は・・・」
彼女の話をまとめると。
かつてこの屋敷には大きな商会の会長の一族が住んでいた。
そして強盗に押し入られた時、殺されてしまったのだと言う。
あれ?おかしいな?
「屋敷の主に殺されたんじゃないの?」
「いいえ?御主人様はいい人でしたよ?」
さてはあのオッサンまともに調査してないな。
「それでその時の強盗を恨んでここに地縛霊としてしがみついてるの?」
「え?いえ、強盗はその後、すぐ捕縛され主犯は打ち首。あとは犯罪奴隷に落とされたそうです。ですので誰かを恨んで成仏しないわけでは・・・」
「じゃあ何か未練があるのね?言ってみて。力になれるかもしれないわ」
「はい。実は私、ハーフ悪魔族・・・より正確に言えば人族とサキュバスのハーフでして」
「ふむふむ。それで?」
「それで生前に私、男性とお付き合いした事が無くて」
「あら。貴方可愛いのに勿体ない」
それは同感だけども。
なんだか話が妖しい方向に向かってきたな。
「それでハーフとはいえサキュバスなのに処女のまま死んだ事が未練で・・・」
「「「ああ~」」」
まさかの女性陣全員同意。
いや、ハティは無反応か。
「ですので、その、どうにか経験したくて成仏できずにこうしてるわけでして」
無理じゃない?それ無理じゃない?
もう肉体が無いわけだし・・・
こればっかりは・・・
「でも、それならどうしてここで地縛霊に?」
「ああ、いえ。私、ここに縛られてるわけではないんです。出ようと思えば出られます。ですが行く当てもないので」
出られるのか。
なら最悪、場所を変えてもらえれば依頼完了か。
「それで、ですね。私、幽霊ですのでいつかカップルの方々が来られたら女性に憑依させてもらって経験させてもらえないかな~って」
なんて恐ろしい事を考えるのでしょう。
他人の肉体で経験するなんてアリなのか?
「とゆうわけでみなさんの中にカップルの方は?」
「いやいや、いても駄目でしょ。それは流石に」
幽霊に体を明け渡して、その、・・・するなんて。
危険だし。
そのまま乗っ取られないとも限らない。
「私、憑依すると言っても憑依された人の意識を消し去るなんて出来ません。憑依して私が肉体の主導権を持っていても意識は私の心と同居してます。感覚を共有するだけなら私が主導権を持つ必要もありませんのでご協力してもらえませんか?」
ううう~む。
この子の言ってる事が本当だとしても、だ。
ボク達の中にそういう関係はいない。
強いて言うならボクとアイが婚約者だがまだ十二歳と九歳だ。
余りに問題だろう。
色々と。
「残念だけど、この中に君の期待に応えられる人は・・・」
「ジュン様。私は平気ですが」
いたよ。
ノエラが。
応えなくていいのに・・・
「一応聞くけど、誰とするつもりなの?」
「私の全てはジュン様のモノ。当然御相手はジュン様です」
デスヨネー。
そう言うと思った。
なにせこの場にはボクかセバストしか男はいないもんね。
「ボクにその気はありません。却下です」
「ジュン、ジュン。ウチもOKだよ」
「わ、わた、私もOKだよ!お兄ちゃん!」
駄目だろ。
何言ってんだ。
特にユウ。
「落ち着きなさい九歳児」
「リリーは・・・できれば初めては二人っきりが・・・」
「うん、リリーも落ち着きなさい」
この場にシャンゼ様がいなくてよかった。
いたらもっとややこしい事になってたよ。
「でもジュン。可哀そうでしょ?協力してあげましょ?」
「別にボク達じゃなくてもいいでしょ。この場にいない人でも連れて来るか、メリールゥを連れて行けば」
「こんな事に協力してくれそうな人に心当たりがあるの?」
「もしかして、そういう御店の女の子とか言うんじゃないでしょうね」
「ええ~。それはなんだかちょっと・・・」
「違うよ。そういうの喜んで引き受けそうな人がいるでしょ。悲しい事に身内に」
そう。
こういう方面に強いあの人の出番だ。
「とゆうわけです。お父さん、お母さん」
「私はいいわよ~。憑依プレイなんて、私でも初めてよ!」
「お前、だんだんエリザに染まってきたか?」
恐ろしい事を言わないでパパ上。
それからやっぱりノリノリなんですねママ上。
「元々、この依頼を受ける事になったのはお父さんのせいでもあるんですから協力してください」
「わかったよ・・・」
「じゃあメリールゥ。お母さんに憑依して」
「は、はい」
母エリザに憑依したメリールゥを父アスラッドに任せてボク達は退室する。
それから三時間後。
「よかったわぁ。まるで少女時代に戻ったみたい」
「わしも若い頃に戻ったような気分だった」
ソウデスカ。
ヨロコンデイタダケタヨウデナニヨリデス。
「ジュン、貴方は何を疲れた顔してるの?」
「イイエ、ベツニ」
御二人はツヤツヤした顔して・・・
まあこの二人はいい。
問題のメリールゥは・・・
「す、凄かったです。新しい世界が沢山見れました・・・。世界が凄く広く見えます」
あ、そうですか。
満足できたようならなによりで。
「じゃあ、メリールゥさん、これで・・・」
「はい。思い残す事はありません。これで・・・あら?」
なんだかメリールゥさんが淡く光ってる。
いよいよ成仏するのかなと思ったらどうも違うようだ。
光が収まったらなんだかメリールゥの透けて見えた体が普通に見えるし足もある。
ただし若干浮いているが。
これは一体・・・?
「もしかして・・・幽霊から別の存在に進化したのか?」
「そんな事あるの?セバスト」
「極稀にそういう事があると聞いた事はある。オレも見るのは初めてだ。ほら実体のない幽霊だったのが今は実体があるように見えるだろう?」
確かにあるように見える。
浮いている事以外は普通に見える。
「多分だけど、今メリールゥさんは半分幽霊、半分妖精のような存在になったのね。死後もずっと屋敷でメイドとして存在したのが影響したのかしら?鑑定する限りでは家妖精となってる」
家妖精と来たか。
普通の妖精が自然にある木や花。海や川等を根源として生まれるのに対し家妖精は人工物、家を根源として生まれる極めて珍しい妖精だ。
まさか幽霊が進化してなるとは思わなかった。
「私、生き返った、んですかね?」
「そう言えなくもないと思うけど・・・これからどうします?」
「そう、ですね・・・もしよければここで働かせて貰えませんか?家妖精として何が出来るのかまだよくわかりませんが、少なくともメイドとしては働けますので」
「お父さん?」
「いいんじゃないか?わしはかまわんぞ」
「私もいいわよ~」
「じゃあメリールゥさんはここで働いてもらおう。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして新たなメイドに家妖精のメリールゥさんが加わり。
今回の依頼は無事終了となった。
それから冒険者ギルドにてギルドマスターに報告し。
屋敷の前で例のクラブのママさんに会った。
「今回は助かりました。ありがとうございます」
「いえ・・・」
「今度よかったら御店のほうにいらしてください。うんとサービスしますよ」
「はぁ」
この人が・・・
ギルドマスターの想い人・・・
「ギルドマスター」
「なんだ?」
「犯罪ですよ」
「なんでだよ!」
いやだって、どこをどう見ても。
クラブのママさんは身長140cmあるかないかの犬人族の御子様にしか・・・
「いやママさんはこう見えてエリザと同い年だぞ。確か」
「ええ?嘘でしょ?」
「いやいや、本当に」
だとしたら年齢の問題は無いだろうけど、見た目の問題が・・・。
まああとは当人同士の問題か・・・
「まあ、とにかくこれで依頼完了でいいですよね。あとは御自分で頑張ってください」
「おう。大丈夫だ。ママさんのハートは既に俺のモノよ。ガッハッハッハ」
そして数週間後。
ママさんがある料理屋の店長と再婚しあの屋敷に住み始め。
ギルドマスターが酒場で泣きながら酔いつぶれる姿を連日見かけるようになるのだった。




