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第52話 指名依頼

オークションが終了してから二日後。

ギルドマスターに呼ばれて冒険者ギルドに来ている。


「それで、今日は何の話ですか?」


「おう。要件は三つだ。まず一つ目は、ドラゴンの素材の報酬が用意できたぞ。金貨で三千六百四十枚だ。受け取れ」


「はい、ありがとうございます」


「新米冒険者が稼いだ金額としちゃ破格だな。盗られるなよ」


確かにこんな大金稼いだと知られたら狙われそうだ。

特にリリーがやばいな。


「二つ目だ。あの調査依頼に参加した冒険者は全員ランクUPだ。それも2ランク。ジュンはFランクからDランクだな」


「一気に2ランクですか?」


「ああ、なんせ神獣のドラゴンから国を守ったわけだしな。妥当なとこだ。誰も文句言わなかったぞ」


つまりセバストとノエラがBランクに。

リリーがCランクになったわけだ。


「オレがBランクか。ジュン様が冒険者になるまではあんまりやって無かったのにな」


「私もです。ジュン様のおかげですね」


「リリーもCランクになれるなんて思ってなかったですぅ」


普通はランクが上がるのはもっと時間のかかるものらしい。

Dランクで一人前。Cランクでベテラン。

Bランクで一流。Aランクで超一流。

Sランクで英雄という風に見られてるとか。

まあボクが一人前と言えるかはかなり怪しいが

リリーは昔から狩をしてるしセバストとノエラも実際一流の腕前と言ってもいいだろう。


「じゃあ次な。お前さんに指名依頼だ」


「指名?ボクに?」


「ああ、俺が推薦したんだけどな。お前さん神聖魔法も使えるんだってな。それでな・・・」


「御断りします」


「あ?何だって?」


「御断りします」


にっこりと笑顔で御断りする。

だって嫌な予感がビンビンするんだもの。

冒険者に神聖魔法が必要な依頼なんて一つしかないだろう。

ギルドマスターには悪いけどボクはアレは苦手なんだ。


「いやいや。何でだよ。まだ依頼内容も言ってないだろうが」


「言ったも同然じゃないですか。神聖魔法が必要な依頼なんでしょう」


「ああ、まあな。神聖魔法の使い手も治癒魔法ほどじゃないがそんなにいないからな。いま王都にはお前さんしか空いてる奴もいなくてな。そこでお前さんに指名依頼をだな」


「ですから、御断りします」


「いやいやだから何でだよ。依頼内容くらい聞け」


「御断りします」


「いやいや、話が進まないから聞けって」


「断固拒否します!」


絶対にNO!

好き好んであんなのに対峙する依頼なんて受けない!


「お兄ちゃん、もしかしてまだ怖いの?」


「ジュンのそういうとこもウチは可愛いと思うけど、話くらいきいたげなよ」


くっ

ボクの弱点を知ってる二人がフォローしてくれないっ。

ここは味方してくれよっ。


「じゃあ話すぞ。俺の知り合いなんだがな。ある家、つうか屋敷だな。買ったんだがそこは幽霊、ゴーストの出る屋敷でな」


ほらあ、やっぱりだよ。

苦手なんだよー。

幽霊とかゾンビとかホラーなのは昔から苦手なんだよー。

この世界に幽霊やゾンビとかいるって知った時点で神聖魔法の訓練に熱が入ったものだ。

怖いからこそ、その対処に力を入れたのだ。

決して自分から関わる為ではないのだ。


「安い屋敷だったのはそのせいだったわけだ。しかし安いとはいえ屋敷を買ったんだ。簡単に手放せる買い物じゃない。そこでお前さんの出番というわけだ」


「はい、御断りします」


「だから何でだよ!頼むよ俺の顔を立てると思って」


「そんなに急ぎってわけでもないんじゃないんですか?その依頼」


「いや、確かに急ぎじゃねえけどよ」


「じゃあボク以外の神聖魔法使いが空くまで待ってもいいじゃないですか」


「いや、その知り合いにな大見得を切っちまったんだよ~。頼む!な?」


「もしかしてその依頼人、女性ですか」


「うっ。まあな」


「独身女性ですか」


「ま、まあな・・・」


「因みにギルドマスターも独身ですか」


「お、おう」


つまりこのオッサンはその女性に恋をしていていいとこを見せたかったと。

その気持ちは判らなくもないけども。


「その屋敷はそのまま使うんですか?」


「いや古い屋敷で長年手付かずだったからな。補修と改装をする予定だ」


「その幽霊って浮遊霊ですか」


「かつての屋敷の主に殺されたメイドの幽霊でな。その屋敷の主になった者を襲うらしい。その屋敷からでないそうだから地縛霊の類か」


「なんだ。なら話は簡単ですね」


「お!やる気になってくれたか!」


「ええ。魔法で屋敷を吹き飛ばしましょう」


我ながら名案だ。

これなら幽霊に会う事無く依頼完了出来る。


「何言ってんだお前!?」


「屋敷に縛られてる幽霊なら屋敷がなくなればいなくなるでしょう。何か問題が?」


「屋敷が欲しくて買ったのに屋敷を吹き飛ばしてどうする!?」


「でもどうせ建て直すんでしょう?」


「建て直しじゃなくて改装と補修だ!」


「似たようなモノじゃないですか」


「全然違ぇよ!中に残ってる家具だって高級でまだまだ使える物も有るんだ!魔法で吹き飛ばすなんて出来るか!?だいたい屋敷は王都に在るんだぞ、周りに被害が出るだろが!」


「ああ、その点はご安心を。結界魔法で屋敷を覆ってから吹き飛ばしますので周りに被害は出ませんよ。家具に関してはギルドマスターが買ってあげましょう。合理的にデート出来ますよ」


これで問題点は全てクリアだ。


「ああ、そうか。お前エリザの息子だったな。あいつもたまにとんでもない案を出すくせに妙に合理的だったり問題点の対策を考えてあったり。そういうとこそっくりだわ。お前ら」


それはどうも。


「だがその案は駄目だ。建て直しじゃあ金が掛かり過ぎる」


「じゃあ諦めてください」


「指名依頼だぞ?指名依頼を断るなんて普通はしないぜ?」


「断る事は出来るはずですし。だいたいこの依頼はギルドマスターが勝手に受けて来たんでしょう」


「う・・・」


「だいたい他の神聖魔法使いが空くまで待って貰えばいいだけじゃないですか。何が問題何です」


「いや、実はオークションの前に頼まれたんだ。既に結構待ってもらってる。これ以上は・・・」


「それはギルドマスターの見通しが甘かったですね。諦めてください」


「どうしても駄目か」 


「お断りします」


「そうか・・・わかった」


ようやく諦めてくれたようだ。

ギルドマスターには悪いと思うけど駄目なものは駄目なんだ。

今度別の何かで困った事があったら力に成ろう。


「じゃあ失礼します」


「ああ、また明日な」


明日?

まあ明日も何か依頼を受けに来るだろうけど。

何か含みのある顔してたのが気になるな。


そして翌日。

結局ギルドマスターの依頼を受ける羽目になるのだった。

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