第48話 敵
「お父さん、尾行や騎士団の配置は?」
「大丈夫だ。問題ない」
「じゃあ始めます」
ここは城の会議室だ。
部屋に大きな鏡を用意しそれに魔法を使う。
使用する魔法は召喚魔法の一種で召喚獣の視覚、見ている光景を鏡に投影する魔法。
『サモンプロジェクテイング』だ。
「あ、見えた見えた」
「便利ねえ、これ」
アイと母エリザが言うように便利だ。
この鏡に投影されている光景はこの作戦のために捕獲し契約したインビジブルバードのものだ。
フレムリーラの南方の森に生息する魔獣で魔族や人族を襲わない、虫や木の実を主食とする鳥の魔獣だ。
特殊能力に周囲の風景に溶け込む、まるで透明になったかのように姿を消す事ができる。
この鳥を捕獲するのは苦労した。
色んな意味で。主にシャンゼ様と同じ屋根の下にいる時が・・・
「ん?なあに?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
この話はやめとこう。
今、インビジブルバードはモーデフ達を上空から姿を消して尾行している。
その後方にセバスン率いる暗部数名の部隊とフェンリル一家。
さらに後方に騎士団の一部隊がいる。
各部隊には遠距離通信の魔道具を渡してありこの部屋から通信を送って指示が出せる。
現代地球で言えばここは総司令部でインビジブルバードは偵察機。
セバスン達が先行強襲部隊。騎士団が主力部隊といったところか。
戦力でいえばフェンリル一家がいれば十分なのだろうが。
フェンリルはそろそろハティに実戦を経験させるとか言ってたが
戦闘は無いまま終わるのが理想なのでハティの出番はないほうがいいのだが。
因みにハティもだいぶ大きくなり柴犬くらいの大きさにはなってる。
フェンリル一家の中ではまだまだ小さいのだが。
モーデフ達は王都を出て北の方向へ進んでいる。
エルムバーンの王都は日本で言えば大阪と京都と滋賀の境あたり?
この世界にも琵琶湖のような湖がありその南方の方だ。
微妙に地形が違うので断言は出来ない。
モーデフ達が向かってる先には港町がある。
そこから船に乗って反対側の大陸に渡るのだろうか。
しかし何故、わざわざ夜に出る?
てっきり朝早くに出発するものとばかり思っていたが。
モーデフ達の尾行を開始して数時間後。
モーデフ達の動きに変化があった。
急に、街道をはずれて森のほうに向かったのだ。
森の入り口まで行くとモーデフはランタン・・・いやカンテラか?
カンテラを使い何か合図を送る。
すると森の中からとても見覚えのある連中が出てくる。
「あいつらは・・・あの時の奴らの仲間か」
「はい、ジュン様。あの暗殺者達ですね」
あの暗殺未遂事件の時、同行していたクオンさんもボクの意見に同意する。
ここで奴らが出てくるとはね。
インビジブルバードに指示を出し、奴らの会話が拾える位置まで近づいてもらう。
インビジブルバードには特注の小型魔法道具を持たせてある。
こちらの声は送れないが向こうの声は聞こえる物だ。
こういう状況ではうってつけの魔法道具である。
「確認出来たか」
「ええ。貴方達がおっしゃっていたドラゴンで間違いありませんね。黒い鱗、片目片翼。どれも聞いた通りでしたよ。紋章の件は確かな事は言えませんが話から察するに既に持っていなかったのではないでしょうか?」
「何故だ」
「紋章を使う事は無かったらしいですよ」
「確かか」
「ええ。簡単に全部話してくれましたよ。魔王だ魔王子だといっても所詮は女子供。まるで疑うことなく話してくれましたよ。自分達は犯人を捜してるほうだから犯人に探りを入れられる事はないとでも思ってたんじゃないですか?馬鹿な連中だ」
こちらはそれを逆手にとってこうして尻尾を掴んだのだが。
こうしてると酷く滑稽だ。
「うふふ。こいつ捕まえたら殺していいのかしら」
「ええ、シャンゼ様。殺しちゃいましょう」
「うふふ。お兄ちゃんを馬鹿にする奴は肉片一つ残さず消却してやるわぁ」
なんだか怖い人達が傍にいるがスルーしよう。
部屋の温度が下がった気がするのに汗が出てる気がする。
きっと気のせいだ。
「しかし、ここまでくれば後は捕まえるだけだな。セバスン達ならあの程度の人数捕縛出来るだろう」
「いや、ガウル。そうもいかんのだ。あの黒ずくめの奴らは捕まったり行動不能の状態になると死亡する呪いを掛けられとる。情報が漏れるのを防ぐためなんだろうがな。胸糞の悪い呪いだ」
そうあの呪いのせいでこいつらを捕まえても無駄だろう。
ギリギリまで粘って自主的に話すのを期待するしかない。
と、思っていたのだが事態は急転する。
「では報酬を頂けますか」
「ああ」
ドサッ ドサッ
声も無くモーデフの部下が倒れる。
突然、黒ずくめ達が殺したのだ。
「な、何をする!」
「我らの事を知るお前は消去する」
口封じをするつもりか。
そんな事はさせない。
「お父さん!」
「わかってる!セバスン、モーデフを確保しろ!」
『御意』
セバスン達に連絡を送る。
セバスン達はいつでも動ける位置についていたようだ。
戦闘が始まる。
敵の人数は見える限り四名。
しかしまだ森の中にも数名いるだろう。
前回もそうだった。
対するセバスンの部隊は八名+フェンリル一家だ。
でも、あれ? フェンリル一家の姿が見えない。
モーデフを確保して後方に下がって全体を見ているセバスンに確認を取る。
『はい、フェンリル様方は森の中に潜んでる者を倒すと言い、森の中で戦闘中です」
流石だなフェンリル。言われなくても森の中の存在に気が付いていたか。
姿が見えていた四名はセバスンが一瞬で一人倒した後は敵一人に対し二人以上で対処して倒している。
森の中の戦闘も無事終わったようだ。
合流した騎士団達と死体の処理をしてもらった後、モーデフを連れて帰って来てもらう。
フェンリル一家は一足先に戻って来た。
人型になって部屋に入って来る。
「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
「ああ。問題ない。ハティも立派に闘ったぞ」
「わう!」
成長して大きくなったけどまだ人型にはなれないし人語は話せないみたいだ。
フェンリル曰くもう少しらしいけど。
「協力感謝する」
「構わぬ。城の中でずっと籠っていては鈍ってしまうゆえな。それにあの城は居心地がいい。住めなくなると困るのでな」
もうすっかりフェンリル一家はこの国に馴染んでいる。
ボクとしてももう彼らにはいなくなってほしくない。
きっとみんな同じだと思う。
「しかし、まあなにか礼をしたいというのであれば酒でよいぞ」
「私はハチミツ酒がいいなあ」
「お酒くらいいくらでも用意するわぁ。あとで一緒に飲みましょ」
「ふむ。たまにはよいだろう。つまみも用意しておけよ?」
ボクも大人だったら付き合いで飲むくらいはするんだけど。
でもお酒はあまり好きじゃない。
カクテルのようなジュース感覚で飲めるのはいいんだけど。
「あたしはジュン君でいいよ~」
「私も~。一緒に寝よ~」
ハティの姉二人はこんな事を言うのでハティがまた怒る。
「がうがう!」
「いいじゃない。たまには~」
「ハティのけちんぼ~」
そういう問題じゃないと思います。
「皆様、ただいま戻りました」
フェンリル達が戻ってからしばらくして後始末を部下に任せて
モーデフを連れてセバスンが戻る。
セバストとノエラはまだ別行動中だ。
他の監視対象についてる部隊を指揮してる。
「わ、私をどうするつもりだ」
「それはお前次第だな。質問に答えてもらおう。お前の知る限りの全てを話せ。手間を掛けさせてくれるなよ?拷問はあまり得意じゃないんだ。やりすぎて殺しちまう事が多くてな」
父アスラッドがわざと露悪的な物言いでそういう。
横ではガウル様が獰猛な笑顔で並んでいる。
母エリザはモーデフに見えるように拷問器具を取り出している。
てゆうかママ上、それパパ上に使ってませんでしたか?
「わ、わかった。なんでも言う。言うから助けてくれ」
しかし効果は抜群だったようだ。
モーデフはすっかり怯えきっている。
「じゃあまず、あいつらの正体だ。あの黒ずくめ共は何者だ?」
「し、知らない。奴らの名前も。何も知らない」
「・・・拷問が必要なようだな」
「待ってくれ!本当なんだ!奴らは突然現れてオークションであんた達に接触して情報を得てほしいって依頼してきただけなんだ!前金で金貨二百も出したんだ!受けるに決まってるだろう!」
前金で金貨二百か大金だな。
金に目が眩んだというわけだ。
「なら依頼の内容を詳しく話せ」
「あ、ああ。オークションにでるドラゴンが自分達が追い詰めたドラゴンと同一か調べて欲しいと。それから紋章を持ってたかを確認しろって」
やはり奴らの狙いは龍王の紋章だったのか。
奴らが龍王の紋章を手に入れたらろくな事にならないだろう。
「他には?」
「そ、それだけだ」
「お前、商会の代表だろう?よくあんな怪しい連中の依頼を受けたな」
「情報を集めて話すだけならなんら違法じゃない。調べる内容も国家機密でもないだろう。バレても問題ないと思っていたんだ」
「見通しが甘かったな」
「くっ」
悔しそうに俯くモーデフ。
いいように利用されただけだし部下も殺されてる。
踏んだり蹴ったりだな。
「他に何か聞いとく事あるか?」
「奴らが何者かわからねえてんじゃな」
確かにそこが一番知りたいとこなんだけど。
ボクもちょっと知りたい事がある。
「モーデフさん。奴らは何故、貴方に依頼したんです?」
「え?」
「オークションに参加する人物は他にも沢山いたでしょう。商人だって沢山いた。その中で何故貴方が選ばれたんでしょう?何か心当たりありませんか?」
「・・・あ、ああ!そうだ、思い出した!奴らは恐らくエルミネア教の信者だ!」
「ほう?よさげな情報が出て来たじゃねえか」
エルミネア教か。
ここで宗教が絡んでくるのかー。
前世でも宗教絡みの事件やらクーデターやらテロやら。
そういった報道を見ていたせいであまりいい印象をボクは持っていない。
偏見だとはわかっているのだけど。
「何故、そう思った?」
「奴らは最初、素顔で会いに来たんだ。場所が私の商会だったからな。顔を隠しては会えないと思ったんだろう。その中の一人に見覚えがあったんだ」
「続けろ」
「私も、エルミネア教の信者なんだ。それでいつかのエルミネア教の集会で見た事のある顔がいたんだ」
「だからお前を選んだと?」
エルミネア教の信者には魔族を憎んでいる者が多い。
だから魔族から情報を収集する役目を同じエルミネア教の信者に依頼したという事か。
しかし情報の漏洩を防ぐために同じ信者を殺そうとする。
なんとも矛盾してるように思うが。
「しかしお前の商会は魔族相手にも公平に商売してるらしいじゃないか。従業員に魔族はいないらしいが。エルミネア教の信者らしくないんじゃないか?」
「私はそこまで熱心な信者じゃない。エルミネア教の信者である前に商人だ。商売は公正であるべきだ。
それにエルミネア教の教えは魔族を憎めとか排除しろとかじゃない。魔族を信用しすぎるなという程度のものだ。魔族を憎む理由のある人族の多くがエルミネア教の信者になるからそういうイメージが広まったにすぎん」
なるほどね。
その中でも過激な人が奴らのようになるのか。
しかしこいつ、案外まともなんだな。
「そうか。よし、これで聞きたい事は終わりだ。お前の荷物と馬車は回収しといてやる。朝になったら解放してやる。冒険者を護衛に雇ってから帰るんだな。それまではこの城の一室で監禁させてもらう。監視もつくからおかしな事は考えない事だ。いいな?」
「わかった。感謝する」
「セバスン、連れていけ」
「畏まりました」
セバスンに連れられてモーデフが出ていく。
彼自身は戦闘能力はないようだし大人しくしているだろう。
「それで、どう思う?国が絡んでいると思うか?」
今得た情報を元に敵の正体を考える。
そして父アスラッドの言う国とは
「聖エルミネア教国、か。まあ話からすればそうつなげるのは妥当なようにも思うが、確証はないよな」
エルミネア教の信者は聖エルミネア教国にしかいないわけではない。
人族の国には少なからず存在する。
そういう聖エルミネア教国以外に暮らしてるエルミネア教信者が作った組織という可能性もあるだろう。
だけど・・・
「国の補助無く神獣のドラゴンを討伐しようなんて組織があるとも思えん。国が絡んでると見るのが妥当だが、いかんせん証拠がない。証拠がない以上、問い詰めても無駄だな。とぼけられたらそれで終わりだ」
それに証拠もなしにそんな事をすれば下手をすれば戦争の再開だ。
迂闊な事はできない。
「それに奴らがエルミネア教の信者なら、以前、ジュンを暗殺しようとした理由もわかるな」
「ああ。人族が魔族よりも優位だった点の一つが失われたしな。実際」
それどころかもはや逆転したと言っていいだろう。
学校も病院も訓練所も順調で各地に新たに建設する計画も進んでいる。
もはやボクや他の上位治癒魔法使いを暗殺する意味もない。
魔族を憎むエルミネア教信者ならその事態は避けたかっただろう。
それで命を狙われるほうはたまったものじゃないが。
「まあ、奴らの正体が見えて来たのは進展だ。この件に関してはこれからもダルムダット、フレムリーラの協力を願いたい」
「了解だ、アスラッド。俺達にとっても他人事じゃないしな」
「もちろんです。アスラッド様」
敵の正体が見えて来たことでエルムバーン・ダルムダット・フレムリーラ、三国の団結が強くなった。
共通の敵という存在はいつだって団結を深める要素足りえる存在のようだ。




