第46話 オークション 3
「そうですか。それは楽しそうですね」
「ええ、御薦めしますよ」
ボク達は今、オークション会場に集まってる人達と会話して情報収集を行っている。
今のところ怪しいと思える人物には出会っていない。
「ジュン君、そっちはどう?」
「シャンゼ様。こっちは特に」
「こっちも特に。来てないって事はないと思うのだけど」
ドラゴンを討伐してから今日までそれらしき接触は何もなかった。
今日を逃せばドラゴンの事を調べるチャンスは来ないだろう。
オークションで落札するか落札した人物を襲って盗めば別だろうが。
こちらももちろんその辺りは警戒している。
「失礼。御初に御目にかかります。エルムバーン魔王国魔王子ジュン・エルムバーン様と御見受けします」
「はい。その通りですが、貴方は?」
「おお、これは失礼しました。私はグラニア商会の会長、モーデフ・グラニアと申します」
シャンゼ様との会話中に割って入ったこの人物。
一見、好意的な紳士にみえる人族の男だ。
年齢は五十代だろうか。
白髪混じりの茶髪に髭のある紳士だ。
部下と思しき人物も二人連れている。
「実はうちの商会の支店をこちらの王都で出そうという計画を立てまして。それで今日はジュン様にお会いしたいと思いまして。オークションに参加させてもらいにきました」
「ボクに、ですか?今日は偶々オークションに来てますが毎回来てるわけではありませんよ?」
「ええ、もちろん。ですが今回は参加されてる可能性は高いと思っておりました」
「それは何故です?」
「今日のオークションの目玉の一つ、ドラゴンはジュン様が討伐されたと聞き及んでおります。御自分が討伐されたドラゴンがいくらで落札されるか気になるものでしょう?」
「成程、そうですか。ですがあれはボク一人で倒したわけではありません。ドラゴンが弱っていて強い仲間がいたからこそですよ」
「ええ、そうでしょうとも。しかしさぞかし強いドラゴンだったのでしょうな」
これは来たかな?
そう思ってシャンゼ様の眼を見る。
彼女も同意見のようだ。
「失礼、紹介が遅れました。こちらはフレムリーラ連合魔王国の魔王シャンゼ・フレムリーラ様です」
「シャンゼ・フレムリーラである。よしなに」
「おお、これはこれは。美しい御婦人だと思ってましたがフレムリーラの魔王様でしたか。御初に御目にかかります。モーデフ・グラニアです。以後お見知りおきを」
「それからこっちはダルムダット魔王国魔王女アイ・ダルムダット。こっちは妹のユウ・エルムバーンです」
「「よろしく」」
アイとユウはまともに相手する気がないのか
対応がおざなりだ。
「よろしくお願いします、お美しい御姫様方。何か御気に障りましたでしょうか?」
「いいえ、別に?」
「なんでもありませんよ?」
とてもそうは見えない。
顔は笑ってるが目が笑ってない。
警戒させるわけにいかないのに。
ここは話を戻そう。
「ところでボクに何か用があったのでは?」
「ええ、はい。ジュン様には是非、我が商会と懇意にして頂きたく思いまして」
「ボクと、ですか?父ではなく」
「はい。ジュン様の評判は私も聞き及んでおります。どれも素晴らしい話ばかりで、さらには最近、冒険者も始めたとか?我が商会は冒険者が必要とするであろう品も多数取り揃えておりますので」
「わかりました。支店ができた際は寄らせてもらいますよ」
買うとは言ってない。
寄るだけだ。
だってこの人なんか嘘くさい気がしてきた。
いや、初めから犯人の一味か?と疑ってるせいかもしれないが
どこか嘘くさい。
「はい。その時はお願いします。ところでジュン様に御伺いしたいのですが」
「なんでしょう?」
「討伐されたドラゴンはどのようなドラゴンだったのですか?」
結構ストレートに探りを入れて来たな。
相手が女子供だと思って舐めてるのか?
「えっとですね。まず鱗は黒ですね。とても大きな・・・十メートルは超えてたんじゃないでしょうか」
「ほほう。それは大きい。そういえば先ほど弱っていたとおっしゃってましたが?」
「ええ。片目と片翼が無かったんですよ。あれはあのまま放っておいても死んでたかもしれませんね」
「なるほど。そこまで弱っていたのですか。それではどのような能力を持っていたのですか?弱っていて大した能力は使っていませんか?」
「いやいや、とんでもない。ドラゴンブレスはとてつもない威力でした。幸い躱す事ができ森に一本の道と森のはずれに大きな穴ができただけで済みましたが」
龍王の紋章を渡した後、森の様子を見に行ったがドラゴンブレスの跡を見て絶句した。
半径十メートルほどの大穴が出来ていた。
直撃したらと思うと怖くてたまらない。
「ドラゴンブレスですか。噂に聞く限りは恐ろしい威力なようですね。他には無かったのですか?」
「あとは魔法を使ってきましたよ。これもかなりの威力でした。なんとか防ぐ事ができましたが」
「なんと、ドラゴンは魔法まで使うのですか。他にもなにか?」
「いえ、あとは特殊な攻撃は何も。爪や尻尾を振り回すくらいで。まああの巨体ですからそれもすごい威力なのですが」
「他には無かった、のですか?」
「はい。他にはこれといった能力は無かったですよ?」
「そうですか。有難うございましたジュン様。それではそろそろオークション開始の時間ですので。私はこれで」
「そうですか。それでは」
そういって彼らはオークションの席へと向かう。
なんだか判りやすすぎて返って確信が持てなくなりそうだ。
「さて、と。どう思うかね。諸君」
「な~に気取ってるのよ」
「そこはツッコむなよ。お前達だってさっきあからさまに態度に出てたぞ。警戒されちゃうとこだったろ」
「だってあいつの視線が気に入らなかったんだもの」
「私も」
「視線?」
「あいつ、ジュンに話しかける前、近づきながらずっとシャンゼ様のおっぱいに視線やってたわよ」
「え。そうなの?」
そこでシャンゼ様に目を向ける。
そしてチラっと視線を下げる。
うん、これは見ちゃうな。
その点に関しては彼を責める事はできない。
同じ男としてっ。
「そうね。見てたわねぇあいつ。気持ち悪いったら。あ、ジュン君は見てもいいのよ?触ってもいいし。何だったら今ここで触る?」
「見ません!触りません!何言ってるんです」
「お兄ちゃんこそ、何言ってるんだか。シャンゼ様と会うたびに視線をチラチラやってるくせに。あれでバレてないと思うのが男の浅はかさよね」
Oh、ばれて~ら。
だってシャンゼ様のおっきいんだもの。
谷間を強調した服ばっかり着てるし。
それで見るなってのは酷だと思うの。
「まあ話を戻そう。彼、モーデフ・グラニアだったか。どう思う?」
「黒だと思う。どの程度まで絡んでるのかわからないけど」
「私も同じ。敵意を隠すには笑顔。あいつ終始笑顔だったし」
妹よ、それはいささか無理があるのでは。
とゆうか商人の基本でもあるだろう、笑顔は。
「私も同じ。ただグラニア商会は実在するちゃんとした商会よ。魔族の国でも人族の国でも分け隔てなく商売してる。でもね」
「でも?なんです?」
「従業員は全て人族なの。ハーフ魔族も雇ってない。純血の人族だけで構成されてる商会なの」
「よくご存じですね」
「これでも魔王だもの。大きな商会の事くらい耳に入るわ」
といってもそれを覚えてるというのがすごい。
それこそそんな情報山ほど入って来るだろうに。
「さてと。それじゃお父さんやガウル様達と合流して情報交換と行きましょう」
「ちょっと待ちなさい、ジュン」
「何です?コルネリアさん」
シャンゼ様の後ろにずっといたコルネリアさんが不満そうな顔で呼び止めてくる。
なんだろう?何かしたっけか。
「あんたさっき私の事、紹介しなかったでしょ」
「あ。すみません。忘れてました」
本当に忘れてた。
シャンゼ様も紹介しなかったけど。
「忘れてたって、酷くない!?」
「コルネリア様、私も忘れられてるように思います」
ユーファさんも忘れてた。
でもユーファさんまで紹介する必要あったのかな。
友人のように思ってはいるけど一応はコルネリアさんの従者だし。
ユーファさんを紹介するならコルネリアさんがしなきゃだろうし。
「これはあれね。罰が必要ね」
「ええ。そうですねコルネリア様」
罰って。
そこまでの事なんですか?
「罰として今夜は私達と一緒に寝なさい」
「は?何言ってるんです?」
本当何言ってるんだこの娘っ子は。
てゆうか私達?
ユーファさんも入ってるのか?
「あ、いいわね、それ。私も混ぜて」
「ええ、もちろんよお姉さま」
「いやいやいや」
シャンゼ様も混ざるなんて危険な予感しかしない。
混ぜるな危険である。
「何よ。ただ寝るだけじゃ不満だっての?だ、だったらあんたも好きにしていいのよ?ムチを使ったり蝋燭を使ったり・・・」
「手錠や首輪もいいですね、コルネリア様」
「ほんと、ナニ言ってるんです!?」
この二人、こんなキャラだったっけ?
一体何があってこうなったのだ。
更にわからないのは護衛の女性騎士達も混ざりたそうにしてる事だ。
とにかくパパ上達と合流しよう。
ここにこのままいるのは危険だ。
パパ上達と合流しても事態が悪化する予感がするのは気のせいだと思いたい。




