第44話 オークション 1
「それで無事解決、でいいの?」
「紋章に関してはね」
紋章をホーリードラゴンに継承した後
ボク達は転移魔法ですぐさま城に戻って事の顛末をみんなに説明する。
もちろん秘密にするよう約束した事は秘密にしたままだ。
「ただ説明した通り、先代の龍王バハムートを誰が何の為に襲ったか、だ」
「今だ、どこの国も表明がないという事は明らかにするつもりは無いという事。調査させてるが何もわかっとらん。今はそのドラゴンがいたあたりを治めてる国に連絡を取って調べてもらう事になってる」
「あ、既に調査開始してたんですね、お父さん」
「当たり前だ。運よく大した被害も無く終わったが下手すれば王都が吹っ飛んでたかもしれんのだ。そうでなくともエルムバーンの跡継ぎを命の危険にさらされたんだぞ。犯人は捜し出してきっちり落とし前つけさせにゃならん」
「それはいいのですがお父さん、紋章の事は上手くボカしてくださいね」
「解っとる。心配するな」
「それで、実際のところ犯人の目的ってなんだろう?」
「解らないな。紋章を狙ったってのも可能性の一つってだけだし。目的は複数あったのかもしれない」
今ある情報だけでは推測しかできない。
分かってる事は殆どない。
「他の目的って例えば?」
「あのドラゴン、片目と片翼が途中から無くなってたろう?」
「うん。それが?」
「ドラゴンの眼と水晶を錬金術で融合すれば龍眼石っていう強力な武器や魔法道具の素材になるんだ。翼の皮膜もいい素材になる。まあ、それらを狙ってあのドラゴンを襲ったのなら割に合わないだろうとしか思えないけど」
「お兄ちゃんて、錬金術も勉強してたの?」
「いんや、ステファニアさんと御茶を飲んだ時に聞いた話だよ」
ステファニアさんは一流の鍛冶師であり魔法道具の作り手。
錬金術にも精通していて、色んな事を知ってる。
あれで案外まともなので普通に話をする分には面白い人なのだ。
「ふうん。素材狙いってのが一つの可能性ね。他には?」
「あのドラゴンが住んでた土地目当ての場合かな。その土地に何かあってドラゴンが邪魔だった。だから殺すか追い出そうとした」
「性質の悪い地上げね・・・」
「ほんとにな。あとはそうだな。逃げた先で暴れ回って欲しかったってとこかな」
「なにそれ?どういう事?」
「さっきお父さんも言ってたろ。下手をすれば王都が吹っ飛んでたかもしれないって。犯人は吹っ飛んで欲しかったのかも知れないって事」
「エルムバーンを狙ってドラゴンをけしかけたって事?」
「エルムバーンを狙ってとは限らないかもな。あのドラゴンが北の森に来たのは偶然だろうから」
「無差別にどこかの国を狙ってたって事?」
「あのドラゴンが何かしら被害を出せばいいと思ってたのかもな。もし誘導できるならもっと違う位置に誘導したんじゃないかと思って」
あのドラゴンはもしボク達が接触しなければそのまま死んでた可能性がある。
そうなったら犯人にとってなんの益も無かったろう。
「まあ逃げたドラゴンがどこかの国で被害をだそうがどうでもよくて一番の狙いは紋章だと思うけどね」
「だとすると犯人の目的は・・・」
「果たされていない。何らかのアクションは起こすだろうと思う」
「じゃあ、少なくとも・・・ドラゴンの死体を確認に来るんじゃ・・・」
「「「あ」」」
やばい。
冒険者ギルドが危険かも。
「ラルクの奴に連絡して早急の来てもらおう。夜遅いから文句言うだろうが我慢してもらう。それから冒険者ギルドに警備の兵を回そう。セバスン」
「畏まりました。手配いたします」
それから一時間もしない内にギルドマスターは城にやって来る。
「こんな時間になんだよアスラッド。明日じゃ駄目なのかよ」
「ああ。事は急を要する。例のドラゴンの死体だがな。まだギルドにあるよな?」
「ん?ああ、あるぜ。というかなその件で明日ジュンとは話をしようと思ってたんだよ」
「何かあったんですか?」
「ああ。あれほどの素材となると普通に売りさばくよりもオークションに掛けたほうがいいって話になってな。昨日、色んなとこに宣伝したとこだ」
シーーーーーン
空気が止まる。これはもしや手遅れか?
「お父さん、これは・・・」
「う、うむ。手遅れだろうな。既に犯人は知ってると見るべきだろう」
「あ?何がだ?どした?」
「実はですね…」
ギルドマスターに紋章の件は省いて説明をする。
「何でえ。そんな事か」
「そんな事って・・・犯人に知られたんですよ?ドラゴンの死体がここに有るって。何か仕掛けてきますよ?」
「来ねえよ。少なくともオークションまではな」
「何だと。何故だ?」
「お前、息子が危険にさらされたからって冷静さを欠いてるんじゃねえのか?そんなもん各国に手負いの黒いドラゴンについての情報を求めた時点でバレてるに決まってるだろうが」
「「あ」」
言われてみれば確かに
手負いのドラゴンを知ってると公表した時点でここに居ると言ってるも同じだ。
「さらに言うならな。オークションが開催されるって事はだ。オークションに参加すりゃドラゴンの死体を確認できるだろうが。何も危ない橋を渡って確認せんでも安全に確認できらあな」
それも言われてみればその通りだ・・・
落ち着いて考えればわかりそうな物なのに
考えに至らなかった。
ユウとアイもパパ上にママ上も気が付いてなかったらしい。
みんな冷静じゃなかったって事か。
「普段のお前さん達なら気づいただろうに。息子が危険にさらされてよっぽど頭に来たのか?お前、親バカだったんだな」
「うるせえよ。だが、まあ確かに冷静じゃなかったようだ。すまねえな」
龍王の紋章の事は秘密にしてるので龍王の紋章のせいで
ボクが危険な状態にあった事は説明出来ていない。
それも数時間前までその状態だったのでみんな冷静じゃなかったという事なのだが。
秘密にしなければいけないので父アスラッドが引き下がる形で話を納めてくれた。
ごめんね。
「でよ、ドラゴンを襲った犯人を捕まえてえんだろ?ならオークションの時なんらかのアクションを起こすだろうよ。こっちがどこまで知ってるのか探りをいれるくらいはしてくるはずだ。間に他人を入れて簡単にはバレないようにするだろうが手掛かりにはなるんじゃねえか?」
「オークションで網を張るしかない、か」
まあ既にオークションが開催される事は知らされているんだから
利用しない手もない、かな。
「お父さん、ここはギルドマスターの言うようにオークションで網を張りましょう」
「ああ。今度のオークションは一ヵ月後だったか?ラルク」
「そうだ。ドラゴンの素材は今回の目玉になるだろうな」
そりゃあ神獣のドラゴン、ほぼ丸々一体だ。
滅多に出る物ではないから注目度は高いだろう。
ちなみにホーリードラゴンにバハムートの遺体を引き取るか聞いてみたのだが
『いらないわよ、そんなの。焼いて食うなり好きになさい。遺族もいないんだから引き取り手もいないわよ』
との事だったのでオークションに出品する方向のままで行く事にする。
「ならわしも兵を出すからドラゴンの死体の警備は頼むぞ」
「ああ、わかってる。犯人以外のやつが狙って盗み出そうとするかもしれないからな」
「よろしくお願いします」
オークションは一週間後。
それまでに尻尾を掴む手立てを考えないとね。




