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第395話 暴風の谷へ 7

 『暴風の谷』の探索を開始して二日目。

初日にウインドサーベルウルフの群れを味方に出来たのが大きく、二日目の探索は順調だった。

狼達が道を知っていた為、中央に大分近づけた。

道中は特に珍しい物も無く、襲って来る魔獣は全て狼達が撃退してくれた。

どうやらウインドサーベルウルフは群れであればこの谷でかなりの上位存在みたいだ。

彼等の言うアイツとやらを倒せば、この谷の警備は任せられるだろう。


 だがしかし。

途中で進む事が出来なくなった。

『暴風の谷』の名に相応しい暴風の為、徒歩で進む事が出来なくなったのだ。


「お兄ちゃんー!無理ー!」


「ウチも飛ばされないようにするので精一杯ー!」


「セリア、しっかり僕に捕まって!」


「ん。私、軽いから飛びそう」


「ジュン様!一度撤退しましょう!」


「それがよいでしょうな!このような状況で戦闘になればまともに戦えませんからな!」


 というわけで一度撤退。

エルムバーンのボクの部屋に戻る。


「うう~……髪がボサボサ……」


「あの風は凄いね。まるで強力な台風の中にいるみたい」


「谷の中だから余計に強いんだろうね。しかし、困った……」


「ですぅ。あれじゃリリーの弓も使えないですぅ」


「私は鎧が重しになって歩けはしますが……戦うのは無理ですね」


「私もです。眼を開けるのも辛い状況でしたし」


 しかも、あそこはまだ谷の中央あたり。

アソコから更に奥に進めばもっと風が強くなるんだろうし…何か対策が必要だな。


「対策……あの風の中歩く事が出来て尚且つ戦えるようにする、でしょ?」


「結界魔法でどうにかならないの?」


「魔力を含んだ風だから防げるとは思うけど、完全には防げないし常時結界を張りながら奥に進むのは…相当厳しい、と思う」


「あの~…狼達は平気そうに見えたっスよ?」


「ああ。そういえば」


「よく見てましたね、オルカ」


 確かに、あの狼達は普通に歩いてた。

やはり風を操る力を身に付けたからか?


「ハティ、狼達は何か言って無かった?」


「ん?うんとね…『風、おいし~』とか『おれはあきた~』とか?」


「ああ~……やっぱり風に含まれた魔力を吸収してるんだ」


「ジュン様の予想通りですね」


「それはいいとして…ハティ、他には?」


「うんと…『うごきづらそー』とか『あんなんでアイツに勝てるのかなー』とか?」


「ウチらの事言ってるんだよね?」


「という事は、やはり狼達はあの風で動きを阻害されないという事ですかな」


 そういう事なんだろうなぁ。

アレか、風の属性を肉体に持ってるからか?

以前クリステアが言ってた火なら火の中を通れる的な。


「なら風属性の防御結界を張るとか?」


「逆の結果になりそうじゃない?狼達は風の属性を持ってて更に吸収出来るから動けるんだと思うわよ?」


「なら…どうするの?」


「交代で結界を張って防ぎつつ…何か移動が楽になるよう乗り物に乗って風の発生源になってる物を先に見つけに行く、ってとこかな」


「乗り物?」


「うん。あの谷やっぱり相当広いから。歩きじゃかなり時間がかかるし」


「でも…あの谷、広いけど地面は岩だらけだし時々狭い場所もあるし。馬車とかは向かないと思うよ?」


「一応、考えはある。ちょっと用意するのに時間が掛かると思うけど」


「どのくらい?」


「前と同じくらいの時間がかかるとして、三日くらいかな」


「前?」


「ま、出来上がりをお楽しみに」


 というわけで三日後。

再び『暴風の谷』に戻り、狼達の前で新型ゴーレムのお披露目をする。


「なるほどねぇ。ゴーレムに乗るんだ」


「ギガロドンの時の有人型ゴーレムの時と発想は同じなわけだね」


「でもさぁジュン。もっと別の形に出来なかったの?」


「壁を伝っていく事が出来る形ってこれくらいしか思いつかなかったんだよ」


 今回用意したのはトカゲ型の有人ゴーレムだ。

今回はステファニアさんだけでなく、ステンナさんにも協力してもらっている。

というかステンナさんの琴線に触れたらしく、主にステンナさんの協力の下に造られた。


 壁に張り付いて移動する為の足の裏の構造に手古摺ったが、そこはユウの協力もあってなんとかなった。取り付けた機能は中から外が見えるように透視眼の機能を内部の壁に取り付けた。

これにより透視眼眼鏡は必要無くなったわけだ。

あとは結界魔法を張る魔法道具。

口を開いて火の玉を吐く魔法道具。

あと一応、眼が光るようにしておいたので薄暗い場所でも大丈夫だ。


「何だか大きなファイアリザードみたいですね」


「そうですね。デザインはファイアリザードを参考にしてます。これを作ろうと思ったのはアレが壁を伝って来たのを見たからですし」


 デザインは確かにファイアリザード。

だが大きさが段違い。ファイアリザードは馬くらいの大きさだが、このゴーレムは路面電車くらいの大きさはある。


「凄いですね…こういう常人には出来ない発想もSランク冒険者には必要な素養なのでしょうか?」


「私達には出来ない発想ですね」


「思いついても用意出来るかはまた別問題ですし…」


「御金も凄いかかってる筈っス」


 今回は素材はダイアでは無く、鉄…アイアンゴーレムだ。

ダイアは燃えるのでファイアリザードのように火系の攻撃をしてくる魔獣がいたら厄介なのでそうした。

当然ダイアゴーレムよりは安く済むが魔法道具だけでも結構な御値段なので、カミーユさん達には作れないだろう。


「さ。みんなこれに乗って。リトライと行こう」


「「「「は~い」」」」


 ハティに有人ゴーレムの説明を狼達にしてもらい。

再び風の発生源になってる場所を目指す。


「…ねぇ、ジュン。これ試乗した?」


「…したよ。残念ながら乗り心地の悪さはこれ以上は改善できなかった」


「そんなに悪くないっスよ?」


「ジュン様達の馬車に比べると悪いですが…」


「私達が使った長距離馬車と大して変わらないと思いますよ」


 トカゲ型ゴーレムは四足歩行なのだが…やはり乗り心地はイマイチだ。

座席の改良で何とかマシにはしたのだが。


「お兄ちゃん、操縦変わるよ。いざという時にはまた剣で攻撃するんでしょ?」


「そうだけど…ユウにはマッピングの仕事があるでしょ?」


「あ、じゃあウチが操縦するよ。やり方教えて」


「剣で攻撃?」


「ゴーレムの中からどうやって剣で攻撃するっスか?」


「秘密」


 『人形使いの紋章』があるアイの方が向いているか。

操縦をアイに代わってもらい先に進む。

心なしかアイが操縦する方が乗り心地がいい気がする。


「流石に人の足で歩くよりは早いね」


「うん。楽ちん」


 ま、その為に造ったのだし。

それに現在地でも外はかなり風が強かった。

それもあって人の足では歩みが遅かったのだが。


「ねぇ、ご主人様」


「何?ハティ」


「この中にいると匂いが殆ど届かないから、更に気付くの遅れるかも。あの子達は大丈夫みたいだから、あの子達が何かくれば教えてくれると思うけど」


 あの子達…外の狼達か。

この暴風の中では匂いを嗅ぎ分けづらいと言ってたし、更に今はゴーレムの中。

無理も無い。リリーの耳も同じだろうな。


「そろそろ前回引き返した暴風域に入るよ、お兄ちゃん」


「うん」


 暴風域は突き当りを右に曲がった先のT字路。

多分大丈夫な筈だが…どうだ?


「…大丈夫そうだね」


「はい。結界の御蔭もあるのでしょうが、これなら問題無く探索出来そうです」


「凄い…凄いです!」


「ここまで進めたのはきっと皆さんが初めてですよ!」


 あの風をどうにかして尚且つ先に進め、魔獣と戦って勝ち進むというのはかなり無茶があるしな。

普通の冒険者には到底無理だろう。


 そこから少しの間順調に進んでいたのだが…周りにいた狼達が騒ぎ始めた。

奥に進むにはこの先の十字路を直進なのだが、狼達は右に向って走っている。


「どうしたんだ?」


「ハティ?解かる?」


「あの子達怯えてる。『逃げろっ』って言ってる……あ!ご主人様!アレ!」


 ハティが指差す方向。

狼達が逃げた先とは反対の左方向。

その先にアイツがいた。


「な、何ですか、アレは…」


「ド、ドドド、ドラゴンじゃないんスか!?」


「ド、ドラゴン…あれが…」


「は、初めて見ました……」


 カミーユさん達にはドラゴンに見えるらしい。

いや、他の皆もドラゴンに見えているようだ。

だが、ボクとアイとユウにはこう見える。


「ティラノサウルス……だよね?」


「Tレックスじゃないの?」


「確か、ティラノサウルスとTレックスは同じ存在よ、アイ」


「ちょ!ジュン!アイとユウも!落ち着いてないで戦うか逃げるかしないと!」


「幸い、奴はこっちに気が付いてはいないようですな。大型の魔獣を捕食中なのでしょう。今の内に離れるべきですな」


「そうしましょう。アイ」


「うん。取り合えず狼達が逃げた方に行くよ」


 アレが狼達が言っていた「アイツ」だろう。

確かにドラゴンに間違えても仕方ないかもしれない。

それだけの迫力はあったし、恐竜のような存在は此処で初めて見たし。

というか、ただの恐竜じゃなくて魔獣なんだろうが……アイツを倒さないとダメなのか。

……どうしよう、ちょっと倒したくない気持ちもある。

そうもいかないのだが…



 

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