第38話 冒険者登録しました
転生してから十二年。
ボクは十二歳になった。
背も前世で十二歳の時の身長とほとんど同じで170cmくらいだろう。
ここまでになると女の子に見られることは大分少なくなった。
まだ間違えられることはあるということだが…
そして今は王都の冒険者ギルドに登録に来ている。
冒険者になるには冒険者ギルドに登録する必要があり、十二歳から登録できるのだ。
「で、なんで付いてくるんだ?」
「あら、いいじゃない。ウチも興味あるし」
「私も十二歳になったら登録するし、見ときたいの」
「オレとノエラは冒険者に登録済みだから先輩として色々教えてやれるしな。それになにか依頼を受けるつもりなんだろう?なら護衛も必要だしな」
「ジュン様が行く所は私が行く所です」
「リリーも冒険者ギルドに登録してるので先輩ですぅ!」
とまあいつも通りのメンツで登録に来ている。
ティナ達チビッ子メイド組も来たがったが、学校を優先させた。
「まあ問題は起こさないようにね」
「大丈夫よ。子供じゃあるまいし」
「ほんと、いつまでも子供扱いしてえ」
いや中身はともかく見た目は実際子供だしな。
とゆうか見た目に引っ張られてるのか子供っぽいとこあるし。
いや、それは前世からか。
まあ、あんまり人の事言えない気もするが・・・
「すいません。登録をしたいのですが」
受付に座っている牛人族の女性に登録を頼む。
デカい。ナニがデカいのかはあえて口にしないがとにかくデカい。
「はい、登録ですねって…ジュ、ジュン様ぁぁぁ?」
ボクが魔王子であると気づいた牛人族の女性が勢いよく立ち上がる。
その勢いでデカいアレが上下に揺れる。
思わずその動きに合わせてボクも顔を動かしてしまう。
音で表現するなら バルンバルン となるだろう。
ボクだけじゃなく周りにいる男性冒険者も同じ動きをしてる。
同志達よ…!
「痛っ」
「ジュン?」
「お兄ちゃん?」
「はい、すみません」
ユウとアイに足を蹴られてしまった。
つい見過ぎたらしい。
ノエラもなんだか冷たい目をしてる。
リリーも頬を膨らませてブーたれてる。
セバストはボクの肩に手を置いてサムズアップだ。
男ならわかるよねっ。
「しょ、少々お待ちください!ギルドマスターを呼んで来ます!」
「え?なんでですか?」
問いかけに答える前に牛人族の受付嬢は走っていった。
すご~い背中からでも揺れてるの分かるぅ。
ええもん見せてもろたで…!
受付嬢の背中が見えなくなって見回すと
その場にいて同じ光景を目にした男性陣と目が合う。
グッと無言でサムズアップ。
言葉が無くても分かり合える。
それを可能にさせる偉大なるアレ。
なんと素晴らしき事かっ。
「待たせたな、俺がギルドマスターのラルクだ」
アホな事を考えているうちにギルドマスターがやって来た。
後ろには先ほどの受付嬢もいる。
ギルドマスターは顔に傷があるいかにもって感じのいかついオッサンだ。
種族は鬼族かな?
「魔王子様が直々に何の用だ?大事か?」
「いえ、ただ冒険者登録に来ただけなんですが」
「あん?登録に来ただけ?」
「ええ」
「おい。おいウーシュ!」
「は、はい!」
「何で俺を呼んだんだ?」
「ええ、だって魔王子様ですよ?失礼な事出来ないじゃないですかあ」
いやまぁ、言いたい事はわかるけどその対応もどうだろう?
「それに魔王子様が登録するとなればギルドマスターとして挨拶くらいしなきゃいけないんじゃないんですかあ?」
まあそれも解る。
「はぁ、まあいい。それでお前が魔王子か。アスラッドとエリザの息子ねぇ。アスラッドにゃ似てねえな。エリザにはちょい似てるか?」
「父と母を知ってるんですか?」
「おうよ。あの二人が元は冒険者だったのは聞いてっか?俺も元は冒険者でな。現役時代に何度か同じ依頼をこなしてるんだ」
「そうだったんですか。あ、こっちの金髪と黒髪が混じった女の子は妹のユウです」
「ユウです。初めまして」
「おう。よろしくな。お嬢ちゃんもアスラッドにゃ似てねえな。まぁ女の子がアイツに似ちゃ可哀そうな事になるだろうしな。ガハハハ」
確かにその通りだと思うけど魔王にそんな事言っていいんだろうか?
本人を目の前にはしてないし親しいようだしいいのかな。
「まああの二人の昔話はいずれ飯でも食いながらしようや。今日は登録に来たんだろ?なら後はウーシュに任せるぜ。まあなんかあったら相談くらいには乗ってやる。大概ここにいるからなんかあったらここに来いや。じゃあな」
「はい、ありがとうございます」
「えええ、ギルドマスターやってくれないんですかぁ?」
「アホ。ギルドマスターが新人登録の受付なんてやるか。そりゃ受付嬢のお前の仕事だろうが」
「でも、魔王子様ですよ、可愛い系ドジっ子萌えキャラの私じゃ荷が重いですよお」
「自分で言うな。いいからやれ。普通にしてりゃ大丈夫だ。仮になんかやらかしてもよっぽどじゃなきゃ怒らねえよ。なあ?」
「ええ。もちろん」
「ほれ。しっかりやれや」
「うう、はいぃ」
なんかそこまで怯えられると悪い事してる気分になるな。
「じゃ、じゃあこの用紙に必要事項を記入してください。あ、代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
学校が出来てまだ日が浅い。
そして文字が書けない人が冒険者になる事はよくあるらしい。
貧しい家の生まれだと働くのに忙しくて文字を習う事もないのだ。
その点ではボク達は非常に恵まれてると思う。
前世からの記憶があるおかげで今世では勉強せずとも文字は書けたけど、前世の境遇も含めて恵まれてたのだと思う。
前世の世界でも勉強できない環境に生まれた子供はいたのだから。
「ジュン様、ちょっと」
「何?セバスト」
セバストが小声で話かけてくる
「持ってる紋章を記入する欄は全部は書かないほうがいい」
「どうして?」
「冒険者ギルドに登録された者の情報は各国のギルドで共有されるんだ。エルムバーンをいまだ敵対視してる国のギルドにもな。以前暗殺者に襲われたろ?あまり情報は漏らさないほうがいい」
なるほど。
あれから何もないがあの暗殺者達の背後関係はいまだ割れていない。
そいつらが何者かわからない以上、用心はすべきだろう。
「じゃあ、これで…はい、書けました」
「はい。へぇ~双剣の紋章を持ってるんですか。凄いですね」
「ええ。ありがとうございます」
双剣の紋章は下位の紋章だが手にいれたのは十二歳になるちょっと前。
カイエン師匠との訓練の成果だ。
下位の紋章とはいえ習得できるのは普通なら数年は修行する必要があるらしい。
それを考えると確かに凄いのだろう。
たぶん魔神の紋章の後押しもあると思うが。
「では登録はこれで完了です。続けて新人冒険者には必ずしている説明に入りますね」
「はい、お願いします」
「まず、冒険者はA~F、そしてSのランクによってランク付けされてます。そのランクによって受ける事ができる依頼が変わります。Fが一番下で最上位がSランクです。新人冒険者であるジュン様はFランクとなります」
「はい」
「そしてランクを上げるには依頼をこなしていくことで上げる。あるいは大きな功績を上げる等です」
「功績とは例えば?」
「未知の遺跡の発見。ギルドに報告されてない脅威の発見、または排除。等があります」
まあここまでは大体予想通りだ。
「ギルドに報告されてない脅威とは普段はここにいないはずの強い魔獣や盗賊団等の事です」
「盗賊団…この辺りにはいるんですか?」
「王都周辺には今は報告が上がっていません。この辺りにはいないと思います」
よかった。できれば人殺しなんてしたくないしされたくもない。
「次に依頼が未達成・失敗の場合です。理由によりますが基本ペナルティはありません。ただあまり連続で失敗したり未達成が続くとランクダウンや除名処分等が降る場合があります。あとは身の丈に合わない依頼を受けて死亡してもそれは自己責任になりますのでご注意ください」
死亡しても自己責任か。
それは当然だと思うけど依頼の内容に記載されてない情報があった場合とかあるだろうけどその場合も自己責任なのかな。
「依頼内容の精査はギルドでもある程度は行いますが、現在の情報と数日後の状況が同じとは限りません。その辺りの見極めも冒険者に必要な能力です。ですので依頼は慎重に選んでくださいね?」
疑問が顔に出てたかよくある質問なのか。
ウーシュさんが質問する前に答えてくれる。
多分両方かな。
「ここまでで何か質問はありますか?」
最初は不安そうにしてたウーシュさんも慣れた事をする事で落ち着いたのだろう。今は普通だ。
「依頼を受けていない魔獣をやむなく倒した場合はどうなります?」
「その場合でも魔獣の討伐証明となる部位を持ち帰って来るか死体を丸々持ち帰って来るかで依頼達成扱いに出来ます。ただ他の方が既に討伐して依頼達成していた場合、死体の買取は出来ますが依頼達成の報酬は出ません。ご注意ください。あ、食用にされる魔獣の肉は素早く血抜きしたほうが高値で買い取って貰えますよ」
「なるほど。解りました」
「他にはないですか?」
「はい。今は大丈夫です」
「では次に魔獣の討伐難度について説明します」
魔獣にも強いのと弱いの危険なのと安全なのと様々だ。
「魔獣の討伐難度は基本的には冒険者ランクが指標となります。難度Aランクの魔獣はランクAの冒険者なら討伐出来るだろうということです。しかしそれは相手が単独だった場合の話です。例えば北の森には難度Eのビッグビーという蜂型の魔獣がいますが、これは群れで存在しますので巣を含めて丸ごと討伐する場合難度Bまで跳ね上がります」
ビッグビーは確か鳩くらいの大きさの蜂だ。
攻撃しない限り襲って来ないが、ビッグビーが作る蜂蜜が大変な美味で蜂蜜採取の依頼がよく出てるらしい。
「他にも群れで行動する魔獣は沢山います。それに一人で全ての魔獣、状況に対応する術を持つのは不可能です。ですのでギルドでは冒険者さんにはパーティーを組む事を推奨しています。ジュン様もパーティーを組んで下さいね」
「パーティーを組んだ場合、受ける事が出来る依頼はどうなります?パーティー内にAランクの人がいればAランクの依頼を受けていいのかな。パーティー内にFランクの人がいても」
「構いません。ただパーティーは出来るだけランクが近い者同士で組んだほうがいいです。問題が起こりにくいので。それに高ランクの冒険者に低ランクの冒険者が同じパーティーだと寄生してると思われがちです。妬んで絡んでくる人もいるのでその辺りも考えてパーティーを組んで下さいね」
あ~有りそうな話だなあ。
どこの世界でも嫉妬は恐ろしい。
「他に何か御質問はありますか?」
「ええと、とりあえず大丈夫です」
「それではもうすぐ冒険者証が出来ますので少々お待ち下さい」
そうして出来上がった冒険者証はなんだかアメリカ軍人が持ってるドッグタグのような物だった。
名前とナンバー、登録した場所等が記されているようだ。
最初は木製でランクが上がると金属板になるらしい。
ちなみにノエラとセバストはDランク、リリーはEランクらしい。
Dランクから銅版の冒険者証になるらしくリリーはまだ木製の冒険者証だ。
「さて、早速何か依頼を受けようかな」
出されてる依頼がわかる掲示板に向かう。
Fランクで受けれる依頼は高額な報酬が貰えるものはない。
難しい依頼をいきなり受けるつもりもない。
初回だし簡単なやつにしよう。
「リリー、何かお薦めの依頼はある?初心者向けの」
「ん~と。あ、これなんかいいと思いますよ?北の森で薬草採取
。ありふれた薬草だし探すのも難しくないと思います」
なるほど。確かに無難かつ王道な気がする。
それにしよう。
「じゃあそれにするよ。早速受けて来るね。ありがとうリリー」
「はいです」
依頼を受けにまた受付嬢のウーシュさんの所へ行く。
「すいませんウーシュさん。この依頼を受けたいんですが」
「わ、早速依頼を受けるんですか、頑張りますね~。それにまた私のとこに来て~。あ、もしかしてホレちゃいました?参ったな~。私こう見えて結構モテるんですよ~。遂に魔王子様まで虜にしちゃたか~。美しさは罪ですね~。罪深いなあ私!」
モテるでしょうね~。
その大きなメロンが有る限り。
顔だって可愛いらしいし。
しかし最初の魔王子様が相手だからって不安にしてた態度はもう微塵も感じないな。
元々こんな感じの人なんだろうけど。
ここは華麗にスルーだ。
なんだか背後から圧力を感じるし。
「薬草採取の依頼です。実物が有れば一度見せてもらえますか」
治癒魔法使いが増えて病院が出来ても薬草の需要はある。
魔法薬の材料にもなるし予防薬にも使うからだ。
「スルーしないで下さいよ~、もう。え~と、あ~この依頼ですか。よかった~無難なの選びましたね~。いるんですよ、最初から危険なの選んであっさり死んじゃう人。そういう人に限って忠告は聞かないし」
「大変ですね。ボクは無謀な事はするつもりはないので安心してください」
「そうして下さい。魔王子様に死なれたら私もどうなるかわかりませんし。はい、これで手続き完了です。それとこれが薬草の見本です。持って行って大丈夫ですよ。最後に返して下さいね」
「ありがとうございます。それじゃ行って来ます」
「行ってらっしゃい。気をつけて下さいね~」
それじゃあ初依頼をこなしに北の森まで行くとしますか。




