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第370話 満月杯・予選

『さあ~!いよいよ始まる満月杯!先ずは前座!本戦出場最終枠を競う、最終予選!』


 に、ボクは参加している。

賞品の女の子が『魔王の紋章』持ちかもしれないとなれば放っておく事は出来ないだろう。


 というのは半分建前。

本音は女の子が物扱いされて碌でもない奴の手に渡るのが嫌だっただけだ。

優勝者が嫌な奴とは限らないけど…


「へっへっへっ…」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


「に、兄ちゃん、試合が終わったら俺と遊ばねぇか?」


 今、ボクは闘技場の舞台の上に、他の参加者と一緒に居るわけだが…とりあえず周りにはまともな奴がいない。

特にカツラと仮面を着けたボクをナンパする奴。


『それでは!試合開始前の最終確認です!殺人は基本的に禁止ですが、試合でもし死んだとしても、それは事故扱いとなります!怖じ気付いた人は舞台から下りて下さい!』


 この点がエルムバーンの武闘会とは大きく違う点だろう。

参加登録をする時に確認されたが、その点は驚いた。

毎月の大きな大会では何人か死者が出て、一番多いのは、このバトルロワイヤル式の予選なんだとか。


『全員参加ですね!ではルールの最終説明です!自分以外の全員を戦闘不能にする、もしくは場外に落とす!です!解ったか野郎共!』


 なんかこの司会者、ウーシュさんに似てるな。

ていうか、ほんとに似てるな。

牛人族だし。爆乳だし。


『それでは!銅鑼が鳴ったら試合開始です!注目は中央で腕を組んでる金髪で仮面の男!事前情報ではかなりの大物らしいぞぉ!』


 余計な事を言ってくれる…そこもウーシュさんに似てるな。


 大会に参加を申請する際、身分を明かさないとダメだった。

Sランク冒険者として登録しようとしたんだけど、エルムバーンの魔王子だと受付の人にはバレてしまった。

何とか騒ぐ前に口を押さえはしたが…運営側には漏れない筈も無く。

当然、最高責任者の皇族…パオロ陛下の耳に入るわけだ。


 そのパオロ陛下は貴賓席で凄く楽しそうに、子供のように眼をキラキラさせている。

貴賓席にはジリオ殿やサンジェラさんにキアーラさんも見える。

そしてパオロ陛下に招待されたのだろう、アイ達も貴賓席に居る。

マークスさんやセバスト達も合流したらしい。


『時間です!試合開始の銅鑼がぁ~鳴ったぁ!』


 銅鑼が鳴ったと同時に。

周りで近くに居る者同士で闘いが始まら…無かった。

最終予選参加者は凡そ三十人。

そのほぼ全員がボクに向かって来た。

司会者が大物だとか言ったから、先に全員で始末しようと言う事か?


「好都合だけどね」


「ぬあ!?」「うおあああ!」「ふぬぅぅぅ!」


 元々、中央に陣取ってのはこの為。

中央で風魔法「トルネード」を使用。

全員を場外に吹っ飛ばすつもりだった。


『なんとぉ!いきなりの大技!中央で発生した竜巻に呑まれ、大半が場外に落ちてしまったぞぉ!』


 大半、か。

全員落とすつもりだったんだけど。

少し手加減しすぎたか。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」


「「「………」」」


「へっへっへっ…」


 残ったのは危ない奴らを含む五人。

各々、武器を刺して堪えたり、結界を張ったり、土魔法で壁を作る等して堪えたようだ。


 彼らはどうやって倒すか。

転移魔法を使えば簡単だけど…バレる要素が増えるし。

【フレイヤ】と【アトロポス】の能力は温存しておきたい。

となると…普通に気絶させるか。


「がぁっ!?」「殺す殺す殺すころっけぇ!?」


 『韋駄天の紋章』で高速移動。

瞬時に移動し、距離を詰め鳩尾や首筋に一撃を加え気絶させる。

「殺す殺す」と連呼してた奴が「ころっけ」と叫んだのはちょっと笑ってしまった。


『アッと言う間に二人倒したぁ!目にも止まらぬ早業!因みに名前はセバストとなってますが何となく偽名な気がします!』


「余計な事言うな!」


 思わずツッコんでしまった。

本当に似てるな、あの人。

実は姉妹とかじゃないだろうな。


『おっとぉ!残った三人が一斉にセバスト(偽)に襲いかかったぁ!強敵とみなし、協調路線をとったか!』


 どうやらそうらしい。

まぁ、それは最初からだったからいいんだが…(偽)とか付けるな。


「覚悟!」「殺った!」「死ねぇい!」


 殺す気満々かい。

殺人は基本的に禁止なの忘れてない?

それぞれ武器は斧槍、大剣、ハンマー。

そこそこの使い手だが…ボクの親衛隊にはかなり劣る。


「ぐっ!」「がっ!」「ぶぁっ!」


 従って。

三人同時に来ても問題ない。

剣を使う事無く、全員を倒す事が出来た。


『決まったぁぁぁぁぁ!これは強い!まさかの最終予選にとんだダークホースの出現だぁ!本戦の予想倍率が大きく変動する事でしょう!』


 思ったより楽に突破出来た。

最初に大多数を削る事が出来たのが大きかったな。


『それでは、本戦開始は2時間後です!三十分前には賭け札の販売は締め切られてしまいますので、御注意くださいね!』


 そう言えば賭け…賭博をしてるんだった。

自分に賭けるとか出来るんだろうか。

しかし、2時間後って。最終予選から本戦への出場者は不利過ぎないだろうか。


「(ジュン様)」


「(あ?セバスト)」


「(パオロ陛下が呼んでいる。こっちだ、来てくれ)」


「(あ~…うん。わかった)」


 呼ばれるかな~とは思ってたけど。やっぱり呼ばれたか。

目立つから裂けたかったんだが…


「(ところで何でオレの名前なんだよ?)」


「(同じSランク冒険者パーティー『マスター』の中から名前を借りようと思ったらセバストしかいないでしょ?)」


「(別に同じパーティーに拘らなくてもよかったんじゃないか?)」


「(バレない嘘のコツは真実を何割か混ぜる事だよ。…あの司会のせいで台無しになったけど)」


 いや、ほんと。余計な事ばかり言ってくれちゃって。


「ここだ」


「うん」


 貴賓席にはアカード帝国の皇族全員と、アイ達。カタリナさん達も要るし、護衛の聖騎士団も揃ってる。


「おお!ジュン殿!素晴らしい戦いだったぞ!噂通り、いや、噂以上に圧倒的な強さでは無いか!素晴らしい、素晴らしいぞ!益々サンジェラと結婚してもらわねばな!」


「は、はぁ…」


 まぁ、こうなるよなー。

サンジェラさんとの婚約を諦めてもらう事を考えたら、余計な事をしてしまった事になるんだけど…女の子が賞品扱いされてると知ってしまったなら、仕方ない。こちらを優先させてもらう。


「すみません、アンナさん」


「いいわよ。事情はセバストちゃんやバルトハルトさんから聞いたわ。でも、あくまで噂なんでしょう?」


「はい。ただの噂ですけど、真偽を確認する時間がありませんでしたから。パオロ陛下は御存知ですか?」


「いや…だが、『魔王の紋章』を持った奴隷など、賞品にするとは思えんな。仮に真実だとしたら、それでも売れない何かがあるんだろうが。何なら調べさせるが?」


「あ、いえ。それはボクの従者に頼みますから」


 これも貸し、と考えられては溜まらないし。

ただでさえ、交渉で不利な立場にあるんだから小さな貸しでも作るのは避けるべきだろう。


「そうか?遠慮は必要無いのだぞ?」


「情報収集が得意な者が居ますから。というわけで、セバスト、ノエラ。頼むよ」


「了解だ」


「畏まりました。では行って参ります」


「……あの二人はそんなに優秀なのか?強者の雰囲気は感じていたが」


「はい。…たま~におかしな事しますけど。基本的に優秀で信頼のおける従者です」


「そうよねぇ。ジュンちゃんの影になっちゃってるけど、ジュンちゃんの周りは優秀な子ばかりよねぇ」


「ですねー。セバストさんとか特に」


「ジュン様の影に隠れてますけど、セバストさんも実はモテてるんですぅ」


「ほう?そうなのか」


「ジュン様の側近なのは間違いないですからねー。最近ではジュン様がダメなら側近のセバストさんと婚約しようって国の王族の中でも序列の低い人とか、貴族の娘さんとかから話が来てるそうですよー」


「本人は興味無いって言って、全部蹴ってるけどね~」


 実はそうなのだ。

魔族は長寿出し、結婚するのは百歳、二百歳超えてからって人もザラだ。

セバストはまだ二十代だし、父アスラッドもセバスンも強要する気は無いとの事なので自由にしてもらっている。


「セバストさんってジュン様と同じで恋愛面では下手れ…いえ、奥手みたいですからー。ここで一人くらい勢いに任せてゲットしちゃえばいいのに」


「「大きなお世話だ!」」


「って、うわお!もう帰ったんですか!?」


「忘れ物ですぅ?」


「いいや。もう調査は終った」


「ただいま戻りました、ジュン様」


「「「はやっ!」」」


 優秀だと言いはしたけど、早すぎじゃない?

まだ五分も経ってないけども?


「直ぐに出資者の奴隷商を見つけてな。オレ達はさる高貴な御方の従者だって言ったら素直に教えてくれたぜ」


「結論から申し上げますと、噂は真実だそうです。ただ…パオロ陛下の推測も当たっていて…魔獣に襲われて、左腕を欠損。顔にも傷が…」


「それは…」


「可哀想に…まだ子供なんでしょう?」


「はい。まだ八歳の女の子だとか」


「だ、大丈夫よ。ジュンなら治せるんでしょ?」


「……多分ね」


「た、多分って何よ」


「あまりに古い傷だと、もう一度同じ箇所を傷付けてから治癒魔法を掛けないと…ダメかもしれない。それに…腕が無い状態が長すぎて、腕が無いのが自然な状態だと身体が覚えてしまっていたら…どうにもならないかも」


「そんな…何とかなんないの?」


「レティシア。それは今は考えてもどうにもならないだろう。先ずはジュンが優勝して合理的にその子の主にならなければな」


「そ、そうね。頑張んなさいよ、ジュン!」


「ジュン様なら心配ない」


「そだね。僕が出てたら分からないけどねー」


『せやな。わいとマスターならジュンはんに勝てるかもな』


「ハハハ…」


 確かにアイシスなら可能性はあるね。全力なら負ける気はもうしないが…


「ジュン殿なら優勝は間違い無いでしょう!私はジュン殿に持ち金を全て賭けましたよ!」


「え?」


「あ、ウチも」


「私も~。絶対に勝てるって分かってる賭けに乗らないのは勿体無いもんね」


「私も賭けたわよ。損させないでね、ジュンちゃん!」


「というか、全員賭けたんじゃないか?聖騎士団も含め」


「………」


 余計なプレッシャーを掛けてくれる…他にどんな出場者がいるかもわからないというのに。


「私もジュン様に全て賭けました」


「私もです」


「クリステア、ルチーナ…二人は確か両親にギャンブルは禁止されて無かった?」


「はい。ですがこれは賭けではありませんから」


「100%ジュン様が勝つって分かってれば、賭けにはなりませんから」


 信頼の厚さが辛い…元々負けるつもりは無いが、負けられない理由を増やされてしまった。


「予想外の事が起こって無一文になっても知らないからね」


「その時はジュンに借りるね」


「利子は体で返すというのはどうでしょう?」


「婚約者なんだからそれは意味無いんじゃない?」


「婚約者だし家族だし無利子でいいよね、お兄ちゃん♪」


「……借金した人は返済するまでスケスケドレスね」


「「「「え」」」」


「え じゃ、ありません!ギャンブルで借金、ダメ絶対。ギャンブルはあかんて、お兄ちゃんはあれほど言うたやないの!」


「そんなの言ってた?」


「というか、おかんなのかお兄ちゃんなのか、どっちなの…」


「ジュン様もカジノで遊んだりしたじゃないか」


 まぁ、半分ノリで言っただけですから。

娯楽が少ないこの世界で、賭け事をするなとは言わないけど借金はしないようにね。


 ギャンブルで借金。ダメ絶対。

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