第360話 帝国の皇女 1
「ててれててれててれ、て~れ~♪ててて、て~れれて~てて~てれれてて~♪ててて、て~てて、て~れれ~てててててて♪」
「ぷわぁああ!」
「あ。また飛んだ」
結局ユウとも婚約して、イーノさんやシャンタルさん達とまで婚約した夏のバカンスから帰って来て数日後。未だこれでよかったのかと自問する日が続いてる中、今日はカタリナさん達の指導の下、乗馬の訓練をしている。
「ジュンも期待通りに良いタイミングで飛んでくれるね。でも贅沢を言うならちゃんと『パワァー』って叫んで欲しかったかな」
「何言ってんの?アイ」
「よくわかんないけど、取り合えずはボクを労わって…」
まだ乗馬訓練を開始して数時間ではあるが…これが中々難しい。
運動神経のいいアイなんかはすぐにある程度乗れているのだが…いや相性の問題だろうか?
「意外ですね、ジュンさんが乗馬が出来ないなんて」
「ほんとにな。しかも全くダメじゃないか」
「あんたにも出来ない事があったのねえ」
「そりゃあるよ…レティシアは上手だね」
「フフン。まぁね」
「乗馬に関しては、私達の中じゃレティシアが一番上手かもしれないな」
「そうね。レティシアは昔から動物には好かれる性質だものね」
動物に好かれる辺りはボクも普通よりはと思ってたのだが。
というか、この馬…
「ブヒヒヒヒ」
見た目は白馬で綺麗な馬なのだが…すっごい性悪な気がする。
今笑ったか、こいつ。
「ねぇ、ユウ。ちょっと馬を替えてくれない?」
「えー。お兄ちゃんには白馬に乗って欲しいなぁ」
「そだよね。やっぱ王子様には白馬に乗ってもらわないと」
「ボクは魔王子だよ…言ってる事は解るけど。兎に角一度…」
「ジュン様、魔王様がお呼びです」
「お父さんが?何かあった?」
「はい。ヴェルリアのユーグ陛下から御連絡があったとか」
「お父様から?」
「なら私達も行くとしよう。乗馬訓練は中止だな」
乗馬訓練はここで中止。
父アスラッドに話を聞きに行くと、ヴェルリア王家の長女アウレリアさんがヴェルリアに帰って来たので一度会いに来てやって欲しいとの事。それと頼みたい事もあるのだとか。
「アウレリア姉さんが帰って来たのですか」
「アウレリア姉さんと会うのは久しぶりだ。私達も一度帰るか」
「そうね。甥っ子も来てる筈だし」
甥っ子…将来的には義理の甥になるのか。
アウレリアさんに一度は挨拶しないといけないし、行くとしますか。
というわけでヴェルリア王国へ。
カタリナさん達とアイシス達も一緒だ。
「よく来てくれたな、ジュン殿」
「はい。えっと、そちらが?」
「うむ。紹介しよう。余の娘、アウレリアとその夫エルネスト殿だ」
「初めまして、ジュン様。元ヴェルリア王国第一王女アウレリア・ブリジッド・アレクサンドリスです。よろしくお願いいたします」
「御初に御目にかかる、ジュン殿。アウレリアの夫、エルネスト・エリアス・アレクサンドリス。アレクサンドリス王国の第一王子だ。よろしく頼む」
「エルムバーン魔王国の魔王子ジュン・エルムバーンです。こちらこそ、よろしくお願いします」
アウレリアさんは肩まである綺麗な金髪、碧眼。
子供を産んだとは思えない抜群のスタイル。かなりの美人さんだ。
エルネストさんは赤髪で短髪。
中肉中背、だが服の下は引き締まった肉体で武闘派と言った感じだが顔は優し気なので怖い感じではない。
二人共、二十代半ばくらいか。
「それから、この子が私達の子。リアム・ダニエル・アレクサンドリス。ジュン様にとっては将来の義甥ですね」
「将来はリアムがアレクサンドリス王国を継ぐ事になる。その時には我が国とエルムバーン魔王国は親戚同士。仲良くしてやって欲しい」
「あ、はい。御存知なんですね、やっぱり」
「勿論です。パメラが離婚したと聞いた時も驚きましたが…まさか三人の妹を纏めて娶るなんて。それ以上の驚きでしたわ」
「ジュン殿の噂は我が国にも届いていた。どうだろう?私の妹達も娶る気は無いか?」
「は、はは…勘弁してください…」
アレクサンドリス王国はヴェルリア王国の西。サンドーラ王国の南隣にある、中堅国家としてはかなり裕福な国だ。海が無く、湖はあるが水産資源には乏しい。だが貴重なオリハルコンやミスリルが採れる鉱山が豊富で、世界で一番の産出国だ。
「アウレリア姉さん、お久しぶり」
「久しぶりね、パメラ。離婚したって聞いた時は心配したけれど…大丈夫そうね」
「ええ。今は幸せよ」
「そう、よかった。カタリナも久しぶり。貴女もようやく結婚が決まって何よりだわ。…エルリックの件で貴女には貧乏くじを引かせていたものね。幸せにね」
「ああ。大丈夫だ、アウレリア姉さん」
「レティシアも元気そうね。貴女は少し口が悪い所があって心配だったけど…ジュン様に嫌われないように気を付けるのよ」
「し、失礼ね。大丈夫よ。ジュンは私にメロメロだから。何せ私はヴェルリア王家姉妹の中で一番の美人だも~ん」
メロメロになった覚えはないが…そこは今はツッコむまい。それよりも…
「それでエヴァリーヌさんは?」
「うむ…夏の旅行とアウレリアと孫に会えた事で多少は元気になったようだ。まだ食は細いが…これから徐々に元気になるだろう。しばらくはアウレリアが傍についてくれるしな」
「エヴァリーヌお母様の事は御心配なく。それよりもジュン様には…エルリックの尻拭いのような真似をさせてしまって…申し訳ありません」
「いえ…もう終わった事ですし」
「あ、そうでは無く…これから更に厄介事を押し付ける形になってしまって…」
「はい?何の話です?」
「それは私が説明するわね。えっと…エルリックには婚約者が居た事をジュンちゃんは知ってたかしら?」
「あ、はい。聞いた事があります…あ」
「そう。エルリックは反乱を起こし、王位剥奪の上処刑…当然婚約は破棄されるわ」
そりゃそっか。
あくまで表向きは処刑、裏では追放だったとしても、まさかそのまま結婚させるわけにはいかないし。
「それで我が国としては次期国王のマークスの第三王妃に、と思って話を進めようとしたのだが…」
「相手が怒っちゃって。エルリックの時はまだ次期国王は決まってなかったけど、エルリックの正妃として考えてた相手方としては不満だったのね。無理も無いけど」
「……もしかして、それと頼みたい事とやらに関係が?嫌な予感しかしないんですけど」
「うん…あのね?その相手はアカード帝国の皇女様なんだけどー…現皇帝パオロ・オヴィディオ・アカード様は…皇女とジュンちゃんとの婚約の仲介をするように要求してきたの」
「は?」
「「「なっ」」」
何故に?
いやいや、ほんとに何で?
何故ボクにお鉢が回って来る?
「仲介と言ってはいるが国が間に入っての事だ…つまりは婚約を成立させろと言ってるに等しい」
「パメラちゃん達がジュンちゃんと婚約した事は向こうも知ってるからね。こちらの不始末で一方的に破棄された皇女との婚約だから、責任をとって最高の相手を用意しろと言われて…というわけで、御嫁さんを増やす気は無い?ジュンちゃん」
「ありません」
今更一人や二人増えた所で何も変わらないだろうとか言われそうだけども。
ただでさえ、婚約…縁談の申し込みは後を絶たないのだ。
バカンスから帰ったらシャンゼ様が言ってたように本当に山のように来てたし。
「やっぱりね~そうよね~私達だって苦労して苦労して、ようやくジュンちゃんに婚約を承諾させたんだものね~…」
「まぁ、解ってはいたがな。それでな、ジュン殿。一度は交渉にアカード帝国に行かねばならん。余はまだ戦後処理が終わってない故にマークスとアンナを行かせるのだが…ジュン殿にも同行して欲しいのだ」
「交渉は私とマークスちゃんで引き受けるけど…ジュンちゃんには一度はっきりとアカード皇帝に御断りして欲しいの。ジュンちゃん達が居れば道中の護衛も最小限で済むしね」
「面倒ごとばかり頼んで申し訳ありませんが…よろしくお願いします、ジュンさん」
「はぁ…何故アカード皇帝はボクと皇女の婚約なんて?ボクはアカード帝国の事や皇家の事とか何も知らないんですが。今までも特に関わりも無かったし、縁談の話も無かった筈ですが」
「あそこは個人の武が尊重される国なの。平民だろうと武が優れていれば側近として取り立てられるわ。故に軍の質はヴェルリア周辺の国家の中では断トツ。皇家の婚儀も当然それが重視されるの」
「ジュン殿の武勇は我が国にも伝わっていた。あの国は世界の強者の情報には敏感だ。ジュン殿は是が非でも欲しいんだろう。内心ではエルリックとの婚約が破談になった事を幸いと思ってすらいるかもな」
「エルネスト殿はアカード帝国の皇家とは面識が?」
「ん?うむ…あそこの皇女とも会った事がある。何せ隣国だしな。何と言うか…個性的な方だったよ、うん」
「あそこには皇女は一人しかいませんから。確実にあの御方との縁談になるのですけど…なんと言いますか…頑張ってください、ジュン様」
「何だか会う前から不安しかないんですけど…」
「すまぬな…護衛には聖騎士団を同行させる。よろしく頼む、ジュン殿」
「はぁ…」
「本当にごめんなさいね。よろしくお願いね、ジュンちゃん」
こうして。
アカード帝国に向かう事になったわけだが…どうも皇女様は個性的な人らしい。
何にせよ、婚約は御断りするつもりなのだが…どうなるやら。




